「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井

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「なんだか外が騒がしくないですか?」

ブライアンは舞台裏で段取りの最終確認を受けていた。
その身には精霊王役として純白の衣装を纏い、豪奢な飾りもつけている。
今年は自分が精霊王だからと張り切ってアレンジしたは良いものの、リリアに振られてしまったので全て無駄になってしまった。

「どうやらあの無加護が祭りに来てるらしいってさ。キャロルちゃんが教えてくれたんだよ」

「キャロルが?」

「今手が空いてる男衆が見回りに出てくれてる。あの子、森で大人しくしてると思っていたけど、呪物でもこさえて祭りを台無しにするつもりだって話だよ。ああ怖いねえ」

ブライアンの準備の手伝いをしているおばさんはおおげさに身を震わせる。
そんな様子を馬鹿馬鹿しいと思うが、ブライアンも少し前までは自分もそっち側の人間だった。

それにしても祭の大詰めだというのにやけに周りに人がいないと思ったらそういう事だったのか、とブライアンは理解する。

(リリアだとバレないように手を尽くしたつもりだけど、トラブルでも起きたかな)

そもそもリリア達は買い物が終わればすぐ森に戻ると言っていたのだ。
なぜ日も落ちたこんな時間までいるのだろうか。
なんにせよリリアの傍にはあの本物の精霊王がいる。
近くに大精霊達もいるのだから最悪な事態にはならないだろう、とブライアンは気を取り直す。

「あんたはあの無加護と縁があるだろ。気を付けなよ。」

「大丈夫ですよ。リリアはそんな事しません」

外面用の営業スマイルで答えると、おばさんは怪訝な顔をした。
ブライアンやキャロルが特にリリアを虐げていたのは村の誰もが知っている。
大人たちは基本的に無加護に近寄りたくないが、「無加護だから」どう扱われても誰も何も思わなかったのだ。
当然ブライアン達の行動についても当然だろうと感じていた。
それなのにかばうような発言をするのが不思議らしい。

「そういえば花冠はどうしたんだい? あれがないと花乙女を選べないじゃないか」

「ああ実は……」

その時、広場の方からひと際大きな甲高い声が響き渡った。

「精霊王の花冠が……ないわ! きっとあの無加護の目的は花冠なのよ!」

間を置いて舞台の外のざわめきは一層大きくなっていった。

「あの声はキャロルか……?」

「何ぼんやりしてるんだい!」

準備係のおばさんはキャロルの声を聞いて慌てふためいている。

「今年の精霊王はあんたなんだよ? 花冠があるかどうか確認しないと!」

「そんな事言われても……」

花冠はリリアに受け取ってもらえなかったのだ。
慣例通りとは違うがブライアンは誰にも渡すつもりはないし、リリアだって花冠に用がない。

つまりキャロルはでたらめを言っているのだ。
勘違いしているのか、あるいは故意に。

(でも何のためだ?)

考えながらブライアンは花冠を入れていた鞄を確認した。

「ん?」

「ああっ! な、ないじゃないか!」

しかし花冠がない事に気付くと同時に、おばさんは今にも倒れそうな程パニックになっていた。
おばさんからすれば精霊の加護のないリリアが復讐として花精霊祭を潰そうとしているとしか思えないのだ。
恐怖と勢いに呑まれてしまった人々は、村にいた頃から何もできなかった女の子が今更祭をどうこうできるはずがないとは思わない。

「落ち着いてください。花冠は」

(キャロルの勘違いで、今はないけどリリアは関係ないんです……って言ったところで信じるか?)

リリアは花精霊祭に来る事さえ渋っていた。
村にいた頃は祭を近くで見たこともないと言っていたのだ。花冠の事だって知らなかった。

(でもそれを知っているのは俺だけだ)

実際花冠は消えているのだ。
目の前で腰を抜かしているおばさんに釈明しても仕方がない。
それよりも早く騒ぎの原因であるキャロルをどうにかした方が良いだろう。

声の感じからしてキャロルは舞台のある広場の近くにいるのだろう。
花冠がなくなった事を聞きつけた村の人たちも集まってきたようだ。
リリアの身体は精霊に守られるかもしれない。
だがもしまだ村に留まっていてこれを見聞きしていたらどうだろう。
傷ついているのではないだろうか。

「……俺にそんな事心配する資格はないのにな」

自嘲した後、ブライアンは精霊王の衣装のまま舞台裏から飛び出した。
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