「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井

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話がまとまったと思えばゆる、と風が動いた。

「ね~お祭りもう終わりなの?」

「まあ毎年あるような祭りは終わったが、珍しいのが見れたじゃないか」

「エザフォスもいたら良かったんですがね」

「あいつが起きてるところなんか昔すぎて忘れかけてるよ」

風と火と水の大精霊が精霊王と花乙女の側に控える。

「では帰ろう、リリア」

「ええ」

二人を取り巻くように風が、火が、水が幻想のように巻きあがる。
ゴウ、という音の後跡形もなく姿は消えていた。
村人はこの不思議な花精霊祭をずっと語り継いでいったのだという。


町から山小屋までは直線距離ならそこまでかからない。
せっかくだからと優雅に空中デートをしながら帰路につく。
うっかり落ちてしまうといけないから、という理由でエレスはリリアの腕を首に回させる。
そんな事が起きないのはリリアも分かっていたが、甘える理由として受け取り大人しく腕を回した。
心地よい風は感じるが、冷たさは感じない。エレスに守られているのだと彼女は分かった。

「こうしてみると小さな場所よね」

なんだかおかしくなってリリアは笑う。
今は月明かりだけだか、いつもならまだ明りが灯っているはずだ。広大な自然の中で、身を寄せ合うように小さな家がひしめいて集落を作っている。
王都からすれば辺境も辺境だろう。街道の終着点のような村だ。
住んでいた時はこの村が全てだった。無加護だったから全てすら分からなかった。

花精霊祭も、精霊の事も、本当は今でもよく分かっていない。
でも多分、これからは今までよりは楽しい日々になるとリリアは確信していた。

「精霊の視点ってこんな感じなのかしら」

人も営みも小さく、目を凝らしても一つ一つを注視する事は難しい。

「だいたいはもう少し遠いもんだよ。王の雑把なバランス取りの調整をしなきゃいけない事が多いからねぇ」

「それ以外だったら僕たちは結構人のそばにいるかもー! 気が向けばもっと近い事もあるけど!」

「視界という感覚軸で話すのなら王はもっと遠いと思いますよ。意識を持ってここまで降りてきた事はそうはないでしょうし」

「説明するのは難しいな。精霊同士でも感覚は違うものだ」

水と風の精霊でも感じ方は違う。そもそも精霊には感覚の共有をするという発想があまりないらしい。

「そうなのね」
さらに小さくなった村を見下ろす。フォティアがつけた篝火がかすかに見える程度で、もうどこにあるのかもよく分からない。
隣町の灯りの方がまだ見えるくらいだ。
今が昼でも人を識別するのは無理だろう。

「私を見つけてくれてありがとう、エレス」

「リリア……」

精霊王は神妙な顔をしていた。

「私がもっと早くリリアの元に来る事が出来ていたら、辛い思いをしなかった」

「それについてはもう話したでしょう? エレスが気にする必要は……」

「だが、今回改めて分かった。リリアが私に伝えるのも憚るくらいの目にあっていたという事を。それに気づかず過ごしていた事もな」

リリアは村での自分を見られるのが嫌だったのだ。
誰からも嫌われ、死を望まれるリリア。
精霊王が祝福を与えた相手がそんな存在であれば、幻滅されてしまうのではないか。
本当の花乙女は、もっと聡明で美しくあるべきなのではないだろうか。
リリアには花乙女となった実感もまだないし、建国の花乙女と勝手に比べてしまう。

エレスにリリアの心情は分からないが、なんとなく負い目がある事は感じられた。

(元をただせば精霊のせいだというのに)

言うなれば彼女は被害者だ。
それなのに精霊を非難せず、村人たちと円満に和解しようと努めていた。
ともすれば危なっかしいとも思うが、その在り方は眩しかった。
リリアの意思は尊重したいが、それはそれとして絶対に守りたいという決意を新たにした精霊王であった。

「私だってちゃんと言わなかったもの。エレス達は私の事を認めてくれているけれど、村では本当は嫌われ者だってこと。そんな情けない事を知られたくなくて、心配かけちゃったわよね」

結果的にエレスがいなかったら死んでいた。
さっさと話して協力していればエレスも気をまわさなくて済んだかもしれないと思うと、ますます申し訳なさが立つ。

「本当のリリアか」

ふふ、と彼が笑う。

「優しくて芯があって強く、そして私に愛されている。そうだろう」

「もう、すぐ甘やかすんだから」

困ったように笑いながらも、リリアは嬉しさを隠せなかった。
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