[完結] 私を嫌いな婚約者は交代します

7 side クロード

「お前がタリス家で突き飛ばした領民は、特産の果実を管理している村の長だ」

 シューザ兄さんの言葉を聞いても、何を意味しているのか分からず黙っていると再び大きなため息が聞こえた。

「つまりお前は重要産業のトップに怪我をさせ謝罪もしなかった。それがどれ程大きな失態か理解しているか？」

 失態？領民に怪我をさせただけで大袈裟な。そう思ったが部屋の空気は重く言葉にする事は出来なかった。

「シューザ、このお馬鹿さんは理解していないわ」

 義姉の言い方にカチンときたが理解していないのも事実で何も言い返せずにいると、シューザ兄さんが感情のない顔で俺を見た。……なんだよ兄さん……そんな他人みたいな顔して俺を見るんだよ……家族だろう？

「分かる様に説明してやろう。重要産業のトップと揉めるという事は領地経営が出来ずに潰れるという事だ」

「は？潰れ？え？」

 兄弟の呆れた表情がため息すら出ないほど馬鹿馬鹿しいと言っている気がした。理解出来ない俺に、義姉が続きを話し始める。

「重要産業と連携が取れなければ領地の収入減少に繋がる。収入減少になれば公共施設の運営に支障をきたし、領地整備や福祉にも悪い影響が出るのよ」

 畳み掛ける様に言われて混乱する頭に浮かんだのは、反対する領民を権力で無理矢理従わせれば良いという短絡的な対策だった。しかし、それを見越して義姉は言葉を続けた。

「私達が幼い頃、法律が変わったの。権力で無理矢理従わせれば私達が捕まるわ」

 法律が変わった？何時の話だ？そんな事、習っていない？え？

「習っているはずもないから知らんか。再教育の授業すら全てサボっていたのだろう。お祖父様からも破門の同意書が送られて来た」

 サボりと言われて言い訳を考えたが、口に出そうとした瞬間、シューザ兄さんと義姉の鋭い視線で口を閉ざした。

「言い訳なんて聞きたくないのよ。貴方には特別に選ばせてあげるわ」

「何をだよ」

「どちらが貴方のお好みかしら？」

 フフっと小さく笑った義姉が差し出した二枚の紙。破門されるのだから自分で働いて生活費を賄えとシューザ兄さんが言う。貴族の生活費は領民から集めた税金。貴族でなくなる俺には銅貨一枚も使えないと言われて渋々、紙に書かれている内容を読んで手が震えた。……なんだよコレ……

「神殿の下働きか隣国の商会の下男。簡単でしょう？早く決めて頂戴」

「何で一番下からなんだよ！貴族で学歴もあるから中級以上だろう!!」

「元貴族だろう。金で買った学歴に何の意味があるか教えてくれたら考えてやる」

 義姉に抗議している俺に向かって言い放ったシューザ兄さんの言葉に、体は無意識に震えた。金で買った……学園の教師に金を渡した事がバレた？いや、バレてもその先は分かるはずもない。

「成績優秀者の隣の席でカンニングしながら試験を受けた様だな」

 何も言い返せない俺に二人の兄から無言の圧力を感じる。バレた……何故バレた。ど、どうして……

「学園は不正防止で定期的に調査が入るのよ。さぁ、今から行ける様に準備は出来てるの。それとも自力で衣食住が確保出来るの？」