13 / 15
その後の彼ら② side クロード
しおりを挟む
「確認をお願い致します」
自分が掃除した場所を上位の神官に確認して貰う。これで汚れが見付かれば掃除は最初からやり直しとなる緊張する時間だ。
「問題ありません。掃除はこれで終わりだ」
「ありがとうございました」
神官の言葉に頭を下げ許可を貰って食堂に行くと相変わらず質素な食事を渡された。ここに入って初めて知ったが、神官は階級に関係なく同じ食事をしている。外にいた時は適当に話を聞いて慰めているだけなんだと思っていた。適当に炊き出しして貧しい人の人気を集める姑息な人達だと。
だけど、現実は違う。
上位の神官を含めた全員で掃除をして聖書を読んで、その後で人の悩みを聞いて答える。炊き出しも栄養を考えバランス良く作られ、食事を受取りに来た人に勉強を教えどん底から抜け出す手伝いをしていた。
自分は何て片寄ったモノを見ていたのだろう。
そう気付いた時、もしかしたら両親は大丈夫と言っていたが、ハリエットは俺を嫌っていたのかもしれないと初めて考えた。それは神殿に入って半年が過ぎ頃の出来事だった。
「クロードさん、お疲れ様」
「やぁ、ダーシー。お疲れ様」
ここに来てから更に一年が過ぎた頃、顔見知りが出来て食事をしながら雑談をする相手が出来た。ダーシーは下級の神官だが貴族出身で礼儀作法も完璧だが、顔に傷跡が残っている人だった。何時だったか小さな頃に怪我をして残った傷跡が原因で家を追い出され、同じ悩みを持つ人の助けになりたいとから入ったと言っていた。彼は貴族が関わる行事をよく担当する。顔は布で隠しているし、礼儀作法に問題が無いかららしい。彼の話を聞いていると今度、結婚式を担当すると言った。
「結婚式では布をはずすのだろう?」
「あぁ、今日はその事で御本人達と対面で話をしたのだが、気さくな人達で私の傷跡何て無いかのように話してくれてね。最後には頭まで下げてくれたんだ」
傷跡が原因で担当を断られた事がある彼は、嬉しいと顔に書いてある。珍しいその貴族の名前を聞いた。
「タリス伯爵様のお嬢様と婿殿だよ。二人で領地に新しい産業を起こした所で、大変なんだそうだ」
「タリス伯爵様……ハリエット様か?」
「そうだよ。知り合いかい?」
「あぁ、昔、かなり迷惑を掛けた方だ。幸せそうだったかい?」
「あぁ、とても幸せそうだったよ」
「良かった」
その一言と同時に涙が溢れた。自分がもっと早く間違いに気付いていたら、今頃、幸せそうなハリエットの隣にいたのは自分だったはずなのに。何処で間違ってしまったんだろう。
「どうしたんだいクロード。具合でも悪いのかい?」
急に泣き出した俺をダーシーが心配そうに気遣いながら背中を擦ってくれる。背中から伝わる温もりが余計に涙を溢れさせた。
すまない、ハリエット。俺は君をどれだけ傷つけたんだろう。今更、謝っても時間は戻らないし何も変わらない。ただ、外の世界から切り離された神殿の中で、君の幸せを祈る事を許して欲しい。
「君はハリエット様が好きだったのかい?」
「……好き……分からない……でも、今更、そんな事関係無いだろう」
「それは違うよ。自分の気持ちは失くならない。思うだけなら自由だ」
「思うだけなら自由……辛いのにか?」
「……時間が掛かるかもしれない。でも、いつか良かったと思える日が来るよ。僕の様にね」
慰めなのか本音なのか分からない彼の言葉に俺は黙って頷いた。
ハリエット、どうか君だけは幸せでありますように
自分が掃除した場所を上位の神官に確認して貰う。これで汚れが見付かれば掃除は最初からやり直しとなる緊張する時間だ。
「問題ありません。掃除はこれで終わりだ」
「ありがとうございました」
神官の言葉に頭を下げ許可を貰って食堂に行くと相変わらず質素な食事を渡された。ここに入って初めて知ったが、神官は階級に関係なく同じ食事をしている。外にいた時は適当に話を聞いて慰めているだけなんだと思っていた。適当に炊き出しして貧しい人の人気を集める姑息な人達だと。
だけど、現実は違う。
上位の神官を含めた全員で掃除をして聖書を読んで、その後で人の悩みを聞いて答える。炊き出しも栄養を考えバランス良く作られ、食事を受取りに来た人に勉強を教えどん底から抜け出す手伝いをしていた。
自分は何て片寄ったモノを見ていたのだろう。
そう気付いた時、もしかしたら両親は大丈夫と言っていたが、ハリエットは俺を嫌っていたのかもしれないと初めて考えた。それは神殿に入って半年が過ぎ頃の出来事だった。
「クロードさん、お疲れ様」
「やぁ、ダーシー。お疲れ様」
ここに来てから更に一年が過ぎた頃、顔見知りが出来て食事をしながら雑談をする相手が出来た。ダーシーは下級の神官だが貴族出身で礼儀作法も完璧だが、顔に傷跡が残っている人だった。何時だったか小さな頃に怪我をして残った傷跡が原因で家を追い出され、同じ悩みを持つ人の助けになりたいとから入ったと言っていた。彼は貴族が関わる行事をよく担当する。顔は布で隠しているし、礼儀作法に問題が無いかららしい。彼の話を聞いていると今度、結婚式を担当すると言った。
「結婚式では布をはずすのだろう?」
「あぁ、今日はその事で御本人達と対面で話をしたのだが、気さくな人達で私の傷跡何て無いかのように話してくれてね。最後には頭まで下げてくれたんだ」
傷跡が原因で担当を断られた事がある彼は、嬉しいと顔に書いてある。珍しいその貴族の名前を聞いた。
「タリス伯爵様のお嬢様と婿殿だよ。二人で領地に新しい産業を起こした所で、大変なんだそうだ」
「タリス伯爵様……ハリエット様か?」
「そうだよ。知り合いかい?」
「あぁ、昔、かなり迷惑を掛けた方だ。幸せそうだったかい?」
「あぁ、とても幸せそうだったよ」
「良かった」
その一言と同時に涙が溢れた。自分がもっと早く間違いに気付いていたら、今頃、幸せそうなハリエットの隣にいたのは自分だったはずなのに。何処で間違ってしまったんだろう。
「どうしたんだいクロード。具合でも悪いのかい?」
急に泣き出した俺をダーシーが心配そうに気遣いながら背中を擦ってくれる。背中から伝わる温もりが余計に涙を溢れさせた。
すまない、ハリエット。俺は君をどれだけ傷つけたんだろう。今更、謝っても時間は戻らないし何も変わらない。ただ、外の世界から切り離された神殿の中で、君の幸せを祈る事を許して欲しい。
「君はハリエット様が好きだったのかい?」
「……好き……分からない……でも、今更、そんな事関係無いだろう」
「それは違うよ。自分の気持ちは失くならない。思うだけなら自由だ」
「思うだけなら自由……辛いのにか?」
「……時間が掛かるかもしれない。でも、いつか良かったと思える日が来るよ。僕の様にね」
慰めなのか本音なのか分からない彼の言葉に俺は黙って頷いた。
ハリエット、どうか君だけは幸せでありますように
1,470
あなたにおすすめの小説
婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています
どうして私にこだわるんですか!?
風見ゆうみ
恋愛
「手柄をたてて君に似合う男になって帰ってくる」そう言って旅立って行った婚約者は三年後、伯爵の爵位をいただくのですが、それと同時に旅先で出会った令嬢との結婚が決まったそうです。
それを知った伯爵令嬢である私、リノア・ブルーミングは悲しい気持ちなんて全くわいてきませんでした。だって、そんな事になるだろうなってわかってましたから!
婚約破棄されて捨てられたという噂が広まり、もう結婚は無理かな、と諦めていたら、なんと辺境伯から結婚の申し出が! その方は冷酷、無口で有名な方。おっとりした私なんて、すぐに捨てられてしまう、そう思ったので、うまーくお断りして田舎でゆっくり過ごそうと思ったら、なぜか結婚のお断りを断られてしまう。
え!? そんな事ってあるんですか? しかもなぜか、元婚約者とその彼女が田舎に引っ越した私を追いかけてきて!?
おっとりマイペースなヒロインとヒロインに恋をしている辺境伯とのラブコメです。ざまぁは後半です。
※独自の世界観ですので、設定はゆるめ、ご都合主義です。
王家の面子のために私を振り回さないで下さい。
しゃーりん
恋愛
公爵令嬢ユリアナは王太子ルカリオに婚約破棄を言い渡されたが、王家によってその出来事はなかったことになり、結婚することになった。
愛する人と別れて王太子の婚約者にさせられたのに本人からは避けされ、それでも結婚させられる。
自分はどこまで王家に振り回されるのだろう。
国王にもルカリオにも呆れ果てたユリアナは、夫となるルカリオを蹴落として、自分が王太女になるために仕掛けた。
実は、ルカリオは王家の血筋ではなくユリアナの公爵家に正統性があるからである。
ユリアナとの結婚を理解していないルカリオを見限り、愛する人との結婚を企んだお話です。
『仕方がない』が口癖の婚約者
本見りん
恋愛
───『だって仕方がないだろう。僕は真実の愛を知ってしまったのだから』
突然両親を亡くしたユリアナを、そう言って8年間婚約者だったルードヴィヒは無慈悲に切り捨てた。
ふたりの愛は「真実」らしいので、心の声が聞こえる魔道具をプレゼントしました
もるだ
恋愛
伯爵夫人になるために魔術の道を諦め厳しい教育を受けていたエリーゼに告げられたのは婚約破棄でした。「アシュリーと僕は真実の愛で結ばれてるんだ」というので、元婚約者たちには、心の声が聞こえる魔道具をプレゼントしてあげます。
貴妃エレーナ
無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」
後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。
「急に、どうされたのですか?」
「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」
「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」
そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。
どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。
けれど、もう安心してほしい。
私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。
だから…
「陛下…!大変です、内乱が…」
え…?
ーーーーーーーーーーーーー
ここは、どこ?
さっきまで内乱が…
「エレーナ?」
陛下…?
でも若いわ。
バッと自分の顔を触る。
するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。
懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!
濡れ衣を着せてきた公爵令嬢は私の婚約者が欲しかったみたいですが、その人は婚約者ではありません……
もるだ
恋愛
パトリシア公爵令嬢はみんなから慕われる人気者。その裏の顔はとんでもないものだった。ブランシュの評価を落とすために周りを巻き込み、ついには流血騒ぎに……。そんなパトリシアの目的はブランシュの婚約者だった。だが、パトリシアが想いを寄せている男はブランシュの婚約者ではなく、同姓同名の別人で──。
婚約破棄寸前だった令嬢が殺されかけて眠り姫となり意識を取り戻したら世界が変わっていた話
ひよこ麺
恋愛
シルビア・ベアトリス侯爵令嬢は何もかも完璧なご令嬢だった。婚約者であるリベリオンとの関係を除いては。
リベリオンは公爵家の嫡男で完璧だけれどとても冷たい人だった。それでも彼の幼馴染みで病弱な男爵令嬢のリリアにはとても優しくしていた。
婚約者のシルビアには笑顔ひとつ向けてくれないのに。
どんなに尽くしても努力しても完璧な立ち振る舞いをしても振り返らないリベリオンに疲れてしまったシルビア。その日も舞踏会でエスコートだけしてリリアと居なくなってしまったリベリオンを見ているのが悲しくなりテラスでひとり夜風に当たっていたところ、いきなり何者かに後ろから押されて転落してしまう。
死は免れたが、テラスから転落した際に頭を強く打ったシルビアはそのまま意識を失い、昏睡状態となってしまう。それから3年の月日が流れ、目覚めたシルビアを取り巻く世界は変っていて……
※正常な人があまりいない話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる