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その後の彼ら③ side ヴォルフ
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ハリエットと婚約して半年、最近になって敬語がなくなり名前を呼び捨てにしてくれる様になった彼女と、今日は結婚式の順調の為に神官殿と打ち合わせする事になっている。
貴族の結婚式には、基本的に元貴族で礼儀作法に詳しい人が担当する。初めて面会した神官殿は右目の横に古傷を持つ男性だった。
「初めまして、ダーシーと申します。今回は宜しくお願い致します」
丁寧にお辞儀する姿は上位貴族を感じさせた。ハリエットは古傷など気にせず話をしていたが、神官殿の方が少し戸惑う様な表情を見せた。
「あの……本番では顔を隠しませんが宜しいですか?」
そう言いながら古傷を指した彼は困った様に眉を下げている。ハリエットは瞬きを繰り返した後、俺に視線を向けた。
「ヴォルフは気になりますか?」
「いや、気にならないな」
「ですよね。もし結婚式で傷の事を何か言う人が居たら教えて下さい。その方との付き合いを考えなおさないといけませんから」
「え?いや、よくある事ですし大袈裟な事には……」
ハリエットの言葉に驚く神官殿に向かって彼女は毅然とした態度で、見た目で判断する愚か者は必要無いと言い切った。
彼女と交流して初めて知ったのは身分や見た目で判断せず中身を知ってから判断する事。その采配は見事に的中している。そんな彼女が選んだ神官殿だから間違いはないのだろう。ただ、その本人の神官殿は呆気に取られた様な表情を見せ固まってしまった。どうしたものかとハリエットと互いに顔を見合わせていると、神官殿の目から一粒の涙が溢れた。
「すみません。お恥ずかしい姿をお見せしました。今まで傷跡を理由に何度も断られていましたので」
「まぁ、ご苦労がおありでしたのね。でも、神殿からの推薦状も素晴らしいものでしたわ。こちらこそ宜しくお願い致しますわ」
深々と頭を下げた俺達に神官殿が慌てていた。その後は、和やかに話が進み結婚式の予定日や時間は今日のうちに決まった。
神殿へ帰る神官殿を見送った後、ハリエットが少しだけ表情を曇らせた。
「神官様の傷跡程度で何か言うなら、ヴォルフの傷跡も言われるのかしら?」
「あー」
ハリエットに言われるまで忘れていた。俺の二の腕と脇腹には騎士団時代の刺傷の後がくっきりと残っている。 着替えでも見ない限り見つからない場所にある傷跡だが、婚約前に彼女には伝えてある。騎士団の見学にきて傷跡を見ただけで倒れる令嬢もいると聞いてはいるが……
「服で隠れるし問題ないと思う」
「そうでしょうか……」
「それに傷跡の無い元騎士なんていないと思うぞ」
それでも沈んだ表情の彼女に困ってしまった俺は、フッと思い付きで言葉を続けてしまった。目を丸く見開き驚く彼女の姿に失言だったと後悔したが、次の瞬間、口元を抑えながら声を出して笑いだした。
「そ、そうですわね。傷一つ無い騎士なんてサボった怠け者ですわね」
目尻に涙を溜めるほど笑う彼女を見ながら、俺は自分の失言を笑って誤魔化した。
彼女の前では格好いい大人でいたかったが、情けなくも穏やかなこんな会話も悪くないと最近、やっとそう思える様になった。
貴族の結婚式には、基本的に元貴族で礼儀作法に詳しい人が担当する。初めて面会した神官殿は右目の横に古傷を持つ男性だった。
「初めまして、ダーシーと申します。今回は宜しくお願い致します」
丁寧にお辞儀する姿は上位貴族を感じさせた。ハリエットは古傷など気にせず話をしていたが、神官殿の方が少し戸惑う様な表情を見せた。
「あの……本番では顔を隠しませんが宜しいですか?」
そう言いながら古傷を指した彼は困った様に眉を下げている。ハリエットは瞬きを繰り返した後、俺に視線を向けた。
「ヴォルフは気になりますか?」
「いや、気にならないな」
「ですよね。もし結婚式で傷の事を何か言う人が居たら教えて下さい。その方との付き合いを考えなおさないといけませんから」
「え?いや、よくある事ですし大袈裟な事には……」
ハリエットの言葉に驚く神官殿に向かって彼女は毅然とした態度で、見た目で判断する愚か者は必要無いと言い切った。
彼女と交流して初めて知ったのは身分や見た目で判断せず中身を知ってから判断する事。その采配は見事に的中している。そんな彼女が選んだ神官殿だから間違いはないのだろう。ただ、その本人の神官殿は呆気に取られた様な表情を見せ固まってしまった。どうしたものかとハリエットと互いに顔を見合わせていると、神官殿の目から一粒の涙が溢れた。
「すみません。お恥ずかしい姿をお見せしました。今まで傷跡を理由に何度も断られていましたので」
「まぁ、ご苦労がおありでしたのね。でも、神殿からの推薦状も素晴らしいものでしたわ。こちらこそ宜しくお願い致しますわ」
深々と頭を下げた俺達に神官殿が慌てていた。その後は、和やかに話が進み結婚式の予定日や時間は今日のうちに決まった。
神殿へ帰る神官殿を見送った後、ハリエットが少しだけ表情を曇らせた。
「神官様の傷跡程度で何か言うなら、ヴォルフの傷跡も言われるのかしら?」
「あー」
ハリエットに言われるまで忘れていた。俺の二の腕と脇腹には騎士団時代の刺傷の後がくっきりと残っている。 着替えでも見ない限り見つからない場所にある傷跡だが、婚約前に彼女には伝えてある。騎士団の見学にきて傷跡を見ただけで倒れる令嬢もいると聞いてはいるが……
「服で隠れるし問題ないと思う」
「そうでしょうか……」
「それに傷跡の無い元騎士なんていないと思うぞ」
それでも沈んだ表情の彼女に困ってしまった俺は、フッと思い付きで言葉を続けてしまった。目を丸く見開き驚く彼女の姿に失言だったと後悔したが、次の瞬間、口元を抑えながら声を出して笑いだした。
「そ、そうですわね。傷一つ無い騎士なんてサボった怠け者ですわね」
目尻に涙を溜めるほど笑う彼女を見ながら、俺は自分の失言を笑って誤魔化した。
彼女の前では格好いい大人でいたかったが、情けなくも穏やかなこんな会話も悪くないと最近、やっとそう思える様になった。
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