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第4章
体育大会の後 4
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*
「あれ……なんか変わった組み合わせの二人だな」
入口の三段しかない階段を降りながら僕は言った。
平野と濱田さんが揃って僕を振り返る。
「まさか二人は実は……とかいう展開?」
「ほら、来た」
「本当だね」
僕のからかい半分の問いかけに二人は反応すらしてくれなかった。平野の言う「ほら、来た」は僕に対してのものなんだろう。
「いま平野と話してたら、『相沢はもうすぐ来る』って聞いたからさ」
濱田さんが言った。
「じゃ、オレは帰るから」
「うん。ありがとね」
濱田さんの声に平野は頷いた。
「部活、がんばって」
もう一度頷いた。今度は少し微笑んでいるような気もした。
平野はそのまま夜のアスファルトの向こうへと消えていった。
「直哉は小学校も中学校も同じなんだ」
濱田さんが言った。直哉は平野の名前だ。
「ああ、だから知り合いってことか」
「相沢くんと直哉が同じバイトだとは知らなかった。高校が別れちゃうとなかなか連絡取らなくなるしね」
「そうだね。なんか平野と話してたの?」
「うん、『相沢碧斗って人、ここで同じバイトだよね? まだいるかな?』って聞いてたんだ」
「ん? なんでオレ?」
濱田さんは僕を探してたってことだろうか。
「立夏に聞いたの」
「細谷に? 何を?」
「相沢は打ち上げに来ないでバイトに行くんだって。『Amy's』で21時まであるって言ってたって」
「なるほど」
「で、21時に間に合うように歩いてたらちょっと遅れちゃって。そしたら直哉が出てきて、相沢くんのことを聞いたってこと」
「そしたらオレが出てきたと」
「うん」
経緯はわかったけれど、理由がわからなかった。
「なんかオレに用?」
「別に用ってわけじゃないんだけどさ、さっきのリレー、すごかったなぁって。なんかいろいろ思ってたら直接話してみようと思って、ここまで来てしまった……」
濱田さんは左人差し指をこめかみにあてた。
「あんま深い理由はないってことか」
「そういうわけじゃないんだけど……私が抜かれちゃったのに、抜き返してくれてありがとう」
「……あー、でも1位になったのはオレじゃなくって伊藤だよ」
「でも相沢くんが二人抜かないと、いくら伊藤くんでも無理だったでしょ」
「さぁ……」
「相沢くんの走り方って……なんていうかやっぱりフォームがキレイだった。すごく速くて……息をするのも忘れちゃいそうなぐらいだった」
「いや息はしてよ」
「忘れちゃいそうなぐらい目を奪われちゃった。一人だけ1.5倍速で動いてるみたいで。やっぱり私が思ったとおりなんだって思った」
「え?」
「相沢くんは本気を出せば本当はすごく速い」
その目を逸らすべきか僕は悩んだ。
言葉どおり受け取れば僕は喜ぶできなのかもしれない。
なんだか、自分の足場がずいぶん揺らいできているような気がした。
僕はこれからどう考えて、どう動いていくべきなんだろう。
「相沢くんは、何か理由があって本気で走らなかったんだって確信が持てた」
「いや、なんていうか……うん……」
妙な沈黙が流れた。
「相沢くんには相沢くんの事情があるんだよね。その理由はわからないし、私なんかが考えてもわからないんだろうね。話してほしいとか追及はしないよ。でも」
「でも?」
「本気で走ってくれてありがとう。すごくかっこよかった」
濱田さんは微笑んだ。
お店の証明に照らされ、少しオレンジ色の光を帯びた濱田さんは、夜と私服のせいもあってか、学校で見るときよりも少し大人びて見えた。
夜の道を何台もの車が行き交い過ぎていく。僕は何を言えばいいかわからず微笑み返すことしかできなかった。
自分が走ることで誰かが喜んでくれることもある、そんなことを思い出すことができた日だった。
「あれ……なんか変わった組み合わせの二人だな」
入口の三段しかない階段を降りながら僕は言った。
平野と濱田さんが揃って僕を振り返る。
「まさか二人は実は……とかいう展開?」
「ほら、来た」
「本当だね」
僕のからかい半分の問いかけに二人は反応すらしてくれなかった。平野の言う「ほら、来た」は僕に対してのものなんだろう。
「いま平野と話してたら、『相沢はもうすぐ来る』って聞いたからさ」
濱田さんが言った。
「じゃ、オレは帰るから」
「うん。ありがとね」
濱田さんの声に平野は頷いた。
「部活、がんばって」
もう一度頷いた。今度は少し微笑んでいるような気もした。
平野はそのまま夜のアスファルトの向こうへと消えていった。
「直哉は小学校も中学校も同じなんだ」
濱田さんが言った。直哉は平野の名前だ。
「ああ、だから知り合いってことか」
「相沢くんと直哉が同じバイトだとは知らなかった。高校が別れちゃうとなかなか連絡取らなくなるしね」
「そうだね。なんか平野と話してたの?」
「うん、『相沢碧斗って人、ここで同じバイトだよね? まだいるかな?』って聞いてたんだ」
「ん? なんでオレ?」
濱田さんは僕を探してたってことだろうか。
「立夏に聞いたの」
「細谷に? 何を?」
「相沢は打ち上げに来ないでバイトに行くんだって。『Amy's』で21時まであるって言ってたって」
「なるほど」
「で、21時に間に合うように歩いてたらちょっと遅れちゃって。そしたら直哉が出てきて、相沢くんのことを聞いたってこと」
「そしたらオレが出てきたと」
「うん」
経緯はわかったけれど、理由がわからなかった。
「なんかオレに用?」
「別に用ってわけじゃないんだけどさ、さっきのリレー、すごかったなぁって。なんかいろいろ思ってたら直接話してみようと思って、ここまで来てしまった……」
濱田さんは左人差し指をこめかみにあてた。
「あんま深い理由はないってことか」
「そういうわけじゃないんだけど……私が抜かれちゃったのに、抜き返してくれてありがとう」
「……あー、でも1位になったのはオレじゃなくって伊藤だよ」
「でも相沢くんが二人抜かないと、いくら伊藤くんでも無理だったでしょ」
「さぁ……」
「相沢くんの走り方って……なんていうかやっぱりフォームがキレイだった。すごく速くて……息をするのも忘れちゃいそうなぐらいだった」
「いや息はしてよ」
「忘れちゃいそうなぐらい目を奪われちゃった。一人だけ1.5倍速で動いてるみたいで。やっぱり私が思ったとおりなんだって思った」
「え?」
「相沢くんは本気を出せば本当はすごく速い」
その目を逸らすべきか僕は悩んだ。
言葉どおり受け取れば僕は喜ぶできなのかもしれない。
なんだか、自分の足場がずいぶん揺らいできているような気がした。
僕はこれからどう考えて、どう動いていくべきなんだろう。
「相沢くんは、何か理由があって本気で走らなかったんだって確信が持てた」
「いや、なんていうか……うん……」
妙な沈黙が流れた。
「相沢くんには相沢くんの事情があるんだよね。その理由はわからないし、私なんかが考えてもわからないんだろうね。話してほしいとか追及はしないよ。でも」
「でも?」
「本気で走ってくれてありがとう。すごくかっこよかった」
濱田さんは微笑んだ。
お店の証明に照らされ、少しオレンジ色の光を帯びた濱田さんは、夜と私服のせいもあってか、学校で見るときよりも少し大人びて見えた。
夜の道を何台もの車が行き交い過ぎていく。僕は何を言えばいいかわからず微笑み返すことしかできなかった。
自分が走ることで誰かが喜んでくれることもある、そんなことを思い出すことができた日だった。
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