幽霊じゃありません!足だってありますから‼

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あの事件②

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「アーリス!アーリス‼うっうっうう‼」
いつもは冷静沈着だったお父様が、アレン様への挨拶を忘れ私に抱きついてきて嗚咽した。
抱きしめられたのは幼い頃以来だった。

7歳でお母様を病死で亡くし、直ぐに義母と再婚したことでお父様への不信感が芽生えてしまった。
ゲームでアーリスが悪役令嬢になるきっかけも、父親への不信感だった。断罪後もアーリスを庇わず、公爵家を勘当するストーリーだった。
前世の記憶が蘇り、ゲームの結末を思い出してからは、よりわだかまりが深くなり親子というには冷たい関係となってしまった。だからこそ公爵家を捨て、平民になっても未練など一切なかったのだが・・・

痛いくらい抱きしめてくる力が、涙が私への思いを伝えてくる。・・・私、愛されていたんだ・・・
(クリス様もお父様も、ゲームの世界と思い込んで接してきてしまった。2人にちゃんと向き合って来なかった・・・私はなんて愚かだったんだろう。)堪えきれない涙が溢れて止まらなかった。

やっとお父様の嗚咽が止んだ頃、アレン様が促してソファーへ腰をかけた。
「アレン殿下、ご挨拶が遅れまして誠に申し訳ございません。」
「いや、気持ちは分かるので謝罪は不要だ。積もる話もあるだろう。今、茶を用意する。」
侍女がお茶を用意するまでの間、アレン様は私が現れてからお父様が登城するまでをかいつまんで説明をしてくれた。

「アレン殿下、誠にありがとうございます。」
深々と頭を下げる。
「良い。イソラ公爵、私は陛下に報告に行かねばならない。アーリス嬢に付き添っていてくれるか?」
「はい。もちろんでございます。」
「アーリス嬢、イソラ公爵それでは失礼する。」

アレン様が退室されると、お父様は2人だけで話したいと侍女たちを全てさげさせた。

「アーリス本当に生きて・・・私の夢ではないのか」皺が増え、鋭かった目は涙で潤んでいた。
「ええ私、生きていますわ。心配かけてごめんなさい。お父様・・・。アレン様から、3年前に自死したと伺けれど死んだ記憶が無いんです。しかも遺書まであったと・・・私は遺書を書いておりません。どのような状態だったのでしょうか?」

「アーリス、自死した覚えがないのか?」
「はい。全く覚えがありません。」

そうか、というとお父様は当時を思い起こすように、遠い目をした。

「あの日は、クリストファー殿下達の処遇を決める為の会議があり、始まって直ぐ使者が飛び込んできたんだ。アーリスの訃報を聞いて、頭が真っ白になって・・・。屋敷にどうやって着いたのかも覚えていない。気づいたら、アーリスの部屋だった。」

何だか息苦しいようにな表情となり、アーリスの手を取って握りしめる。

「アーリスの机に遺書があったんだ。〘このような事となり、驚いていると思います。心配かけて申し訳ございません。私は新たな世界へ旅立つけれど、今までありがとうございました。〙と」

それって、遺書じゃなくあの日書いた手紙の一部分じゃない‼下書きに書いてて、ちょっと分かりづらいとボツにした所だわ。

「だが、今にして思えばだが・・・誰に宛てた手紙かもわからない、一部分が切り取られたような紙だった。アーリスの精神状態が良くなかったんだろうと思っていたんだが」
「お父様、それは遺書ではなくてお手紙として私が書いたものの一部分です。しかも推敲してゴミ箱に捨てた物だわ。誰かが拾って都合のいい所をわざと遺書として置いたのかもしれません。あの日はお世話になった方々にお手紙を書いていたのですが、そのお手紙はございませんでしたか?」
「いや無かった。その紙だけだった。」

それでは、誤解せざるを得ない状況だったのだろう。直筆な上に前後の話がなければ、遺書と思ってしまえるような部分だった。

「お父様、私は毒で自死したと聞きましたが、毒など持っておりませんでした。何故、誰も疑問に思わなかったのでしょうか?」
「アーリスは幼い頃から薬草調合を嗜んでいただろう。薬草調合で毒薬を作ったのだと思ったのだ。」

頭がグルグルして来た!
遺書→自分の書いた下書き
毒薬→平民になるためのスキルアップのせい!
誤解された理由が自分のせいでもあるなんて!

「アーリス、大丈夫かい?少し休もうか?」
「いっいえ。大丈夫です。その後はどうなったのですか?」
「実は所々記憶が飛んでいる箇所があるんだが・・・クリストファー殿下が直ぐに来られて、止めるのも聞かずに宮殿に連れて行かれた。殿下は〘 未だ、間に合うかもしれない〙とうわ言のように言っていた。」

苦虫を噛み潰したような顔をして、イラッとしたように足をトントンと踏み鳴らした。
「私も直ぐに追っていったが、殿下は医者以外誰も部屋に入れさせなかった。私さえも!」
トントンからドンドン!に変わっていく。
「部屋を開けていただくように何度も申し上げたのだが全く応じていただけず、最後は陛下に許可をいただいてこじ開けた。殿下はアーリスの手を握りしめて呆然としていたよ。パージスは首を振って〘アーリス様はもう・・・申し訳ございません。手の施しようがないです。〙と私に告げた。」

お父様はイラつく感情を整えるように、大きくため息を吐いた。数回続けるとドンドンと足を踏み鳴らしていたのが収まった。
「そのあとのことは少し記憶が飛んでいる。悪夢をみているようだった。殿下からアーリスの遺体は王族の墓碑に埋葬すると言われ、アーリスを埋葬する時にはあの衣装を着せたいと言われ」
チラッと壁に飾られたを見る。
「ゲラン殿が止めてくださらなかったら、不敬罪に取られても仕方が無かったかもしれない。あの衣装には、アーリスを一生愛すると誓いを込めていたそうだ。2人しかわからない言葉を刻んでいたと言っていた。たしか"らびあんろーず"とか・・・特殊な方法で文字が浮かび上がるとも言っていたな・・・あまりに殿下が悲愴なご様子だったので最後は私が折れたんだ。・・・アーリス!」

”らびあんろーず”という言葉に衝撃を受け、胸が痛くなり思わず蹲る。
「アーリス、アーリス!大丈夫かい‼」
「大丈夫よ。お父様、少しっ少しだけ待って」

La Vie en roseラヴィアンローズそれは13歳の誕生日に歌った子守歌のタイトルだ。
あの後、殿下に歌の歌詞と名前を覚えたいと言われ、タイトルと歌詞をお伝えしたのだった。
前世で何回も聞いた○アフのLa Vie en rose。素敵な恋の歌で、いつかこんな歌のような恋がしたい。そう思っていた。

胸が痛くて痛くて張り裂けそうだった。無意識の内に大粒の涙が頬につたわり床に落ちた。辛かった、クリス様の思いも・・・私の想いも。

いつも彼への好意を、慕わしい想いを感じる度に否定し続けてきた。叶うことの無い想いを持ち続けたら心が潰れてしまいそうだったから・・・
だって、クリス様は私の最推しだったのだから。


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