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女神の使者
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驚愕する私達をしり目に、もう1人のクリス様はお茶会にでもいるかのように、悠然としていた。
(いえ、クリス様じゃないわ。)
30歳前後だろうか、今のクリス様がもう少し歳を取ったらこうなるのでは無いかと思われる姿をしている。あの方は確か・・・陛下の執務室で見た肖像画の──
アレン様も思い当たったのか、私に目線を投げてきた。
(あの方は!)
(あれは・・・もしかしてゆっ幽霊!)
アレン様と顔を見合わせてアワアワする私の肩を、クリス様がぐっと抱き寄せた。
「お前は何者だ!どうしてここにいる!」
凛としたクリス様の問いにはチラリと視線を投げただけで答えず、イルギアス様の方に目を向けた。
「早まるなcinqの魔法使い」
その声で、イルギアス様を見るとイルギアス様の様子が一変していた。
右手には身の丈程の赤茶けた杖を持ち、左手には大きな水晶玉を持っていた。何より、小柄な身体から闘気が滲み出ていた。
「早まるな、だと!」
イルギアス様は杖の矛先を男に向けた。
「私はこの方達を無事に返す義務がある!お前は何者だ!先程の介入は『人ならざる者』の波動だった。どういうことか説明しろ!」
その時、緊迫する場に似つかわしくない無邪気な子供の声で精霊達が喋りだした。
『使者だ~』
『じい様~だめだよ~』
『女神におこられるよ~』
「「使者だと!」」
「女神?」
精霊達の言葉に私達は軽くパニックになった。
「落ち着け。私はヘルゼン・トバルズ。かつてトバルズ国の王であった。今は女神ラーダ様に仕える使者見習いだ。」
「ヘルゼン・トバルズ王・・・クリストファー殿下、アレン様、トバルズ国歴に彼の者の名はございますか?」
イルギアス様は、杖の矛先を向けるのは止めたが、杖と水晶玉は出したまま尋ねた。
それに応えたのはアレン様だった。
「イルギアス殿、確かに彼はヘルゼン王だと思う。陛下の執務室で歴代王の肖像画があるが、その中に彼の姿と名を見た。だが、ヘルゼン王、貴方は何故ここにいる。」
「その疑問は尤もだ。話すから魔法使いそれらを下げてくれ。この地の維持にはそなたの魔力が必要だからな。幾ら精霊達がいてもバランスが悪くなると維持に支障が出る。」
「わかった。だが、この方達に悪影響がある様であれば、即刻この魔法は中止する。何ゆえお前が・・・いや貴方がここに現れたのか教えて欲しい。」
イルギアス様が杖と水晶玉を収めると、ヘルゼンはゆっくり話し出した。
「先に言った通り、かつて私はトバルズの王だった。治世時にある変革を行ったが、それが引き起こす変容やその結果を確認したい一心で転生を止めた。その際、故あって女神ラーダ様の使者見習いとなった。」
精霊達を指さし、あれ達が言ってた使者とはその事だと言った。
「とは言っても、今の私には微力な力しかない。子孫に託したこの国で、懸念した問題が発生したことを知りラーダ様に現世介入の嘆願をしたが、許されずただ見守ることしか出来なかった。」
私とアレン様は再度、お互いの顔を見た。その仕草が気に触ったのか、クリス様がより私を抱き寄せた。
イルギアス様は、ヘルゼン王が語る言葉の真偽を見極めるかのように、黙って話に聞き入っている。
「ここに来たのは、ラーダ様より介入の許可が降りたからだ。私が幾度も嘆願したのも理由の1つだが、その令嬢の為というのも1つの理由だ。」
「私??ですか」
「そう、ラーダ様は愛の女神。貴女自身と他の者の為に幾度も祈っただろう。"祈れば通ず"とは本当のことだ。だが、通じただけでは本来は動かない。届いた祈りが気になった・・・その程度だ。ラーダ様に貴女を助けるよう働きかけたのは精霊王だ。貴女がパスカル王の魂を解放するきっかけとなったことに感謝していた。精霊王は、戻らない愛し子をずっと待っていたらしい。貴女に報いたいとラーダ様に依頼したのだ。私の嘆願、貴女の祈り、精霊王の依頼、その全てを吟味した上でラーダ様は最小限の介入なら許可すると、私を”小さき者の救い手”の使者として遣わされたのだ。・・・第2王子に精霊達の警告を伝えたのは精霊王の力、私がこの場に介入出来たのはラーダ様のお力だ。」
(せっ精霊王!!話が飛躍し過ぎてついて行けない!)
私もアレン様も、陛下のお話や精霊の泉を知っているから、ヘルゼン王の話はある程度理解できる。
しかし、クリス様とイルギアス様は話の半分も理解出来ていないだろう。
そっと2人を見ると、胡乱げにヘルゼン王を見つめていた。
「アーリー、この男の言っている話に心当たりがあるかい?」
「そっそうですね。精霊王のことは初耳ですが・・・その他は心当たりがあります。アレン様、精霊王のこと何かご存知ですか?」
「いや、私も知らない。私が見えるのは、あの精霊達だけだ。皆、何か知っているか?」
『王様言ってたよ~その娘かわいそーって』
『力が無いから~女神に頼むって~』
『困ってたらしーけど』
『引き受けてくれたから使者が来たの~』
「なるほどわかった。皆ありがとう。兄上ヘルゼン王の話は真実のようです。」
精霊達は、お礼を言われてキャーーーッ♡といいながら、アレン様の周りをフワフワと飛び回った。
「そうか・・・イルギアス殿、どう思う。」
イルギアス様はそうですね。と呟いてから大きくため息をついた。
「先程の介入は『人ならざる者』の波動でした。女神の使者であるということなら辻褄もあいます。信じられない話ですが、嘘はついていないでしょう。ただ、分からない・・・結局、貴方は何をする為にこの場に現れたのですか?」
「第1王子がアノーのテーブルで己に向き合うなら、非常時以外、姿を現すつもりは無かった。1番懸念していたのは、命の炎が消え去ることだったからな。それはこの空間に第2王子を介して精霊達を連れて来て、第1王子の魂に直接繋がることで解決した。だが・・・」
ヘルゼン王は肩を竦めた。そして、クリス様を指さした。
「その第1王子の泣き言に呆れて出てきてしまった。憖、王族だから魔法使いでは下手なことは言えないだろう。代わって私が言おう。第1王子よ、そなたの言い分は聞いたが、何故、自分の気持ちだけなのだ?」
「私の気持ちだけとはなんだ!失礼な!貴方に何がわかる!」
「わからないな。そなたの婚約者は、そなた以上に数奇な運命に翻弄された。愛しているというなら、何故ご令嬢の話を聞かない。何故彼女の言葉を信じない。」
それは・・・と呟いて、戸惑うように、クリス様が私を見た。ヘルゼン王の思いがけない言葉に、クリス様の顔から血の気が引いていくのがわかった。
「今、そなたの隣に居るのが、本物のそなたの婚約者だ。いま、その手を取らねば今度こそ永遠に彼女を失うぞ。自分自身を憐れむな!自責の念に溺れるな!これ以上、彼女を蔑ろにするな!」
「わっ私はアーリーを蔑ろにしてなど・・・」
クリス様は弱々しく、不安気に呟いた。
「では、己に向き合え!他の者の言葉に耳を傾け、言われた言葉を咀嚼して考えろ!」
クリス様は、容赦の無い言葉に唇を噛み締めた。
言葉も無いようで項垂れる。
「兄上・・・」
アレン様が慰める様に肩に手をかけたが、クリス様は俯いたままだった。
私も掛ける言葉がなく、クリス様の手を強く握った。
「魔法使い、先程の魔法をご令嬢に掛けられるか?声も入れて」
「掛けられますが、声は膨大な魔力を使います。この場の維持に必要な魔力が不足する恐れがあります。」
「では、これを使え」
ヘルゼン王は、懐から金色の鍵を出してイルギアス様に渡した。
「これは?」
「ラーダ様の神力が込められた物だ。今は鍵の形をしているが、手に持ち必要なものを想像すると魔力にも物体にも変化する。この場の維持にはそなたが必要だ。これを使え。」
「このような貴重な物を私に?」
「まだ幾つか持っているし、そなたが使うのであればこの地のみ使用可能だ。それにあの第1王子には荒療治が必要なようだ。この魔法の後で、そなたには別に協力してもらうぞ。」
「・・・」
「魔法使い。このままでは、あれは己の弱さに負ける。分かるな。」
「・・・わかりました。但しあの方達の身に累が及ばなければとなります。」
ヘルゼン王はそれには答えず、クリス様に威圧するような低い声で語りかけた。
「第1王子、これからご令嬢に魔法をかける。己が婚約者に何と言い、どう対応したのか第三者の視点で見極めよ。これは現実に起こったことだ。真摯に受け止めよ。」
「・・・はい。」
クリス様は頼りなげに、だがしっかりとこたえた。
それを聞くと、ヘルゼン王は場を引き締めるように両手を打ち鳴らした。
「では早速始めよう」
――――――――――
今度は私が魔法が掛けられていることになり、少し緊張しながら居住まいを正した。
「ご令嬢、離宮に来てからのことを思い出してくれ。」
「アーリス様、離宮に来られてからのことを語ってくださいますか?」
ヘルゼン王の言葉に、イルギアス様が被せるように語りかけてきた。離宮に着いてから、今日までの日々を思い出しながら語り出した。
──離宮に赴いた日にクリス様に『僕のアーリーじゃない』と拒絶され倒れたことなどをかいつまんで話していく。
すると、先程と同じでテーブルの中央の藍色の泉から、柱の様に水が吹き出し、光が差して形を作り始めた。前回と異なるのは、声が聞こえることだった。
話しては白黒の動画を確認し、話しては白黒の動画を確認しを繰り返す。クリス様は途中、何度か号泣したが最後まで黙って聞いていた。
とうとう今日までのことを語り終えると、一瞬シーンと場が静まり帰り、クリス様の嗚咽だけがその場に響いた。
以外にも、話し出したのは精霊達だった。
『あの娘かわいそ~』
『人間ってこんがらがってるね~』
精霊達の子供のような声で、その場の雰囲気が少し穏やかな空気に変わった。
「第1王子、ご令嬢の記憶と脳の記録は全て一致していたのを見たな。」
「・・・はい・・・」
「そなたは幻を信じるのか?それとも隣の婚約者を信じるのか?」
「・・・すまない。本当に私は愚かだった。許してくれアーリー。」
クリス様はそう言って椅子から立ち上がると、私の目の前に跪き許しを乞った。
(どっどうしよう!)
何も考えられず、椅子から立ち上がり同じように跪いた。そして震えるクリス様を抱きしめた。
「私は最初からクリス様を許しています。ただ、願っているのです。もう一度私を・・・幻ではなく、アーリス・イソラを受け入れてくださる日がくることを。私はクリス様、貴方と共に生きる未来を諦めたくないのです。」
「アーリー‼」
クリス様は強く私を抱きしめてくれた。
ああっ私のクリス様が本当に戻ってきてくれたんだ。と感動している時──
「よかった。兄上もアーリス嬢も。これで解決だな。」
「甘いぞ第2王子」
「アレン殿下、やっとクリストファー殿下に認識していただいた段階なのです。このままですと、現実に戻った時、また幻に囚われ"全部夢だった"と思い込む可能性がございます。だからこそ繰り返しの治療が必要となるのです。」
「ええっ‼」
「繰り返しの治療が必要なのは同感だが、第1王子自身が幻を打ち砕き、自責の念から這い出てくれれば話は別だ。魔法使い、力を貸せ」
「何に力を・・・」
イルギアスの言葉を遮るように、ヘルゼン王の掌から光が迸った。
―――――――――――――
※補足:cinq=5
イルギアスは、光、闇、火、水、風の5つのエレメント(魔法)が使える魔法使いです。
(いえ、クリス様じゃないわ。)
30歳前後だろうか、今のクリス様がもう少し歳を取ったらこうなるのでは無いかと思われる姿をしている。あの方は確か・・・陛下の執務室で見た肖像画の──
アレン様も思い当たったのか、私に目線を投げてきた。
(あの方は!)
(あれは・・・もしかしてゆっ幽霊!)
アレン様と顔を見合わせてアワアワする私の肩を、クリス様がぐっと抱き寄せた。
「お前は何者だ!どうしてここにいる!」
凛としたクリス様の問いにはチラリと視線を投げただけで答えず、イルギアス様の方に目を向けた。
「早まるなcinqの魔法使い」
その声で、イルギアス様を見るとイルギアス様の様子が一変していた。
右手には身の丈程の赤茶けた杖を持ち、左手には大きな水晶玉を持っていた。何より、小柄な身体から闘気が滲み出ていた。
「早まるな、だと!」
イルギアス様は杖の矛先を男に向けた。
「私はこの方達を無事に返す義務がある!お前は何者だ!先程の介入は『人ならざる者』の波動だった。どういうことか説明しろ!」
その時、緊迫する場に似つかわしくない無邪気な子供の声で精霊達が喋りだした。
『使者だ~』
『じい様~だめだよ~』
『女神におこられるよ~』
「「使者だと!」」
「女神?」
精霊達の言葉に私達は軽くパニックになった。
「落ち着け。私はヘルゼン・トバルズ。かつてトバルズ国の王であった。今は女神ラーダ様に仕える使者見習いだ。」
「ヘルゼン・トバルズ王・・・クリストファー殿下、アレン様、トバルズ国歴に彼の者の名はございますか?」
イルギアス様は、杖の矛先を向けるのは止めたが、杖と水晶玉は出したまま尋ねた。
それに応えたのはアレン様だった。
「イルギアス殿、確かに彼はヘルゼン王だと思う。陛下の執務室で歴代王の肖像画があるが、その中に彼の姿と名を見た。だが、ヘルゼン王、貴方は何故ここにいる。」
「その疑問は尤もだ。話すから魔法使いそれらを下げてくれ。この地の維持にはそなたの魔力が必要だからな。幾ら精霊達がいてもバランスが悪くなると維持に支障が出る。」
「わかった。だが、この方達に悪影響がある様であれば、即刻この魔法は中止する。何ゆえお前が・・・いや貴方がここに現れたのか教えて欲しい。」
イルギアス様が杖と水晶玉を収めると、ヘルゼンはゆっくり話し出した。
「先に言った通り、かつて私はトバルズの王だった。治世時にある変革を行ったが、それが引き起こす変容やその結果を確認したい一心で転生を止めた。その際、故あって女神ラーダ様の使者見習いとなった。」
精霊達を指さし、あれ達が言ってた使者とはその事だと言った。
「とは言っても、今の私には微力な力しかない。子孫に託したこの国で、懸念した問題が発生したことを知りラーダ様に現世介入の嘆願をしたが、許されずただ見守ることしか出来なかった。」
私とアレン様は再度、お互いの顔を見た。その仕草が気に触ったのか、クリス様がより私を抱き寄せた。
イルギアス様は、ヘルゼン王が語る言葉の真偽を見極めるかのように、黙って話に聞き入っている。
「ここに来たのは、ラーダ様より介入の許可が降りたからだ。私が幾度も嘆願したのも理由の1つだが、その令嬢の為というのも1つの理由だ。」
「私??ですか」
「そう、ラーダ様は愛の女神。貴女自身と他の者の為に幾度も祈っただろう。"祈れば通ず"とは本当のことだ。だが、通じただけでは本来は動かない。届いた祈りが気になった・・・その程度だ。ラーダ様に貴女を助けるよう働きかけたのは精霊王だ。貴女がパスカル王の魂を解放するきっかけとなったことに感謝していた。精霊王は、戻らない愛し子をずっと待っていたらしい。貴女に報いたいとラーダ様に依頼したのだ。私の嘆願、貴女の祈り、精霊王の依頼、その全てを吟味した上でラーダ様は最小限の介入なら許可すると、私を”小さき者の救い手”の使者として遣わされたのだ。・・・第2王子に精霊達の警告を伝えたのは精霊王の力、私がこの場に介入出来たのはラーダ様のお力だ。」
(せっ精霊王!!話が飛躍し過ぎてついて行けない!)
私もアレン様も、陛下のお話や精霊の泉を知っているから、ヘルゼン王の話はある程度理解できる。
しかし、クリス様とイルギアス様は話の半分も理解出来ていないだろう。
そっと2人を見ると、胡乱げにヘルゼン王を見つめていた。
「アーリー、この男の言っている話に心当たりがあるかい?」
「そっそうですね。精霊王のことは初耳ですが・・・その他は心当たりがあります。アレン様、精霊王のこと何かご存知ですか?」
「いや、私も知らない。私が見えるのは、あの精霊達だけだ。皆、何か知っているか?」
『王様言ってたよ~その娘かわいそーって』
『力が無いから~女神に頼むって~』
『困ってたらしーけど』
『引き受けてくれたから使者が来たの~』
「なるほどわかった。皆ありがとう。兄上ヘルゼン王の話は真実のようです。」
精霊達は、お礼を言われてキャーーーッ♡といいながら、アレン様の周りをフワフワと飛び回った。
「そうか・・・イルギアス殿、どう思う。」
イルギアス様はそうですね。と呟いてから大きくため息をついた。
「先程の介入は『人ならざる者』の波動でした。女神の使者であるということなら辻褄もあいます。信じられない話ですが、嘘はついていないでしょう。ただ、分からない・・・結局、貴方は何をする為にこの場に現れたのですか?」
「第1王子がアノーのテーブルで己に向き合うなら、非常時以外、姿を現すつもりは無かった。1番懸念していたのは、命の炎が消え去ることだったからな。それはこの空間に第2王子を介して精霊達を連れて来て、第1王子の魂に直接繋がることで解決した。だが・・・」
ヘルゼン王は肩を竦めた。そして、クリス様を指さした。
「その第1王子の泣き言に呆れて出てきてしまった。憖、王族だから魔法使いでは下手なことは言えないだろう。代わって私が言おう。第1王子よ、そなたの言い分は聞いたが、何故、自分の気持ちだけなのだ?」
「私の気持ちだけとはなんだ!失礼な!貴方に何がわかる!」
「わからないな。そなたの婚約者は、そなた以上に数奇な運命に翻弄された。愛しているというなら、何故ご令嬢の話を聞かない。何故彼女の言葉を信じない。」
それは・・・と呟いて、戸惑うように、クリス様が私を見た。ヘルゼン王の思いがけない言葉に、クリス様の顔から血の気が引いていくのがわかった。
「今、そなたの隣に居るのが、本物のそなたの婚約者だ。いま、その手を取らねば今度こそ永遠に彼女を失うぞ。自分自身を憐れむな!自責の念に溺れるな!これ以上、彼女を蔑ろにするな!」
「わっ私はアーリーを蔑ろにしてなど・・・」
クリス様は弱々しく、不安気に呟いた。
「では、己に向き合え!他の者の言葉に耳を傾け、言われた言葉を咀嚼して考えろ!」
クリス様は、容赦の無い言葉に唇を噛み締めた。
言葉も無いようで項垂れる。
「兄上・・・」
アレン様が慰める様に肩に手をかけたが、クリス様は俯いたままだった。
私も掛ける言葉がなく、クリス様の手を強く握った。
「魔法使い、先程の魔法をご令嬢に掛けられるか?声も入れて」
「掛けられますが、声は膨大な魔力を使います。この場の維持に必要な魔力が不足する恐れがあります。」
「では、これを使え」
ヘルゼン王は、懐から金色の鍵を出してイルギアス様に渡した。
「これは?」
「ラーダ様の神力が込められた物だ。今は鍵の形をしているが、手に持ち必要なものを想像すると魔力にも物体にも変化する。この場の維持にはそなたが必要だ。これを使え。」
「このような貴重な物を私に?」
「まだ幾つか持っているし、そなたが使うのであればこの地のみ使用可能だ。それにあの第1王子には荒療治が必要なようだ。この魔法の後で、そなたには別に協力してもらうぞ。」
「・・・」
「魔法使い。このままでは、あれは己の弱さに負ける。分かるな。」
「・・・わかりました。但しあの方達の身に累が及ばなければとなります。」
ヘルゼン王はそれには答えず、クリス様に威圧するような低い声で語りかけた。
「第1王子、これからご令嬢に魔法をかける。己が婚約者に何と言い、どう対応したのか第三者の視点で見極めよ。これは現実に起こったことだ。真摯に受け止めよ。」
「・・・はい。」
クリス様は頼りなげに、だがしっかりとこたえた。
それを聞くと、ヘルゼン王は場を引き締めるように両手を打ち鳴らした。
「では早速始めよう」
――――――――――
今度は私が魔法が掛けられていることになり、少し緊張しながら居住まいを正した。
「ご令嬢、離宮に来てからのことを思い出してくれ。」
「アーリス様、離宮に来られてからのことを語ってくださいますか?」
ヘルゼン王の言葉に、イルギアス様が被せるように語りかけてきた。離宮に着いてから、今日までの日々を思い出しながら語り出した。
──離宮に赴いた日にクリス様に『僕のアーリーじゃない』と拒絶され倒れたことなどをかいつまんで話していく。
すると、先程と同じでテーブルの中央の藍色の泉から、柱の様に水が吹き出し、光が差して形を作り始めた。前回と異なるのは、声が聞こえることだった。
話しては白黒の動画を確認し、話しては白黒の動画を確認しを繰り返す。クリス様は途中、何度か号泣したが最後まで黙って聞いていた。
とうとう今日までのことを語り終えると、一瞬シーンと場が静まり帰り、クリス様の嗚咽だけがその場に響いた。
以外にも、話し出したのは精霊達だった。
『あの娘かわいそ~』
『人間ってこんがらがってるね~』
精霊達の子供のような声で、その場の雰囲気が少し穏やかな空気に変わった。
「第1王子、ご令嬢の記憶と脳の記録は全て一致していたのを見たな。」
「・・・はい・・・」
「そなたは幻を信じるのか?それとも隣の婚約者を信じるのか?」
「・・・すまない。本当に私は愚かだった。許してくれアーリー。」
クリス様はそう言って椅子から立ち上がると、私の目の前に跪き許しを乞った。
(どっどうしよう!)
何も考えられず、椅子から立ち上がり同じように跪いた。そして震えるクリス様を抱きしめた。
「私は最初からクリス様を許しています。ただ、願っているのです。もう一度私を・・・幻ではなく、アーリス・イソラを受け入れてくださる日がくることを。私はクリス様、貴方と共に生きる未来を諦めたくないのです。」
「アーリー‼」
クリス様は強く私を抱きしめてくれた。
ああっ私のクリス様が本当に戻ってきてくれたんだ。と感動している時──
「よかった。兄上もアーリス嬢も。これで解決だな。」
「甘いぞ第2王子」
「アレン殿下、やっとクリストファー殿下に認識していただいた段階なのです。このままですと、現実に戻った時、また幻に囚われ"全部夢だった"と思い込む可能性がございます。だからこそ繰り返しの治療が必要となるのです。」
「ええっ‼」
「繰り返しの治療が必要なのは同感だが、第1王子自身が幻を打ち砕き、自責の念から這い出てくれれば話は別だ。魔法使い、力を貸せ」
「何に力を・・・」
イルギアスの言葉を遮るように、ヘルゼン王の掌から光が迸った。
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※補足:cinq=5
イルギアスは、光、闇、火、水、風の5つのエレメント(魔法)が使える魔法使いです。
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