幼馴染ってこういう感じ?

とうこ

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やらかしと夢

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 次ぐ日になり、遥翔は帰る準備を終わらせて朝ごはんを食べていた。
「新幹線は何時?」
 祖母の頼子がお味噌汁のおかわりをよそう。
「駅に行ってからでもいいかなって。どうせ自由席だし、夏休みとはいえ今日ならなんとかなるんじゃないかな」
 そんな遥翔に祖父の宗一郎の方が心配になり
「駅に行ったらおじいちゃんが指定席買ってやるから、それで帰りなさい。時間はまあいいが」
 指定席取るならネットでも…と言いかけたが、心配性の祖父の言葉も嬉しい。
「ほんと?ありがとうおじいちゃん」
 手渡されたお味噌汁のお豆腐を見つめると、小さい頃のように小さく切ってあり、それをみておばあちゃんには俺がいつまでも小さい孫のまんまなんだな、とちょっと微笑んでしまった。
 祖父母はいつ来ても優しくしてくれる。ずっと小さいままの孫でいたいな、などと思いながら温かい気持ちにもなっていた。

「さて、忘れ物はない?」
 頼子は自身の帽子をかぶって、床の上を見渡す。
「少しくらい忘れたって、後で送ればいいさ。それにしてももう行くのか」
 宗一郎は車のキーを手にしながらも寂しそうだ。
「また来るよ、って言ってもいつかなぁ…でも高校受かったら一回来ようと思ってる。それまで俺頑張るよ」
「なんだほぼ2年後じゃないかすぐだな」
 毎年来ていた頃にしたら長いが、6年も会わないでいたよりは短い。
「うん。ちゃんと受かってここに来るから。って、ここに来るからで思い出したけど、みーくん遅いね。駅まで行くって言ってくれてたんだけどな」
 縁側から窓を開けて外を見てみるが、隣の本庄家は静かだ。
「家を出る時迎えに行けばいいだろう」
「そうだね。お土産買ったりするのに駅で1時間くらい時間取るから、みーくんと一緒に行きたかったんだよね」
 遥翔は少し気になってはいた。
 昨日つい寝てしまって、起きたのは頼子たちが買い物から帰った時だった。
 その時に汀はもういなかったから、寝ちゃったのは悪かったなと夕方家に行ってみたら風呂中だという。
 それじゃ仕方ないかと戻ってから話しをしていない。
 大抵家に行ったと聞けば来てくれると思ってたから、来なかったことが気になった。
 それに寝ていた時に見た夢もちょっと恥ずかしくて、それもあって意識もしてしまう。
ーみーくんとキスする夢見たなんて、恥ずかしくて言えないよな…なんであんな夢見たんだろー
 汀に会ったら、笑い話として聞かせてやろうと思ってはいたがよく考えたら恥ずかしいのでやめておくことにした。
「さてと!」
 気合を入れてキャップを被りリュックを背負うと、
「俺ちょっとみーくん迎えに行ってくるね」
 と玄関へと向かっていった。
「じゃあ車に乗ってるからね。車庫に直接おいでね」
 頼子の言葉にーうんーと答えて、靴を履いて隣へ向かう。
 インターフォンを押すと笙子が出てきた。
「あれ!はる君もう行っちゃうの?まだ午前中だよ?」
「はい。向こうで今日の夕方に用があるので。あの、みーくんは…」
「え?約束してたの?あの子も時間知らないんじゃないの?さっき部活で急に呼び出しかかったって学校行っちゃったのよ」
ーえ…ー
「あ…そうだったんですね…わかりました…」
 時間というか、明日の午前中に出るとは伝えておいたはずだった。
「じゃあ、また。みーくんによろしく伝えてください。笙子さんもお元気で。今度は6年も開けないできますから」
 笑ってそういうと
「ほんとそうして。もう全く別人みたいになって現れられると困っちゃうわよ~はる君美形だし。今度会うの楽しみだわ~」
「やめて」
 そう言ってくれるのは笙子さんだけだなと笑いーそれじゃあーと挨拶をして家に戻る。
「俺なんか悪いことしちゃったかな…寝ちゃったのを怒ってるなんてことは…ん~」
 首を傾げてガレージへ向かうと、
「あら?みーくんは?」
 頼子が遥翔の後ろを伺う。
「なんか、部活で急に呼び出されちゃったみたい。言ってくれたらよかったのにね」
 などと笑いながらリュックを下ろし後部座席に座った。
「そうか残念だな、じゃあ行くか」
 宗一郎がエンジンをかけ、とりあえず再来年に来る予定の家を遥翔は後にした。
 そんな時間。
 汀は遥翔が来た日に来た公園に1人でいた。
 今日会わないと、次にいつ会えるかわからないのもわかってはいたが、自分が昨日してしまった事を思い出すだけでバクバクする心臓に耐えられなかったのだ。
「こんなんではる君の顔なんか見たら、絶対なんかやらかす…」
 そう思って、逃げてしまった。
「俺…はる君にキスしちゃったんだなあ…柔らかかったな…」
 自分の唇を触ってみるが遥翔ほど柔らかくなく、遥翔の唇が殊更柔らかいのだと思う。
「あああ…でも今日逃げたってさ…今からならバスで駅行っても間に合うよな…そんなすぐに新幹線乗らないだろうし…………でもなぁあ…」
 ブランコに揺られながら髪を掻きむしったり、腕を組んで首を傾げたりする汀を、子連れのお母さんと子供たちが遠巻きに見ている。
 というかブランコ空けないと行けないな、と思い至り、汀は立ち上がってベンチへと移動した。
「キスかあ…」
 夏の青い空を見上げていると、口の端が緩んでしまう。
「いやいや…喜ぶところじゃねえぞ。はる君男だし…俺おかしいんかな…」
 頭の中にテレビに出ているオネエ様たちの顔が浮かんできて、
「俺あんな面白く話せる自信ないけどなぁ…」
 思考がぶっ飛んで、ちょっと論点がずれ始めた汀だった。

 遥翔は遥翔で、意外と早く新幹線に乗れて宗一郎が用意してくれた指定席で、頼子が買ってくれたペットボトルのお茶を飲みながら車窓を流れる景色をぼんやりと眺めていた。
ーキスか…ー
 夢とはいえ結構生々しく感じたキスに、少し胸が高まる。
 以前からちょっと、同級生男子の何気ない仕草にドキッとする事があって、もしかして自分は…と思うこともあり、今回の夢でのキスも嫌ではなかったのが気がかりだ。
 それでも、今現在一緒に勉強を頑張ろうねと言ってくれる彼女までは行かないけどそれに一番近い女子もいるし…などと色々思いを巡らせている。
ー次に会うときは、もうきっと普通でいられるはずだな。結局夢だったんだしー
 そう思いため息一つお茶を飲み、今日からは心を入れ替えないと、とスマホで英単語の勉強を始めた。
 
 それから一年半後の1月。
 遥翔はるとは成績と志望を鑑みて、親や先生との面談の末私立大学の附属高校を目指すことになり、外部入試ではあったが難なく合格を決めた。
 3月半ばの卒業式を終えて、遥翔はまた3年ほど来られなくなると予想して祖父母の元へと合格報告をしに向かった。
 今回はサプライズで行ったので、家に着いた時祖父の宗一郎も祖母の頼子も喜ぶより驚きが先に立ち、玄関で大騒ぎとなったものである。
「まあまあまあ!言ってくれれば迎えに行ったのに。ここに来るのは少し大変だったでしょう?よくバスがわかったね」
 頼子が家に招き入れながら荷物を持って居間へと入り、宗一郎も
「ほんとだぞ、迎えにくらいいかせなさい」
 と遥翔の背中を軽くこづいてきた。
「また次に来るときに、一々お迎えお願いするのもと思ってチャレンジしてみたよ。いろいろ調べてさ。迷ったら迎えにきてもらおうと思ってたし」
 あれからまた身長もちょっと伸びて、今は176cm。両親も飛び抜けて大きい方でもないし、運動もしないでここまで大きくなれば十分だなと本人は思っている。 
「お昼は食べたの?お腹空いてない?」
 台所に向かいながら、何かあったかしらねえと頼子が呟くのを聞いて、
「駅でマック食べてきたから大丈夫だよ」
 とその背中に話しかけ、ーそうなの?じゃあなんか…ーと台所でゴソゴソしてから苺を出してきてくれた。
「ちょうどさっき買ってきてよかった~。この苺美味しいから食べてね」
 大きな器に山盛り持ってきてくれて、遥翔はー美味そう!ーと小鉢に数個をとってフォークで口に入れる。
「うんま!この苺うまいね!」
 それをきっかけにバクバクと苺を摘んでいる遥翔の後ろで、宗一郎が
「遥翔これ、じいちゃんとばあちゃんから」
 そう言って、少し厚めのご祝儀袋を渡してきてくれた。
「え…マジで俺そんなつもりできたんじゃ…」
 袋を見て戸惑ったが、
「お祝いくらいしかできないんだからさせてくれ。ほら」
 手に乗せられたら突き返すわけにもいかず、それを両手で掲げて
「ありがとうございます」
 とお礼を言う。
「俺たちはこんなことしかしてあげられないんだよ。それでこれからの入りようなものを揃えるといいさ。足らなかったら、廉遥くんに言いなさい」
 笑ってそう言って、宗一郎も座って苺を摘んだ。
 暫くは受験の話をしていたが、夕飯の買い物に行くという頼子に今日はついて行ってみようと、祖父母と3人で出かけることにした。
 少し遠くの、種類が多いスーパーに向かっていると途中で学校帰りの汀を見かける。
「あれ、みーくんだね。もう直ぐ春休みだろうからまた遊べるねえ」
 頼子はそういうが、みーくんまだ怒ってるのかな…と少し遥翔は不安だ。まさか1年半前の、しかもたかだか寝てしまったことに対して怒ってるかとか思わないものだが、遥翔はそれがずっと気になってはいたのだ。
 だって、あれから話せてないから本当のことがわからない。
 でもいつまでもこっちだって引っ込んではいられない
「みーくうううん。久しぶり~~」
 車を徐行してもらって、1人歩いている汀に声をかけた。車通りはさしてないが、対面二車線の道路の向こう側だ。
 汀は、え?と驚いた顔をしてみていたが、それには構わずに
「今日きたんだよ、後で家に行くね!」
 それだけ伝えて手を振って窓を閉めた。
 言うだけ言えば、家にいてくれるだろう。窓を閉めてからも手を振って車は進んでいった。
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