幼馴染ってこういう感じ?

とうこ

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気づいた気持ちの居場所

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「お前なん~か変わったよな」
 部活も一緒のクラスメイト、木村が理科室への移動中に汀に寄ってきた。
「ん~?そうか?何も自覚ねえけどな」
 教科書とノート、それと筆箱を抱えた汀は教科書を頭に乗せている木村の上から手を置く。
「お~い~バランス崩れんだろ」
 何が目的でやってるのかわからなくて抑えてやったのに、と言いながら手を離した汀は後ろから来た高野さんにクスクスと笑われた。
「仲良しだねえ」
 3年になって同じクラスになった横山さんが、高野さんの隣で笑っている。
「仲良しじゃねえだろ。俺の華麗なウォーキングを見せようと思ってたのに邪魔されたんだぞ。俺は怒ってる」
「今のウォーキングだったんだ」
 汀は呆れてもう一度頭に手をのせた。
「熱はないな」
「測る場所違くね?」
 もう漫才だ。高野さんはケラケラ笑うし、横山さんはくっだらねーと木村に蹴りを入れてくる。
 そんな3年生生活を送って早くも3ヶ月。
 また夏休みが来ようとしていた。
 先日サッカー部は、県大会の準々決勝で負けを喫し3年生は引退ということになり、そういう面では気が緩んでいる。
 実際はこれからが本番なのだが、ほんの一時の事なので夏休みまでは呑気でいることにはしていた。
「汀は夏休みどうすんの?塾とか」
 理科室の席につきながら木村が聞いてきた。
 汀は3月のあの日から、フィジカルトレーナーへの道を決めて歩き始めており、それになるための勉強は惜しまないとも決めた。だから、塾の夏期講習を狙って一つの塾へと入塾していたのだ。
 あの日急に帰ってしまった遥翔とは、一切連絡がつかない。
 ブロックされているのだろう。
 その理由もわからぬまま次日から1週間ぼんやりと過ごしたが、元々開き直りは早い方だ。もし先々で遥翔に会った時に、自分が何者でもないというのは嫌だった。 だから勉強をしようと決めた。
 思い立った日に両親の元へゆき目指す方向を伝え、塾に入れて欲しいと願い入れ、快諾して貰っている。
 医学部まではちょっと無理という事で、フィジカルトレーナーに必要な知識が学べる学校を狙うつもりで、取り敢えず大学の体育学科を照準に定めた。
 その為には、高校も少しでも学力の高いところへ行きたい。
 この市では全国的にも名高い1番高があったが、流石にそこは無理っぽいので準ずる…か準々ずるところまでは狙いたい。
 なので勉強するしかないのだ。
「塾はもう入ってるよ。駅前のあそこ」
「え!◯◯ゼミ?あそこ厳しいって有名じゃん」
 全国的に進学率を上げている所で、一部詰め込みという批判もある所だが、今の汀にはそれがちょうどいいと思った。
「木村はどうすんの?」
「俺は~まあ今のままで入れる所でいいかなって」
 まあ大抵の中学生はこんなものだ。
 離れた所で汀を見つめていた高野さんも、どことなく取り付く島もない雰囲気の汀に寂しい思いをしていた。
 あれから告白もできなくて今に至り、部活も終わった今接点はクラスメイトということだけ。しかも、受験にやる気を見せている汀にはとても近寄れないのが現状だ。
「ねえねえ高野?」
 横山さんが、理科室の背もたれのない丸いすを引きずって寄ってくる。
「本庄に告った?」
 ニヤニヤして聞いてくる横山に、顔を真っ赤にして俯いて
「してない…でももうできないかなって思って」
 と、膝の上で布製の筆箱をカシャカシャと鳴らした。
「ああ~なんかね、急にやる気出してきたよね雰囲気も変わったし、人を寄せ付けない感じになったね」
 さっき木村が言ったーお前変わったなーはそういうことなのだ。

 高校へ入って3ヶ月。
 特進科の授業は毎日気の抜けないカリキュラムが組まれており、夏休みも名ばかりで理系・文系に別れて独自のプログラムが組まれ、夜は塾に行くという勉強漬け。
 塾のない夜が唯一の休息時間だが、そんな日も遅れは取れないと机に向かう日々。
 無駄なことを考えずに済むし、確実に前進できる今が心地いい。
 それでもたまに汀のことが頭に浮かんでしまった時は、プリクラを出して見つめ、そして少しスッキリすることにしていた。
 もうこのプリを『使う』ことに罪悪感はない。
 だってもう、会わないから…写真これしかないから…。


                ~2年後~
 遥翔が大学に合格した知らせは、隣の遥翔の祖母から聞いた。
 どうやら、無事に付属の大学の医学部生になったと言うことだ。
「はる君から連絡はなかったの?」
 汀の母笙子が、春休みで家でポテチを食べながら漫画雑誌をペラペラしている汀に聞いてみるが、それに関しては返事をしない。
 ここ2、3年遥翔のことに関して聞いても返事をしないのは解ってはいた。
 以前お隣に遥翔と遊んでくると出かけた汀が、怒ったように帰ってきた時は最初喧嘩でもしてきたのかと思っていた。
 しかしその日のうちにたまたま外で出会った遥翔の祖母頼子に、遥翔が学校の用で急に変帰ってしまったと聞いたのである。
 そしてーみーくんにも言わないで帰ったから、みーくん怒ってるでしょーとも言われ、原因が判明したもののそれから遥翔の話に一歳返事をしなくなってしまっていて、黙って帰られたことを相当怒っているんだな、とは感じていた。 
 しかし飛び飛びではあるものの、母笙子も付き合いは長く未だについ何の気なしに聞いてしまう事もある。
 慣れてはいるものの、そうなったときには話を逸らすことも学んでいた。
「今度はあんたの番ね。頑張ってるから平気よね」
「ん~」
 汀もあれから市内3番高になんとか滑り込んで、それなりに勉強に追われた2年間だった。
 いよいよ3年だ。
 遥翔は高校3年間全くこちらには来ず、合格したから来るかもとは思っていたが、合格祝いは向こうの家でやると言うので、隣の祖父母は先日お祝いに出かけて行っていた。
 未だに何故こんな事になったのか、汀は理解できないでいる。
 聞こうにも連絡はつかないし、どうしようもない日々を過ごしてはいるがそれでも会った時に恥ずかしくない自分をと頑張るしかなかった。
「遥翔、着々と医者への道進んでるんだなぁ…」
 つい心の声が漏れてしまい、珍しく遥翔のことを話した息子にそれでも気を遣いながら
「そうね。あんな小さい頃の夢を叶えてくの見てるのは頼もしいわ。弥生さんも見守ってるでしょうね」
 生前は夏に来る度、ママ会を毎日のようにするほど仲が良かった遥翔の母弥生の思い出は、笙子の中でも消えることはない。
 そんな弥生が与えた遥翔の夢の一端を、自分も齧らせて貰っていると言う自負はあった。だから、いくら連絡が取れなくてもここは裏切れなかった。
「俺も頑張んなきゃだな」
 よっと声をあげて立ち上がり、ーちょっと身体動かしてくるーと玄関に向かいランニングシューズを履く。
 高校でもサッカーは続け、トレーナーもサッカーに特化して勉強をしている。去年JFAのC級ライセンスも取り、自分なりに遥翔に続こうと頑張っていた。
 ランニングは思考の整理に丁度いい。
 走りながらこれからの生活や勉強などを考える。
 市内3番高ではサッカーも強くはないが、それでも部員たちはまじめに取り組んでおり、楽しくそして少しでも上をと言う意識を持ってやっているからやりがいもあった。
 夏休みまではインターハイ目指して、それ以降は…ああ、それまでに学校を決めてそこに目指していけるようにしとかないとか…大学か…。などと考えながら走る。
 大学は、目星はつけてるものの両親はこの地で進学してほしい様なことは言っていて、しかし自分がやりたい学科のある大学は遥翔のいる都会にしかなかった。迷う所である。
 色々してくれた両親の言うことも聞きたいが、やっぱり話し合いが必要だなと、走りながら整理した。
「遥翔は…今何してるのかな…」
 走りをやめて、歩きながらスマホを取り出しカバーを外す。
 そこに隠すように貼ってある、あのキスのプリクラ。
 汀も、なんとなくだが自分の気持ちを理解できていた。
 好きとか嫌いとかは男女だけではないし、最初にキスをした時だって、あの時はグラビアの唇と同じだったからなんて自分に言い訳をしたが、それが遥翔だったからしたと言う気持ちに嘘はつけなくなっている。
 2度目のキスも、本当に事故の様なキスではあったが、あの時もっと抱き寄せたいという感情を抑えるのに必死だった。
「もうさぁ遥翔…生殺しにすんなよ…」
 写真を撫でて苦笑する。
 お互いの気持ちをお互いが解らないすれ違い。
 それすら今の2人にはわかりようがないのだけれど…。 
 
 夕方。
 2月に無事に内部進学を決め、春休みの今遥翔は渋谷にきていた。
 ポケットのスマホが震えて、内容の判る通知を一応確認とスマホを開く。
 案の定お財布アプリに入金されたとのお知らせ、6万円。
「お金なんかいらないんだけどな」
 スマホをポケットにしまい、口をキツく結んで顔を上げた。
ーこれは仕方ないんだ。俺が壊れないようにやってることなんだからー
 遥翔は上げた顔に笑みを湛え、駅前に立っていたサラリーマン風の男性に近寄った。
「お父さん、待った?」
 その男性は遥翔の父親ではなかった。
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