わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの。

朝霧心惺

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ぐちゃぐちゃのドロドロにするからっ!!

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 今にも窒息死しそうな顔色になり始めたクロイツ侯爵をぼーっと見つめながら、リリーシアは頭を回転させる。

(………クロイツ侯爵はどうでもいいけれど、フィアリア男爵が消えるのは少し惜しいですわね。彼の持つ販路は相当に良いものですし………。たった1代で我がリーラー家に並ぶ商会を築き上げた手腕は尊敬に値いたしますわ。ここは1つ、大取りを致しましょうか)

 オロオロとしながら出てきたフィアリア男爵ににっこりと微笑みかけたリリーシアは、ルカーシュの腕に自らのそれを絡める。


「ルカさま」


 血走った目でにっこり笑ったままクロイツ侯爵を殺さんとしているルカーシュには、リリーシアの声が届かない。


「………無反応、ですか………。………では、ルカさま、お約束を破ったのですから、失礼致しますわね」


 にこっと笑ったリリーシアは、扇子を武器のように構え、そして———、

 バチンッ!!

 ルカーシュの頬を思いっきり叩いた。


 瞬間、びっくりしたルカーシュの腕から、クロイツ侯爵がボトっと落ちる。
 いきなり落とされた故に受け身を取ることが叶わず、顔面から大理石の床に突っ込み、ご自慢の高いお鼻がボキっといったようだ。
 痛みに悶え、顔面を床に突っ伏したまま尻を左右に振る姿は、滑稽以外に言い表す言葉がない。


「ルカさま」
「り、リリー………、」

「わたくし、前に申しましたわよね?『わたくしが名をお呼びしたら、3秒以内に振り向き、わたくしのお話を聞いてください』と」


 今にも泣きそうな表情でリリーシアを見つめるルカーシュに、リリーシアは怒りの色に染めたルビーの瞳を向ける。
 仔犬のようにしゅんとしてしまったルカーシュに対する、リリーシアの温情はもちろん存在しない。

「この舞踏会終了から1週間はお口聞きません」
「そん、な………!!許してよ、リリー!!私が悪かったっ!!次回からは絶対このようなことがないようにする!君をもっと大事にする!!ぐちゃぐちゃに甘やかして、いっぱいキスをして、君がドロドロになって動けないようにするから!だから!1週間口を聞かないとか言わないでくれっ!!」

 あんまりにもな言い方に、リリーシアは我を忘れて顔を真っ赤に染め上げる。


「貴方さまは馬鹿なのですか!?こ、こんな公衆の面前でそのようなことをっ!!」

「父上と母上はいつもそうだ!!」

 うむうむと頷くルフェーブルを横目に、リリーシアが怒鳴る。


「ヤンデレ溺愛熱愛カップルと名高い陛下方と同じことをしないでくださいっ!!わたくしの、わたくしの身体がいくつあっても持ちませんわ!!」


 半泣きで叫ぶリリーシアに、一部の、愛されすぎる女性陣からの不憫そうな視線が刺さったのだった———。


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