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第04章 奴隷狩り
20 下される判決
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「え、えっと、ギルマスそれって本当なんですか。ていうかそんなことどうやって」
リーラはいきなり自分のレシピが盗まれ、それが別の街で出されていたという事実を聞かされて困惑している。
「お、お待ちください。この料理を考えたのがその女であると証拠があるのでしょうか?」
「証拠? それなら俺が証言するぜ。エイルード料理人ギルドギルマスの名に懸けてこいつはリーラが料理大会で披露したものだとな。これじゃ不満か?」
「い、いえ、た、確かにその大会でその女が作ったというのは信じましょう。しかし、考えたのがその女であるという証拠はないのではないでしょうか」
ブレンドは己、いやプリアルスの潔白のためにと必死になってギルマスに追いすがっているけど、ほんとシムサイトはすがすがしいほどに女性差別がはっきりしているな。ブレンドのやつはこの期に及んでもなお、リーラが女であるというだけでさげすみ自分たちよりしたとみてにらみつけるようにちらっと見つつ、その女という呼称を使っている。そして気が付いていない、ブレンドがリーラに対してそのような態度をとっていることにギルマス自身が少し腹を立てているということに。
「確かに、こいつがリーラが考え出したという証拠はねぇ。でもな、プリアルスが考えた物でもないということも確かだぜ」
「そ、それはどういう」
ギルマスは何か確信をもっていっているがどういうことだろうか。
「リーラがこいつを大会で作った時のことだ俺も審査員としてプリアルスの側にいた。あの時の奴の反応を見る限り、あれはてめぇのレシピを盗まれた奴の反応ではなく、明らかに初めて見た奴の反応だったな。なにせ、食い方も知らなかったんだからな。そうだろ、リーラ」
「は、はい。これは手に取って食べるものですけど、あの時の商人ギルドのギルマスはほかの皆さんと同じように困惑していました」
パンとなると手でちぎって食べるのが一般的だが、その上に具材が乗っているピザはどう食べるのか正解が初めて見る人間にとっては分からないよな。まぁ、別にフォークとナイフを使って食べてもいいとは思うけどな。でも、ピザとして知っている俺としてはやはり手で食うのが正解だと思うし、この世界での考案者であるリーラもこれは手で食べるのが正解であると思っているようだ。
「そ、それは……ええい、女ごときがしゃべるんじゃない!」
ここで、ブレンドがそう暴言を吐いた。これはシムサイトでは許されるがここではちょっとまずいな。
「ほぉ、てめぇずいぶんな物言いだな。そうか、そういえばシムサイトではいまだに男尊女卑が続いているだったな。でもよぉ、ここはウルベキナ王国だ。それもここは実力主義の俺のギルドだ。その暴言は許せるものじゃねぇな、ああん」
ガラの悪いギルマスだな、凄みを聞かせてどこのやくざだよ。まぁ、とにかくこれでブレンドはビビッて言葉を飲み込んでしまったようだ。
「さてと、キルベルト殿いかがだろうか、もし俺だけで不満というなら領主を呼ぶが」
「いえ、その必要はありません。ブレンド殿、どうやらこれはダンクス殿のおっしゃていたことが正しいようですな」
「ぐっ、え、ええ、遺憾ながら」
「では、いかがします」
「……う、訴えを取り下げたいと思います。お騒がせいたしました」
「わかりました。ダンクス殿、これにてあなたは無罪が確定いたしました。しかし、此度のことでブレンド殿を逆に訴えることもできますが、いかがします?」
ブレンドが訴えを取り下げたことでダンクスが無罪放免となった。しかし、逆にブレンドを名誉棄損で訴えることができるという。
「いや、俺は別にそんなもんはどうでもいいからな。んなことしないぜ」
ダンクスは即答でそう答えた。まぁ、そもそも俺たちは今はそんな暇ないしな。
「そうですか」
「どうやら、そっちは終わったみたいだな。なら、今度はこっちの番だな。なぁ、リーラ」
「えっ、ええと……」
話は終わったと思ったら今度はギルマスが自分の番だと言い出した。
「どういうことでしょうか?」
キルベルトもよくわからずに聞き返している。
「どうもこうもねぇよ。こっちはレシピを盗まれてんだ。その落とし前をつけてもらう必要があるってことだ」
なるほど、でも確かこの世界って特許とかそういうことがないから、レシピを盗まれたとしてもどうしようもないはずだ。
「料理人にとってレシピは財産であり、子供なんだよ。そいつが盗まれていいようにされているってのは我慢ならねぇ。だからこそのギルドなんだよ」
ギルマスによると、料理人ギルドというものは料理人の管理はもちろん、それぞれのレシピに対する保護も行っているらしい。
「つまり、ロリエスタ殿はレイベル商会を訴えるとおっしゃるのですか?」
「いや、いくら俺でもそいつは無理だな。お宅らはシムサイトの人間だ。他国の人間を訴えることは俺でも領主でも無理だからな」
この世界はまだ国際社会がちゃんとできていないために、他国へ捜査の手を伸ばすことができないし、他国の人間を勝手に逮捕することもできないことになっている。だからこそ俺たちがコルマベイントで指名手配されてもウルベキナ王国に入った時点で追われることがなくなったわけだ。
「では、どのようにされるのですか?」
「そうだな。あんたらには何もできねぇが、プリアルスは別だ。奴は出向とはいえ、この街でギルマスっつう要職についている。その野郎がレシピを盗んだとなると、こちらの法で裁かせてもらうぜ」
料理人ギルド、ギルマスことロリエスタがそう言った。この街の法というのは当然レシピの窃盗、あとで聞いたがこの街においてレシピを盗むことは重罪で、料理人が行った場合は当然ギルドから除名処分を受けることになり、この街で料理人としての活動ができなくなる。まぁ、別の街に行けばなれるんだけどな。そこらへんはこれからギルドを広げていくことで解決していくそうだ。そこは料理大会が盛り上がっていけば大丈夫な気がするけどな。そうなると、ギルドに加盟している街では料理人を名乗ることができなくなるってことだ。
「そ、そんな。馬鹿なっ!」
実の弟が裁かれると聞いて気が気でないのはブレンドだ。
「ど、どのような裁きを下すのですか」
キルベルトとしても、プリアルスは知り合いだろうし、何よりプリアルスは商業組合に属した人間だ、同じ組織に属している仲間としても気になるのだろう。
「さぁな。こいつは領主に聞いてくれ」
「領主殿ですか、わかりました。では、さっそく領主殿にアポイントメントを取りましょう」
「いや、その必要はねぇよ。俺が行けばすぐに会えるさ。なにせ、昔馴染みだからな。ちょっと待ってな」
そう言ってロリエスタは部屋を出ていってしまった。
「ダンクス殿、お聞きしてもよろしいですかな?」
「ああ、なんだ」
キルベルトがダンクスに何か聞きたいようだが何だろうか。首を傾げつつ話を聞いてみた。
「この街、エイルードの領主殿はどのような人物でしょうか?」
商人だけあり情報収集に余念がないようで、これから会うであろう領主に関する情報を得ようとダンクスに声をかけたようだ。まぁ、事前に領主のことを知っておけばプリアルスの裁きに関して、減免においての取りき材料に使えるからな。
「ああ、まぁあんたらの場合、先に知っておいた方がよさそうだな」
「とおっしゃいますと」
「この街の領主は女性だからだ。女性軽視しているあんたらなら間違いなく無礼をはたらくだろうしな」
「なっ!」
ダンクスの言う通りこの街の領主はなんと女性だった。そうなると領主のロリエスタの関係を邪推するかもしれないが、残念ながら両者ともにすでに結婚しており、そういったことはなくただ単に幼馴染というだけだそうだ。
「そ、そのようなことで街が成り立つのですか」
キルベルトは驚愕してさっそく無礼な発言を始めた。いくら何でも今のはまずい発言だろ、ほんとどこまで差別意識が根付いているんだろうか。
「ああ、全く問題ないな」
女性の領主というものはここウルベキナでも珍しいがないわけではない。そういうところはコルマベイントと同じとなっている。ここで疑問、コルマベイントとウルベキナの両国間にはロッカールド山脈が分断しており直接な交流はここ100年ほどとなっている。そんな国同士で同じ価値観を持っているということは不思議に思うだろう。しかし、実はこの両国、関接的には交流を行っていたらしい。というのも、南に位置しているブリザリア王国は横に長い国で、両国と隣接している。そして、問題のロッカールド山脈はブリザリアの中部手前で終わっているために、ここを通してつながりがあったわけだ。それに、女性に対する考えはこのブリザリアの影響となっている。聞くところによるとブリザリアではここ4代、女王が治めているそうで女性たちの地位が上がっているらしい。そんな国と隣接し交流しているからこそだと思う。
「そうなのですか、信じられませんが……」
「まっ、それは実際にあってみればわかることだろ。まぁ俺も料理大会で見た限りでしかないがな。でも住人たちを見ていればその地の領主が善政を行っているのは明らかだろう」
「そうですか」
キルベルトは少々納得しきれないという表情でそういったが、無理もないシムサイトはそもそも議会制を取り入れていて、領主が治める街というものを知らないから仕方ないのかもしれない。
「おう、待たせたな。さっそく来てもらうことになった」
「はい」
キルベルトは若干緊張しつつ立ち上がったが、ブレンドはまだ座っている。ていうかなんか真っ青になっているんだけど……。別に今回悪いのは盗んだプリアルスであり、ブレンドが悪いわけではないし、そもそもブレンドを裁くことは領主でもできないとさっき話したばかりなんだけどな。
「ブレンド殿?」
「あっ、はい、申し訳ありません」
キルベルトが呼びかけるとようやくブレンドが動き出した。
そうしてやってきた領主屋敷である。
「ここだ。ああ、そうそうプリアルスの野郎もすでに呼んであるからな」
どう呼んでいるのかはわからないが、すでに屋敷内にいるそうだ。ということでロリエスタに続いて俺たちも屋敷内へと入っていく。
「入れっ!」
屋敷内のある部屋の前にやってきたところで、ここまで案内してくれたメイドがノックすると、中からそんな声が聞こえてきた。
「よう、悪いないきなり」
「なに、気にするな。それで、その者たちが例の」
「ああ、まずはこっち、料理大会の発案者でもあるシュンナ、ダンクス、スニルだ」
「!?」
ロリエスタはそう言って俺たちを紹介したわけだが、これにはキルベルトやブレンド、すでに中にいたプリアルスが驚愕している。
「ほぉ、お前たちが、あれは実に有意義な催しだった。私自身も食道楽でな。幼いころはよくこの男とともによく料理屋を巡ったものだ。そんな私でも料理人たちに競わせるということは思いもつかなかった。礼を言う」
「い、いえ、私たちはただある店の料理を今後も食べたいと思っただけですから」
シュンナもさすがに領主相手ということで一人称はいつもと違い私と称している。
「ある店? それはもしやオクトの店か」
「ご存じですか?」
「知っているも何も、お前たちはしょっちゅうあの店に出入りしていただろう」
「あははっ、確かによく行ってましたね」
「あの店は昔行ったことがあってな。確かにうまかった。だが、妙な噂が出回って私自身気にかけていたところだったんだ」
「そうだったんですか?」
「ああ、まぁ領主である私が1つの店をひいきにするわけにはいかないからな。さて、それでエスタそちらが」
「ああ、そこにいるプリアルスの兄のブレンド殿とシムサイトのブロッセンの議長であるキルベルト殿だ。彼らがここにいる理由は先ほど説明した通りだが、もう一度説明すると……」
ここで、ロリエスタがブレンドとキルベルトがここにいる理由を説明しだした。これにはここにいるプリアルスが一番驚いていた。ていうかブレンドとキルベルトを見た瞬間から今まで驚愕で固まっていたが。
「……うむ、そうか、それで、転移の魔道具、まさかそんなものがあるとは、見せてもらってもいいか」
まぁ、興味を持つよな。ということで俺はとっさに用意した魔道具を取り出して領主に見せた。
「……これを」
「ほぉ、これか、ネックレスになっているんだな」
俺が用意した転移の魔道具はただの安物のネックレスにそれっぽくカットした魔石をはめ込んだもので、これはシュンナとダンクスに持たせている、いざというときの自動防御魔道具の余りを改造したものだ。ちなみにこれは本当に転移の魔道具として使える代物となっている。しかも転移先はブロッセンと設定してある。帰りはこれを起動するつもりでいる。
「売ってもらうわけにはいかないだろうな」
「それを渡してしまうと、ブロッセンに帰れなくなりますから」
「そうだろうな。惜しい話だが、まぁ、それは今はいい。プリアルス」
「は、はい」
プリアルスも事の経緯を聞いていたし、この街でレシピの窃盗がどういうことかも当然知っているためにびくっとおびえた表情をしている。
「まず、聞こう。貴様がリーラが作り、今では我が街の特産となっているリーラ、これのレシピを盗み、実家である店で己の名をつけ販売させているというのは事実か」
俺たちも事前に聞いていたが、現在リーラは経緯は分からないが屋台ではなくオクトの店で働いており、そこでリーラパン、もといリーラを販売しているそうだ。そのためかオクトの店レイグラット亭は第01回料理大会の優勝準優勝者の店ということで大繁盛しているらしい。
「……そ、それは、その」
後で聞いたが、プリアルスはリーラのピザを食べた瞬間、これは売れると思ったそうだ。幸いにしてリーラは屋台、これを普段から出すことはできない、そのためよほどのことがない限りバレることはないと思ったようだ。
まさか、俺たちが行くことになるとは思わなかっただろうし、何より俺が”転移”魔法を使えるとは露ほどにも思わなかっただろう。運が悪かったな。
「どうした? 事実かどうか答えよ」
プリアルスが黙り込んでしまったことで領主はにらみつけ答えるように促した。
「りょ、領主殿よろしいだろうか?」
「かまわん。何かなブレンド殿」
ブレンドが恐る恐る領主へと発言を求めた。
「プリアルス、私はお前が考案した料理と聞き、その名を関したプリアルスを店に出した。しかし、こちらのダンクス殿が店にやって来て、これは盗作であると指摘を受けた。おかげで私はダンクス殿を訴え、キルベルト殿にまで迷惑をかけてしまった。これはどういうだ、もちろん私も知らずとはいえそれを店に出していたことは事実、お前にすべての責を負わせるつもりはない。しかし、それならそうとなぜ説明しなかった」
「兄さん、これはその、すまない。まさか、このようなことになるとは思わなかった」
「はっ、てめぇのことだ。リーラが女ってことで、問題ないとでも思ったんだろうよ」
「そ、それは」
図星だったようで、プリアルスは口ごもった。
「女、女か、全く、私もシムサイトがどういう国かは情報として知っている。これまではそれを考慮し黙認してきたが、さすがにこの街で料理のレシピを盗むというは見過ごせん。このことはシムサイトへ厳重に抗議し、貴様の解任を求めるつもりだ。覚悟しておけ」
領主により裁きが下った。といってもあくまでシムサイト側へ抗議し解任を求めるだけ、他国から出向しているやつに対しての最大の罰則がこれでしかない。だから、もしシムサイト側がこの講義を無視すればこの裁きはなかったことになるだろう。尤も領主もそれは分かっているので、そこらへんはどうにかするつもりなんだろう。まぁ、俺にはわからないけどな。でも、実際後で聞いた話だとプリアルスは解任されて本国へと帰っていったという。そして、後任としてやってきたギルマスはここの領主が女性であるということと、今回が女性がかかわる問題であったこともあって、多少なりとも女性差別意識の少ないものが選ばれたそうだ。その結果、エイルードでも女性料理人が店を出せるようになったのは、良い副産物だったことだろう。
リーラはいきなり自分のレシピが盗まれ、それが別の街で出されていたという事実を聞かされて困惑している。
「お、お待ちください。この料理を考えたのがその女であると証拠があるのでしょうか?」
「証拠? それなら俺が証言するぜ。エイルード料理人ギルドギルマスの名に懸けてこいつはリーラが料理大会で披露したものだとな。これじゃ不満か?」
「い、いえ、た、確かにその大会でその女が作ったというのは信じましょう。しかし、考えたのがその女であるという証拠はないのではないでしょうか」
ブレンドは己、いやプリアルスの潔白のためにと必死になってギルマスに追いすがっているけど、ほんとシムサイトはすがすがしいほどに女性差別がはっきりしているな。ブレンドのやつはこの期に及んでもなお、リーラが女であるというだけでさげすみ自分たちよりしたとみてにらみつけるようにちらっと見つつ、その女という呼称を使っている。そして気が付いていない、ブレンドがリーラに対してそのような態度をとっていることにギルマス自身が少し腹を立てているということに。
「確かに、こいつがリーラが考え出したという証拠はねぇ。でもな、プリアルスが考えた物でもないということも確かだぜ」
「そ、それはどういう」
ギルマスは何か確信をもっていっているがどういうことだろうか。
「リーラがこいつを大会で作った時のことだ俺も審査員としてプリアルスの側にいた。あの時の奴の反応を見る限り、あれはてめぇのレシピを盗まれた奴の反応ではなく、明らかに初めて見た奴の反応だったな。なにせ、食い方も知らなかったんだからな。そうだろ、リーラ」
「は、はい。これは手に取って食べるものですけど、あの時の商人ギルドのギルマスはほかの皆さんと同じように困惑していました」
パンとなると手でちぎって食べるのが一般的だが、その上に具材が乗っているピザはどう食べるのか正解が初めて見る人間にとっては分からないよな。まぁ、別にフォークとナイフを使って食べてもいいとは思うけどな。でも、ピザとして知っている俺としてはやはり手で食うのが正解だと思うし、この世界での考案者であるリーラもこれは手で食べるのが正解であると思っているようだ。
「そ、それは……ええい、女ごときがしゃべるんじゃない!」
ここで、ブレンドがそう暴言を吐いた。これはシムサイトでは許されるがここではちょっとまずいな。
「ほぉ、てめぇずいぶんな物言いだな。そうか、そういえばシムサイトではいまだに男尊女卑が続いているだったな。でもよぉ、ここはウルベキナ王国だ。それもここは実力主義の俺のギルドだ。その暴言は許せるものじゃねぇな、ああん」
ガラの悪いギルマスだな、凄みを聞かせてどこのやくざだよ。まぁ、とにかくこれでブレンドはビビッて言葉を飲み込んでしまったようだ。
「さてと、キルベルト殿いかがだろうか、もし俺だけで不満というなら領主を呼ぶが」
「いえ、その必要はありません。ブレンド殿、どうやらこれはダンクス殿のおっしゃていたことが正しいようですな」
「ぐっ、え、ええ、遺憾ながら」
「では、いかがします」
「……う、訴えを取り下げたいと思います。お騒がせいたしました」
「わかりました。ダンクス殿、これにてあなたは無罪が確定いたしました。しかし、此度のことでブレンド殿を逆に訴えることもできますが、いかがします?」
ブレンドが訴えを取り下げたことでダンクスが無罪放免となった。しかし、逆にブレンドを名誉棄損で訴えることができるという。
「いや、俺は別にそんなもんはどうでもいいからな。んなことしないぜ」
ダンクスは即答でそう答えた。まぁ、そもそも俺たちは今はそんな暇ないしな。
「そうですか」
「どうやら、そっちは終わったみたいだな。なら、今度はこっちの番だな。なぁ、リーラ」
「えっ、ええと……」
話は終わったと思ったら今度はギルマスが自分の番だと言い出した。
「どういうことでしょうか?」
キルベルトもよくわからずに聞き返している。
「どうもこうもねぇよ。こっちはレシピを盗まれてんだ。その落とし前をつけてもらう必要があるってことだ」
なるほど、でも確かこの世界って特許とかそういうことがないから、レシピを盗まれたとしてもどうしようもないはずだ。
「料理人にとってレシピは財産であり、子供なんだよ。そいつが盗まれていいようにされているってのは我慢ならねぇ。だからこそのギルドなんだよ」
ギルマスによると、料理人ギルドというものは料理人の管理はもちろん、それぞれのレシピに対する保護も行っているらしい。
「つまり、ロリエスタ殿はレイベル商会を訴えるとおっしゃるのですか?」
「いや、いくら俺でもそいつは無理だな。お宅らはシムサイトの人間だ。他国の人間を訴えることは俺でも領主でも無理だからな」
この世界はまだ国際社会がちゃんとできていないために、他国へ捜査の手を伸ばすことができないし、他国の人間を勝手に逮捕することもできないことになっている。だからこそ俺たちがコルマベイントで指名手配されてもウルベキナ王国に入った時点で追われることがなくなったわけだ。
「では、どのようにされるのですか?」
「そうだな。あんたらには何もできねぇが、プリアルスは別だ。奴は出向とはいえ、この街でギルマスっつう要職についている。その野郎がレシピを盗んだとなると、こちらの法で裁かせてもらうぜ」
料理人ギルド、ギルマスことロリエスタがそう言った。この街の法というのは当然レシピの窃盗、あとで聞いたがこの街においてレシピを盗むことは重罪で、料理人が行った場合は当然ギルドから除名処分を受けることになり、この街で料理人としての活動ができなくなる。まぁ、別の街に行けばなれるんだけどな。そこらへんはこれからギルドを広げていくことで解決していくそうだ。そこは料理大会が盛り上がっていけば大丈夫な気がするけどな。そうなると、ギルドに加盟している街では料理人を名乗ることができなくなるってことだ。
「そ、そんな。馬鹿なっ!」
実の弟が裁かれると聞いて気が気でないのはブレンドだ。
「ど、どのような裁きを下すのですか」
キルベルトとしても、プリアルスは知り合いだろうし、何よりプリアルスは商業組合に属した人間だ、同じ組織に属している仲間としても気になるのだろう。
「さぁな。こいつは領主に聞いてくれ」
「領主殿ですか、わかりました。では、さっそく領主殿にアポイントメントを取りましょう」
「いや、その必要はねぇよ。俺が行けばすぐに会えるさ。なにせ、昔馴染みだからな。ちょっと待ってな」
そう言ってロリエスタは部屋を出ていってしまった。
「ダンクス殿、お聞きしてもよろしいですかな?」
「ああ、なんだ」
キルベルトがダンクスに何か聞きたいようだが何だろうか。首を傾げつつ話を聞いてみた。
「この街、エイルードの領主殿はどのような人物でしょうか?」
商人だけあり情報収集に余念がないようで、これから会うであろう領主に関する情報を得ようとダンクスに声をかけたようだ。まぁ、事前に領主のことを知っておけばプリアルスの裁きに関して、減免においての取りき材料に使えるからな。
「ああ、まぁあんたらの場合、先に知っておいた方がよさそうだな」
「とおっしゃいますと」
「この街の領主は女性だからだ。女性軽視しているあんたらなら間違いなく無礼をはたらくだろうしな」
「なっ!」
ダンクスの言う通りこの街の領主はなんと女性だった。そうなると領主のロリエスタの関係を邪推するかもしれないが、残念ながら両者ともにすでに結婚しており、そういったことはなくただ単に幼馴染というだけだそうだ。
「そ、そのようなことで街が成り立つのですか」
キルベルトは驚愕してさっそく無礼な発言を始めた。いくら何でも今のはまずい発言だろ、ほんとどこまで差別意識が根付いているんだろうか。
「ああ、全く問題ないな」
女性の領主というものはここウルベキナでも珍しいがないわけではない。そういうところはコルマベイントと同じとなっている。ここで疑問、コルマベイントとウルベキナの両国間にはロッカールド山脈が分断しており直接な交流はここ100年ほどとなっている。そんな国同士で同じ価値観を持っているということは不思議に思うだろう。しかし、実はこの両国、関接的には交流を行っていたらしい。というのも、南に位置しているブリザリア王国は横に長い国で、両国と隣接している。そして、問題のロッカールド山脈はブリザリアの中部手前で終わっているために、ここを通してつながりがあったわけだ。それに、女性に対する考えはこのブリザリアの影響となっている。聞くところによるとブリザリアではここ4代、女王が治めているそうで女性たちの地位が上がっているらしい。そんな国と隣接し交流しているからこそだと思う。
「そうなのですか、信じられませんが……」
「まっ、それは実際にあってみればわかることだろ。まぁ俺も料理大会で見た限りでしかないがな。でも住人たちを見ていればその地の領主が善政を行っているのは明らかだろう」
「そうですか」
キルベルトは少々納得しきれないという表情でそういったが、無理もないシムサイトはそもそも議会制を取り入れていて、領主が治める街というものを知らないから仕方ないのかもしれない。
「おう、待たせたな。さっそく来てもらうことになった」
「はい」
キルベルトは若干緊張しつつ立ち上がったが、ブレンドはまだ座っている。ていうかなんか真っ青になっているんだけど……。別に今回悪いのは盗んだプリアルスであり、ブレンドが悪いわけではないし、そもそもブレンドを裁くことは領主でもできないとさっき話したばかりなんだけどな。
「ブレンド殿?」
「あっ、はい、申し訳ありません」
キルベルトが呼びかけるとようやくブレンドが動き出した。
そうしてやってきた領主屋敷である。
「ここだ。ああ、そうそうプリアルスの野郎もすでに呼んであるからな」
どう呼んでいるのかはわからないが、すでに屋敷内にいるそうだ。ということでロリエスタに続いて俺たちも屋敷内へと入っていく。
「入れっ!」
屋敷内のある部屋の前にやってきたところで、ここまで案内してくれたメイドがノックすると、中からそんな声が聞こえてきた。
「よう、悪いないきなり」
「なに、気にするな。それで、その者たちが例の」
「ああ、まずはこっち、料理大会の発案者でもあるシュンナ、ダンクス、スニルだ」
「!?」
ロリエスタはそう言って俺たちを紹介したわけだが、これにはキルベルトやブレンド、すでに中にいたプリアルスが驚愕している。
「ほぉ、お前たちが、あれは実に有意義な催しだった。私自身も食道楽でな。幼いころはよくこの男とともによく料理屋を巡ったものだ。そんな私でも料理人たちに競わせるということは思いもつかなかった。礼を言う」
「い、いえ、私たちはただある店の料理を今後も食べたいと思っただけですから」
シュンナもさすがに領主相手ということで一人称はいつもと違い私と称している。
「ある店? それはもしやオクトの店か」
「ご存じですか?」
「知っているも何も、お前たちはしょっちゅうあの店に出入りしていただろう」
「あははっ、確かによく行ってましたね」
「あの店は昔行ったことがあってな。確かにうまかった。だが、妙な噂が出回って私自身気にかけていたところだったんだ」
「そうだったんですか?」
「ああ、まぁ領主である私が1つの店をひいきにするわけにはいかないからな。さて、それでエスタそちらが」
「ああ、そこにいるプリアルスの兄のブレンド殿とシムサイトのブロッセンの議長であるキルベルト殿だ。彼らがここにいる理由は先ほど説明した通りだが、もう一度説明すると……」
ここで、ロリエスタがブレンドとキルベルトがここにいる理由を説明しだした。これにはここにいるプリアルスが一番驚いていた。ていうかブレンドとキルベルトを見た瞬間から今まで驚愕で固まっていたが。
「……うむ、そうか、それで、転移の魔道具、まさかそんなものがあるとは、見せてもらってもいいか」
まぁ、興味を持つよな。ということで俺はとっさに用意した魔道具を取り出して領主に見せた。
「……これを」
「ほぉ、これか、ネックレスになっているんだな」
俺が用意した転移の魔道具はただの安物のネックレスにそれっぽくカットした魔石をはめ込んだもので、これはシュンナとダンクスに持たせている、いざというときの自動防御魔道具の余りを改造したものだ。ちなみにこれは本当に転移の魔道具として使える代物となっている。しかも転移先はブロッセンと設定してある。帰りはこれを起動するつもりでいる。
「売ってもらうわけにはいかないだろうな」
「それを渡してしまうと、ブロッセンに帰れなくなりますから」
「そうだろうな。惜しい話だが、まぁ、それは今はいい。プリアルス」
「は、はい」
プリアルスも事の経緯を聞いていたし、この街でレシピの窃盗がどういうことかも当然知っているためにびくっとおびえた表情をしている。
「まず、聞こう。貴様がリーラが作り、今では我が街の特産となっているリーラ、これのレシピを盗み、実家である店で己の名をつけ販売させているというのは事実か」
俺たちも事前に聞いていたが、現在リーラは経緯は分からないが屋台ではなくオクトの店で働いており、そこでリーラパン、もといリーラを販売しているそうだ。そのためかオクトの店レイグラット亭は第01回料理大会の優勝準優勝者の店ということで大繁盛しているらしい。
「……そ、それは、その」
後で聞いたが、プリアルスはリーラのピザを食べた瞬間、これは売れると思ったそうだ。幸いにしてリーラは屋台、これを普段から出すことはできない、そのためよほどのことがない限りバレることはないと思ったようだ。
まさか、俺たちが行くことになるとは思わなかっただろうし、何より俺が”転移”魔法を使えるとは露ほどにも思わなかっただろう。運が悪かったな。
「どうした? 事実かどうか答えよ」
プリアルスが黙り込んでしまったことで領主はにらみつけ答えるように促した。
「りょ、領主殿よろしいだろうか?」
「かまわん。何かなブレンド殿」
ブレンドが恐る恐る領主へと発言を求めた。
「プリアルス、私はお前が考案した料理と聞き、その名を関したプリアルスを店に出した。しかし、こちらのダンクス殿が店にやって来て、これは盗作であると指摘を受けた。おかげで私はダンクス殿を訴え、キルベルト殿にまで迷惑をかけてしまった。これはどういうだ、もちろん私も知らずとはいえそれを店に出していたことは事実、お前にすべての責を負わせるつもりはない。しかし、それならそうとなぜ説明しなかった」
「兄さん、これはその、すまない。まさか、このようなことになるとは思わなかった」
「はっ、てめぇのことだ。リーラが女ってことで、問題ないとでも思ったんだろうよ」
「そ、それは」
図星だったようで、プリアルスは口ごもった。
「女、女か、全く、私もシムサイトがどういう国かは情報として知っている。これまではそれを考慮し黙認してきたが、さすがにこの街で料理のレシピを盗むというは見過ごせん。このことはシムサイトへ厳重に抗議し、貴様の解任を求めるつもりだ。覚悟しておけ」
領主により裁きが下った。といってもあくまでシムサイト側へ抗議し解任を求めるだけ、他国から出向しているやつに対しての最大の罰則がこれでしかない。だから、もしシムサイト側がこの講義を無視すればこの裁きはなかったことになるだろう。尤も領主もそれは分かっているので、そこらへんはどうにかするつもりなんだろう。まぁ、俺にはわからないけどな。でも、実際後で聞いた話だとプリアルスは解任されて本国へと帰っていったという。そして、後任としてやってきたギルマスはここの領主が女性であるということと、今回が女性がかかわる問題であったこともあって、多少なりとも女性差別意識の少ないものが選ばれたそうだ。その結果、エイルードでも女性料理人が店を出せるようになったのは、良い副産物だったことだろう。
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転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
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