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第11章 戦争
05 工場建築開始
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ガリットの妻アリナが思わぬところで兄と再会を果たした。
「なかなか帰ってこないと思ったら、ここにいたなんてね」
「捕まってたのか?」
「まぁな。それでお前らこそなんだってこんなところに来やがったんだ。それもぞろぞろとよぉ。というか、アリナも昔から変わった奴ではあったけど、まさかお前までここに来るなんてな」
「あっちはあっちでいろいろ変わっているから、私たちは仕事で来たのよ」
「仕事? 鍛冶なら俺で間に合ってるぜ」
「んなことぁ。みりゃぁ分かる。俺たちはここに建築をしに来たんだ」
「建築? 何をだ」
「工場だ。ここエイルードで作られた料理を保存食にするためのな」
アリナが一瞬俺を見て話していいのかと言外に尋ねてきたので、それならと俺が答える。
「工場? へぇ、何かわからねぇが面白そうだな」
「さすが兄貴だな」
まだ名前を聞いていないのでわからないが、アリナの兄は、なにかもよくわかっていないのに面白そうだと言い出した。こういうところはほんとドワーフだ。ドワーフというのは、とにかくものを作ることが好きで、それが何かわからなくても作りたい。もちろん馬鹿ではないので作る前にどんなものかはしっかりと理解してからだそうだが。その理解力の高さはかなり高いといっていいだろう。
「もしかして俺を誘いに来たのか?」
「いや、そうじゃねぇんだが、始める前にドワーフが1人奴隷になっているってんで会いに来ただけだ。尤もそれが兄貴だったのは驚いたけどな」
「ほんとよ」
そう言って笑いあうドワーフたちであった。
「店主、見ての通り彼はご家族のもとに返してあげて頂戴」
「ちょ、ちょっと待ってください領主様。それはあんまりってもんです。今ここでドワーフに出ていかれると商売が成り立ちません。まだまだ受けた依頼が残っているんですよ」
伯爵の言葉に店主が悲鳴を上げてそういった。そうなんだよな。ドワーフの解放と返還となると、こうして鍛冶屋が商売あがったりとなってしまう。これがエルフを使った娼館とかなら知るか! でことは済むんだがドワーフは武器や防具、包丁や鍬といったものまで一手に作っている。そのためドワーフがいなくなるだけでそれらの入手ができなくなるという問題が出てくる。
「それは大丈夫だ。ドワーフに関しては返還までは求めていない。奴隷から解放とその扱いの改善は求めるが、国へ戻るかどうかは個人の意思に任せている」
「そ、それは一体?」
店主は俺の存在にどう接していいのかわからず、戸惑いながらの質問だ。なにせ俺はまだ名乗っていないし、それでも領主が敬意をもって接しているから領主以上の存在であることまでは理解できているようではあるが。
「先ほど店主が言ったように、ドワーフはドワーフにしかできないことでこの場にいる。そして、それを俺が返還と称して奪ってしまっては立ち行かなくなる。そして、何よりドワーフが作るものは武器防具、気持ちよく返還に応じてくれている同盟国から軍事力を奪うことはできないからな。だからといって奴隷として扱われていることを良しとはしない。よって、これより先ドワーフをこれまでのように奴隷としてではなくともに働く仲間として、友として家族として接してもらいたい。それが最大の要求となる」
「えっ、ドワーフをですか?」
俺の言葉を受けて店主が戸惑っている。その様子から察するに、店主はアリナの兄をそのように扱ってこなかったということだろう。そういうところはカリブリンの武器屋と違うな。あそこは普通に家族として接していた。そのため、あそこのドワーフは解放されてもそのままあの武器屋で槌を振るっている。ちなみに、今まで解放されたドワーフたちのうちテレスフィリアに戻ってきたのは全体の2割ほどで、6割がそのまま放浪出て、2割はそのまま残ることにした。そして、その前半の8割の者たちは共通して店主からの扱いに不満があったということだ。
「当然だろう。ところでアリナ、兄の名はなんだ?」
いつまでもアリナの兄という表現も面倒なので、名を名乗れない彼に代わって妹に名を尋ねた。まぁ、解放すればいいって言えばいいんだけどな。
「あっ、はい兄の名はガルトーです」
「そうか、んで伯爵さっそくガルトーの解放をしようかと思うがいいか?」
「もちろんです」
「えっ、解放? いったい何を?」
店主だけが戸惑う中、俺はすぐさま”解呪”の魔法を発動した。その結果はいつものごとく首輪が外れたというわけだ。
「おっ、外れたぞ。すげぇな」
「兄さん、自分の名前を意識して名乗って」
「? よくわからんが、俺の名はガルトーだ。おっと、名乗れたな」
その瞬間ガルトーの体が光、その名前欄に名が刻まれた。
「なんだ。名づけか、あっ、名も戻ってるな」
「これで兄さんは自由よ」
「へぇ、そいつはいいや」
「さて、ガルトーこれからのことだが、どうする。このままここに残って鍛冶をやり続けるのも、テレスフィリア、ああっと、故郷に戻る。もしくは放浪の旅を続けるか、隙に選ぶと言い」
「ああ、そうだなぁ。まぁ、俺もそろそろ戻ろうと思ってたところだしな。一回戻るか、あっ、でもその前にガリット、お前らの仕事も楽しそうだし俺にもやらせろ」
「兄貴ならそういうと思ってたぜ。陛下それでいいか?」
「ああ、お前たちがいいのなら構わないぞ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、さっきから、何を勝手なことを。そのドワーフは俺の、うちの店の奴隷だぞ。それをいきなりやってきて、どういうことだ説明をしろ!」
ここにきて店主が怒鳴りだした。まぁ、気持ちもわからんでもないがあいにくと相手をする必要を感じないな。
「店主、このことは事前に連絡をしていたはずだ。それをまさか知らなかったというわけではないだろう」
怒鳴る店主に対して伯爵がそういってたしなめる。まぁ、普通に考えても事前連絡をしていたのは確かだろう。
「そ、そんなもの知りません」
店主も気が動転しているのか伯爵相手にも突っかかった。
「そんなはずはないだろう。書類と口頭により行っている」
「そんな馬鹿な!」
そう言って店主はカウンター内で何かを探って、あっ、という顔をした。どうやら、この店主領主からの書類に目を通していなかったようだ。
「そ、その、忙しくてその、確認をしていませんでした」
そしてようやく認める店主である。これはさすがにフォローできるものはいないな。
「し、しかし、領主様、そのドワーフを連れていかれては、包丁を作れません。そうなれば多くの料理人が困るのですよ。これはどうするのです?」
確かに店主の言う通りガルトーがここを離れれば、当然この店で作っていた包丁が作れなくなるのは必定。
「それに関しては問題ない。ガルトーは故郷に帰ることを選んだが、ドワーフ族はまだまだいる。今度は我が国からの派遣として誰かを送ることになるだろう。そうなれば今後はそのものがエイルードの料理人のための包丁作りをしていくことになる。まぁ、それがどこでというのは本人次第だが」
ガルトーから話聞きこの店で仕事をしたくないという者がいれば、仕方ない別の鍛冶場を用意するしかない。
「まぁ、さっきも言ったように、今後、彼らを仲間として友として扱えばいいだけのことだ。それができないというのならそれは仕方ない。俺も王として国民をそのような場所に派遣できないからな」
「ふ、ふざけるな。領主様の手前さっきから黙って聞いていれば、子供が偉そうに言いやがって、そいつはな。俺の親父が奴隷商から買ってきたものだ。俺のものをどう扱おうが勝手だろう。それをいきなり現れて連れていくだと、それじゃただの泥棒じゃねぇか!」
俺の言葉を聞いて店主は憤慨して、俺に対して言ってはならないことまで言い出した。まぁ、俺が魔王だといったところで、まず人族である時点で信じられないし、何よりこの世界にはネット環境なんてものがないから、そもそも知らないしな。この店主からしたらいきなり現れた子供でしかないのだろう。しかし、俺の立場的に考えてもこれはかなり悪手となる。
「そうか、そういうことならここに派遣はできなそうだ。伯爵、ほかに鍛冶場はあるか? なければちょうどガリットたちもいるし彼らに作ってもらえばいいだろう」
「ええ、確かにそれがよさそうですね。わかりました。ですが、残念ながら我が町の鍛冶場はここしかありません。ですので新たな場所をご用意しましょう」
「そうしてくれ、それじゃ、そろそろ行くか。ガルトー荷物をまとめておいてくれ」
「おう、いいのか?」
「ああ、これ以上ここに置いておくわけにもいかないみたいだしな。というか、すでに奴隷から解放したんだが、問題ないだろ」
「それもそうか、それじゃ道具を取ってくるか、ちょっと待っててくれ」
「あっ、兄さん私も手伝うわ」
「おう、頼むぜ」
そう言って、ガルトーとアリナ兄妹は店の奥へと入っていったのだった。余談だが、この間に店主が少々暴れていたのだが、これは伯爵の護衛をしている騎士がすぐさま取り押さえている。
それから少しして荷物を持った2人が出てきたところで、俺たちはなおも騒いでいる店主を残してその場を後にしたのだった。あとで聞いたが、あの店主はさすがに他国の王への無礼から10日間投獄されることとなった。どうしてこんな判決になったかというと、単純に俺がそれでいいと伯爵に伝えたからでしかない。というのも俺が王である事実を店主が知ったうえでの言動ならまだしも、彼は俺が王であるということは知らないし、何より俺はまだなったばかりの王でもあり、そこまでの力がない。というわけで、情状酌量の余地ありとしてここまでに軽いものと出来た。しかし、次はない。なにせ、彼はすでに俺が王であるという事実を理解したからだ。そんな奴に情状酌量などできるはずがないからな。
それはともかくとして、今は次へ行こう。
「それでは、工場建設予定地へご案内します」
というわけで次に連れられてやってきたのは、街の東側地区の端、防壁に隣接する場所である。
「ここは?」
「はい、お恥ずかしい話なのですが、ここはかつて私の曽祖父の弟が幽閉されていた屋敷跡地なのです」
「幽閉?」
「はい、申し訳ありません詳細は控えさせていただきたいのです」
まぁ他国の街の問題だし、俺としてはこれだけの土地があれば文句はないので、これ以上聞くのは辞めておこうか。
「そうか、そういう話ならいいが、妙な曰くはないんだよな」
仮にも伯爵家の人間が幽閉されていた場所、何か妙な曰くがあっても困る。正直言うと俺はそういった話が前世から大の苦手で、おっさんとなったころですら夜寝付けなくなるほどだった。
「それに関しては大丈夫です。確かに幽閉はされておりましたが、幸せな人生を送られ笑顔でこの世を去ったそうですから」
それなら安心だな。
「そんな場所ならなんでいまだに空き地なんだ?」
何か曰くが付いているのなら仕方ないが、特にないのならなぜ空き地なんだろうか。
「簡単に言いますと、タイミングを逃した結果です」
伯爵によると、手放そうとした際に別のことが発生したことでできず、そのまま所有する形となってしまったそうだ。そのおかげでこうして今回商人ギルドを通さずに工場建設地を手に入れることが出来たというわけだ。
「そうか、まそのおかげでこうして工場の建設が容易にできるのはありがたいところか、それで、ガリットどうだ。俺としては問題ないと思うが」
「ああ、俺もここでいいと思うぜ。ここなら人家も離れているし何かあっても大丈夫だろうしな」
ガリットいう何かというのは当然ながら火災などをはじめとした事故のことだ。フリーズドライ事態を作るのは魔法によるものなので事故の起こりようがないが、その前に調理をする必要がありその際に火災発生なども起こりえるし、それ以外にも工場ということでの不測の事態となる可能性も捨てきれない。その時人家などから離れた場所にあるここなら何かあっても問題ないだろう。
「んで、ガリット始めるのか?」
「もちろんだ兄貴、言っておくが俺の指示に従ってもらうぞ」
「おうドンと来やがれ」
ガリットとガルトーがそんな話をしたかと思ったら、さっそく2人は大きな槌を取り出したかと思ったら、まだ立っている屋敷に向かって振り下ろす。
「もう、始めるのですか?」
いきなり始めだしたガリットたちに伯爵が驚愕している。
「ドワーフっていうのはせっかちが多いからな。それに何より彼らはああやって仕事をしているのが好きなんだ。もちろんそれとともに酒も好きだからな。もし彼らに何か与えようと思ったら酒を渡せばいい」
「酒、ですか。それならこの街には上等なものがいくらでもあります。それらを提供しましょう」
「おっ、まじかっ!」
「おいおい、こいつは気合が入るぜ」
伯爵の言葉を聞いたドワーフたちが色めきだった。
「はぁ、申し訳ありません」
そんなドワーフたちを見たアリナがため息をついて伯爵に謝罪した。といってもアリナもまたドワーフのために酒好きで内心はきっと彼らと同じく大喜びであろう。
「いや、かまわない。では今夜にでも歓迎のしるしでいくつか持ってこさせよう」
「あ、ありがとうございます」
伯爵は手を振り気にするなとアリナへ向かいそういった。
「それじゃ、俺はそろそろ戻るが、アリナ連中を頼んだぞ」
「はい、お任せください」
「では、伯爵」
「はい、本来であればおもてなしをさせていただかなければならないのですが、魔王陛下もお忙しい御身。これ以上お引止めも失礼となりましょう。ですが、いずれ本日の分も含め盛大に歓待をさせて下さい」
「ああ、その時は頼む」
それから俺は、”転移”でテレスフィリアに戻ったのだった。
2週間余りが経過した。
「陛下、ガリットよりの知らせがあり、工場が出来上がったとのことです」
「はっ? できた! 速くない?」
「確かに私も驚きましたが、ガルトーが加わったとのことですからこの速さなのだろうとドライム殿からうかがっています」
そう言って俺に報告してきたのはエンリット侯爵だが、彼の種族である魔族は人族よりも多少長いというだけで、ガルトーが旅に出たた時はまだ生まれてすらいなかったので、当然ガルトーのことは知らない。しかし、ドライムはドワーフであることから当然ガルトーのことを知っており、そこからの情報により、ガルトーというのは鍛冶よりむしろ建築に特化したドワーフなんだそうだ。そもそもガルトーの旅の目的は世界の建築物や古い遺跡を見学するためだという。まぁ、その途中で人族見つかり奴隷にされてエイルードに流れ着いたということだ。そして、人族にとってドワーフといえば鍛冶なので、ガルトーも鍛冶をさせられたということらしい。ちなみにガルトーの鍛冶の腕だが、ドワーフというだけあって人族をはるかに超える技術を持っているから、これまでも問題なくできていたわけだ。ま、何はともあれ工場ができたというのならもう一度エイルードに赴き確認をする必要があるわけだ。
「なかなか帰ってこないと思ったら、ここにいたなんてね」
「捕まってたのか?」
「まぁな。それでお前らこそなんだってこんなところに来やがったんだ。それもぞろぞろとよぉ。というか、アリナも昔から変わった奴ではあったけど、まさかお前までここに来るなんてな」
「あっちはあっちでいろいろ変わっているから、私たちは仕事で来たのよ」
「仕事? 鍛冶なら俺で間に合ってるぜ」
「んなことぁ。みりゃぁ分かる。俺たちはここに建築をしに来たんだ」
「建築? 何をだ」
「工場だ。ここエイルードで作られた料理を保存食にするためのな」
アリナが一瞬俺を見て話していいのかと言外に尋ねてきたので、それならと俺が答える。
「工場? へぇ、何かわからねぇが面白そうだな」
「さすが兄貴だな」
まだ名前を聞いていないのでわからないが、アリナの兄は、なにかもよくわかっていないのに面白そうだと言い出した。こういうところはほんとドワーフだ。ドワーフというのは、とにかくものを作ることが好きで、それが何かわからなくても作りたい。もちろん馬鹿ではないので作る前にどんなものかはしっかりと理解してからだそうだが。その理解力の高さはかなり高いといっていいだろう。
「もしかして俺を誘いに来たのか?」
「いや、そうじゃねぇんだが、始める前にドワーフが1人奴隷になっているってんで会いに来ただけだ。尤もそれが兄貴だったのは驚いたけどな」
「ほんとよ」
そう言って笑いあうドワーフたちであった。
「店主、見ての通り彼はご家族のもとに返してあげて頂戴」
「ちょ、ちょっと待ってください領主様。それはあんまりってもんです。今ここでドワーフに出ていかれると商売が成り立ちません。まだまだ受けた依頼が残っているんですよ」
伯爵の言葉に店主が悲鳴を上げてそういった。そうなんだよな。ドワーフの解放と返還となると、こうして鍛冶屋が商売あがったりとなってしまう。これがエルフを使った娼館とかなら知るか! でことは済むんだがドワーフは武器や防具、包丁や鍬といったものまで一手に作っている。そのためドワーフがいなくなるだけでそれらの入手ができなくなるという問題が出てくる。
「それは大丈夫だ。ドワーフに関しては返還までは求めていない。奴隷から解放とその扱いの改善は求めるが、国へ戻るかどうかは個人の意思に任せている」
「そ、それは一体?」
店主は俺の存在にどう接していいのかわからず、戸惑いながらの質問だ。なにせ俺はまだ名乗っていないし、それでも領主が敬意をもって接しているから領主以上の存在であることまでは理解できているようではあるが。
「先ほど店主が言ったように、ドワーフはドワーフにしかできないことでこの場にいる。そして、それを俺が返還と称して奪ってしまっては立ち行かなくなる。そして、何よりドワーフが作るものは武器防具、気持ちよく返還に応じてくれている同盟国から軍事力を奪うことはできないからな。だからといって奴隷として扱われていることを良しとはしない。よって、これより先ドワーフをこれまでのように奴隷としてではなくともに働く仲間として、友として家族として接してもらいたい。それが最大の要求となる」
「えっ、ドワーフをですか?」
俺の言葉を受けて店主が戸惑っている。その様子から察するに、店主はアリナの兄をそのように扱ってこなかったということだろう。そういうところはカリブリンの武器屋と違うな。あそこは普通に家族として接していた。そのため、あそこのドワーフは解放されてもそのままあの武器屋で槌を振るっている。ちなみに、今まで解放されたドワーフたちのうちテレスフィリアに戻ってきたのは全体の2割ほどで、6割がそのまま放浪出て、2割はそのまま残ることにした。そして、その前半の8割の者たちは共通して店主からの扱いに不満があったということだ。
「当然だろう。ところでアリナ、兄の名はなんだ?」
いつまでもアリナの兄という表現も面倒なので、名を名乗れない彼に代わって妹に名を尋ねた。まぁ、解放すればいいって言えばいいんだけどな。
「あっ、はい兄の名はガルトーです」
「そうか、んで伯爵さっそくガルトーの解放をしようかと思うがいいか?」
「もちろんです」
「えっ、解放? いったい何を?」
店主だけが戸惑う中、俺はすぐさま”解呪”の魔法を発動した。その結果はいつものごとく首輪が外れたというわけだ。
「おっ、外れたぞ。すげぇな」
「兄さん、自分の名前を意識して名乗って」
「? よくわからんが、俺の名はガルトーだ。おっと、名乗れたな」
その瞬間ガルトーの体が光、その名前欄に名が刻まれた。
「なんだ。名づけか、あっ、名も戻ってるな」
「これで兄さんは自由よ」
「へぇ、そいつはいいや」
「さて、ガルトーこれからのことだが、どうする。このままここに残って鍛冶をやり続けるのも、テレスフィリア、ああっと、故郷に戻る。もしくは放浪の旅を続けるか、隙に選ぶと言い」
「ああ、そうだなぁ。まぁ、俺もそろそろ戻ろうと思ってたところだしな。一回戻るか、あっ、でもその前にガリット、お前らの仕事も楽しそうだし俺にもやらせろ」
「兄貴ならそういうと思ってたぜ。陛下それでいいか?」
「ああ、お前たちがいいのなら構わないぞ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、さっきから、何を勝手なことを。そのドワーフは俺の、うちの店の奴隷だぞ。それをいきなりやってきて、どういうことだ説明をしろ!」
ここにきて店主が怒鳴りだした。まぁ、気持ちもわからんでもないがあいにくと相手をする必要を感じないな。
「店主、このことは事前に連絡をしていたはずだ。それをまさか知らなかったというわけではないだろう」
怒鳴る店主に対して伯爵がそういってたしなめる。まぁ、普通に考えても事前連絡をしていたのは確かだろう。
「そ、そんなもの知りません」
店主も気が動転しているのか伯爵相手にも突っかかった。
「そんなはずはないだろう。書類と口頭により行っている」
「そんな馬鹿な!」
そう言って店主はカウンター内で何かを探って、あっ、という顔をした。どうやら、この店主領主からの書類に目を通していなかったようだ。
「そ、その、忙しくてその、確認をしていませんでした」
そしてようやく認める店主である。これはさすがにフォローできるものはいないな。
「し、しかし、領主様、そのドワーフを連れていかれては、包丁を作れません。そうなれば多くの料理人が困るのですよ。これはどうするのです?」
確かに店主の言う通りガルトーがここを離れれば、当然この店で作っていた包丁が作れなくなるのは必定。
「それに関しては問題ない。ガルトーは故郷に帰ることを選んだが、ドワーフ族はまだまだいる。今度は我が国からの派遣として誰かを送ることになるだろう。そうなれば今後はそのものがエイルードの料理人のための包丁作りをしていくことになる。まぁ、それがどこでというのは本人次第だが」
ガルトーから話聞きこの店で仕事をしたくないという者がいれば、仕方ない別の鍛冶場を用意するしかない。
「まぁ、さっきも言ったように、今後、彼らを仲間として友として扱えばいいだけのことだ。それができないというのならそれは仕方ない。俺も王として国民をそのような場所に派遣できないからな」
「ふ、ふざけるな。領主様の手前さっきから黙って聞いていれば、子供が偉そうに言いやがって、そいつはな。俺の親父が奴隷商から買ってきたものだ。俺のものをどう扱おうが勝手だろう。それをいきなり現れて連れていくだと、それじゃただの泥棒じゃねぇか!」
俺の言葉を聞いて店主は憤慨して、俺に対して言ってはならないことまで言い出した。まぁ、俺が魔王だといったところで、まず人族である時点で信じられないし、何よりこの世界にはネット環境なんてものがないから、そもそも知らないしな。この店主からしたらいきなり現れた子供でしかないのだろう。しかし、俺の立場的に考えてもこれはかなり悪手となる。
「そうか、そういうことならここに派遣はできなそうだ。伯爵、ほかに鍛冶場はあるか? なければちょうどガリットたちもいるし彼らに作ってもらえばいいだろう」
「ええ、確かにそれがよさそうですね。わかりました。ですが、残念ながら我が町の鍛冶場はここしかありません。ですので新たな場所をご用意しましょう」
「そうしてくれ、それじゃ、そろそろ行くか。ガルトー荷物をまとめておいてくれ」
「おう、いいのか?」
「ああ、これ以上ここに置いておくわけにもいかないみたいだしな。というか、すでに奴隷から解放したんだが、問題ないだろ」
「それもそうか、それじゃ道具を取ってくるか、ちょっと待っててくれ」
「あっ、兄さん私も手伝うわ」
「おう、頼むぜ」
そう言って、ガルトーとアリナ兄妹は店の奥へと入っていったのだった。余談だが、この間に店主が少々暴れていたのだが、これは伯爵の護衛をしている騎士がすぐさま取り押さえている。
それから少しして荷物を持った2人が出てきたところで、俺たちはなおも騒いでいる店主を残してその場を後にしたのだった。あとで聞いたが、あの店主はさすがに他国の王への無礼から10日間投獄されることとなった。どうしてこんな判決になったかというと、単純に俺がそれでいいと伯爵に伝えたからでしかない。というのも俺が王である事実を店主が知ったうえでの言動ならまだしも、彼は俺が王であるということは知らないし、何より俺はまだなったばかりの王でもあり、そこまでの力がない。というわけで、情状酌量の余地ありとしてここまでに軽いものと出来た。しかし、次はない。なにせ、彼はすでに俺が王であるという事実を理解したからだ。そんな奴に情状酌量などできるはずがないからな。
それはともかくとして、今は次へ行こう。
「それでは、工場建設予定地へご案内します」
というわけで次に連れられてやってきたのは、街の東側地区の端、防壁に隣接する場所である。
「ここは?」
「はい、お恥ずかしい話なのですが、ここはかつて私の曽祖父の弟が幽閉されていた屋敷跡地なのです」
「幽閉?」
「はい、申し訳ありません詳細は控えさせていただきたいのです」
まぁ他国の街の問題だし、俺としてはこれだけの土地があれば文句はないので、これ以上聞くのは辞めておこうか。
「そうか、そういう話ならいいが、妙な曰くはないんだよな」
仮にも伯爵家の人間が幽閉されていた場所、何か妙な曰くがあっても困る。正直言うと俺はそういった話が前世から大の苦手で、おっさんとなったころですら夜寝付けなくなるほどだった。
「それに関しては大丈夫です。確かに幽閉はされておりましたが、幸せな人生を送られ笑顔でこの世を去ったそうですから」
それなら安心だな。
「そんな場所ならなんでいまだに空き地なんだ?」
何か曰くが付いているのなら仕方ないが、特にないのならなぜ空き地なんだろうか。
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伯爵によると、手放そうとした際に別のことが発生したことでできず、そのまま所有する形となってしまったそうだ。そのおかげでこうして今回商人ギルドを通さずに工場建設地を手に入れることが出来たというわけだ。
「そうか、まそのおかげでこうして工場の建設が容易にできるのはありがたいところか、それで、ガリットどうだ。俺としては問題ないと思うが」
「ああ、俺もここでいいと思うぜ。ここなら人家も離れているし何かあっても大丈夫だろうしな」
ガリットいう何かというのは当然ながら火災などをはじめとした事故のことだ。フリーズドライ事態を作るのは魔法によるものなので事故の起こりようがないが、その前に調理をする必要がありその際に火災発生なども起こりえるし、それ以外にも工場ということでの不測の事態となる可能性も捨てきれない。その時人家などから離れた場所にあるここなら何かあっても問題ないだろう。
「んで、ガリット始めるのか?」
「もちろんだ兄貴、言っておくが俺の指示に従ってもらうぞ」
「おうドンと来やがれ」
ガリットとガルトーがそんな話をしたかと思ったら、さっそく2人は大きな槌を取り出したかと思ったら、まだ立っている屋敷に向かって振り下ろす。
「もう、始めるのですか?」
いきなり始めだしたガリットたちに伯爵が驚愕している。
「ドワーフっていうのはせっかちが多いからな。それに何より彼らはああやって仕事をしているのが好きなんだ。もちろんそれとともに酒も好きだからな。もし彼らに何か与えようと思ったら酒を渡せばいい」
「酒、ですか。それならこの街には上等なものがいくらでもあります。それらを提供しましょう」
「おっ、まじかっ!」
「おいおい、こいつは気合が入るぜ」
伯爵の言葉を聞いたドワーフたちが色めきだった。
「はぁ、申し訳ありません」
そんなドワーフたちを見たアリナがため息をついて伯爵に謝罪した。といってもアリナもまたドワーフのために酒好きで内心はきっと彼らと同じく大喜びであろう。
「いや、かまわない。では今夜にでも歓迎のしるしでいくつか持ってこさせよう」
「あ、ありがとうございます」
伯爵は手を振り気にするなとアリナへ向かいそういった。
「それじゃ、俺はそろそろ戻るが、アリナ連中を頼んだぞ」
「はい、お任せください」
「では、伯爵」
「はい、本来であればおもてなしをさせていただかなければならないのですが、魔王陛下もお忙しい御身。これ以上お引止めも失礼となりましょう。ですが、いずれ本日の分も含め盛大に歓待をさせて下さい」
「ああ、その時は頼む」
それから俺は、”転移”でテレスフィリアに戻ったのだった。
2週間余りが経過した。
「陛下、ガリットよりの知らせがあり、工場が出来上がったとのことです」
「はっ? できた! 速くない?」
「確かに私も驚きましたが、ガルトーが加わったとのことですからこの速さなのだろうとドライム殿からうかがっています」
そう言って俺に報告してきたのはエンリット侯爵だが、彼の種族である魔族は人族よりも多少長いというだけで、ガルトーが旅に出たた時はまだ生まれてすらいなかったので、当然ガルトーのことは知らない。しかし、ドライムはドワーフであることから当然ガルトーのことを知っており、そこからの情報により、ガルトーというのは鍛冶よりむしろ建築に特化したドワーフなんだそうだ。そもそもガルトーの旅の目的は世界の建築物や古い遺跡を見学するためだという。まぁ、その途中で人族見つかり奴隷にされてエイルードに流れ着いたということだ。そして、人族にとってドワーフといえば鍛冶なので、ガルトーも鍛冶をさせられたということらしい。ちなみにガルトーの鍛冶の腕だが、ドワーフというだけあって人族をはるかに超える技術を持っているから、これまでも問題なくできていたわけだ。ま、何はともあれ工場ができたというのならもう一度エイルードに赴き確認をする必要があるわけだ。
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主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
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