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第11章 戦争
07 緊急事態
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エイルードでのフリーズドライ工場稼働から1週間が経過、最初こそレイグラット亭をはじめとした数件程度しかレシピの登録が行われていなかったが、その完成度や売り上げにより多くの料理店が興味を示してくれた。尤も、彼らが一番心配していたレシピの秘匿性、これについては実際に料理人ギルドが説明したことや、すでに登録しているもの達からの聞き取りなどから、信用を勝ち取った結果として徐々に登録者が増えてきているという。
これを受けたウルベキナ王は大いに喜び、さらに別の地域でも工場建設できないかと打診があったほどだ。まぁ、これについては俺も特に否もなく検討している最中だ。
さて、ここである疑問、ウルベキナの工場の話は出たがなぜ先に話の上がっていたブリザリアやコルマベイントの話が出ないのか。その理由は単に両国ともにいまだ工場建設に至っていないだけだったりする。そもそもウルベキナが異常に早いだけだ。それはそうだろう他国の肝いり工場となるものをおいそれと受け入れるものがいる方がおかしい。
コルマベイントは、すでに俺がカリブリンに工場を設置しているわけだが、これはあくまで俺が個人で作ったもので正式なものというわけではない。そのため、カリブリンの領主からはこの工場の経営をよこせと言ってきている。もちろんあれはワイエノおじさんものであり、孤児院を救うためのもので、これを領主に渡すわけにはいかないということでちょっとしたもめごととなっている。といっても俺がかかわっているのではなくワイエノおじさんを通して執事に頑張ってもらっている最中だ。また、カリブリンは南部に位置しており北部などと料理が違う、そこでコルマベイントとしてはその北部にも工場を設置したいという打診をしてきている。こちらはもちろんエイルードと同じ領主が経営する正式な工場とする予定となる。しかし、問題としてどこで工場を設置するかということでみんながみんな自分の領地に建設してほしいと言い合いになりかなりもめていると聞いている。もしエイルードのように特徴的な街があるならまだしもコルマベイントにはそういった街がなく難航しそうだという。
次にブリザリアについてだが、一応どの街に建設するかということは決まっているそうだ。それというのも、ウルベキナやコルマベイントと違いブリザリアにある海、当然この海産物を使ったものをと考えてその中でも最も美味しい料理がある街を選んだという。しかし、その地はテレスフィリアにほど近い場所にあり、実はその領主家に生まれた子供はみな一度ハンターとなる伝統があるという。そう、つまり現領主もその親兄妹子供たちもハンターだった。そして、その中には当然命を落とすものもいる。というか、聞いた話によると現領主の娘の1人が獣人族の戦士との戦いで命を落とし、息子のうち長男が俺が川に設置した結界と船に挟まれて命を落とし、三男が持ち込んだ奴隷の首輪が改造後のものでハマらずに返り討ち、七男は獣人族の大男に倒され重傷を負っているそうだ。ちなみにその大男はおそらくダンクスと思われる。そうした理由もあり現領主にとって俺たちテレスフィリアは敵以外の何物でもないという。こちらから言わせてもらえばただの自業自得なんだけどね。というか、その話を聞いてしまってはこちらとしてもその街に設置は正直したくない。そうした理由もありブリザリア首脳陣もさすがにこの街の設置は難しいと考え、別の街の検討をしたが、やはり美味い料理を売りとするウルベキナ、元祖となるコルマベイント、開発者であるテレスフィリアなどといった特色がブリザリアにはない。その特色を出すためにはやはり国一番の美味を誇るその街の料理をぜひともフリーズドライとしたい。また、その問題の領主自身もフリーズドライから得られる莫大な利益から、ほかに渡したくないと訴えた。その時の領主の言葉としてフリーズドライの製法をよこせと言ってきた。しかもまるで俺たちテレスフィリアを下に見たような言い方だった。これには派遣していたうちの者も憤慨したそうだ。まぁ、それはそうだろう、いくら何でも同盟国を下に見るのはまずいからな。どうやら、その領主にとって俺たちテレスフィリアは奴隷の国という認識みたいだ。そうしたこともあり、ブリザリアの首脳陣は件の街があればいいということから、領地替えを提案。しかし、もちろんこれに猛反発したのがその領主。とまぁ、そんな風にかなりもめた状態となってしまっている。これは、だいぶ時間がかかりそうだ。
そんなことを思いながら俺は今、執務室で軽い溜息をついていた。
「コルマベイントはともかく、ブリザリアはいつのなることやら、といってもウルベキナも別の場所が決まってないしなぁ。まぁ、ゆっくりとするさ」
フリーズドライ工場建設の目的は経済を回すことで、シムサイトに対する経済的な戦争を仕掛けること。これについてはエイルードの工場で何とか足がかりはできているので問題はないだろう。ここから先は俺の領域ではないので、専門知識のあるやつに任せていこうと思う。もちろん俺も投げっぱなしとはせずに必要なことはしようとは思っている。
コンコンコンコンッ
ふいに扉がノックされた。
「ん、入れ」
「失礼いたします。陛下ウエルトの塔より急報にございます」
「急報?何かあったか?」
ウエルトの塔というのは、テレスフィリア西部端に対岸の監視するために設置したもので、同じものが北側、東側にある。ちなみにウエルトというのは魔族の言葉で『西』を表すものだ。
「対岸、人族の地に軍が集結しているとの知らせです」
「軍? いつものじゃなくてか?」
西側の対岸に人族の軍が集まるというのはこれまでも何度かあった。もちろんその場所は明らかにテレスフィリアとの国境付近であり、同盟国でもない他国の国境で軍を展開させるなんてことは挑発行為以外の何物でもないわけだが、これまでは規模も小さく数時間の演習程度で済んでいたので警戒するだけにとどめていた。
「いえ、知らせによりますと規模が違うようです」
「へぇ、どのくらいだ」
「はい、その数およそ20万とのことです」
「2っ! ……」
あまりの数に驚き言葉が出ない。というか20万ってどんだけ集まってんだよ。それ、間違いなく戦争する気満々じゃねぇか。いや、それよりもいくら何でも多すぎだろ、ウルベキナに侵略を仕掛けたバラキア王国ですら1万2千だったことからもその数が異様であることが分かる。いやま俺も前世で戦記ものとか読んだことがあり、そこには普通に国軍として10万単位の軍が動いていた。でもだからといってそれがまさか自分に向けられるとは夢にも思わなかったよ。
「そ、それで、そいつらは間違いなく俺たちへ、か?」
「間違いないとのことです。いかがいたしましょう?」
そう問いかける執事、どうすると聞かれても、むしろ俺が聞きたい。
「とりあえず、結界もあるしすぐにやってくるってことはないだろうから、監視を続けさせろ」
「かしこまりました」
魔王国として名乗っている以上、こうして状況は予想できていた。そのためまずは東側を固めるべく外交を進めていた。また、キリエルタ教の教会に赴き、俺が安全安心な魔王であるというアピールをして、教皇にそれを認めさせている。それでもなお、こうしてやってきたということは、よほど俺を消したいらしい。というかそのための兵を20万はどう考えても多い、これは俺を消すというより、テレスフィリアすべてを消す勢いといっていいだろう。いったい何がどうしたらそうなったのだろう疑問が尽きないが、集まってしまっていることは仕方ない、あとは様子を見ていくしかないだろう。
「それと、シュンナとダンクスにも知らせてくれ」
「シュンナ様でしたらすでに報告しておりますが、ダンクス様は遠方に居られるためまだ届けてはおりません」
「ああ、そうだったな」
ダンクスは現在ウルベキナで援軍として働いている最中だった。確かあれから砦を1つと街を1つ取り戻したと聞いてる。あとは最後の砦を取り戻して戦争はいったん終結するということで、ダンクスも戻ってくるだろう。それまでは何とか持ちこたえてくれることを願うしかない。
「スニルいる?」
タイミングよくシュンナがやってきた。
「ああ、いるぞ」
「聞いた?」
いきなりの質問だが、このタイミングだと先ほどの西側についてだろう。
「ああ、今しがたな」
「どうするの? さすがに今すぐどうこうってことはなさそうだけど」
「同感だな。でも数が数だからな」
「こっちも派遣しておく?」
シュンナの言う派遣は当然軍のことだ。
「変に刺激してもなぁ。それに、下手したらこっちが軍を置いたから防衛のために攻めたとか言われる可能性もある」
どう考えても言いがかりに過ぎないが、そう言ってくる可能性が高いし、何よりこちらが魔王国である以上それを信じる者も多いのが現実だ。
「そうなのよねぇ。人族にとって魔族が中心の魔王国はやっぱり怖いのよね」
「魔王は人族だけどな」
「そんなことたいていの人はわからないわよ」
「それもそっか」
今の魔王が人族であるという事実は俺たちにとっては当たり前のことだが、俺をよく知らない人物からしたらそんなものはわからない。そもそも俺が人族であるという情報を知らないもののほうが国の上層下層関係なく多いと思う。今現在の段階で言えばもしかしたら、現在同盟を結んでいるコルマベイント、ブリザリア、ウルベキナですら知らないものがいてもおかしくない。まぁ、さすがに大貴族などのトップ層は知っているかもしれないが、下級貴族やその下の民となるとあり得る。
「俺の知名度はそこまで高くないからな。まぁ、正直あまりあげたくはないんだが」
「そうも言ってられないでしょ」
俺としては目立つことが嫌いなため、出来ることなら名を売りたくはない、しかし、魔王という立場になった以上そうもいっていられないのも事実だ。
「それより、本当にどうする? 一応ダンクスにも伝えておいた方がいいよね」
「だな。一応とはいえ、ダンクスが軍のトップだからな。それに、今頃軍の運用の仕方あたりをしっかりと学んできていることだろうしな」
「そうしてもらわないと困るわ。あたしにはわからないし」
ダンクスはもともと騎士のため多少は運用経験はなくとも知識はある。そこに今ウルベキナで歴々の猛者たちからさらなる知識と経験を教えてもらっていることだろう。一方でシュンナは元冒険者であり、経験も少人数のパーティーによるものだけで、軍の運用とは全くの別のもだ。そして、俺は当然そんなもの一切知識も経験もないからさっぱりだ。
「とりあえずハヤテに行ってもらうか」
「そうね。あっ、今書くね」
「おう」
何はともあれダンクスにも西側の現状を知らせるために、俺の従魔であるハヤテを召喚して、手紙を届けてもらうことにした。
翌々日、ハヤテがダンクスからの手紙をもって戻ってきた。
「キュイー」
「おおう、戻ったか。お疲れ、ほれこいつを食って休みな」
「キュイキュイー」
餌を渡して撫でてやると甘えてくるハヤテ、最近はあまり呼び出していなかったからその分甘えてくるのだろう。それならたっぷりとかわいがってやる必要があるな。
というわけで、それから少しの間ハヤテをたっぷりと甘やかしたのだった。
「スニル、って何してるの?」
「お、おう、シュンナか、ちょうどよかった」
ハヤテを甘やかしているとシュンナが執務室にやってきて、俺の様子を見てあきれているが、俺はそれをなかったこととしては無進める。
「今、ダンクスからの手紙が来た」
「みたいね。それでなんて書いてあったの」
「ああ、まだ読んでない」
「なにそれ、まぁいいわ貸して」
「おう」
俺から手紙を受け取ったシュンナはすぐさまそれを確認していく。
「なんだって?」
「うん、どうやら手紙を受け取ったところに将軍たちが居たみたい……」
ダンクスの手紙によると、ハヤテがダンクスのもとに届いたときちょうど将軍たちとともにいて、いろいろと学んでいる最中だったという。そして、手紙を受け取ったダンクスは思わず叫んでしまったわけだ。まぁ、いきなり国境に20万の兵が集まっていると聞けば驚いて叫びたくもなる。その結果将軍たちに事情を説明することになり、様々聞いたという。
「一応相手の様子は聞いた通りに詳細に書いたけど、将軍たちによるとやっぱりまだ攻めてはこないみたい。でも、もしかしたらまだ増えるかもしれないらしいわ」
「はぁ、増える! まじかっ」
すでに20万という途方もない数字でだというのにまだ増えるって、勘弁してほしいんだけど。
「うちはまだ1万にも満たないってのにね」
「今でも普通に20倍、どうしろと」
シュンナが言うように今現在我が国の軍は全部で8526人と1万にもならない。確かにシュンナとダンクスは文字通りの意味で一騎当千の戦力だし、隊長クラスであれば、一般的な兵なら1人で100人ぐらい、一般兵でも10人程度の戦力を持っていると自負している。というのもやはり人族と比べると圧倒的に強い身体能力と魔力を持つ獣人族と魔族、エルフも精霊魔法を使えば相当強い。そのうえで俺の提案でドワーフが作った武器防具を身に着けているわけだから、当たり前といえば当たり前なんだが、あれ、今思ったけど、今の20万なら何とかなるんじゃね。
先ほど隊長としたがほかに小隊長、大隊長といるが、小隊長はほとんど一般兵と同じなのでここにカウントしないで計算すると、隊長クラスが84人で約8400人分、一般兵が8442人で約84420人分、そこにシュンナとダンクスの2000人を足すと94820人の兵力ということにある。もちろんこれでも倍近く違うんだが、そこは戦場何が起きるかわからないし、何より俺がいる。俺なら大魔法一発ぶち込めばどんだけいても問題ないだろう。まぁ、だからといって俺一人で敵を全滅させるつもりはさらさらない。というかできるからといってそんなことをしてしまえば、名実ともに魔王となる。さすがにそれはまずいので適度なところで止めたいところだ。そのためダンクスとシュンナに頑張ってもらったり、せっかく同盟を結んだわけだから、同盟国の兵たちにもテレスフィリア性の武器防具を課すなどして戦力を上げて対抗するのがいいだろう。ま、そこらへんは後々決めていくことになるか。
「最悪は俺がぶっ放すしかないんだろうが、出来ればしたくない」
「そうね。さすがにそれはまずそうね。まぁ、あたしたちで何とかしてみるわよ。というかスニルは王様なんだから一番後ろか、離れたここでどんと構えてなさい」
「そうなんだろうけど、それはそれで落ち着かない気がするが」
「まぁそうよね」
王が戦場にのこのこ出ていき、何かあっても最悪だから本来なら遠く離れた城で構ええているものだとは俺も思う。実際戦争をしているウルベキナ王やコルマベイント王は城で普通に執務をしているからな。でも、元々小市民である俺としては、兵たちに命がけで働かせておいて俺だけ安全な場所でのうのうとはしていられない。これが俺と関係ないところならそれでもいいんだけど、俺の国となるとそうもいっていられないんだ。
「まっ、なんにせよ。ダンクスが戻ってくるまで大丈夫そうだし、こっちはこっちでできることをするしかないでしょ」
「だな」
これを受けたウルベキナ王は大いに喜び、さらに別の地域でも工場建設できないかと打診があったほどだ。まぁ、これについては俺も特に否もなく検討している最中だ。
さて、ここである疑問、ウルベキナの工場の話は出たがなぜ先に話の上がっていたブリザリアやコルマベイントの話が出ないのか。その理由は単に両国ともにいまだ工場建設に至っていないだけだったりする。そもそもウルベキナが異常に早いだけだ。それはそうだろう他国の肝いり工場となるものをおいそれと受け入れるものがいる方がおかしい。
コルマベイントは、すでに俺がカリブリンに工場を設置しているわけだが、これはあくまで俺が個人で作ったもので正式なものというわけではない。そのため、カリブリンの領主からはこの工場の経営をよこせと言ってきている。もちろんあれはワイエノおじさんものであり、孤児院を救うためのもので、これを領主に渡すわけにはいかないということでちょっとしたもめごととなっている。といっても俺がかかわっているのではなくワイエノおじさんを通して執事に頑張ってもらっている最中だ。また、カリブリンは南部に位置しており北部などと料理が違う、そこでコルマベイントとしてはその北部にも工場を設置したいという打診をしてきている。こちらはもちろんエイルードと同じ領主が経営する正式な工場とする予定となる。しかし、問題としてどこで工場を設置するかということでみんながみんな自分の領地に建設してほしいと言い合いになりかなりもめていると聞いている。もしエイルードのように特徴的な街があるならまだしもコルマベイントにはそういった街がなく難航しそうだという。
次にブリザリアについてだが、一応どの街に建設するかということは決まっているそうだ。それというのも、ウルベキナやコルマベイントと違いブリザリアにある海、当然この海産物を使ったものをと考えてその中でも最も美味しい料理がある街を選んだという。しかし、その地はテレスフィリアにほど近い場所にあり、実はその領主家に生まれた子供はみな一度ハンターとなる伝統があるという。そう、つまり現領主もその親兄妹子供たちもハンターだった。そして、その中には当然命を落とすものもいる。というか、聞いた話によると現領主の娘の1人が獣人族の戦士との戦いで命を落とし、息子のうち長男が俺が川に設置した結界と船に挟まれて命を落とし、三男が持ち込んだ奴隷の首輪が改造後のものでハマらずに返り討ち、七男は獣人族の大男に倒され重傷を負っているそうだ。ちなみにその大男はおそらくダンクスと思われる。そうした理由もあり現領主にとって俺たちテレスフィリアは敵以外の何物でもないという。こちらから言わせてもらえばただの自業自得なんだけどね。というか、その話を聞いてしまってはこちらとしてもその街に設置は正直したくない。そうした理由もありブリザリア首脳陣もさすがにこの街の設置は難しいと考え、別の街の検討をしたが、やはり美味い料理を売りとするウルベキナ、元祖となるコルマベイント、開発者であるテレスフィリアなどといった特色がブリザリアにはない。その特色を出すためにはやはり国一番の美味を誇るその街の料理をぜひともフリーズドライとしたい。また、その問題の領主自身もフリーズドライから得られる莫大な利益から、ほかに渡したくないと訴えた。その時の領主の言葉としてフリーズドライの製法をよこせと言ってきた。しかもまるで俺たちテレスフィリアを下に見たような言い方だった。これには派遣していたうちの者も憤慨したそうだ。まぁ、それはそうだろう、いくら何でも同盟国を下に見るのはまずいからな。どうやら、その領主にとって俺たちテレスフィリアは奴隷の国という認識みたいだ。そうしたこともあり、ブリザリアの首脳陣は件の街があればいいということから、領地替えを提案。しかし、もちろんこれに猛反発したのがその領主。とまぁ、そんな風にかなりもめた状態となってしまっている。これは、だいぶ時間がかかりそうだ。
そんなことを思いながら俺は今、執務室で軽い溜息をついていた。
「コルマベイントはともかく、ブリザリアはいつのなることやら、といってもウルベキナも別の場所が決まってないしなぁ。まぁ、ゆっくりとするさ」
フリーズドライ工場建設の目的は経済を回すことで、シムサイトに対する経済的な戦争を仕掛けること。これについてはエイルードの工場で何とか足がかりはできているので問題はないだろう。ここから先は俺の領域ではないので、専門知識のあるやつに任せていこうと思う。もちろん俺も投げっぱなしとはせずに必要なことはしようとは思っている。
コンコンコンコンッ
ふいに扉がノックされた。
「ん、入れ」
「失礼いたします。陛下ウエルトの塔より急報にございます」
「急報?何かあったか?」
ウエルトの塔というのは、テレスフィリア西部端に対岸の監視するために設置したもので、同じものが北側、東側にある。ちなみにウエルトというのは魔族の言葉で『西』を表すものだ。
「対岸、人族の地に軍が集結しているとの知らせです」
「軍? いつものじゃなくてか?」
西側の対岸に人族の軍が集まるというのはこれまでも何度かあった。もちろんその場所は明らかにテレスフィリアとの国境付近であり、同盟国でもない他国の国境で軍を展開させるなんてことは挑発行為以外の何物でもないわけだが、これまでは規模も小さく数時間の演習程度で済んでいたので警戒するだけにとどめていた。
「いえ、知らせによりますと規模が違うようです」
「へぇ、どのくらいだ」
「はい、その数およそ20万とのことです」
「2っ! ……」
あまりの数に驚き言葉が出ない。というか20万ってどんだけ集まってんだよ。それ、間違いなく戦争する気満々じゃねぇか。いや、それよりもいくら何でも多すぎだろ、ウルベキナに侵略を仕掛けたバラキア王国ですら1万2千だったことからもその数が異様であることが分かる。いやま俺も前世で戦記ものとか読んだことがあり、そこには普通に国軍として10万単位の軍が動いていた。でもだからといってそれがまさか自分に向けられるとは夢にも思わなかったよ。
「そ、それで、そいつらは間違いなく俺たちへ、か?」
「間違いないとのことです。いかがいたしましょう?」
そう問いかける執事、どうすると聞かれても、むしろ俺が聞きたい。
「とりあえず、結界もあるしすぐにやってくるってことはないだろうから、監視を続けさせろ」
「かしこまりました」
魔王国として名乗っている以上、こうして状況は予想できていた。そのためまずは東側を固めるべく外交を進めていた。また、キリエルタ教の教会に赴き、俺が安全安心な魔王であるというアピールをして、教皇にそれを認めさせている。それでもなお、こうしてやってきたということは、よほど俺を消したいらしい。というかそのための兵を20万はどう考えても多い、これは俺を消すというより、テレスフィリアすべてを消す勢いといっていいだろう。いったい何がどうしたらそうなったのだろう疑問が尽きないが、集まってしまっていることは仕方ない、あとは様子を見ていくしかないだろう。
「それと、シュンナとダンクスにも知らせてくれ」
「シュンナ様でしたらすでに報告しておりますが、ダンクス様は遠方に居られるためまだ届けてはおりません」
「ああ、そうだったな」
ダンクスは現在ウルベキナで援軍として働いている最中だった。確かあれから砦を1つと街を1つ取り戻したと聞いてる。あとは最後の砦を取り戻して戦争はいったん終結するということで、ダンクスも戻ってくるだろう。それまでは何とか持ちこたえてくれることを願うしかない。
「スニルいる?」
タイミングよくシュンナがやってきた。
「ああ、いるぞ」
「聞いた?」
いきなりの質問だが、このタイミングだと先ほどの西側についてだろう。
「ああ、今しがたな」
「どうするの? さすがに今すぐどうこうってことはなさそうだけど」
「同感だな。でも数が数だからな」
「こっちも派遣しておく?」
シュンナの言う派遣は当然軍のことだ。
「変に刺激してもなぁ。それに、下手したらこっちが軍を置いたから防衛のために攻めたとか言われる可能性もある」
どう考えても言いがかりに過ぎないが、そう言ってくる可能性が高いし、何よりこちらが魔王国である以上それを信じる者も多いのが現実だ。
「そうなのよねぇ。人族にとって魔族が中心の魔王国はやっぱり怖いのよね」
「魔王は人族だけどな」
「そんなことたいていの人はわからないわよ」
「それもそっか」
今の魔王が人族であるという事実は俺たちにとっては当たり前のことだが、俺をよく知らない人物からしたらそんなものはわからない。そもそも俺が人族であるという情報を知らないもののほうが国の上層下層関係なく多いと思う。今現在の段階で言えばもしかしたら、現在同盟を結んでいるコルマベイント、ブリザリア、ウルベキナですら知らないものがいてもおかしくない。まぁ、さすがに大貴族などのトップ層は知っているかもしれないが、下級貴族やその下の民となるとあり得る。
「俺の知名度はそこまで高くないからな。まぁ、正直あまりあげたくはないんだが」
「そうも言ってられないでしょ」
俺としては目立つことが嫌いなため、出来ることなら名を売りたくはない、しかし、魔王という立場になった以上そうもいっていられないのも事実だ。
「それより、本当にどうする? 一応ダンクスにも伝えておいた方がいいよね」
「だな。一応とはいえ、ダンクスが軍のトップだからな。それに、今頃軍の運用の仕方あたりをしっかりと学んできていることだろうしな」
「そうしてもらわないと困るわ。あたしにはわからないし」
ダンクスはもともと騎士のため多少は運用経験はなくとも知識はある。そこに今ウルベキナで歴々の猛者たちからさらなる知識と経験を教えてもらっていることだろう。一方でシュンナは元冒険者であり、経験も少人数のパーティーによるものだけで、軍の運用とは全くの別のもだ。そして、俺は当然そんなもの一切知識も経験もないからさっぱりだ。
「とりあえずハヤテに行ってもらうか」
「そうね。あっ、今書くね」
「おう」
何はともあれダンクスにも西側の現状を知らせるために、俺の従魔であるハヤテを召喚して、手紙を届けてもらうことにした。
翌々日、ハヤテがダンクスからの手紙をもって戻ってきた。
「キュイー」
「おおう、戻ったか。お疲れ、ほれこいつを食って休みな」
「キュイキュイー」
餌を渡して撫でてやると甘えてくるハヤテ、最近はあまり呼び出していなかったからその分甘えてくるのだろう。それならたっぷりとかわいがってやる必要があるな。
というわけで、それから少しの間ハヤテをたっぷりと甘やかしたのだった。
「スニル、って何してるの?」
「お、おう、シュンナか、ちょうどよかった」
ハヤテを甘やかしているとシュンナが執務室にやってきて、俺の様子を見てあきれているが、俺はそれをなかったこととしては無進める。
「今、ダンクスからの手紙が来た」
「みたいね。それでなんて書いてあったの」
「ああ、まだ読んでない」
「なにそれ、まぁいいわ貸して」
「おう」
俺から手紙を受け取ったシュンナはすぐさまそれを確認していく。
「なんだって?」
「うん、どうやら手紙を受け取ったところに将軍たちが居たみたい……」
ダンクスの手紙によると、ハヤテがダンクスのもとに届いたときちょうど将軍たちとともにいて、いろいろと学んでいる最中だったという。そして、手紙を受け取ったダンクスは思わず叫んでしまったわけだ。まぁ、いきなり国境に20万の兵が集まっていると聞けば驚いて叫びたくもなる。その結果将軍たちに事情を説明することになり、様々聞いたという。
「一応相手の様子は聞いた通りに詳細に書いたけど、将軍たちによるとやっぱりまだ攻めてはこないみたい。でも、もしかしたらまだ増えるかもしれないらしいわ」
「はぁ、増える! まじかっ」
すでに20万という途方もない数字でだというのにまだ増えるって、勘弁してほしいんだけど。
「うちはまだ1万にも満たないってのにね」
「今でも普通に20倍、どうしろと」
シュンナが言うように今現在我が国の軍は全部で8526人と1万にもならない。確かにシュンナとダンクスは文字通りの意味で一騎当千の戦力だし、隊長クラスであれば、一般的な兵なら1人で100人ぐらい、一般兵でも10人程度の戦力を持っていると自負している。というのもやはり人族と比べると圧倒的に強い身体能力と魔力を持つ獣人族と魔族、エルフも精霊魔法を使えば相当強い。そのうえで俺の提案でドワーフが作った武器防具を身に着けているわけだから、当たり前といえば当たり前なんだが、あれ、今思ったけど、今の20万なら何とかなるんじゃね。
先ほど隊長としたがほかに小隊長、大隊長といるが、小隊長はほとんど一般兵と同じなのでここにカウントしないで計算すると、隊長クラスが84人で約8400人分、一般兵が8442人で約84420人分、そこにシュンナとダンクスの2000人を足すと94820人の兵力ということにある。もちろんこれでも倍近く違うんだが、そこは戦場何が起きるかわからないし、何より俺がいる。俺なら大魔法一発ぶち込めばどんだけいても問題ないだろう。まぁ、だからといって俺一人で敵を全滅させるつもりはさらさらない。というかできるからといってそんなことをしてしまえば、名実ともに魔王となる。さすがにそれはまずいので適度なところで止めたいところだ。そのためダンクスとシュンナに頑張ってもらったり、せっかく同盟を結んだわけだから、同盟国の兵たちにもテレスフィリア性の武器防具を課すなどして戦力を上げて対抗するのがいいだろう。ま、そこらへんは後々決めていくことになるか。
「最悪は俺がぶっ放すしかないんだろうが、出来ればしたくない」
「そうね。さすがにそれはまずそうね。まぁ、あたしたちで何とかしてみるわよ。というかスニルは王様なんだから一番後ろか、離れたここでどんと構えてなさい」
「そうなんだろうけど、それはそれで落ち着かない気がするが」
「まぁそうよね」
王が戦場にのこのこ出ていき、何かあっても最悪だから本来なら遠く離れた城で構ええているものだとは俺も思う。実際戦争をしているウルベキナ王やコルマベイント王は城で普通に執務をしているからな。でも、元々小市民である俺としては、兵たちに命がけで働かせておいて俺だけ安全な場所でのうのうとはしていられない。これが俺と関係ないところならそれでもいいんだけど、俺の国となるとそうもいっていられないんだ。
「まっ、なんにせよ。ダンクスが戻ってくるまで大丈夫そうだし、こっちはこっちでできることをするしかないでしょ」
「だな」
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主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
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