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第12章 経済戦争の果て
02 工場完成と潤い始める経済圏
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コルマベイントに2軒、ブリザリアに1軒、ウルベキナに2軒と続々にフリーズドライ工場が出来上がった。かといって、いきなりそれぞれの製品が世界中に出回るというわけでもない。ここが地球ならネット通販でいつでもどこでも買えるのだが、ここにネットはないので1つ1つ店に出すしかない。だから、これがあちこちに出回り、その影響が出るのはもうしばらく経ってからだろう。まぁ、それでも俺たちは冒険者ギルドや国を通しての販売となるので、通常よりも早く影響が出るだろうが。
さて、そんなわけで、工場が稼働してしばらく経ったところでちょっとした影響が出てきた。それは、カリブリンのワイエノ小父さんの店での販売数が減少を始めたのだ。普通なら問題あることだが、これまであまりの販売数にパンク寸前だったことをことを考えればよかったとみるべきだろう。
「陛下、ブリザリアから新たな工場建設地が決まったとの知らせが届きました。さっそくドライム様にお願いしてもよろしいでしょうか?」
「おう、頼む」
ブリザリアにはこれまで1軒しか工場が出てきていなかったが、実はあと2軒ほど建設を考えている。何せ、ブリザリアはほかの3国よりも広いので2軒だと国全体をカバーできないからだ。まぁ、それでも全体に行き届けさせるにはそれなりに時間がかかるけど。
「ああ、やっぱり来てるか」
今俺はコルマベイント王からの親書を読んでいるわけだが、そこに書かれているのは、予想通りというべきか稼働したばかりのフリーズドライ工場に商人ギルドが絡んできて、現地で領主ともめているそうだ。
「まぁ、俺がどうこうできる話じゃないしな。ここは現地の領主に頑張ってもらうしかないだろ」
冷たいようだが、俺は他国の王でありいくらフリーズドライの総責任者であったとしてもここは口出しできる立場ではない。まぁ、責任者であるからこそ、その領主がコルマベイント王を通して助けを求めてきたら当然手を貸すつもりだ。なにせそうなるということは間違いなくシムサイトが動いたときだろうからな。まっ、まだまだ大丈夫だろう。
そう思っていたのだが、思っていたよりも早くシムサイトが動いた。なんでも一向に取り合わない領主に対して、商人ギルドが本国であるシムサイトに泣きついた。その結果、シムサイトからコルマベイント王に直接抗議が来たとのこと。しかもその内容は、フリーズドライの製法を開示を求めるものであったり、その販売を一手に引き受けさせてほしいといったことだった。もちろんこの要求に至るまでは数回のやり取りがあったらしいが、それでも最初から結構高圧的なものだった。まぁ、コルマベイントもまたシムサイトに借金があるからこその態度なのだろうが。ちなみに、ウルベキナでも同じようなやり取りが繰り広げられているらしい。まぁ、それぞれの国もフリーズドライの製法に関しては、魔王のものだから自分たちも知らないと言い張っているそうだ。まっ実際にそれは事実だしな。あれの製法は本当に俺しか知らないし、俺しかあの魔法を扱うことが出来ない。販売に関しても俺の意向だと伝えてもらっている。さすがのシムサイトも俺相手に文句も言えないからな。なにせ、魔王ということとは別に物理的に無理だし。
と思っていたら、教会のアリシエーラ教皇から知らせが届いた。
「……シムサイトってすげぇな」
「どうしました?」
「んっ、ああ、なんでも教会に俺と話をしたいから仲介をしてくれって来たらしい」
「そ、それは、精力的ですね」
「まったくだ」
シムサイトは商人の国だけあって、商売に関することであれば本当に精力的に動くな。
「行かれるのですか?」
「いや、そのつもりはない」
王である俺がわざわざ会いに行ってやる必要はないし、教皇からも会いに来ない方がいいだろうと書かれていた。というのも、シムサイトからやってきたという人物は、例にもれず女性蔑視がひどく教皇に対しても全く敬意を示しておらず、また、俺のことも言い方は丁寧ではあったが、下に見たような風だったという。そんな奴に会うためにわざわざ俺が直接行く必要はない。とはいえ、一応はシムサイトから正式にやってきた以上無視するというわけにはいかない。
「俺が行く必要はないが、一応外交員を派遣する必要はあるだろ」
「かしこまりました。さっそく手配いたします」
というわけで、さっそく外交員を派遣しシムサイトの人間と会談を行う、といってもシムサイトの要求はわかりきっている。どう考えてもフリーズドライの製法と販売権をよこせというものだ。そして、俺はそれを奴らに渡すつもりは一切ない。というか、テレスフィリアの民である獣人族やエルフ族が苦しめられた奴隷の首輪の製造から、各地に広がる奴隷商の大半、それがシムサイトである以上。俺が彼らと懇意にする理由はない。
それから数日が経過して派遣した外交員が戻り、報告書を上げてきた。それによるとやはり向こうの要求は思っていた通りであり、こちらが断るとかなりごねたそうだ。しかも、あろうことか現在シムサイトが所有するという我国の民を対価に持ち出してきやがった。これには外交員も腹が立ったという。仕方ない派遣した外交員はエルフ族で、まだ家族が戻ってきていないのだから。尤も、それで腹を立てて取り乱すような人材を外交員に任命していないから、こらえてくれたようだ。でも、シムサイトの発言は明らかに我が国への敵対行為とみなしてもいいと思う。だってそうだろう、奴らは我が国の民を人質にとって取引をしようとしたのだから。
「場所は聞き出していないのか」
人質となる民がどこにいるのか、それを外交員が聞き出していれば、俺が行って救出してこようと思う。
「報告によれば、場所までは聞き出せなかったと、しかし多くの奴隷がシムサイトに集まっているという情報は得ています」
シムサイトがこの情報を出した理由は単純に取引材料とするためだ。これはもはや返してほしければ製法と販売権をよこせと言っているようなものだな。
「はぁ、ずいぶんとなめられたものだよなぁ」
確かに俺は今あちこちに向かい奴隷とされたものたちの回収を大々的に行っている。それは魔王になった際の公約でもあるし、俺自身元違法奴隷としては同じく奴隷という立場にされている者たちを早く救出したいとも思っている。
「このままだとシムサイトになめられっぱなしだし、一旦シムサイトに乗り込むかぁ。よしっ、明日の議会で議題に挙げるとするか」
てなわけで、さっそく翌日の議会にてシムサイトへの対応などを話し合う。
「……以上のことから、シムサイト商業国への対応を考えたいと思います」
「向こうは敵対行動を取っているんだ。ここは徹底抗戦するべきではないのか」
「そうだ。ここは陛下にお願いしかの国へ攻め込むべきだ」
などという過激発言も飛び交う。まぁ、その発言をしているのは主に獣人族とエルフ族だ。彼らにとってシムサイトは敵以外の何物でもないからだ。
「お待ちください、シムサイトは軍を持たぬ国と聞きます。そのような国へ戦をしかければ、こちらが悪者となってしまいます。それでは、陛下がこれまでの苦労が水泡と化してしまいます」
丸腰の相手に喧嘩を売るのは、周囲から見れば悪党にしか見えない。それでは安心安全な魔王国キャンペーンが無駄になってしまうからそれだけは避けたい。
「それなれば……」
その後議会では様々な意見が出て、最終的にはシムサイトに潜入し動向を探りつつ、集められているという奴隷の居場所を探ることになった。
「では、潜入調査員は隠密に長けた虎人族に任せるということでよろしいですね」
「それがいいでしょう。尤も彼らには姿を変える魔道具を持たせる必要はあるでしょうが」
ネコ科獣人族たちは総じて気配を消したりするのがうまく、特に虎人族は個人の強さも高く危険な潜入踏査も任せられる。そんな彼らに今回のシムサイト潜入強うさ任務を任せることになった。もちろんそのままでは耳や尻尾が出てしまうので、姿を人族に変える魔道具をそれぞれ持たせることになった。ちなみにその魔道具はドワーフたちによって量産され各方面に配布されている。
2日後、虎人族の準備が整ったということで彼らが集まっているという城の中にはへとやってきた。
「陛下、準備完了です。いつでも行けます」
すでに人族の姿へと変わった虎人族たち、今回のリーダーを務めるコランダが敬礼をしながら言った。
「これより、シムサイト商業国へ潜入を行ってもらう、此度の任務はシムサイトに集められているという同胞たちの居場所を特定すること、また、内部調査となる。聞いているとは思うが、今回は保護が目的ではない。あくまで居場所の特定となることを忘れるな。しかし、危険な状態の者がいた場合は即座に連絡するように、その際は俺自ら動くことになるだろう。最後に決して無理をするな。必ず戻ることだいいな」
「はっ!!」
「よし、ではこれよりシムサイト首都シムヘリオへ向かう”転移”」
こうして俺は虎人族たちとともにシムヘリオへと飛んだのだった。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
シムヘリオ近くの森の中にやってきた。
「ここを進めば街道に出る。シムヘリオはそこから北へ向かえばすぐ着くはずだ」
「承知いたしました。ではさっそく向かいます。お送りいただいてありがとう存じました」
「おう、さっきも言ったが無茶はするなよ。いくら同胞を救えてもお前たちが居ないでは意味がないからな」
「はっ」
この後、彼らはそれぞればらばらにシムヘリオへ入り任務にあたることになるだろう。というわけで俺はここにいても仕方ないので、さっさとアベイルへと戻った。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
虎人族をシムヘリオへ送り出してから1週間が経過した。彼らの定期報告は毎日送られてきており、それなりに情報が集まってきた。それによるといまだ場所は特定できていないが、フリーズドライに関してはある程度出てきた。
「やっぱりあったか、バッタもん」
報告によるとシムヘリオではドライフルーツみたいなものまで、フリーズドライと称して売られている。しかもその値段はただのドライフルーツよりも3倍近くという。ほかにも様々な乾物類が同じく売られており、明らかな異国人である虎人族に熱心に売りつけてきているそうだ。また、一応というべきか本物もいくらか見つけているそうだが、その値段が元の100倍から1000倍の値段と設定されており、とてもじゃないが手は出せなかったという。ちなみにその品はウルベキナのエイルード産であったとのことだ。まぁ、あそこが一番シムサイトに近い産地だからな。それにしてもそんな高額にしても売れないんじゃないかと思った。なにせ産地じゃなくとも、ウルベキナの冒険者ギルドに行けば通常の値段で買えるのだから、でも、その場所に行けないものや一種のステータスとして売れているらしい。うん、よくわからん。
それはともかくとして、今の問題は奴隷にされた他種族たちの居場所だ。そこを一刻も早く特定できるよ虎人族には頑張ってもらいたいものだ。
その翌日俺は今ブリザリア王国王城へやってきている。今日は久しぶりの4か国会談となる。
「お集まりいただき感謝いたします」
ブリザリア女王が開口一番にそういう、今回の会談主催者はブリザリア女王だからだ。
「そして、テレスフィリア魔王陛下此度はありがとうございました」
「いえ、このぐらい大したことではありません」
今回もまた俺が”転移”でコルマベイント王とウルベキナ王を連れてきている。それからお互いに礼を言ったり挨拶をしたところで、ようやく本題に入る。
「フリーズドライの工場の建設も残るは我が国の1つとなりました。これに関してはすでに魔王陛下にお願いし建設を担当されるドワーフをすでに派遣していただいております」
「現地は以前私も訪れたことのある場所ですので、すでにドワーフたちは建設を始めております。彼らなら数日もあれば稼働に至れるでしょう」
「ふむ、話は聞いておったがすさまじい速度よな」
「はい、我らはドワーフといえば鍛冶、建設に関しては存じておりませんでした」
一般的にドワーフといえば鍛冶、このイメージが強いための意見であり、それを知らなかったと悔やんでいる王たちである。
「ドワーフという種族は主に技術全般に対しての強みですから、ほかにも様々な技術に精通しております。もちろん個人によって得手不得手はありますが」
「ふむなるほど、それは素晴らしい種族であるな」
「ええ、だからこそキリエルタもまた交流すべきと謳ったのでしょう」
「それを、のちの者がゆがめてしまったということですわね」
「はい、まぁその中にはもしかしたら私の祖先もいた可能性もあるのですが」
「確か、テレスフィリア魔王は聖人ダンクス様の末裔でしたか」
「はい、私自身も知ったのはつい最近のことですが」
俺が聖人ダンクスの末裔であるということはここにいる皆が知っている事実だ。
「さて、少し話がそれてしまいましたが、近々ですべての工場が稼働するということになります。ですが現状その商品をさばいているのが冒険者ギルドと国、これだけではうまくさばききれるというものではありません」
俺が最初にそう設定したわけだが、あの時はカリブリンにしかなく全体数も少なかったから十分問題はなかった。しかし、今のように各地に工場を建設し、次々にフリーズドライが製造されている現状ではそれだけでは不十分だ。
「そこで、わたくしからの提案ですが、我が国独自の組合にご参加いただけませんか」
ブリザリア女王がそういって俺たちを見渡す、ブリザリアはすでにシムサイトから脱し、独自の組合を作っていからそこに加わることで新たな経済圏を作ろうとしているのだろう。
「もちろん私は構いません」
「私もです。まぁ、我が国場合はすでに半分参加しているようなものですが」
というのもテレスフィリアの商品はその組合を通してブリザリア王国へと販売されている。
「我も構わないですが、義姉上たしかその組合の長はあなたであると記憶しております」
「ええ、その通りです」
この情報は俺も得ている。ブリザリアの商業組合のトップは代々女王が務め、国の商売を掌握しているというわけだ。
「我は義姉上のことは信頼しておりますが、後々それでは問題が生じましょう」
「我が国がシムサイトになるということですね」
「はい」
新米の王である俺とウルベキナ王は首をかしげているが、ベテランである2人は何かを理解している様子だ。
「ふむ、お2人はまだわからないようなので説明しよう」
俺とウルベキナ王の様子を見たコルマベイント王が説明してくれた。それによると今の組織体制では結局ブリザリアがシムサイトのように各国の経済を握ることになってしまうという。確かに言われてみればその通りだ。このままでは今までとほとんど同じになってしまう。
「なるほど、確かにその通りですね。それなら若輩の意見ですが、そこに参加するのではなく、それをベースに新しい組織を立ち上げ、その責任者は我らにするというのはいかがでしょう」
ウルベキナ王がそういった。
「ふむ、それがいいだろう、1つの国が責任者となるからこそ後々の問題が出る。なればお互いを監視しあえるような組織にするべきであるな」
「ええ、その通りです。わたくしもそう提案するつもりでした」
「素晴らしいと思います。それで行きましょう」
こうして新たな経済組織が立ち上がったのだった。
さて、そんなわけで、工場が稼働してしばらく経ったところでちょっとした影響が出てきた。それは、カリブリンのワイエノ小父さんの店での販売数が減少を始めたのだ。普通なら問題あることだが、これまであまりの販売数にパンク寸前だったことをことを考えればよかったとみるべきだろう。
「陛下、ブリザリアから新たな工場建設地が決まったとの知らせが届きました。さっそくドライム様にお願いしてもよろしいでしょうか?」
「おう、頼む」
ブリザリアにはこれまで1軒しか工場が出てきていなかったが、実はあと2軒ほど建設を考えている。何せ、ブリザリアはほかの3国よりも広いので2軒だと国全体をカバーできないからだ。まぁ、それでも全体に行き届けさせるにはそれなりに時間がかかるけど。
「ああ、やっぱり来てるか」
今俺はコルマベイント王からの親書を読んでいるわけだが、そこに書かれているのは、予想通りというべきか稼働したばかりのフリーズドライ工場に商人ギルドが絡んできて、現地で領主ともめているそうだ。
「まぁ、俺がどうこうできる話じゃないしな。ここは現地の領主に頑張ってもらうしかないだろ」
冷たいようだが、俺は他国の王でありいくらフリーズドライの総責任者であったとしてもここは口出しできる立場ではない。まぁ、責任者であるからこそ、その領主がコルマベイント王を通して助けを求めてきたら当然手を貸すつもりだ。なにせそうなるということは間違いなくシムサイトが動いたときだろうからな。まっ、まだまだ大丈夫だろう。
そう思っていたのだが、思っていたよりも早くシムサイトが動いた。なんでも一向に取り合わない領主に対して、商人ギルドが本国であるシムサイトに泣きついた。その結果、シムサイトからコルマベイント王に直接抗議が来たとのこと。しかもその内容は、フリーズドライの製法を開示を求めるものであったり、その販売を一手に引き受けさせてほしいといったことだった。もちろんこの要求に至るまでは数回のやり取りがあったらしいが、それでも最初から結構高圧的なものだった。まぁ、コルマベイントもまたシムサイトに借金があるからこその態度なのだろうが。ちなみに、ウルベキナでも同じようなやり取りが繰り広げられているらしい。まぁ、それぞれの国もフリーズドライの製法に関しては、魔王のものだから自分たちも知らないと言い張っているそうだ。まっ実際にそれは事実だしな。あれの製法は本当に俺しか知らないし、俺しかあの魔法を扱うことが出来ない。販売に関しても俺の意向だと伝えてもらっている。さすがのシムサイトも俺相手に文句も言えないからな。なにせ、魔王ということとは別に物理的に無理だし。
と思っていたら、教会のアリシエーラ教皇から知らせが届いた。
「……シムサイトってすげぇな」
「どうしました?」
「んっ、ああ、なんでも教会に俺と話をしたいから仲介をしてくれって来たらしい」
「そ、それは、精力的ですね」
「まったくだ」
シムサイトは商人の国だけあって、商売に関することであれば本当に精力的に動くな。
「行かれるのですか?」
「いや、そのつもりはない」
王である俺がわざわざ会いに行ってやる必要はないし、教皇からも会いに来ない方がいいだろうと書かれていた。というのも、シムサイトからやってきたという人物は、例にもれず女性蔑視がひどく教皇に対しても全く敬意を示しておらず、また、俺のことも言い方は丁寧ではあったが、下に見たような風だったという。そんな奴に会うためにわざわざ俺が直接行く必要はない。とはいえ、一応はシムサイトから正式にやってきた以上無視するというわけにはいかない。
「俺が行く必要はないが、一応外交員を派遣する必要はあるだろ」
「かしこまりました。さっそく手配いたします」
というわけで、さっそく外交員を派遣しシムサイトの人間と会談を行う、といってもシムサイトの要求はわかりきっている。どう考えてもフリーズドライの製法と販売権をよこせというものだ。そして、俺はそれを奴らに渡すつもりは一切ない。というか、テレスフィリアの民である獣人族やエルフ族が苦しめられた奴隷の首輪の製造から、各地に広がる奴隷商の大半、それがシムサイトである以上。俺が彼らと懇意にする理由はない。
それから数日が経過して派遣した外交員が戻り、報告書を上げてきた。それによるとやはり向こうの要求は思っていた通りであり、こちらが断るとかなりごねたそうだ。しかも、あろうことか現在シムサイトが所有するという我国の民を対価に持ち出してきやがった。これには外交員も腹が立ったという。仕方ない派遣した外交員はエルフ族で、まだ家族が戻ってきていないのだから。尤も、それで腹を立てて取り乱すような人材を外交員に任命していないから、こらえてくれたようだ。でも、シムサイトの発言は明らかに我が国への敵対行為とみなしてもいいと思う。だってそうだろう、奴らは我が国の民を人質にとって取引をしようとしたのだから。
「場所は聞き出していないのか」
人質となる民がどこにいるのか、それを外交員が聞き出していれば、俺が行って救出してこようと思う。
「報告によれば、場所までは聞き出せなかったと、しかし多くの奴隷がシムサイトに集まっているという情報は得ています」
シムサイトがこの情報を出した理由は単純に取引材料とするためだ。これはもはや返してほしければ製法と販売権をよこせと言っているようなものだな。
「はぁ、ずいぶんとなめられたものだよなぁ」
確かに俺は今あちこちに向かい奴隷とされたものたちの回収を大々的に行っている。それは魔王になった際の公約でもあるし、俺自身元違法奴隷としては同じく奴隷という立場にされている者たちを早く救出したいとも思っている。
「このままだとシムサイトになめられっぱなしだし、一旦シムサイトに乗り込むかぁ。よしっ、明日の議会で議題に挙げるとするか」
てなわけで、さっそく翌日の議会にてシムサイトへの対応などを話し合う。
「……以上のことから、シムサイト商業国への対応を考えたいと思います」
「向こうは敵対行動を取っているんだ。ここは徹底抗戦するべきではないのか」
「そうだ。ここは陛下にお願いしかの国へ攻め込むべきだ」
などという過激発言も飛び交う。まぁ、その発言をしているのは主に獣人族とエルフ族だ。彼らにとってシムサイトは敵以外の何物でもないからだ。
「お待ちください、シムサイトは軍を持たぬ国と聞きます。そのような国へ戦をしかければ、こちらが悪者となってしまいます。それでは、陛下がこれまでの苦労が水泡と化してしまいます」
丸腰の相手に喧嘩を売るのは、周囲から見れば悪党にしか見えない。それでは安心安全な魔王国キャンペーンが無駄になってしまうからそれだけは避けたい。
「それなれば……」
その後議会では様々な意見が出て、最終的にはシムサイトに潜入し動向を探りつつ、集められているという奴隷の居場所を探ることになった。
「では、潜入調査員は隠密に長けた虎人族に任せるということでよろしいですね」
「それがいいでしょう。尤も彼らには姿を変える魔道具を持たせる必要はあるでしょうが」
ネコ科獣人族たちは総じて気配を消したりするのがうまく、特に虎人族は個人の強さも高く危険な潜入踏査も任せられる。そんな彼らに今回のシムサイト潜入強うさ任務を任せることになった。もちろんそのままでは耳や尻尾が出てしまうので、姿を人族に変える魔道具をそれぞれ持たせることになった。ちなみにその魔道具はドワーフたちによって量産され各方面に配布されている。
2日後、虎人族の準備が整ったということで彼らが集まっているという城の中にはへとやってきた。
「陛下、準備完了です。いつでも行けます」
すでに人族の姿へと変わった虎人族たち、今回のリーダーを務めるコランダが敬礼をしながら言った。
「これより、シムサイト商業国へ潜入を行ってもらう、此度の任務はシムサイトに集められているという同胞たちの居場所を特定すること、また、内部調査となる。聞いているとは思うが、今回は保護が目的ではない。あくまで居場所の特定となることを忘れるな。しかし、危険な状態の者がいた場合は即座に連絡するように、その際は俺自ら動くことになるだろう。最後に決して無理をするな。必ず戻ることだいいな」
「はっ!!」
「よし、ではこれよりシムサイト首都シムヘリオへ向かう”転移”」
こうして俺は虎人族たちとともにシムヘリオへと飛んだのだった。
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シムヘリオ近くの森の中にやってきた。
「ここを進めば街道に出る。シムヘリオはそこから北へ向かえばすぐ着くはずだ」
「承知いたしました。ではさっそく向かいます。お送りいただいてありがとう存じました」
「おう、さっきも言ったが無茶はするなよ。いくら同胞を救えてもお前たちが居ないでは意味がないからな」
「はっ」
この後、彼らはそれぞればらばらにシムヘリオへ入り任務にあたることになるだろう。というわけで俺はここにいても仕方ないので、さっさとアベイルへと戻った。
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虎人族をシムヘリオへ送り出してから1週間が経過した。彼らの定期報告は毎日送られてきており、それなりに情報が集まってきた。それによるといまだ場所は特定できていないが、フリーズドライに関してはある程度出てきた。
「やっぱりあったか、バッタもん」
報告によるとシムヘリオではドライフルーツみたいなものまで、フリーズドライと称して売られている。しかもその値段はただのドライフルーツよりも3倍近くという。ほかにも様々な乾物類が同じく売られており、明らかな異国人である虎人族に熱心に売りつけてきているそうだ。また、一応というべきか本物もいくらか見つけているそうだが、その値段が元の100倍から1000倍の値段と設定されており、とてもじゃないが手は出せなかったという。ちなみにその品はウルベキナのエイルード産であったとのことだ。まぁ、あそこが一番シムサイトに近い産地だからな。それにしてもそんな高額にしても売れないんじゃないかと思った。なにせ産地じゃなくとも、ウルベキナの冒険者ギルドに行けば通常の値段で買えるのだから、でも、その場所に行けないものや一種のステータスとして売れているらしい。うん、よくわからん。
それはともかくとして、今の問題は奴隷にされた他種族たちの居場所だ。そこを一刻も早く特定できるよ虎人族には頑張ってもらいたいものだ。
その翌日俺は今ブリザリア王国王城へやってきている。今日は久しぶりの4か国会談となる。
「お集まりいただき感謝いたします」
ブリザリア女王が開口一番にそういう、今回の会談主催者はブリザリア女王だからだ。
「そして、テレスフィリア魔王陛下此度はありがとうございました」
「いえ、このぐらい大したことではありません」
今回もまた俺が”転移”でコルマベイント王とウルベキナ王を連れてきている。それからお互いに礼を言ったり挨拶をしたところで、ようやく本題に入る。
「フリーズドライの工場の建設も残るは我が国の1つとなりました。これに関してはすでに魔王陛下にお願いし建設を担当されるドワーフをすでに派遣していただいております」
「現地は以前私も訪れたことのある場所ですので、すでにドワーフたちは建設を始めております。彼らなら数日もあれば稼働に至れるでしょう」
「ふむ、話は聞いておったがすさまじい速度よな」
「はい、我らはドワーフといえば鍛冶、建設に関しては存じておりませんでした」
一般的にドワーフといえば鍛冶、このイメージが強いための意見であり、それを知らなかったと悔やんでいる王たちである。
「ドワーフという種族は主に技術全般に対しての強みですから、ほかにも様々な技術に精通しております。もちろん個人によって得手不得手はありますが」
「ふむなるほど、それは素晴らしい種族であるな」
「ええ、だからこそキリエルタもまた交流すべきと謳ったのでしょう」
「それを、のちの者がゆがめてしまったということですわね」
「はい、まぁその中にはもしかしたら私の祖先もいた可能性もあるのですが」
「確か、テレスフィリア魔王は聖人ダンクス様の末裔でしたか」
「はい、私自身も知ったのはつい最近のことですが」
俺が聖人ダンクスの末裔であるということはここにいる皆が知っている事実だ。
「さて、少し話がそれてしまいましたが、近々ですべての工場が稼働するということになります。ですが現状その商品をさばいているのが冒険者ギルドと国、これだけではうまくさばききれるというものではありません」
俺が最初にそう設定したわけだが、あの時はカリブリンにしかなく全体数も少なかったから十分問題はなかった。しかし、今のように各地に工場を建設し、次々にフリーズドライが製造されている現状ではそれだけでは不十分だ。
「そこで、わたくしからの提案ですが、我が国独自の組合にご参加いただけませんか」
ブリザリア女王がそういって俺たちを見渡す、ブリザリアはすでにシムサイトから脱し、独自の組合を作っていからそこに加わることで新たな経済圏を作ろうとしているのだろう。
「もちろん私は構いません」
「私もです。まぁ、我が国場合はすでに半分参加しているようなものですが」
というのもテレスフィリアの商品はその組合を通してブリザリア王国へと販売されている。
「我も構わないですが、義姉上たしかその組合の長はあなたであると記憶しております」
「ええ、その通りです」
この情報は俺も得ている。ブリザリアの商業組合のトップは代々女王が務め、国の商売を掌握しているというわけだ。
「我は義姉上のことは信頼しておりますが、後々それでは問題が生じましょう」
「我が国がシムサイトになるということですね」
「はい」
新米の王である俺とウルベキナ王は首をかしげているが、ベテランである2人は何かを理解している様子だ。
「ふむ、お2人はまだわからないようなので説明しよう」
俺とウルベキナ王の様子を見たコルマベイント王が説明してくれた。それによると今の組織体制では結局ブリザリアがシムサイトのように各国の経済を握ることになってしまうという。確かに言われてみればその通りだ。このままでは今までとほとんど同じになってしまう。
「なるほど、確かにその通りですね。それなら若輩の意見ですが、そこに参加するのではなく、それをベースに新しい組織を立ち上げ、その責任者は我らにするというのはいかがでしょう」
ウルベキナ王がそういった。
「ふむ、それがいいだろう、1つの国が責任者となるからこそ後々の問題が出る。なればお互いを監視しあえるような組織にするべきであるな」
「ええ、その通りです。わたくしもそう提案するつもりでした」
「素晴らしいと思います。それで行きましょう」
こうして新たな経済組織が立ち上がったのだった。
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そんな少年の物語。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
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主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
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