なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい

木崎優

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21.我が師2

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 ジルは性格がねじ曲がっているので、師匠として崇められるよりも多少ぞんざいに扱われるのを好んでいる。だが、ぞんざいさにも許容できる範囲と許容できない範囲があるようで、許容範囲を超えると途端に不機嫌になる。
 厄介なのは、その許容範囲がジルのその日の気分で変わることだ。

 どうやら今日は、本気を冗談と捉えられるのを嫌う日だったようだ。ちなみに、本気を本気と捉えられるのを嫌う日もある。

「えーと、ジル、今のは……ひゃっ」

 慌てて弁明しようと口を開くが、体が椅子から浮き、おかしな声が出た。
 一応、弟子という関係なので呪われたりはしないだろう。死ぬような目にも合わないはずだ。

 だからこそ何をされるかわからず、ジルの金色の眼を見つめる。

「ああ、悲しいね」

 すい、と浮いたままの体が宙を流れ、空いた椅子にジルが座る。そしてくるりと旋回した私の体がその上――ジルの膝の上に落ちた。

「冗談ではないよ。私の可愛い弟子。彼は君を好んでいる。こうして膝の上にでも乗って、手を伸ばし、愛の言葉でも囁けばきっと喜ぶだろう。口づけのひとつでもくれてやれば、天にも昇るのではないかな」

 ジルの指が私の銀色の髪をいじる。指先に巻きつけたり引っ張ったり、まるで猫の子を弄ぶように。
 それに対して文句のひとつも言えないのは、彼が不機嫌だとわかっているからだ。ここで余計なことを言えば、もっと機嫌を損ねるだろう。

「時間や魔力を消費しても構わないほどの価値を、彼は君に見出している。なら君は、彼に見出しただけの価値を返せばいい。それとも、
君自身ほどの価値が彼にはないと思っているのかな?」

 ジルはささいなことで人を呪い、長年魔術師でいならが見出した弟子はアンリ殿下だけ。
 それぐらい、彼は人のことを好んでいない。人間一人分に対する価値が低い。

 ジルにとって、私の発言は同じ魔術師に対する侮辱に等しかったのだろう。たかが人間、弟子一人分の価値もないと、捉えたのだろう。

「……違います、ジル。私が言いたいのは……私自身では彼の価値に及ばない、ということです。与えられたものに対する対価が見合っていないと言っているのです」
「価値を積むのは欲する者の役目で、君じゃない。積まれたものを勝手に取り払うのは侮辱だとは思わないかい?」
「その価値が、過ぎたるものだとしても?」
「それだけの価値があると判断したのなら、それが妥当だということだよ。その者にとってはね」

 ちゃんと会話が成立しているということは、ジルの不機嫌度はそこまで高くない。
 なら少しすればいつも通りになるはず。今日のジルは本気には本気を、冗談には冗談を返してほしい日だということはわかったが、それ以外については不明のまま。だけど、当たり障りのない会話をしていれば問題ないだろう。

 危うい会話さえ避ければ、なんとかなる。

「―――何をしているんですか?」

 綱渡りに一歩踏み出そうとした瞬間、扉が開かれ、一拍遅れて淡々とした声が室内に響いた。
 水色の双眸が向けられているのは、部屋の主であるジルと私。

 何をしているのかと問われると少し困る。
 家についての話をして、ジルの行いに苦言を漏らして、ノエルの過大な献身の話をした。
 つまり総括すると――

「恋愛相談です」

 そういうことになると思う。多分。
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