なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい

木崎優

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22.兄弟子と弟弟子1

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 私が真剣な顔で「恋愛相談」という結論を出している間、自由人なジルは空中でリボンを巻いたり解いたりして遊んでいた。
 そしてノエルが少しだけ首を傾げ、「恋愛相談、ですか?」と言っている時も、リボンが蛇のように空中でうねっている。

「はい。百戦錬磨かもしれない師匠に相談に乗ってもらっていました」

 自称なうえに確証もない百戦錬磨だけど。

「……どうしてまた、そんな相談を?」
「ノエルに何かお返しできないかと思いまして」
「僕に?」
「はい。ノエルに」

 どうにも要領を得ない。いつものノエルなら、こんな風に質問を重ねたりはしない。
 何かしら結論付けて、そのうえで残った疑問を投げかけてくることはあっても、わかりきった質問をすることはなかった。

「……僕にお返し、ですか。それでしたらジルではなく僕に聞いたほうがいいと思いますよ」
「それは、そうなんですけど……」

 当事者に聞くのが一番確実なのは、私にもわかっている。だけど、何かが違うと思ってしまう。
 聞いて、指定されたものを用意するのは、何かが違う。なんというかこう、説明できないけど、違うんだ。

「それを言うのは野暮というものだよ。結果のわかっているものは楽しくないだろう? 喜んでもらえるか、もらえないか。そうして悩むのを楽しむ者もいたりするんだよ。私の可愛い弟子が恋愛に対してどういう姿勢なのかを私は知らないけどね」

 悩むのを楽しんでいるわけではないけど。
 そもそも、お返しできないことを心苦しく思っていたわけで、何をあげたら喜んでくれるんだろうドキドキ、みたいな甘酸っぱいものでもなかった。

「まあ、話はわかりました。それでしたら、フロランのところにジルを連れて行くのを手伝ってもらえたら助かります」

 しかもお返しとして要求されたのが、ものすごく実務的なものだったのだから、どういう顔をすればいいのかわからない。
 いやでも、ノエルだけではジルを連行するのは荷が重いというのなら、手伝うのもやぶさかでない。

「わかりました。……それではジル。いい加減観念してフロラン様のところに行きましょう」

 ジルの膝から降りて、リボンを宙に浮かせるために動かしていた手を掴む。ちなみに、この手を動かすことに意味はない。ただの気分、演出だ。
 最初の頃の魔術師が、何をしているのかよくわからん、本当に何かしているのか、詐欺なのでは、という苦情を受けてから、魔術師は演出を大事にするようになった。

「これはまいったね。私の可愛い弟子は師匠を逃がしてくれはしないのかい?」
「自業自得ですので」

 フロランがジルを呼んでいるのは、ジルの被害報告を目の当たりにさせて、大変さを身にしみさせるためだ。

「師匠のためを語るなら、ジルも師匠のために行動されてはいかがですか?」

 淡々とした声に、ジルはまた「まいったね」とぼやいた。
 ならしかたない、と腰を上げる気配はない。だけど私は、そんなジルの態度を注意するよりも、目を丸くさせてノエルを見ていた。

「師匠?」
「はい。魔術師と認められるまでの半月だけですが」

 魔術師と認められるには、功績と、師匠がいる。
 功績は国に認められるため。
 師匠は他の魔術師に認められるため。

 魔術師の道理を知らないぽっと出が、と排斥されないように、期間は様々だが魔術師を志す者は師匠を得る。

 だから当然、魔術師の塔で魔術師と認められているジルにも師匠がいるはずで。

「じゃあつまり、フロラン様はジルの師匠で……ノエルは――」
「一応、私の弟弟子ということになるね」
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