25 / 47
25.買い物2
しおりを挟む
魔術の塔は王都のすみっこに建っている。
何が起きるかわからないので周りには何もなく――今はノエルの建てた家があるけど――買い物に行くには馬車に乗る必要がある。
ということで、家具を買いに行くことになった私とノエルは、馬車に乗って小一時間してようやく、家や店が立ち並ぶ場所に到着した。
王都は商業地区と住居地区と、貴族が暮らす地区の三地区で構成されている。やろうと思えばより詳しく細分化できるが、ある程度の地図さえ頭に入っていれば誰も困らないので、わざわざ細かく区分しようとする人はいなかったらしい。
「家具、ということは注文ですか?」
国の中心ともいえる王都の商業地区。そこにはたくさんの店が並んでいる。並びすぎて、大型店舗を構えられないほど。
なので、大型商品を買う場合は注文して、一から作ってもらうことが多い。近くの街や村に倉庫を構えて商品を管理している店もあるが、どちらにせよ時間はかかる。
「僕はどちらでも構いませんが……あなたはこだわりなどはありますか?」
「……悩みますね。爆発などで壊れてしまうかもしれないことを考えると、安価なもので揃えるか……長年使えるように耐久性を重視するか……」
でも耐久性を重視しても、爆発には耐えられないだろう。鉄で作れば可能性はあるが、変形したらどちらにせよ用を成さないだろう。
「ある程度は耐えられると思いますが……さすがにジルからの被害は抑えられませんね」
塔の周りで何か起きれば、その犯人は九割ジルだ。
そうなると、なるべく細部にこだわらず、安価で揃えやすいものにしよう。そしてやはり、塔の近くに家を構えたのは失敗なのではないだろうか。
「魔術師は何かと研究室にこもりがちですからね。僕は構いませんが、あなたにはしっかりと休息をとっていただきたいので……近くなら、帰る気になるでしょう」
私の心を読んだのか、顔色を読んだのか。まず間違いなく後者だろうけど、今抱いたばかりの考えに答えられて、ドキリと心臓が跳ねた。
「魔術師を目指すんですよね?」
「え、ええ、まあ」
びっくりして反応できなかった私を見て、ノエルが首を傾げた。
「一応、目指すつもりではあります」
「ならやはり、家は近くがいいですね」
魔術師は個人主義で、研究に没頭すると部屋にこもりきりになる人が多い。
それは魔術師を目指す弟子も同じで、本気で魔術の道を目指す人ほど、成果を得ようと必死になる。
ノエルは長年フロランの弟子をしていて、本気で魔術師を目指しているのだと思っていた。だから最初に提示したメリットに、家に帰らなくても文句は言わないというのを掲げた。
だけどノエルはすでに魔術師で、死に物狂いで得ないといけない成果はない。研究に没頭すれば家に帰らない日も出てくるとは思うけど、私のほうがこもりきりになる可能性が高い。
それを考えるとたしかに、家は近いに越したことはないのかもしれない。徒歩五分だし、となんだかんだ帰りそうだ。
「それに、できれば毎日あなたに会いたいですし」
「……ノエルは毎日帰るつもりなんですか?」
「あなたのいる家に帰らない理由がありますか?」
不思議そうに――いつもと同じだけど――首を傾げられ、唸ってしまう。
「ぜ、善処します」
「はい。お願いします」
確約できないのは、成果を得るのにどれぐらい時間と手間がかかるかわからないから。
もしも、時間や手間がかからないのなら、私はなんて答えたのだろう。そんなことをふと考えたけど、答えは出なかった。
何が起きるかわからないので周りには何もなく――今はノエルの建てた家があるけど――買い物に行くには馬車に乗る必要がある。
ということで、家具を買いに行くことになった私とノエルは、馬車に乗って小一時間してようやく、家や店が立ち並ぶ場所に到着した。
王都は商業地区と住居地区と、貴族が暮らす地区の三地区で構成されている。やろうと思えばより詳しく細分化できるが、ある程度の地図さえ頭に入っていれば誰も困らないので、わざわざ細かく区分しようとする人はいなかったらしい。
「家具、ということは注文ですか?」
国の中心ともいえる王都の商業地区。そこにはたくさんの店が並んでいる。並びすぎて、大型店舗を構えられないほど。
なので、大型商品を買う場合は注文して、一から作ってもらうことが多い。近くの街や村に倉庫を構えて商品を管理している店もあるが、どちらにせよ時間はかかる。
「僕はどちらでも構いませんが……あなたはこだわりなどはありますか?」
「……悩みますね。爆発などで壊れてしまうかもしれないことを考えると、安価なもので揃えるか……長年使えるように耐久性を重視するか……」
でも耐久性を重視しても、爆発には耐えられないだろう。鉄で作れば可能性はあるが、変形したらどちらにせよ用を成さないだろう。
「ある程度は耐えられると思いますが……さすがにジルからの被害は抑えられませんね」
塔の周りで何か起きれば、その犯人は九割ジルだ。
そうなると、なるべく細部にこだわらず、安価で揃えやすいものにしよう。そしてやはり、塔の近くに家を構えたのは失敗なのではないだろうか。
「魔術師は何かと研究室にこもりがちですからね。僕は構いませんが、あなたにはしっかりと休息をとっていただきたいので……近くなら、帰る気になるでしょう」
私の心を読んだのか、顔色を読んだのか。まず間違いなく後者だろうけど、今抱いたばかりの考えに答えられて、ドキリと心臓が跳ねた。
「魔術師を目指すんですよね?」
「え、ええ、まあ」
びっくりして反応できなかった私を見て、ノエルが首を傾げた。
「一応、目指すつもりではあります」
「ならやはり、家は近くがいいですね」
魔術師は個人主義で、研究に没頭すると部屋にこもりきりになる人が多い。
それは魔術師を目指す弟子も同じで、本気で魔術の道を目指す人ほど、成果を得ようと必死になる。
ノエルは長年フロランの弟子をしていて、本気で魔術師を目指しているのだと思っていた。だから最初に提示したメリットに、家に帰らなくても文句は言わないというのを掲げた。
だけどノエルはすでに魔術師で、死に物狂いで得ないといけない成果はない。研究に没頭すれば家に帰らない日も出てくるとは思うけど、私のほうがこもりきりになる可能性が高い。
それを考えるとたしかに、家は近いに越したことはないのかもしれない。徒歩五分だし、となんだかんだ帰りそうだ。
「それに、できれば毎日あなたに会いたいですし」
「……ノエルは毎日帰るつもりなんですか?」
「あなたのいる家に帰らない理由がありますか?」
不思議そうに――いつもと同じだけど――首を傾げられ、唸ってしまう。
「ぜ、善処します」
「はい。お願いします」
確約できないのは、成果を得るのにどれぐらい時間と手間がかかるかわからないから。
もしも、時間や手間がかからないのなら、私はなんて答えたのだろう。そんなことをふと考えたけど、答えは出なかった。
49
あなたにおすすめの小説
クリスティーヌの本当の幸せ
宝月 蓮
恋愛
ニサップ王国での王太子誕生祭にて、前代未聞の事件が起こった。王太子が婚約者である公爵令嬢に婚約破棄を突き付けたのだ。そして新たに男爵令嬢と婚約する目論見だ。しかし、そう上手くはいかなかった。
この事件はナルフェック王国でも話題になった。ナルフェック王国の男爵令嬢クリスティーヌはこの事件を知り、自分は絶対に身分不相応の相手との結婚を夢見たりしないと決心する。タルド家の為、領民の為に行動するクリスティーヌ。そんな彼女が、自分にとっての本当の幸せを見つける物語。
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
婚約者を義妹に奪われましたが貧しい方々への奉仕活動を怠らなかったおかげで、世界一大きな国の王子様と結婚できました
青空あかな
恋愛
アトリス王国の有名貴族ガーデニー家長女の私、ロミリアは亡きお母様の教えを守り、回復魔法で貧しい人を治療する日々を送っている。
しかしある日突然、この国の王子で婚約者のルドウェン様に婚約破棄された。
「ロミリア、君との婚約を破棄することにした。本当に申し訳ないと思っている」
そう言う(元)婚約者が新しく選んだ相手は、私の<義妹>ダーリー。さらには失意のどん底にいた私に、実家からの追放という仕打ちが襲い掛かる。
実家に別れを告げ、国境目指してトボトボ歩いていた私は、崖から足を踏み外してしまう。
落ちそうな私を助けてくれたのは、以前ケガを治した旅人で、彼はなんと世界一の超大国ハイデルベルク王国の王子だった。そのままの勢いで求婚され、私は彼と結婚することに。
一方、私がいなくなったガーデニー家やルドウェン様の評判はガタ落ちになる。そして、召使いがいなくなったガーデニー家に怪しい影が……。
※『小説家になろう』様と『カクヨム』様でも掲載しております
なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?
ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。
だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。
これからは好き勝手やらせてもらいますわ。
再婚約ですか? 王子殿下がいるのでお断りしますね
マルローネ
恋愛
伯爵令嬢のレミュラは、公爵閣下と婚約関係にあったが、より位の高い令嬢と婚約しレミュラとは婚約破棄をした。
その事実を知ったヤンデレ気味の姉は、悲しみの渦中にあるレミュラに、クラレンス王子殿下を紹介する。それを可能にしているのは、ヤンデレ姉が大公殿下の婚約者だったからだ。
レミュラとクラレンス……二人の仲は徐々にだが、確実に前に進んでいくのだった。
ところでレミュラに対して婚約破棄をした公爵閣下は、新たな侯爵令嬢のわがままに耐えられなくなり、再びレミュラのところに戻って来るが……。
堅実に働いてきた私を無能と切り捨てたのはあなた達ではありませんか。
木山楽斗
恋愛
聖女であるクレメリアは、謙虚な性格をしていた。
彼女は、自らの成果を誇示することもなく、淡々と仕事をこなしていたのだ。
そんな彼女を新たに国王となったアズガルトは軽んじていた。
彼女の能力は大したことはなく、何も成し遂げられない。そう判断して、彼はクレメリアをクビにした。
しかし、彼はすぐに実感することになる。クレメリアがどれ程重要だったのかを。彼女がいたからこそ、王国は成り立っていたのだ。
だが、気付いた時には既に遅かった。クレメリアは既に隣国に移っており、アズガルトからの要請など届かなかったのだ。
いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
【完結】気味が悪いと見放された令嬢ですので ~殿下、無理に愛さなくていいのでお構いなく~
Rohdea
恋愛
───私に嘘は通じない。
だから私は知っている。あなたは私のことなんて本当は愛していないのだと──
公爵家の令嬢という身分と魔力の強さによって、
幼い頃に自国の王子、イライアスの婚約者に選ばれていた公爵令嬢リリーベル。
二人は幼馴染としても仲良く過ごしていた。
しかし、リリーベル十歳の誕生日。
嘘を見抜ける力 “真実の瞳”という能力に目覚めたことで、
リリーベルを取り巻く環境は一変する。
リリーベルの目覚めた真実の瞳の能力は、巷で言われている能力と違っていて少々特殊だった。
そのことから更に気味が悪いと親に見放されたリリーベル。
唯一、味方となってくれたのは八歳年上の兄、トラヴィスだけだった。
そして、婚約者のイライアスとも段々と距離が出来てしまう……
そんな“真実の瞳”で視てしまった彼の心の中は───
※『可愛い妹に全てを奪われましたので ~あなた達への未練は捨てたのでお構いなく~』
こちらの作品のヒーローの妹が主人公となる話です。
めちゃくちゃチートを発揮しています……
【完結】愛され令嬢は、死に戻りに気付かない
かまり
恋愛
公爵令嬢エレナは、婚約者の王子と聖女に嵌められて処刑され、死に戻るが、
それを夢だと思い込んだエレナは考えなしに2度目を始めてしまう。
しかし、なぜかループ前とは違うことが起きるため、エレナはやはり夢だったと確信していたが、
結局2度目も王子と聖女に嵌められる最後を迎えてしまった。
3度目の死に戻りでエレナは聖女に勝てるのか?
聖女と婚約しようとした王子の目に、涙が見えた気がしたのはなぜなのか?
そもそも、なぜ死に戻ることになったのか?
そして、エレナを助けたいと思っているのは誰なのか…
色んな謎に包まれながらも、王子と幸せになるために諦めない、
そんなエレナの逆転勝利物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる