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28.研究内容1
しおりを挟む壊れることを前提に納品の早い家具を選んで、店を出る。細部にまでこだわらなかったので、思いのほか早く用事を済ませてしまった。
今日一日お休みをいただいているから、塔に戻ってフロランの手伝いをするのもおかしな話だ。どうしたものかと、青く晴れ渡った空を見上げる。
「そういえば、あなたはジルの弟子になってもうすぐ四年でしたよね」
不意に、ノエルから予想していなかった質問をされ、頷きながら目を瞬かせる。
王立学園の入学権をアニエスに譲った私は、ジルに誘われて彼の弟子になった。それが三年と少し前。もうすぐ、というにはあと半年以上あるので微妙なところだけど、まあ間違ってはいない。
「成果を得られそうな研究材料は見つかりましたか?」
それは、国が魔術師と認めるに値するほどの何かが見つかったか、という問いかけ。
三年という月日はけっして短いものではない。王立学園に入学し、卒業するのも三年だ。だが魔術師になるには、短すぎる。
私よりも長く魔術師の弟子をしているアンリ殿下も、成果を得てはいない。彼に関しては、そもそも王太子であって魔術師を目指しているわけではない、というのもあると思うけど。
「……一応、研究しているものはありますが……実用にはほど遠いです」
研究テーマは決まっている。だけど、実際に運用するには時間も工夫も材料も、何もかもが足りていない。
「もしよければ見せていただいても? 若輩ではありますが、助言ぐらいはできるかもしれないので」
「それは……もう少し研究が進んでからでもよろしいでしょうか。他の方に指示を仰いだとなると、ジルが拗ねそうですし」
私という素晴らしい師匠がいるのに何が不満なんだい? そう問い詰めてくるジルの姿が容易に想像できる。
苦笑を浮かべながら言うと、ノエルがなるほど、と頷いた。
「何を研究しているかぐらいは聞いてもいいですか?」
「それはもちろん……でも本当に、まだまだなので、聞いても呆れないでくださいね?」
「あなたのすることに呆れることはありませんよ」
「……魔物の探知、探索ができるものを作れないか、と色々調べています」
真顔で言うノエルに、少し悩みながら自身の研究テーマを口にする。
魔物は神出鬼没で、危ういとなればすぐ逃げる。しかも逃げた先で力をつけ、より強大になるかもしれないので、魔物を見つけられる装置を作れれば国に認められるだろう。
だけど、そんなものが本当に作れるのなら、すでに誰かが作っている。
「魔物は個体ごとに作りが違うので……何を基準にすればいいのか、模索している段階で……」
魔物が魔物と呼ばれるのは、普通の動物よりも多くの魔力を帯びているからだ。
だから最初は魔力に反応するように装置を作った。だけど、魔力は大なり小なりどこにでもある。人にも動物にも、魔道具にも。
その中から魔物だけを特定するのは難しく、なら魔力以外で何かないかと文献をあさったりしている段階だ。
「ジルに討伐した魔物を持って帰ってもらえないが頼んではみたのですが……さすがに肉片ではどうにもらなず……かといって繊細な仕事を頼むのも難しいですし」
魔物には尋常じゃない再生能力を持つ個体もいる。真っ二つ程度では死なない個体もいる。
だからジルは、とりあえず粉々にする。それで再生したり動かなければ死んだとみなすし、動いたらさらに燃やして灰にする。今のところ、灰から再生した魔物はいない。
理に適った行動ではあるので、もう少し丁寧にとお願いするのは難しい。丁寧にした結果、魔物が再生して被害が広がったら元も子もない。
「なるほど。たしかに……ジルが受ける依頼では難しいですね。自ら依頼を受ける気は?」
「魔術師の弟子に依頼する人はいませんよ」
アンリ殿下は調査に赴きはするけど、討伐までは担っていない。弱い個体であれば兵の派遣を促し、兵ではどうにもならなければ魔術の塔に依頼することを提案する。
領主もできる限り金をかけたくはないので、調査依頼からはじめ、必要であれば討伐も依頼してくる。
そこでわざわざ魔術師の弟子でもいいとする人はいない。討伐するのなら一度でさくっと終わらせて、余計な出費を控えたいと考える。
「それなら今度、僕が簡単な依頼を受けるので、一緒に行ってみますか?」
「一緒に、ですか?」
「はい。ジルの依頼に同伴するのは難しいでしょうし……恋人とはひと時も離れがたいのだと言えば、ジルも納得すると思いますよ」
それは嫌な納得のしかたのような気もするけど、悪い話ではない。
問題は、ついさっき、無理をしてほしくないとお願いしたばかりだということだ。
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