30 / 47
30.ほんの少しでいいから1
しおりを挟む
じっと、水色の瞳が私を見つめる。そうして小さく首を傾げた。
「好きになることに理由がいりますか?」
「どこが好きとか、そういうのはあると思います」
「強いてあげるのなら、全部ですかね。あなたの髪も目も肌も頭のてっぺんから足の先まで。そして内面も……ジルに振り回されながらも楽しそうにしている胆力や突拍子もなく求婚してきた奇天烈さも好ましく思っていますよ」
眉ひとつ動かさず語るノエルに、頬に熱が集まる。
聞いたのは私だけど、だけど、まさか全部と返ってくるとは思っていなかった。内面のほうは褒め言葉なのか悩むところだけど、それでも好ましいと思ってくれていることに変わりはないわけで。
「あなたのどこが素晴らしいのか語るには、ここは適切ではありませんね。二人になれる場所でなら、あなたが満足するまで愛の言葉を捧げますよ」
優しく握りこまれた手が、彼の口元まで運ばれる。手の甲に落ちた柔らかな口づけに、表情筋が保てそうにない。
照れやら恥ずかしさやらがまざり、羞恥をごまかすための笑みを浮かべそうになるが、今この状況ではにやけ面にしかならない。それを瞬時に察知して、口元に力をこめる。
「ああ、そういえば。家具を見に行く前に家の内装を確認するべきでしたね。今からでも見に行きますか?」
「いえ、今は、ちょっと」
この話の流れで家――二人きりになれる場所は、なんか色々と危険だ。何がと具体的には言えないけど、危険だ。
「そうですか。ではまた後日誘いますね。ならそろそろ塔に戻りますか。ジルが脱走を試みる頃合いだと思うので」
こくこくと全力で頷く。握られた手はそのままに、ノエルが馬車に呼んだ。
さすがに握ったままでは馬車に乗れない。手をはなしてノエルが先に馬車に乗り、どうぞ、と言うように手の平が差し出された。
「ありがとうございます」
馬車に乗るためのエスコートだと思い、差し出された手に自らの手を添えて、馬車に乗りこむ。
向かい合うように座ると同時に、馬車が出発する。
水色の瞳は窓の外を見ている。その横顔を観察するように見つめるが、やはりいつも通りだ。頬には赤みひとつさしていない。
あれで、ノエルにとっては平常運転だということなのだろう。
いつも事務的で、淡々としていたから婚姻という名の契約を結ぶのに申し分ないと思い、彼に結婚を前提にしたお付き合いを申し込んだ。
だから、彼がこういう人だというのは、わかっていたはずだ。
それなのに、彼の表情がまったく動かないことを少しだけ、寂しく思ってしまう。
私が羞恥に殺されそうになっている十分の一でいいから、ノエルの顔に変化が生じればいいのにと、思ってしまう。
「どうかしましたか?」
私に見られていることに気づいたのだろう。ノエルが窓から私に視線を移し、首を傾げた。
肩にかかっていた黒髪が揺れて落ちる。湖のような瞳は相変わらず波打つことすらしていない。
「くすぐってもいいですか?」
ほんの小さな波紋でもいいから、起こしてみたい。
そう思ってしまったばっかりに、とんでもない言葉が口を衝いて出た。
「好きになることに理由がいりますか?」
「どこが好きとか、そういうのはあると思います」
「強いてあげるのなら、全部ですかね。あなたの髪も目も肌も頭のてっぺんから足の先まで。そして内面も……ジルに振り回されながらも楽しそうにしている胆力や突拍子もなく求婚してきた奇天烈さも好ましく思っていますよ」
眉ひとつ動かさず語るノエルに、頬に熱が集まる。
聞いたのは私だけど、だけど、まさか全部と返ってくるとは思っていなかった。内面のほうは褒め言葉なのか悩むところだけど、それでも好ましいと思ってくれていることに変わりはないわけで。
「あなたのどこが素晴らしいのか語るには、ここは適切ではありませんね。二人になれる場所でなら、あなたが満足するまで愛の言葉を捧げますよ」
優しく握りこまれた手が、彼の口元まで運ばれる。手の甲に落ちた柔らかな口づけに、表情筋が保てそうにない。
照れやら恥ずかしさやらがまざり、羞恥をごまかすための笑みを浮かべそうになるが、今この状況ではにやけ面にしかならない。それを瞬時に察知して、口元に力をこめる。
「ああ、そういえば。家具を見に行く前に家の内装を確認するべきでしたね。今からでも見に行きますか?」
「いえ、今は、ちょっと」
この話の流れで家――二人きりになれる場所は、なんか色々と危険だ。何がと具体的には言えないけど、危険だ。
「そうですか。ではまた後日誘いますね。ならそろそろ塔に戻りますか。ジルが脱走を試みる頃合いだと思うので」
こくこくと全力で頷く。握られた手はそのままに、ノエルが馬車に呼んだ。
さすがに握ったままでは馬車に乗れない。手をはなしてノエルが先に馬車に乗り、どうぞ、と言うように手の平が差し出された。
「ありがとうございます」
馬車に乗るためのエスコートだと思い、差し出された手に自らの手を添えて、馬車に乗りこむ。
向かい合うように座ると同時に、馬車が出発する。
水色の瞳は窓の外を見ている。その横顔を観察するように見つめるが、やはりいつも通りだ。頬には赤みひとつさしていない。
あれで、ノエルにとっては平常運転だということなのだろう。
いつも事務的で、淡々としていたから婚姻という名の契約を結ぶのに申し分ないと思い、彼に結婚を前提にしたお付き合いを申し込んだ。
だから、彼がこういう人だというのは、わかっていたはずだ。
それなのに、彼の表情がまったく動かないことを少しだけ、寂しく思ってしまう。
私が羞恥に殺されそうになっている十分の一でいいから、ノエルの顔に変化が生じればいいのにと、思ってしまう。
「どうかしましたか?」
私に見られていることに気づいたのだろう。ノエルが窓から私に視線を移し、首を傾げた。
肩にかかっていた黒髪が揺れて落ちる。湖のような瞳は相変わらず波打つことすらしていない。
「くすぐってもいいですか?」
ほんの小さな波紋でもいいから、起こしてみたい。
そう思ってしまったばっかりに、とんでもない言葉が口を衝いて出た。
74
あなたにおすすめの小説
婚約破棄を突き付けてきた貴方なんか助けたくないのですが
夢呼
恋愛
エリーゼ・ミレー侯爵令嬢はこの国の第三王子レオナルドと婚約関係にあったが、当の二人は犬猿の仲。
ある日、とうとうエリーゼはレオナルドから婚約破棄を突き付けられる。
「婚約破棄上等!」
エリーゼは喜んで受け入れるが、その翌日、レオナルドは行方をくらました!
殿下は一体どこに?!
・・・どういうわけか、レオナルドはエリーゼのもとにいた。なぜか二歳児の姿で。
王宮の権力争いに巻き込まれ、謎の薬を飲まされてしまい、幼児になってしまったレオナルドを、既に他人になったはずのエリーゼが保護する羽目になってしまった。
殿下、どうして私があなたなんか助けなきゃいけないんですか?
本当に迷惑なんですけど。
拗らせ王子と毒舌令嬢のお話です。
※世界観は非常×2にゆるいです。
文字数が多くなりましたので、短編から長編へ変更しました。申し訳ありません。
カクヨム様にも投稿しております。
レオナルド目線の回は*を付けました。
王女殿下のモラトリアム
あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」
突然、怒鳴られたの。
見知らぬ男子生徒から。
それが余りにも突然で反応できなかったの。
この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの?
わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。
先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。
お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって!
婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪
お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。
え? 違うの?
ライバルって縦ロールなの?
世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。
わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら?
この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。
※設定はゆるんゆるん
※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。
※明るいラブコメが書きたくて。
※シャティエル王国シリーズ3作目!
※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、
『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。
上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。
※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅!
※小説家になろうにも投稿しました。
【完結】記憶にありませんが、責任は取りましょう
楽歩
恋愛
階段から落ちて三日後、アイラは目を覚ました。そして、自分の人生から十年分の記憶が消えていることを知らされる。
目の前で知らない男が号泣し、知らない子どもが「お母様!」としがみついてくる。
「状況を確認いたします。あなたは伯爵、こちらは私たちの息子。なお、私たちはまだ正式な夫婦ではない、という理解でよろしいですね?」
さらに残されていたのは鍵付き箱いっぱいの十年分の日記帳。中身は、乙女ゲームに転生したと信じ、攻略対象を順位付けして暴走していた“過去のアイラ”の黒歴史だった。
アイラは一冊の日記を最後の一行まで読み終えると、無言で日記を暖炉へ投げ入れる。
「これは、焼却処分が妥当ですわね」
だいぶ騒がしい人生の再スタートが今、始まる。
【完結】地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
異母妹にすべてを奪われ追い出されるように嫁いだ相手は変人の王太子殿下でした。
あとさん♪
恋愛
リラジェンマは第一王女。王位継承権一位の王太女であったが、停戦の証として隣国へ連行された。名目は『花嫁として』。
だが実際は、実父に疎まれたうえに異母妹がリラジェンマの許婚(いいなずけ)と恋仲になったからだ。
要するに、リラジェンマは厄介払いに隣国へ行くはめになったのだ。
ところで隣国の王太子って、何者だろう? 初対面のはずなのに『良かった。間に合ったね』とは? 彼は母国の事情を、承知していたのだろうか。明るい笑顔に惹かれ始めるリラジェンマであったが、彼はなにか裏がありそうで信じきれない。
しかも『弟みたいな女の子を生んで欲しい』とはどういうこと⁈¿?
言葉の違い、習慣の違いに戸惑いつつも距離を縮めていくふたり。
一方、王太女を失った母国ではじわじわと異変が起こり始め、ついに異母妹がリラジェンマと立場を交換してくれと押しかける。
※設定はゆるんゆるん
※R15は保険
※現実世界に似たような状況がありますが、拙作の中では忠実な再現はしていません。なんちゃって異世界だとご了承ください。
※拙作『王子殿下がその婚約破棄を裁定しますが、ご自分の恋模様には四苦八苦しているようです』と同じ世界観です。
※このお話は小説家になろうにも投稿してます。
※このお話のスピンオフ『結婚さえすれば問題解決!…って思った過去がわたしにもあって』もよろしくお願いします。
ベリンダ王女がグランデヌエベ滞在中にしでかしたアレコレに振り回された侍女(ルチア)のお話です。
<(_ _)>
乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!
ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。
相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。
結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。
現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう…
その時に前世の記憶を取り戻すのだった…
「悪役令嬢の兄の婚約者って…」
なんとも微妙なポジション。
しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。
何年も相手にしてくれなかったのに…今更迫られても困ります
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のアンジュは、子供の頃から大好きだった幼馴染のデイビッドに5度目の婚約を申し込むものの、断られてしまう。さすがに5度目という事もあり、父親からも諦める様言われてしまった。
自分でも分かっている、もう潮時なのだと。そんな中父親から、留学の話を持ち掛けられた。環境を変えれば、気持ちも落ち着くのではないかと。
彼のいない場所に行けば、彼を忘れられるかもしれない。でも、王都から出た事のない自分が、誰も知らない異国でうまくやっていけるのか…そんな不安から、返事をする事が出来なかった。
そんな中、侯爵令嬢のラミネスから、自分とデイビッドは愛し合っている。彼が騎士団長になる事が決まった暁には、自分と婚約をする事が決まっていると聞かされたのだ。
大きなショックを受けたアンジュは、ついに留学をする事を決意。専属メイドのカリアを連れ、1人留学の先のミラージュ王国に向かったのだが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる