なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい

木崎優

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32.自然体

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 初めて、ノエルの顔に変化が生まれた。だけど驚いて瞬きをした次の瞬間には、いつもと変わらない顔に戻っていて、見間違えかと自分の目を疑ってしまう。

 だけど、もしも今のが見間違えではなく実際にあったことなら、希望があるのでは。

「いつかノエルを馬鹿笑いさせてみせます」
「期待していますね」

 淡々と言うノエルからは、本当に期待しているのかどうかわからない。
 でも、この数日の付き合いで、ノエルが話を流すような人ではないことはわかった。最初のお付き合いを申し込んだ時は別として。

 だからきっと、本当に期待してくれている、と思うことにする。そのほうが私の精神衛生上にもいいし、頑張る気になれるから。

「それはそうと」

 心の中で決意を新たにしていると、ノエルがふと思い出したかのように言葉を落とした。

「愛ある恋人を演じるにあたって、あなたにお願いしたいことがあります」
「お願い、ですか?」

 改めてお願いしないといけないこととはなんだろう。首を傾げなら繰り返すと、ノエルが「はい」と言いながら頷いた。

「愛ある恋人にしては少々他人行儀な気がするので、お付き合いを初めて三日も経ったことですし……そろそろ自然体で話していただけますか」

 三日は、三日も、というほどの期間じゃないような気がする。普通は、三日しか、とかにならないだろうか。
 だけどノエルは一日で結婚式を挙げようとしていたし、それを思うと三日もで合っているような合っていないような。

 なんてことを頭の片隅で考えながら、ええと、と曖昧な声を出す。

「自然体、と言いますとどういうことでしょうか。だいぶ気を抜いているつもりではあるのですが……」
「先日、あなたが妹と接する場を見たので、今が自然体でないことはわかっています。つまりわかりやすく言うと、恋人に対して敬語なのは距離があるように思うということです」

 なるほど。世の恋人がどんな風なのかは知らないけど、両親やアニエスとクロードは気安い口調で喋り合っていた。
 だけどあれが恋人らしい姿なのだとすると、今の私とノエルはたしかに少々距離がある。
 塔ではずっと敬語で話していたので、意識しないと難しいかもしれない。だけど約束した以上、意識してでも改善しないと。

「わかりま……わかったわ」
「これで、僕のお願いは以上です。あなたからは何かありますか?」
「……ノエルは敬語のままなの?」

 促され、思ったことをそのまま口にする。
 敬語なのが他人行儀というのなら、ノエルも気安く話すものだと思っていた。それなのにあいかわらず敬語のままで、なんだか肩透かしを食らったような気分になる。

「僕はこれが自然体なので」

 ノエルは考えるようにわずかに頭を動かした後、小さく頷いてから言った。
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