なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい

木崎優

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33.家に1

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 なんとか、ジルが脱走する前に戻ってこれたらしい。
 フロラン様の研究室に入ると、縄で縛られたジルが床に転がっていた。

「おや、お帰り。ずいぶんと早かったね。楽しめたかい?」

 ぐるぐる巻きにされたジルがこちらを見上げて言う。フロラン様はちらりと視線を向けたあと、手に持っている書類に視線を戻した。

「ええ、まあ、楽しかったですよ」

 家具を誰かと一緒に選ぶのは新鮮で、楽しかった。
 選ぶ基準は破壊された時に再納品が早いかどうかだったけど。

「それはよかった。私の可愛い弟子が楽しめたのなら、引き受けた甲斐があったというものだよ。それはそうと、これを解いてくれるかな? 私の可愛い弟子なら朝飯前だろう?」
「フロラン様が許可を出したらでいいなら」

 言ってフロラン様を見ると、首を横に振られた。駄目らしい。

「フロラン。手伝うことはありますか?」

 ノエルがジルの嘆願を無視して、フロラン様のもとに向かう。フロラン様は少し考えるようにしてから、書類の山をひとつ指差した。

「あなたはどうしますか?」
「私は……少し家に戻ろうかと思います」

 師匠であるジルが不在で、溜まっている書類もあまりない。フロラン様のお手伝いはできるけど、手伝いの要請は出されていないので断られるだろう。
 だから家に帰ることにした。夜会から一度も帰っていないので、そろそろ服が足りなくなる。

「あまり寝泊まりすることがなかったので、汚れたとき用の着替えしか置いていなかったので……いくつか服と、あと色々と必要なものを持ってきます」

 家で過ごす気にはなれない。アニエスから色々言われるだろうし、アニエスに何か吹きこまれた両親からも何か言われるかもしれない。
 だからこっそり帰って、こっそり必要なものを取って、塔に戻ってこよう。

 それからは、塔で寝泊まりすればいい。

「わかりました。そういうことでしたら、送ります。構いませんね、フロラン」
「……元々休みの予定だ、好きにするといい」

 フロラン様は書類から視線を外すことなく頷いた。

「それでは行きましょうか」

 はい、とあまりにも自然に手を差し出される。
 エスコートということはないだろう。塔の中でエスコートを受けたことはない。

 だからつまり、手をただ乗せるだけでは駄目だ、ということで。

「私の可愛い弟子と弟弟子の仲がよくて私は嬉しいよ。それはそうと、縄ほ解いてくれてもいいんだよ?」

 おずおずと、差し出された手を握る。その一部始終を見ていたジルが茶化すように言った。
 ちらりとフロラン様を見ると首を横に振られたので、ジルをそのままにフロラン様の研究室を後にした。
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