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二話 やるべきことは決まった
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謁見室から追い出された私は、ふへぇと息を吐く。堅苦しい場には慣れていない。
それに敷かれていた赤い絨毯はふわふわで、寝そべりたい衝動と戦うのが大変だった。
「ライラ、聞いたわよ」
気を抜きかけた私の耳に、鈴の鳴るような声が届く。
慌てて気を引き締めて声のしたほうに顔を向けると、銀色の髪をきらめかせたお姫様が、赤と紫を混ぜたような朝焼け色の妖精眼を潤ませて立っていた。
お姫様を一方的に見たことはあっても、話したことはない。少なくとも、ライラと呼ばれるような付き合いをした記憶はかけらもない。
しかも何かを聞いたらしい。いったい何を聞いたのだろう。もしかして、お姫様の花壇から花を一輪拝借したのがバレたのかもしれない。
「……アドフィルに嫁ぐのですってね」
拝借とはいっても返すあてがなかったので冷や冷やしていたら、お姫様は憂うようにため息を落とした。
「どうしてあなたなのかしら……」
長いまつげに縁どられた瞳が床に視線を落とす。
王様に愛されているからですよ、と言ってもいいのか悩む。お姫様はこの城、どころか国中から愛されている人だ。
薬姫と呼ばれる彼女が救った命は数知れず、民からも親しまれ、彼女のためなら命を賭してもいいと騎士が行列を成すほど。
そんな人に、愛されているからだなんてしごく当たり前のことを言っても、ちゃんと伝わるのだろうか。
「どうしても無理だと思ったら、帰ってきてもいいのよ」
胸元で手を組み、気遣うようなまなざしを向けてくるお姫様に、私は曖昧な笑みを返す。
王様はお母さまの面倒をみてくれると言っていた。その報酬を投げ捨てるのは、あまりにももったいない。
「……実はね、ここだけの話にしてほしいのだけれど……」
内緒話をするように顔を寄せてきてささやくお姫様。きらきらとかがyく銀の髪が窓から吹きこむ風に揺れ、私の頬をかすめた。
「私ね、アドフィル国の王様を見たことがあるの。和平を結ぶための会合で来たときに……こっそり、ね」
お姫様の妖精眼がきらりと煌めく。まるで悪戯をした子供のように。
だけど白い頬は朱色に染まっていて、どこかちぐはぐな印象を受けた。
「……すごく、かっこいい人だったわ」
ほう、と憂いげなため息を吐いた。
親の心子知らずとはこのことを言うのかもしれない。あるいは、子の心親知らず。
「だから……どうしてもいやだったら、代わってあげるわ」
親子で話し合う必要がある気がするけど、私が口出しするようなことではない。
それに、私が何をすればいいのかもこれではっきりした。
「わかりました」
こくんと頷くと、お姫様の瞳が先ほどとは違う輝きに満ちる。
王様はお姫様を危ない男に嫁がせたくなくて、お姫様は危ない男に嫁ぎたい。
なら私がすることは、一つしかない。
「頑張って死んでまいります!」
正面からとらえた朝焼け色の妖精眼の中には、意気揚々と宣言する私が映っていた。
それに敷かれていた赤い絨毯はふわふわで、寝そべりたい衝動と戦うのが大変だった。
「ライラ、聞いたわよ」
気を抜きかけた私の耳に、鈴の鳴るような声が届く。
慌てて気を引き締めて声のしたほうに顔を向けると、銀色の髪をきらめかせたお姫様が、赤と紫を混ぜたような朝焼け色の妖精眼を潤ませて立っていた。
お姫様を一方的に見たことはあっても、話したことはない。少なくとも、ライラと呼ばれるような付き合いをした記憶はかけらもない。
しかも何かを聞いたらしい。いったい何を聞いたのだろう。もしかして、お姫様の花壇から花を一輪拝借したのがバレたのかもしれない。
「……アドフィルに嫁ぐのですってね」
拝借とはいっても返すあてがなかったので冷や冷やしていたら、お姫様は憂うようにため息を落とした。
「どうしてあなたなのかしら……」
長いまつげに縁どられた瞳が床に視線を落とす。
王様に愛されているからですよ、と言ってもいいのか悩む。お姫様はこの城、どころか国中から愛されている人だ。
薬姫と呼ばれる彼女が救った命は数知れず、民からも親しまれ、彼女のためなら命を賭してもいいと騎士が行列を成すほど。
そんな人に、愛されているからだなんてしごく当たり前のことを言っても、ちゃんと伝わるのだろうか。
「どうしても無理だと思ったら、帰ってきてもいいのよ」
胸元で手を組み、気遣うようなまなざしを向けてくるお姫様に、私は曖昧な笑みを返す。
王様はお母さまの面倒をみてくれると言っていた。その報酬を投げ捨てるのは、あまりにももったいない。
「……実はね、ここだけの話にしてほしいのだけれど……」
内緒話をするように顔を寄せてきてささやくお姫様。きらきらとかがyく銀の髪が窓から吹きこむ風に揺れ、私の頬をかすめた。
「私ね、アドフィル国の王様を見たことがあるの。和平を結ぶための会合で来たときに……こっそり、ね」
お姫様の妖精眼がきらりと煌めく。まるで悪戯をした子供のように。
だけど白い頬は朱色に染まっていて、どこかちぐはぐな印象を受けた。
「……すごく、かっこいい人だったわ」
ほう、と憂いげなため息を吐いた。
親の心子知らずとはこのことを言うのかもしれない。あるいは、子の心親知らず。
「だから……どうしてもいやだったら、代わってあげるわ」
親子で話し合う必要がある気がするけど、私が口出しするようなことではない。
それに、私が何をすればいいのかもこれではっきりした。
「わかりました」
こくんと頷くと、お姫様の瞳が先ほどとは違う輝きに満ちる。
王様はお姫様を危ない男に嫁がせたくなくて、お姫様は危ない男に嫁ぎたい。
なら私がすることは、一つしかない。
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