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六話 薬姫
しおりを挟むアルテシラは生まれながらのお姫様だ。妖精眼を宿す彼女は有象無象の唯人とは違う。誰からもかしずかれるのが当然の生活を送っていた。
そんな彼女が妹がいることを知ったのは、九つの頃。三歳違いの妹――しかも、腹違いの妹がいると知ったときには衝撃を受けたものだ。
アルテシラにとって、母と父は理想の夫婦だった。仲睦まじく、互いを想い合い、尊重し合っている。それなのに、まさか他の女性に産ませた子供がいるだなんて思ってもいなかった。
父親の不貞をすんなりと受け入れることはできず、それからしばらくの間は父親が近づくことすらいやがるようになっていた。
だが長くは続かなかった。妹も、その母親もアルテシラの視界に入ってこなかったからだ。
本当にいるのかすらあやふやな存在に、アルテシラは次第に興味を失った。
そして、アルテシラが次に妹の存在を認識したのはそれから五年が経ってからだった。
毒姫――使用人がそう呼んでいるのを耳にした。それが自分のことでないことはすぐにわかった。誰からも愛される自分が毒などと、不名誉な名前で呼ばれるとは思いもしなかったのだ。
「毒姫? それって誰のこと?」
問いかけるアルテシラに、話をしていた使用人二人は首を垂れた。恐縮しきりの彼女たちを説き伏せてようやく、王城の一角にある森に小屋があることを聞きだした。
そこに向かったのは、ただの好奇心だった。本当に存在しているのかどうか確認してみたいと、そう思っただけだった。
使用人たちは薄気味悪いので近づかないほうがいいと言っていたが、誰からも愛されるアルテシラに怖いものはなかった。
「――気持ち悪い」
だが、件の小屋を見たアルテシラは眉をひそめ、二度と小屋に近づかないことを決めた。
それからさらに月日が経ち、アルテシラは十九歳になった。
アドフィル帝国との戦争が終わり、妹がアドフィル帝国に嫁ぐことを耳にした。
「あの子に妃なんて務まるはずがないじゃない」
毒姫と呼ばれ、小屋で育った妹に教養はない。急遽教師をつけて教育していたようだけど、付け焼刃でどうにかなるのなら、誰も苦労しない。
それに、妹の問題はそれだけではない。だから代わってあげると提案したのに、妹はおかしなことを言いながら嫁いでしまった。
「どうせすぐ返されるわ」
アルテシラは以前目にしたアドフィルの新皇帝を思い、憂い気にため息をこぼす。あんな問題ばかりの娘を宛がわれるだなんて、なんてかわいそうなのだろう、と。
「アルテシラ様。失礼いたします」
侍女の一人がノックの後、首を垂れて入室してくる。アルテシラは用事でもあっただろうかと小首を傾げた。
「小屋に残されていたものたちはどうされますか?」
「お父様はどうするようにおっしゃっているの?」
「処分しろ、と」
「ならその通りにしてちょうだい。あの子の使っていたものなんて、気味が悪くて使いたくないわ」
「かしこまりました」
恭しく退出する侍女を眺めながら、アルテシラはため息を落とす。
妹はエイシュケルの第二王女として嫁いでいった。これまでは毒姫としか呼ばれていなかったが、姫君であると公の場で認められたため、それ相応の扱いをしなくてはいけなくなった。
そのことに、アルテシラは憐憫の情を抱く。あんな子を敬う姿勢をみせないといけないなんてかわいそう、と。
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