8 / 62
八話 銀と言い張れば銀になる
しおりを挟む
お母さまに会いたい気持ちが湧き上がり、ぶんぶんと首を振る。そしてそれを忘れようと窓の外に目をやる。
アドフィル帝国の現皇帝は、邪魔になる者すべて殺し、玉座に座った男で、アドフィル帝国は前皇帝の時には侵略国家だった。
私が知るのはその程度のことで、アドフィル帝国が実際にどういった場所なのかはまったくといっていいほどしらなかった。
そのため、馬車から見える光景に目を見張った。帝都はここまで通ってきた国とは違い、とても賑わっている。
大勢の人々が行き交い、露店を広げている商人の呼び声が馬車の中にまで聞こえてきそうなほどだ。
現皇帝が血に濡れた玉座に座ってから、まだ三年しか経っていない。新たな暴君の登場に怯えていても不思議ではないのに、そんな気配は微塵も感じられない。
もしかしたら、誰が頂点になろうと人々の生活は変わらないのかもしれない。
そう思ってしまうほど、行き交う人々の表情は明るかった。
「陛下は玉座の間でお待ちしております」
外の風景を眺めていると、城に到着した。
ヴィルヘルムさんの手を借りて馬車を降りる。アドフィル帝国のお城は、天使を始祖に持つ王様が使っていたものをそのまま使っているようだ。城の壁に羽のような紋章が刻まれている。白い壁も、羽をイメージしているのかもしれない。
エイシュケル王国の城壁も、同じように紋章が刻まれていたのだろうか。じっくりと眺める暇なんてなかったので、外から見てどんな風に見えるのかを私は知らない。
思わず見惚れていると、ヴィルヘルムさんに急ぐようにと声をかけられた。
慌ててヴィルヘルムさんの後を追い、城内に入る。
「陛下は大変気難しく、お忙しい方です。心を広くもっていただければと思います」
そして玉座の間に向かう道中で、ヴィルヘルムさんは皇帝取り扱い説明なるものを話してくれた。
まず、気難しいので余計なことはあまり言わないように。
次に、忙しいのであまり顔を合わせられなくても気にしないように。
さらに、好き嫌いはとくにないので好みなどは聞かないように。
他にも、人に触れられるのはあまり好まないので気をつけるように、などなど。
「わかりましたか?」
「はい!」
つまり、それとは逆のことをすればいいということだ。
「ところで……」
ちらりとヴィルヘルムさんの目がこちらを向く。どこか言いにくそうにしている様に首を傾げていると、ヴィルヘルムさんはこほんと一つ咳払いをした。
「……あなたの髪色は……灰色、ですよね?」
「いえ、銀です」
きっぱりと言い切ると、ヴィルヘルムさんは微妙な顔をした。
ヴィルヘルムさんの微妙な顔が晴れないまま、玉座の間にたどり着く。
そこでようやく、私は自分の夫となった人に会うことができた。
夜の闇を閉じこめたかのような漆黒の髪に、夕焼けのような赤い瞳。肘置きを使って頬杖をついているせいか、どこか気怠そうに見える。
「俺はお前を妃に迎えるつもりはない」
首を垂れる間もなく、氷を思わせる冷たい眼差しに射抜かれ、挨拶すらもなく、拒絶の言葉を向けられた。
アドフィル帝国の現皇帝は、邪魔になる者すべて殺し、玉座に座った男で、アドフィル帝国は前皇帝の時には侵略国家だった。
私が知るのはその程度のことで、アドフィル帝国が実際にどういった場所なのかはまったくといっていいほどしらなかった。
そのため、馬車から見える光景に目を見張った。帝都はここまで通ってきた国とは違い、とても賑わっている。
大勢の人々が行き交い、露店を広げている商人の呼び声が馬車の中にまで聞こえてきそうなほどだ。
現皇帝が血に濡れた玉座に座ってから、まだ三年しか経っていない。新たな暴君の登場に怯えていても不思議ではないのに、そんな気配は微塵も感じられない。
もしかしたら、誰が頂点になろうと人々の生活は変わらないのかもしれない。
そう思ってしまうほど、行き交う人々の表情は明るかった。
「陛下は玉座の間でお待ちしております」
外の風景を眺めていると、城に到着した。
ヴィルヘルムさんの手を借りて馬車を降りる。アドフィル帝国のお城は、天使を始祖に持つ王様が使っていたものをそのまま使っているようだ。城の壁に羽のような紋章が刻まれている。白い壁も、羽をイメージしているのかもしれない。
エイシュケル王国の城壁も、同じように紋章が刻まれていたのだろうか。じっくりと眺める暇なんてなかったので、外から見てどんな風に見えるのかを私は知らない。
思わず見惚れていると、ヴィルヘルムさんに急ぐようにと声をかけられた。
慌ててヴィルヘルムさんの後を追い、城内に入る。
「陛下は大変気難しく、お忙しい方です。心を広くもっていただければと思います」
そして玉座の間に向かう道中で、ヴィルヘルムさんは皇帝取り扱い説明なるものを話してくれた。
まず、気難しいので余計なことはあまり言わないように。
次に、忙しいのであまり顔を合わせられなくても気にしないように。
さらに、好き嫌いはとくにないので好みなどは聞かないように。
他にも、人に触れられるのはあまり好まないので気をつけるように、などなど。
「わかりましたか?」
「はい!」
つまり、それとは逆のことをすればいいということだ。
「ところで……」
ちらりとヴィルヘルムさんの目がこちらを向く。どこか言いにくそうにしている様に首を傾げていると、ヴィルヘルムさんはこほんと一つ咳払いをした。
「……あなたの髪色は……灰色、ですよね?」
「いえ、銀です」
きっぱりと言い切ると、ヴィルヘルムさんは微妙な顔をした。
ヴィルヘルムさんの微妙な顔が晴れないまま、玉座の間にたどり着く。
そこでようやく、私は自分の夫となった人に会うことができた。
夜の闇を閉じこめたかのような漆黒の髪に、夕焼けのような赤い瞳。肘置きを使って頬杖をついているせいか、どこか気怠そうに見える。
「俺はお前を妃に迎えるつもりはない」
首を垂れる間もなく、氷を思わせる冷たい眼差しに射抜かれ、挨拶すらもなく、拒絶の言葉を向けられた。
20
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界からおかえりなさいって言われました。私は長い夢を見ていただけですけれど…でもそう言われるから得た知識で楽しく生きますわ。
まりぃべる
恋愛
私は、アイネル=ツェルテッティンと申します。お父様は、伯爵領の領主でございます。
十歳の、王宮でのガーデンパーティーで、私はどうやら〝お神の戯れ〟に遭ったそうで…。十日ほど意識が戻らなかったみたいです。
私が目覚めると…あれ?私って本当に十歳?何だか長い夢の中でこの世界とは違うものをいろいろと見た気がして…。
伯爵家は、昨年の長雨で経営がギリギリみたいですので、夢の中で見た事を生かそうと思います。
☆全25話です。最後まで出来上がってますので随時更新していきます。読んでもらえると嬉しいです。
【完結】貧乏男爵家のガリ勉令嬢が幸せをつかむまでー平凡顔ですが勉強だけは負けませんー
華抹茶
恋愛
家は貧乏な男爵家の長女、ベティーナ・アルタマンは可愛い弟の学費を捻出するために良いところへ就職しなければならない。そのためには学院をいい成績で卒業することが必須なため、がむしゃらに勉強へ打ち込んできた。
学院始まって最初の試験で1位を取ったことで、入学試験1位、今回の試験で2位へ落ちたコンラート・ブランディスと関わるようになる。容姿端麗、頭脳明晰、家は上級貴族の侯爵家。ご令嬢がこぞって結婚したい大人気のモテ男。そんな人からライバル宣言されてしまって――
ライバルから恋心を抱いていく2人のお話です。12話で完結。(12月31日に完結します)
※以前投稿した、長文短編を加筆修正し分割した物になります。
※R5.2月 コンラート視点の話を追加しました。(全5話)
勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!
エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」
華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。
縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。
そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。
よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!!
「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。
ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、
「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」
と何やら焦っていて。
……まあ細かいことはいいでしょう。
なにせ、その腕、その太もも、その背中。
最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!!
女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。
誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート!
※他サイトに投稿したものを、改稿しています。
目覚めたら魔法の国で、令嬢の中の人でした
エス
恋愛
転生JK×イケメン公爵様の異世界スローラブ
女子高生・高野みつきは、ある日突然、異世界のお嬢様シャルロットになっていた。
過保護すぎる伯爵パパに泣かれ、無愛想なイケメン公爵レオンといきなりお見合いさせられ……あれよあれよとレオンの婚約者に。
公爵家のクセ強ファミリーに囲まれて、能天気王太子リオに振り回されながらも、みつきは少しずつ異世界での居場所を見つけていく。
けれど心の奥では、「本当にシャルロットとして生きていいのか」と悩む日々。そんな彼女の夢に現れた“本物のシャルロット”が、みつきに大切なメッセージを託す──。
これは、異世界でシャルロットとして生きることを託された1人の少女の、葛藤と成長の物語。
イケメン公爵様とのラブも……気づけばちゃんと育ってます(たぶん)
※他サイトに投稿していたものを、改稿しています。
※他サイトにも投稿しています。
至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます
下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。
【完結】断頭台で処刑された悪役王妃の生き直し
有栖多于佳
恋愛
近代ヨーロッパの、ようなある大陸のある帝国王女の物語。
30才で断頭台にかけられた王妃が、次の瞬間3才の自分に戻った。
1度目の世界では盲目的に母を立派な女帝だと思っていたが、よくよく思い起こせば、兄妹間で格差をつけて、お気に入りの子だけ依怙贔屓する毒親だと気づいた。
だいたい帝国は男子継承と決まっていたのをねじ曲げて強欲にも女帝になり、初恋の父との恋も成就させた結果、継承戦争起こし帝国は二つに割ってしまう。王配になった父は人の良いだけで頼りなく、全く人を見る目のないので軍の幹部に登用した者は役に立たない。
そんな両親と早い段階で決別し今度こそ幸せな人生を過ごすのだと、決意を胸に生き直すマリアンナ。
史実に良く似た出来事もあるかもしれませんが、この物語はフィクションです。
世界史の人物と同名が出てきますが、別人です。
全くのフィクションですので、歴史考察はありません。
*あくまでも異世界ヒューマンドラマであり、恋愛あり、残業ありの娯楽小説です。
侯爵令嬢はざまぁ展開より溺愛ルートを選びたい
花月
恋愛
内気なソフィア=ドレスデン侯爵令嬢の婚約者は美貌のナイジェル=エヴァンス公爵閣下だったが、王宮の中庭で美しいセリーヌ嬢を抱きしめているところに遭遇してしまう。
ナイジェル様から婚約破棄を告げられた瞬間、大聖堂の鐘の音と共に身体に異変が――。
あら?目の前にいるのはわたし…?「お前は誰だ!?」叫んだわたしの姿の中身は一体…?
ま、まさかのナイジェル様?何故こんな展開になってしまったの??
そして婚約破棄はどうなるの???
ほんの数時間の魔法――一夜だけの入れ替わりに色々詰め込んだ、ちぐはぐラブコメ。
真面目くさった女はいらないと婚約破棄された伯爵令嬢ですが、王太子様に求婚されました。実はかわいい彼の溺愛っぷりに困っています
綾森れん
恋愛
「リラ・プリマヴェーラ、お前と交わした婚約を破棄させてもらう!」
公爵家主催の夜会にて、リラ・プリマヴェーラ伯爵令嬢はグイード・ブライデン公爵令息から言い渡された。
「お前のような真面目くさった女はいらない!」
ギャンブルに財産を賭ける婚約者の姿に公爵家の将来を憂いたリラは、彼をいさめたのだが逆恨みされて婚約破棄されてしまったのだ。
リラとグイードの婚約は政略結婚であり、そこに愛はなかった。リラは今でも7歳のころ茶会で出会ったアルベルト王子の優しさと可愛らしさを覚えていた。しかしアルベルト王子はそのすぐあとに、毒殺されてしまった。
夜会で恥をさらし、居場所を失った彼女を救ったのは、美しい青年歌手アルカンジェロだった。
心優しいアルカンジェロに惹かれていくリラだが、彼は高い声を保つため、少年時代に残酷な手術を受けた「カストラート(去勢歌手)」と呼ばれる存在。教会は、子孫を残せない彼らに結婚を禁じていた。
禁断の恋に悩むリラのもとへ、父親が新たな婚約話をもってくる。相手の男性は親子ほども歳の離れた下級貴族で子だくさん。数年前に妻を亡くし、後妻に入ってくれる女性を探しているという、悪い条件の相手だった。
望まぬ婚姻を強いられ未来に希望を持てなくなったリラは、アルカンジェロと二人、教会の勢力が及ばない国外へ逃げ出す計画を立てる。
仮面舞踏会の夜、二人の愛は通じ合い、結ばれる。だがアルカンジェロが自身の秘密を打ち明けた。彼の正体は歌手などではなく、十年前に毒殺されたはずのアルベルト王子その人だった。
しかし再び、王権転覆を狙う暗殺者が迫りくる。
これは、愛し合うリラとアルベルト王子が二人で幸せをつかむまでの物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる