毒姫ライラは今日も生きている

木崎優

文字の大きさ
11 / 62

十一話 おかあさま

しおりを挟む
 おかあさま、おかあさま。いつも泣いているおかあさま。

『あなたさえいなければ』

 おかあさまはどうすれば笑ってくれるんだろう。

『あなたなんて産まれてこなければよかったのに』

 泣きわめくおかあさま。
 もうわたしはうまれていて、だけどわたしはおかあさまに泣いてほしくない。

 だから、だから――

『わかりました! がんばってしにますね!』

 そうすれば、おかあさまは笑ってくれますか?


 ふわり、と何かが触れる感触がした。だけど瞼が重くて、ぼんやりとした頭は半分夢の中にいる感じがして、触れられたのが夢のか現実なのかわからない。
 体が浮いて、ふんわりとした雲の上に置かれる。ふわふわの雲は、体を包みこんでくれるようで、暖かい。
 雲の上にいるなんて、きっとこれは夢なのだろう。


 気づいたら、朝になっていた。そして私がいるのは雲の上、ではなくベッドの上だた。

「あれ?」

 きょろきょろと見回してみると、私が寝ていたはずの長椅子が目に入った。
 夢遊病のごとく歩いて移動した、とは思いたくない。そこまで寝相は悪くないはずだ。

「陛下が運んでくれたのかな」

 この部屋を利用するのは、皇帝と私だ。まさかヴィルヘルムさんや侍女が来て運んでくれた、ということはないだろう。
 長椅子で眠る私を見た陛下が指示した可能性はあるけど。

「あとでお礼を言わないと」

 何かをしてもらったらお礼を言いなさい、とお母さまは言っていた。
 どうして私をベッドに運んでくれたのかは不思議だけど、運んでくれたのならお礼はしっかり言わないと。

「おはようございます」

 ふわあ、とあくびをしたところで、礼儀正しい声が扉の向こうから聞こえてきた。

「入ってもよろしいでしょうか」
「あ、はい、どうぞ」

 促すと、扉を開けて入ってきたのは侍女のお仕着せを着た女性だった。彼女は今日、朝食までの間、私の世話をしてくれるらしい。

 朝食は皇帝と食べるそうで、朝の支度が済み次第食堂まで案内してくれるそうだ。
 それ自体は問題ではない。問題なのは、侍女が何から何まで手伝おうとしてくれたことだ。

 私はこれまで、小屋でお母さまと二人で暮らしていた。誰かを従えることなんて慣れていないし、着替えを手伝われることにも慣れていない。
 だから昨日も、私は湯あみから着替えまで手伝おうとしてくれる侍女に、何度も無理です無理ですと言って、自分でできるからと言い張った。

「……王妃様の身の回りのお世話をするのが、私の役目です」

 だけど侍女は頑なで、結局私が折れるしかなかった。人の仕事を奪いたいわけでもなかったから。
 私の持ってきた服――王様が用意してくれた服は簡素なものが多く、小屋から持ってきた服も一人で脱ぎ着できるもので、誰かに手伝ってもらうほどのものではない。

 そこで侍女と張り合った結果、着替えを手渡してもらって、私が自分で着る、ということで落ち着いた。

 馬車での旅の道中では、誰も私の世話を焼こうとはしていなかった。世話役の一人もついたことがないと、騎士さんたちも知っていたからだ。

「まさか、食事も手伝ってもらうとか、ないですよね?」

 食堂まで案内してくれている年若な侍女に話しかけると、彼女はぱちくりと目を瞬かせたあと微笑んだ。

「毒味はありますけど、そこまでではないですね。あ、でも、お貴族様によっては切ってもらう人とかもいるらしいですよ」

 昨晩、私の世話役をしてくれた侍女とは違う。人手不足なため、私の世話は手が空いている人がやることになったらしい。
 そして私を案内してくれている彼女は、若いからか気さくな喋り方をする人だった。

「こちらが食堂です。体調が優れなかったりする際にはお申し付けいただければ部屋まで運びますので、気兼ねなくおっしゃってくださいね」
「はい、わかりました」

 そして厳かな大きな扉を侍女が開けると、中にはこれまた厳かな長テーブルが置かれていた。

「おはようございます」

 石でできたテーブルの奥に座している皇帝に頭を下げて、侍女が引いてくれた椅子に座る。椅子も石でできていて、ひんやりとした感触が伝わってきた。
 長テーブルは本当に大きくて、端と端に座っている皇帝との間にはだいぶ距離がある。だからか、私の挨拶は皇帝に届いていなかったようで、皇帝は黙したまま食事に手をつけはじめた。

 さすがにこれではお礼を言えない。食事が終わってからにしよう。
 そして私は、前に置かれたスープをスプーンですくった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界からおかえりなさいって言われました。私は長い夢を見ていただけですけれど…でもそう言われるから得た知識で楽しく生きますわ。

まりぃべる
恋愛
 私は、アイネル=ツェルテッティンと申します。お父様は、伯爵領の領主でございます。  十歳の、王宮でのガーデンパーティーで、私はどうやら〝お神の戯れ〟に遭ったそうで…。十日ほど意識が戻らなかったみたいです。  私が目覚めると…あれ?私って本当に十歳?何だか長い夢の中でこの世界とは違うものをいろいろと見た気がして…。  伯爵家は、昨年の長雨で経営がギリギリみたいですので、夢の中で見た事を生かそうと思います。 ☆全25話です。最後まで出来上がってますので随時更新していきます。読んでもらえると嬉しいです。

【完結】精霊姫は魔王陛下のかごの中~実家から独立して生きてこうと思ったら就職先の王子様にとろとろに甘やかされています~

吉武 止少
恋愛
ソフィアは小さい頃から孤独な生活を送ってきた。どれほど努力をしても妹ばかりが溺愛され、ないがしろにされる毎日。 ある日「修道院に入れ」と言われたソフィアはついに我慢の限界を迎え、実家を逃げ出す決意を固める。 幼い頃から精霊に愛されてきたソフィアは、祖母のような“精霊の御子”として監視下に置かれないよう身許を隠して王都へ向かう。 仕事を探す中で彼女が出会ったのは、卓越した剣技と鋭利な美貌によって『魔王』と恐れられる第二王子エルネストだった。 精霊に悪戯される体質のエルネストはそれが原因の不調に苦しんでいた。見かねたソフィアは自分がやったとバレないようこっそり精霊を追い払ってあげる。 ソフィアの正体に違和感を覚えたエルネストは監視の意味もかねて彼女に仕事を持ち掛ける。 侍女として雇われると思っていたのに、エルネストが意中の女性を射止めるための『練習相手』にされてしまう。 当て馬扱いかと思っていたが、恋人ごっこをしていくうちにお互いの距離がどんどん縮まっていってーー!? 本編は全42話。執筆を終えており、投稿予約も済ませています。完結保証。 +番外編があります。 11/17 HOTランキング女性向け第2位達成。 11/18~20 HOTランキング女性向け第1位達成。応援ありがとうございます。

追放聖女35歳、拾われ王妃になりました

真曽木トウル
恋愛
王女ルイーズは、両親と王太子だった兄を亡くした20歳から15年間、祖国を“聖女”として統治した。 自分は結婚も即位もすることなく、愛する兄の娘が女王として即位するまで国を守るために……。 ところが兄の娘メアリーと宰相たちの裏切りに遭い、自分が追放されることになってしまう。 とりあえず亡き母の母国に身を寄せようと考えたルイーズだったが、なぜか大学の学友だった他国の王ウィルフレッドが「うちに来い」と迎えに来る。 彼はルイーズが15年前に求婚を断った相手。 聖職者が必要なのかと思いきや、なぜかもう一回求婚されて?? 大人なようで素直じゃない2人の両片想い婚。 ●他作品とは特に世界観のつながりはありません。 ●『小説家になろう』に先行して掲載しております。

【完結】断頭台で処刑された悪役王妃の生き直し

有栖多于佳
恋愛
近代ヨーロッパの、ようなある大陸のある帝国王女の物語。 30才で断頭台にかけられた王妃が、次の瞬間3才の自分に戻った。 1度目の世界では盲目的に母を立派な女帝だと思っていたが、よくよく思い起こせば、兄妹間で格差をつけて、お気に入りの子だけ依怙贔屓する毒親だと気づいた。 だいたい帝国は男子継承と決まっていたのをねじ曲げて強欲にも女帝になり、初恋の父との恋も成就させた結果、継承戦争起こし帝国は二つに割ってしまう。王配になった父は人の良いだけで頼りなく、全く人を見る目のないので軍の幹部に登用した者は役に立たない。 そんな両親と早い段階で決別し今度こそ幸せな人生を過ごすのだと、決意を胸に生き直すマリアンナ。 史実に良く似た出来事もあるかもしれませんが、この物語はフィクションです。 世界史の人物と同名が出てきますが、別人です。 全くのフィクションですので、歴史考察はありません。 *あくまでも異世界ヒューマンドラマであり、恋愛あり、残業ありの娯楽小説です。

東雲の空を行け ~皇妃候補から外れた公爵令嬢の再生~

くる ひなた
恋愛
「あなたは皇妃となり、国母となるのよ」  幼い頃からそう母に言い聞かされて育ったロートリアス公爵家の令嬢ソフィリアは、自分こそが同い年の皇帝ルドヴィークの妻になるのだと信じて疑わなかった。父は長く皇帝家に仕える忠臣中の忠臣。皇帝の母の覚えもめでたく、彼女は名実ともに皇妃最有力候補だったのだ。  ところがその驕りによって、とある少女に対して暴挙に及んだことを理由に、ソフィリアは皇妃候補から外れることになる。  それから八年。母が敷いた軌道から外れて人生を見つめ直したソフィリアは、豪奢なドレスから質素な文官の制服に着替え、皇妃ではなく補佐官として皇帝ルドヴィークの側にいた。  上司と部下として、友人として、さらには密かな思いを互いに抱き始めた頃、隣国から退っ引きならない事情を抱えた公爵令嬢がやってくる。 「ルドヴィーク様、私と結婚してくださいませ」  彼女が執拗にルドヴィークに求婚し始めたことで、ソフィリアも彼との関係に変化を強いられることになっていく…… 『蔦王』より八年後を舞台に、元悪役令嬢ソフィリアと、皇帝家の三男坊である皇帝ルドヴィークの恋の行方を描きます。

【完結】初恋の人に嫁ぐお姫様は毎日が幸せです。

くまい
恋愛
王国の姫であるヴェロニカには忘れられない初恋の人がいた。その人は王族に使える騎士の団長で、幼少期に兄たちに剣術を教えていたのを目撃したヴェロニカはその姿に一目惚れをしてしまった。 だが一国の姫の結婚は、国の政治の道具として見知らぬ国の王子に嫁がされるのが当たり前だった。だからヴェロニカは好きな人の元に嫁ぐことは夢物語だと諦めていた。 そしてヴェロニカが成人を迎えた年、王妃である母にこの中から結婚相手を探しなさいと釣書を渡された。あぁ、ついにこの日が来たのだと覚悟を決めて相手を見定めていると、最後の釣書には初恋の人の名前が。 これは最後のチャンスかもしれない。ヴェロニカは息を大きく吸い込んで叫ぶ。 「私、ヴェロニカ・エッフェンベルガーはアーデルヘルム・シュタインベックに婚約を申し込みます!」 (小説家になろう、カクヨミでも掲載中)

姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚

mio
恋愛
ウェルカ・ティー・バーセリクは侯爵家の二女であるが、母亡き後に侯爵家に嫁いできた義母、転がり込んできた義妹に姉と共に邪魔者扱いされていた。 王家へと嫁ぐ姉について王都に移住したウェルカは侯爵家から離れて、実母の実家へと身を寄せることになった。姉が嫁ぐ中、学園に通いながらウェルカは自分の才能を伸ばしていく。 数年後、多少の問題を抱えつつ姉は懐妊。しかし、出産と同時にその命は尽きてしまう。そして残された息子をウェルカは姉に代わって育てる決意をした。そのためにはなんとしても王宮での地位を確立しなければ! 自分でも考えていたよりだいぶ話数が伸びてしまったため、こちらを姉が子を産むまでの前日譚として本編は別に作っていきたいと思います。申し訳ございません。

悪役令嬢ですが、ヒロインより先に幸せを掴みます

さら
恋愛
悪役令嬢クラリッサ。 断罪の舞台で「檻に戻れ」と迫られた彼女は、俯くことなく毅然と答えた。 ――「わたしは罪人ではありません。檻を拒んだだけです!」 婚約破棄、断罪、そして王太子派の圧力。 幾度も刃を向けられながら、彼女は決して屈しなかった。 支えてくれたのは、冷静で誠実な第二王子レオンハルト。 彼と共に、クラリッサは「悪役令嬢」から「自由の象徴」へと変わっていく。 王太子の権威失墜、残党の策謀、貴族社会の軋轢――数々の試練を乗り越え、 彼女が最後に掴んだのは、誰よりも早い「幸せ」と、愛する人との未来。 ヒロインより先に幸せを掴む、恋愛特化型シンデレラストーリー!

処理中です...