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十六話 毒を作りたい
しおりを挟む「……今ならまだ時間がある。何が聞きたい」
ルーファス陛下はどうやらあまのじゃくな気質のようだ。私の斜め横に椅子を用意させて、そこに腰を下ろしてしまった。
さっきまで立ち去りたいオーラに溢れていたのに。
「え、えーと……それは……」
机に肘を置いて頬杖をつき、こちらを真っ直ぐに見ていることが突き刺さる視線だけでわかる。
私はただただ、視線を机に落とし続けた。
真っ白いテーブルクロスには染み一つなく、木が剥き出しの年季の入った机で食事をしていた日々が懐かしい。
エイシュケル王国を出てからまだそれほど経っていないのに、何故か無性に帰りたくなった。
「……聞きたいことはないのか?」
「はい」
即座にそう返したのは、一刻も早くルーファス陛下に立ち去ってほしかったからだ。今はとにかく、庭園にでも行って毒になりそうな植物を探したい。
「あ、いえ、あります」
だけどすぐに、私の非にならない程度の不敬ではないといけないと思い返す。理由もなく呼び止めて時間を浪費させたのでは、殺されてもどちらもどちらになってしまうかもしれない。
「えぇと、その、少しでもルーファス陛下とお話したいと思って……だから、その……」
私はアドフィル帝国に興味があるわけではない。毒草については知りたいけど、それを直接口にするのは躊躇われる。
だから精一杯理由を捻り出す。
私はまだ嫁いできたばかりの妻だから、夫と二人の時間を過ごしたがるのはおかしくないはずだ。だけど、これでは庭園に行けなくなるかもしれない。
どうすればルーファス陛下を怒らせることができるのか、混乱する頭で必死に考えるけど、答えが見つからない。
「…………お前は、俺と話がしたいのか?」
「いえ、あ、はい」
「生憎、俺はお前を話したいとは思わない」
切り捨てるような声色にほっと胸を撫で下ろす。きっとこれで、殺してはくれないかもしれないけど、立ち去ってくれるはず。
彼がいなくなったらすぐに、私の今日の側仕えに声をかけて、庭園に向かおう。毒を作ることができれば、きっと落ち着けると思うから。
私が今混乱しているのも、日課である毒作りができないせいかもしれないから。
「だが、お前がアドフィルについて知りたいと思ったのはいい傾向だ。今日は俺について回る許可をくれてやろう」
いらないです、と答えることはできなかった。
さっさと席を経つルーファス陛下が扉を開けながら、ついてこいと言うように私を見ていたからだ。
これで断れば悪いのは私のほうだ。こくこくと頷いて、おとなしく後ろをついていくことにした。
そうして廊下に出たのだけど、ルーファス陛下は本当に私を話す気はないようで一言も発さない。どこに向かうのかも聞かされず、私と彼はただ黙々と歩いている。
前を歩くルーファス陛下がちらりともこちらを見ようともしないので、私は視線をあちこちに投げてどうすれば庭園に行けるのかを考える。
先ほどまでのようなざわつきは感じないけど、このままついていけば庭園には行けなくなってしまう。
だけど、庭園に行きたいと呼び止めればきっと、彼は振り返ってまた赤い瞳を真っ直ぐに私に向けるだろう。
胸が締め付けられるような感覚に、私は丁度あった脇道に逸れる廊下に飛びこむ。
ここに来たばかりだから、道に迷ったとでも言えば通じるだろう。後ろをついていくだけなのにどうして迷えるのか聞かれたら、全力でごまかそう。
どこに続くかもわからない廊下を、少しでもルーファス陛下から遠ざかるために走った。
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