毒姫ライラは今日も生きている

木崎優

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二十話 動きやすいのが一番

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 人手不足というのは本当なようだ。こうして城内を一人で歩いていても、誰ともすれ違わない。
 エイシュケル王国では忙しなく動いている侍女や、警備にあたっている騎士、官僚などがそこらへんを歩いていた。

「こっちのほうが落ち着くからいいけど」

 お母さまが寝こんでからはずっと一人で過ごしてきた。
 それでもお母さまに話しかけながら過ごしていたので、いざという時に言葉に詰まることはないけど、どうしても人の多いところは慣れない。

「まあでも、今のうちだけだろうなぁ」

 そのうち、ここも人が溢れる日が来るだろう。城下の賑わいを考えれば、士官してくる者も増えるに違いない。

「……それよりも、今は庭園に行かないと」

 帝国が今後どのように発展していくのかを考えるのは私の役目ではない。
 庭園じゃなくても、毒になりそうなものがどこかにないか探すのが、今の私がやるべきことだ。
 毒の調合をしている時が、一番心が安らぐ。

 そうして当てもなく歩いていた私の目に、一際高い木が飛びこんできた。
 窓の向こうに凛と立つ大樹は緑に色づいた葉を枝にまとわせている。そして、桃色の花が合間合間に咲いていた。

 私の暮らしていた森にはなかった木。

「あれは毒になるかな」

 すべての草花が毒になるわけではない。それでも、少しでも可能性があるのなら手を伸ばさずにはいられない。

 どうにか取ろうと窓を開けて体を乗り出す。

「……駄目かぁ」

 あけど、木の葉の先に指を掠めることすらできない。諦めて体を引き、また当てもなく廊下を歩く。
 階段を見つけた先から降りて、ようやく一階まで降りれたのを確認して、窓から外に出た。扉を探すのが億劫だったからだ。

「なんで、こんなに広いの」

 こぢんまりとした小屋で生活していた身には、あまりにも広すぎる。しかも階段は連続しているわけではなく、一階降りるたびに別の階段を探さないといけなかった。
 幸いなのは、誰とも会わなかったことだ。思わず心配になるほど、城内には誰もいない。

 使われていなさそうな廊下には微妙に埃が被っていたりと、アドフィル帝国の人手不足は尋常じゃなく深刻なようだ。

 ぱちんと頬を叩いて気を取り直し、さっき見た大樹のもとに向かう。
 雄々しく聳える大樹は、木の枝だけでなく花までも高い位置にある。手を伸ばしても届きそうにない距離に、私は袖をまくった。
 木を登るのには慣れている。森でも、毒になる木の実を求めて何度も登った。

 そして引っかかりに足をかけようとして、気づく。

「このドレス、邪魔だなぁ」

 きらびやかなドレスは袖だけでなく、丈も長い。私が持ってきた服はルーファス陛下との朝食にはふさわしくないからと却下され、城にあったドレスを与えられた。
 元は誰が使っていたのかは、考えないことにした。

 ドレスが誰の遺品かはともかく、丈の長いドレスでできるほど、木登りは甘くはない。
 そして毒と羞恥心、どちらが大切かと聞かれれば、私は迷いなく毒を選ぶ。

 即決即断の勢いでドレスを脱ぎ、太ももまでの長さがあるつなぎの肌着姿になってようやく、私はあらためて引っかかりに足をかけた。
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