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二十八話 姫だから
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足を捻らないように注意しないと、なんてレベルの話ではない。
集まる視線に冷や汗が出そうだ。私はこれまで、ここまで注目されたことがない。
エイシュケル城を出入りしていた時も、そこで働く人とすれ違うことはあったけど、大勢の前に立ったことはなかった。
圧倒されそうな人数に、私は自然と唾を飲みこむ。
どうやったら、こんな大勢の前で非になりすぎない失態を冒せるのだろう。非になりすぎる失態を冒す気しかしない。
何もしない、ということはできない。一歩踏み出すだけでも足を挫くかどうかの瀬戸際なのだ。そこまで気を回す余裕はない。
「……そう固くなるな」
頭上から降ってきた声に顔を上げる。何を考えているのかわからない赤い瞳と視線がかち合い、愛想笑いを返す。
王妃にしないと断言したのに、私のお披露目である宴はすっぽかしていないし、まるでこちらを気遣っているようなことを言っている。
だけど気遣っているわけではないと思う。王妃と――妻と認めていない人を気遣う理由がない。
この言葉の真意は何か、必死に頭を巡らせる。そして行き着いたのは、私がお姫様の代わりにこの場にいるということだ。
お姫様は国中から愛されていた。当然、大勢に囲まれることもあっただろう。
私とお姫様が別人であることは伝えたけど、私がどんなふうに育ってきたのかを知っている人はいない。
愛されているお姫様の妹なのだから、私も宴に参加した経験があってしかるべき。そう考えていてもおかしくない。
だからそう、妖精の血をひく姫らしく堂々としていろと、きっとそう言いたいのだろう。
木を登っているところを見られたのだから、私が宴に参加できないほどの深窓の令嬢だとは考えていないと思うので、この推測はあながち間違っていないように思える。
「はい、わかりました」
こくりと頷いて、ぐっと足に力をこめる。
人の目なんて気にしない。堂々と振舞えと言うのなら、堂々と失態を演じるまでだ。
足を捻ったら捻ったで、その時考えよう。
どうせ私は毒を扱う以外は何もできないのだから。
集まる視線に冷や汗が出そうだ。私はこれまで、ここまで注目されたことがない。
エイシュケル城を出入りしていた時も、そこで働く人とすれ違うことはあったけど、大勢の前に立ったことはなかった。
圧倒されそうな人数に、私は自然と唾を飲みこむ。
どうやったら、こんな大勢の前で非になりすぎない失態を冒せるのだろう。非になりすぎる失態を冒す気しかしない。
何もしない、ということはできない。一歩踏み出すだけでも足を挫くかどうかの瀬戸際なのだ。そこまで気を回す余裕はない。
「……そう固くなるな」
頭上から降ってきた声に顔を上げる。何を考えているのかわからない赤い瞳と視線がかち合い、愛想笑いを返す。
王妃にしないと断言したのに、私のお披露目である宴はすっぽかしていないし、まるでこちらを気遣っているようなことを言っている。
だけど気遣っているわけではないと思う。王妃と――妻と認めていない人を気遣う理由がない。
この言葉の真意は何か、必死に頭を巡らせる。そして行き着いたのは、私がお姫様の代わりにこの場にいるということだ。
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だからそう、妖精の血をひく姫らしく堂々としていろと、きっとそう言いたいのだろう。
木を登っているところを見られたのだから、私が宴に参加できないほどの深窓の令嬢だとは考えていないと思うので、この推測はあながち間違っていないように思える。
「はい、わかりました」
こくりと頷いて、ぐっと足に力をこめる。
人の目なんて気にしない。堂々と振舞えと言うのなら、堂々と失態を演じるまでだ。
足を捻ったら捻ったで、その時考えよう。
どうせ私は毒を扱う以外は何もできないのだから。
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