毒姫ライラは今日も生きている

木崎優

文字の大きさ
36 / 62

三十五話 皇帝6

しおりを挟む



「ヴィルヘルム」

 ライラを部屋に帰し、彼女に毒を盛った侍女を牢に入れ、ヴィルヘルムと二人になった部屋の中でルーファスは小さく呟く。

「本当に、あいつが王女で間違いないのか?」

 輝くような髪と色の変わる瞳を持つ彼女がエイシュケルの王女だと言ったのは、ヴィルヘルムだった。 
 森の中で生活していた少女が王女であるというのはにわかには信じがたかったが、特徴からして間違いないと言い張ったのもヴィルヘルムだ。

「色の変わる瞳は、まぎれもなく妖精の血をひく者の特徴です」
「……あいつは王女で、戦争の功労者だ。なのに、どうして死にたがる」

 王族の子は生まれにくい。だから生まれれば大切に育てられるのは当然で、しかも戦争の功労者ともなればよりいっそう大切にされるのは当然のはずだ。
 少なくとも、ルーファスの知る常識の中では。

「昔はどうあれ、今は破格の待遇を受けていると、そう思っていたのが間違いだったのか……?」
「あれだけ頑なに帰ろうとしていなかったんですから、察するべきでしたね。……国では王女とは思えない扱いを受け、妃として嫁ぎ大切にしてもらえるかと思えば認めないだのなんだの言われ……ああ、なんてかわいそうなライラ様。どこにも希望がないと死にたがるのも、しかたないのかもしれませんね」

 やれやれと言わんばかりにため息を落とすヴィルヘルムに、ルーファスは言葉に詰まった。
 ぐうの音も出ないとはまさにこのことだろう。

「とりあえず、許しを乞うところから初めては? 許していただけるかはわかりませんが」
「……あれだけ妻ではない妃ではないと豪語しておきながら、今さら妻として扱えと言うのか」
「ライラ様の御心についた傷を癒すためには、それしかないと思いますが……まあ、プライドが邪魔して嫌だとおっしゃるのでしたらしかたありませんね。女性の扱いに長けた者を何人か見繕い宛がいましょうか。蝶よ花よと扱われれば、陛下のことを忘れて謳歌していただけるかもしれませんし。子は……誰が相手だろうと陛下が我が子だと承認すれば民も納得してくれるでしょう」

 人ならざるものの血をひく者は子ができにくく、多数の伴侶を持つことがどこの国でも認められている。
 それはアドフィルでも変わらず、妖精の血をひくライラが何人もの異性に囲まれていようと、違和感を抱く者はいないだろう。
 そして女性の扱いになど慣れていないルーファスと絆を深めるよりも、女性の扱いに慣れている者のほうがライラの傷を癒すことができるかもしれないというのは、懇切丁寧に説明されずともルーファスも理解している。

「……それは、最終手段だ。彼女が俺を許してくれなければ、それも……視野に入れよう」

 だが理解できるからといって納得できるかといえば、話は別だ。

「では、彼女に謝るのですか?」
「ああ。……これからは妃として扱うと……この国にとって必要な、生きていていい立場なのだと、伝える」
「妻としては?」
「それは……彼女が俺を許してから、考える」

 考えるも何もすでに結婚しているんですが、というヴィルヘルムの軽口を聞き流しながら、ルーファスはどう謝罪するかを考えはじめた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界からおかえりなさいって言われました。私は長い夢を見ていただけですけれど…でもそう言われるから得た知識で楽しく生きますわ。

まりぃべる
恋愛
 私は、アイネル=ツェルテッティンと申します。お父様は、伯爵領の領主でございます。  十歳の、王宮でのガーデンパーティーで、私はどうやら〝お神の戯れ〟に遭ったそうで…。十日ほど意識が戻らなかったみたいです。  私が目覚めると…あれ?私って本当に十歳?何だか長い夢の中でこの世界とは違うものをいろいろと見た気がして…。  伯爵家は、昨年の長雨で経営がギリギリみたいですので、夢の中で見た事を生かそうと思います。 ☆全25話です。最後まで出来上がってますので随時更新していきます。読んでもらえると嬉しいです。

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

【完結】貧乏男爵家のガリ勉令嬢が幸せをつかむまでー平凡顔ですが勉強だけは負けませんー

華抹茶
恋愛
家は貧乏な男爵家の長女、ベティーナ・アルタマンは可愛い弟の学費を捻出するために良いところへ就職しなければならない。そのためには学院をいい成績で卒業することが必須なため、がむしゃらに勉強へ打ち込んできた。 学院始まって最初の試験で1位を取ったことで、入学試験1位、今回の試験で2位へ落ちたコンラート・ブランディスと関わるようになる。容姿端麗、頭脳明晰、家は上級貴族の侯爵家。ご令嬢がこぞって結婚したい大人気のモテ男。そんな人からライバル宣言されてしまって―― ライバルから恋心を抱いていく2人のお話です。12話で完結。(12月31日に完結します) ※以前投稿した、長文短編を加筆修正し分割した物になります。 ※R5.2月 コンラート視点の話を追加しました。(全5話)

追放聖女35歳、拾われ王妃になりました

真曽木トウル
恋愛
王女ルイーズは、両親と王太子だった兄を亡くした20歳から15年間、祖国を“聖女”として統治した。 自分は結婚も即位もすることなく、愛する兄の娘が女王として即位するまで国を守るために……。 ところが兄の娘メアリーと宰相たちの裏切りに遭い、自分が追放されることになってしまう。 とりあえず亡き母の母国に身を寄せようと考えたルイーズだったが、なぜか大学の学友だった他国の王ウィルフレッドが「うちに来い」と迎えに来る。 彼はルイーズが15年前に求婚を断った相手。 聖職者が必要なのかと思いきや、なぜかもう一回求婚されて?? 大人なようで素直じゃない2人の両片想い婚。 ●他作品とは特に世界観のつながりはありません。 ●『小説家になろう』に先行して掲載しております。

あなたの重すぎる愛は私が受け止めます

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のクリスティーヌは、ある日自分が、前世で大好きだった漫画のヒロインに転生している事に気が付く。 だが、彼女が転生したヒロインは、前世で大好きだった悪役令息、アルフレッドを死に追いやった大嫌いなキャラクターだったのだ。自分の顔を見るだけで、殺意が湧くほど憎らしい。 でも… “私は前世で大好きだったアルフレッド様が心から愛した相手。という事は、これからは私が愛するアルフレッド様を全力で愛し抜けばいいのでは? そうよ、私がアルフレッド様を幸せにすればいいのよ! 私を悪役ヒロイン、クリスティーヌに転生させてくれてありがとう!私、絶対にアルフレッド様を幸せにして見せるわ!“ そう心に誓ったクリスティーヌだったが、現実はそう甘くはなくて… 前世の記憶を取り戻したクリスティーヌが、アルフレッドからの重い愛を全力で受け入れつつ、彼を守るため奮闘するお話しです。 ご都合主義全開ですが、どうぞよろしくお願いいたしますm(__)m 他サイトでも同時連載しています。

【完結】愛され令嬢は、死に戻りに気付かない

かまり
恋愛
公爵令嬢エレナは、婚約者の王子と聖女に嵌められて処刑され、死に戻るが、 それを夢だと思い込んだエレナは考えなしに2度目を始めてしまう。 しかし、なぜかループ前とは違うことが起きるため、エレナはやはり夢だったと確信していたが、 結局2度目も王子と聖女に嵌められる最後を迎えてしまった。 3度目の死に戻りでエレナは聖女に勝てるのか? 聖女と婚約しようとした王子の目に、涙が見えた気がしたのはなぜなのか? そもそも、なぜ死に戻ることになったのか? そして、エレナを助けたいと思っているのは誰なのか… 色んな謎に包まれながらも、王子と幸せになるために諦めない、 そんなエレナの逆転勝利物語。

東雲の空を行け ~皇妃候補から外れた公爵令嬢の再生~

くる ひなた
恋愛
「あなたは皇妃となり、国母となるのよ」  幼い頃からそう母に言い聞かされて育ったロートリアス公爵家の令嬢ソフィリアは、自分こそが同い年の皇帝ルドヴィークの妻になるのだと信じて疑わなかった。父は長く皇帝家に仕える忠臣中の忠臣。皇帝の母の覚えもめでたく、彼女は名実ともに皇妃最有力候補だったのだ。  ところがその驕りによって、とある少女に対して暴挙に及んだことを理由に、ソフィリアは皇妃候補から外れることになる。  それから八年。母が敷いた軌道から外れて人生を見つめ直したソフィリアは、豪奢なドレスから質素な文官の制服に着替え、皇妃ではなく補佐官として皇帝ルドヴィークの側にいた。  上司と部下として、友人として、さらには密かな思いを互いに抱き始めた頃、隣国から退っ引きならない事情を抱えた公爵令嬢がやってくる。 「ルドヴィーク様、私と結婚してくださいませ」  彼女が執拗にルドヴィークに求婚し始めたことで、ソフィリアも彼との関係に変化を強いられることになっていく…… 『蔦王』より八年後を舞台に、元悪役令嬢ソフィリアと、皇帝家の三男坊である皇帝ルドヴィークの恋の行方を描きます。

【完結】初恋の人に嫁ぐお姫様は毎日が幸せです。

くまい
恋愛
王国の姫であるヴェロニカには忘れられない初恋の人がいた。その人は王族に使える騎士の団長で、幼少期に兄たちに剣術を教えていたのを目撃したヴェロニカはその姿に一目惚れをしてしまった。 だが一国の姫の結婚は、国の政治の道具として見知らぬ国の王子に嫁がされるのが当たり前だった。だからヴェロニカは好きな人の元に嫁ぐことは夢物語だと諦めていた。 そしてヴェロニカが成人を迎えた年、王妃である母にこの中から結婚相手を探しなさいと釣書を渡された。あぁ、ついにこの日が来たのだと覚悟を決めて相手を見定めていると、最後の釣書には初恋の人の名前が。 これは最後のチャンスかもしれない。ヴェロニカは息を大きく吸い込んで叫ぶ。 「私、ヴェロニカ・エッフェンベルガーはアーデルヘルム・シュタインベックに婚約を申し込みます!」 (小説家になろう、カクヨミでも掲載中)

処理中です...