毒姫ライラは今日も生きている

木崎優

文字の大きさ
37 / 62

三十六話 どうしていきなり

しおりを挟む
 執務室から部屋に帰され、ソファの上をごろごろ転がる。転がれるぐらい広いソファに最初は驚いたし、落ち着かなかったものだ。
 だけど何日も過ごしていれば、転がれる程度には慣れる。大きなベッドではまだ眠れないけど。

「侍女さん大丈夫かなぁ」

 彼女の処遇は検討すると言ってくれたけど、こっそり処理されたら私では知りようがない。
 今度面会でも申請して、生きているか確認しようかとも考えたけど、ルーファス陛下が承諾してくれる図が浮かばない。

「……頑固な人」

 いつまで経っても妻とも妃とも認めないルーファス陛下。
 ――それなのにどうして、殺せと言うななんて言ったのだろうか。

 私を見下ろす赤い瞳を思い出し、ぶんぶんと首を横に振る。勢いがよすぎて頭が少しくらくらしたけど、おかげで赤い瞳のことは頭の中から消えた。

「牢屋の場所はわからないし……勝手に出歩くこともできないし……どうしよう」

 お披露目会からは放置されていたけど、また執務室に連行されても不思議ではない。
 そうなると、勝手に抜け出して城内を散策することもできない。

 年若の侍女がどうなったのか、どうすれば知ることができるのか必死に考える。

 考えすぎて頭が痛くなってきた頃、扉が遠慮がちに叩かれた。

「はーい、どうぞー」

 ソファに突っ伏しながら応えると、扉の開く音が聞こえ――だけど開ききる前に音が止まった。
 ん? と思い、首だけを動かしてそちらを見て、そこにいる人物に頭の中に疑問符が浮かぶ。

「……お前は何をしているんだ」
「ルーファス陛下こそ……なんの用ですか?」

 これまで、ルーファス陛下が私の部屋を訪ねたことはない。執務室に連行されるのは昼食の後なので、いつも食堂からの出発だった。
 部屋に戻るのは侍女に案内され、ルーファス陛下の部屋と繋がっているはずの寝室でも会うことはなく、私的な部屋で彼と会うのはこれが初めてだ。

「お前に……謝りに……」
「謝る?」

 謝られることなんてあっただろうかと首を傾げる私に、ルーファス陛下は扉を開ききり、私のところまで向かってきた。
 そしてソファの前で跪き、赤い瞳に私が映る。

「心ないことを言ってしまったことを……すまなかった。これからは、妃として扱うと約束しよう」
「……どんな心変わりですか」

 一回も妃とも妻とも認めず、お披露目会はくだらないと言って中座し、それなのにどうして今さら妃として扱うなんて言い出すのか。
 謝るのなら首を落としてほしい。

「……お前の立場を考えず、愚かなことをした。今さらだと思われることはわかっている。だが、ここがお前にとって過ごしやすくなるよう……妃として丁重に扱おう」
「お気遣いいただかなくても、大丈夫です」

 妃として丁重にということは、安全も保証されることになる。
 せっかく毒を盛られて、これからじゃんじゃん私を殺しにくる人が現れそうなのに、それでは駄目だ。

「今までのように扱ってください」

 ルーファス陛下が私を妃とも妻とも思っていなくてもかまわない。
 私にとって、そんなことは重要ではないから。

「いや、それでは俺の気がすまん」
「……勝手なことばかり言うんですね」

 棘のある口振りで言うと、ルーファス陛下の眉間にしわが寄る。

「身勝手なことを言っているのはわかっている。だが、これからはお前を妃として扱うから……覚悟しておくことだな」

 そして何故だか脅迫するかのように言って、ルーファス陛下の口元ににやりとした笑みが浮かんだ。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】仕事のための結婚だと聞きましたが?~貧乏令嬢は次期宰相候補に求められる

仙桜可律
恋愛
「もったいないわね……」それがフローラ・ホトレイク伯爵令嬢の口癖だった。社交界では皆が華やかさを競うなかで、彼女の考え方は異端だった。嘲笑されることも多い。 清貧、質素、堅実なんていうのはまだ良いほうで、陰では貧乏くさい、地味だと言われていることもある。 でも、違う見方をすれば合理的で革新的。 彼女の経済観念に興味を示したのは次期宰相候補として名高いラルフ・バリーヤ侯爵令息。王太子の側近でもある。 「まるで雷に打たれたような」と彼は後に語る。 「フローラ嬢と話すとグラッ(価値観)ときてビーン!ときて(閃き)ゾクゾク湧くんです(政策が)」 「当代随一の頭脳を誇るラルフ様、どうなさったのですか(語彙力どうされたのかしら)もったいない……」 仕事のことしか頭にない冷徹眼鏡と無駄使いをすると体調が悪くなる病気(メイド談)にかかった令嬢の話。

【完結】初恋の人に嫁ぐお姫様は毎日が幸せです。

くまい
恋愛
王国の姫であるヴェロニカには忘れられない初恋の人がいた。その人は王族に使える騎士の団長で、幼少期に兄たちに剣術を教えていたのを目撃したヴェロニカはその姿に一目惚れをしてしまった。 だが一国の姫の結婚は、国の政治の道具として見知らぬ国の王子に嫁がされるのが当たり前だった。だからヴェロニカは好きな人の元に嫁ぐことは夢物語だと諦めていた。 そしてヴェロニカが成人を迎えた年、王妃である母にこの中から結婚相手を探しなさいと釣書を渡された。あぁ、ついにこの日が来たのだと覚悟を決めて相手を見定めていると、最後の釣書には初恋の人の名前が。 これは最後のチャンスかもしれない。ヴェロニカは息を大きく吸い込んで叫ぶ。 「私、ヴェロニカ・エッフェンベルガーはアーデルヘルム・シュタインベックに婚約を申し込みます!」 (小説家になろう、カクヨミでも掲載中)

【完結】婚約破棄寸前の悪役令嬢は7年前の姿をしている

五色ひわ
恋愛
 ドラード王国の第二王女、クラウディア・ドラードは正体不明の相手に襲撃されて子供の姿に変えられてしまった。何とか逃げのびたクラウディアは、年齢を偽って孤児院に隠れて暮らしている。  初めて経験する貧しい暮らしに疲れ果てた頃、目の前に現れたのは婚約破棄寸前の婚約者アルフレートだった。

【短編】王太子の婚約破棄で逆ところてん式に弾き出された令嬢は腹黒公爵様の掌の上

あまぞらりゅう
恋愛
王太子の王位継承権剥奪によって、第二王子が王太子に繰り上がった。 王太子の元々の婚約者は残留で、第二王子の婚約者だったディアナ伯爵令嬢は弾き出されてしまう。 そんな彼女に犬猿の仲のアルベルト公爵が求婚してきて……!? ★他サイト様にも投稿しています!

追放聖女の再就職 〜長年仕えた王家からニセモノと追い出されたわたしですが頑張りますね、魔王さま!〜

三崎ちさ
恋愛
メリアは王宮に勤める聖女、だった。 「真なる聖女はこの世に一人、エミリーのみ! お前はニセモノだ!」 ある日突然いきりたった王子から国外追放、そして婚約破棄もオマケのように言い渡される。 「困ったわ、追放されても生きてはいけるけど、どうやってお金を稼ごうかしら」 メリアには病気の両親がいる。王宮で聖女として働いていたのも両親の治療費のためだった。国の外には魔物がウロウロ、しかし聖女として活躍してきたメリアには魔物は大した脅威ではない。ただ心配なことは『お金の稼ぎ方』だけである。 そんな中、メリアはひょんなことから封印されていたはずの魔族と出会い、魔王のもとで働くことになる。 「頑張りますね、魔王さま!」 「……」(かわいい……) 一方、メリアを独断で追放した王子は父の激昂を招いていた。 「メリアを魔族と引き合わせるわけにはいかん!」 国王はメリアと魔族について、何か秘密があるようで……? 即オチ真面目魔王さまと両親のためにお金を稼ぎたい!ニセモノ疑惑聖女のラブコメです。 ※小説家になろうさんにも掲載

噂の悪女が妻になりました

はくまいキャベツ
恋愛
ミラ・イヴァンチスカ。 国王の右腕と言われている宰相を父に持つ彼女は見目麗しく気品溢れる容姿とは裏腹に、父の権力を良い事に贅沢を好み、自分と同等かそれ以上の人間としか付き合わないプライドの塊の様な女だという。 その名前は国中に知れ渡っており、田舎の貧乏貴族ローガン・ウィリアムズの耳にも届いていた。そんな彼に一通の手紙が届く。その手紙にはあの噂の悪女、ミラ・イヴァンチスカとの婚姻を勧める内容が書かれていた。

【完結】恋を忘れた伯爵は、恋を知らない灰かぶり令嬢を拾う

白雨 音
恋愛
男爵令嬢ロザリーンは、母を失って以降、愛を感じた事が無い。 父は人が変わったかの様に冷たくなり、何の前置きも無く再婚してしまった上に、 再婚相手とその娘たちは底意地が悪く、ロザリーンを召使として扱った。 義姉には縁談の打診が来たが、自分はデビュタントさえして貰えない… 疎外感や孤独に苛まれ、何の希望も見出せずにいた。 義姉の婚約パーティの日、ロザリーンは侍女として同行したが、家族の不興を買い、帰路にて置き去りにされてしまう。 パーティで知り合った少年ミゲルの父に助けられ、男爵家に送ると言われるが、 家族を恐れるロザリーンは、自分を彼の館で雇って欲しいと願い出た___  異世界恋愛:短めの長編(全24話) ※魔法要素無し。  《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆ 

【完結】身代わり皇妃は処刑を逃れたい

マロン株式
恋愛
「おまえは前提条件が悪すぎる。皇妃になる前に、離縁してくれ。」 新婚初夜に皇太子に告げられた言葉。 1度目の人生で聖女を害した罪により皇妃となった妹が処刑された。 2度目の人生は妹の代わりに私が皇妃候補として王宮へ行く事になった。 そんな中での離縁の申し出に喜ぶテリアだったがー… 別サイトにて、コミックアラカルト漫画原作大賞最終候補28作品ノミネート

処理中です...