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三十七話 そういえばそんなことも
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聞いてから、すぐに自分の失言に気づく。
誰にも何も、重ねているとしたら一人しかいない。
元々、彼が出した条件は銀髪で妖精眼の持ち主。まごうことなく、お姫様を求めていた。
お姫様はルーファス陛下が来たときにこっそり見たと言っていたけど、こっそり顔を合わせて、こっそり城内を案内していたのかもしれない。
そうと言わなかったのは、私からお父様に告げ口されたら困るから。
こっそり見ただけならともかく、顔を合わせ言葉を交わしたとなれば、ルーファス陛下を嫌っているお父様のことだ。危ないことをするなと、娘を想うがために怒っていただろう。
「聞くまでもありませんでしたね。失礼いたしました」
条件を出したにもかかわらず来たのは私で、ルーファス陛下がなんでこんなものを、と思うのもしかたない。
だけど、今は私を妃として扱うと口にした。どうして心変わりしたのかはわからないけど、妃として扱う以上、馬鹿正直に心のうちを語ってはくれないだろう。
「いや――」
「みなまで言わなくても大丈夫です。わかってますから」
下手な気遣いはいらない。
たとえ何を言われようと、私がすることは変わらないのだから。
「俺は、誰も重ねてなどいない」
だけどルーファス陛下が口を閉ざすことはなかった。
「……私に気を遣っていただかなくても結構です。ルーファス陛下が求めた相手と私が違うことは重々承知してますので」
「俺が誰を求めた、と……?」
「私の姉である薬姫様でしょう? 私は、まあ銀に見ようと思えば見える髪色をしていますが……当初ご指定いただいた銀の髪の姫君とは少々違っているわけですし」
「お前の髪は灰色にしか見えんが……ではなく、俺は最初から誰も求めてなどいない」
「ですが、銀の髪で妖精眼の姫君をご所望であるということで、銀に見えなくもない私が参りました」
沈黙が落ちる。
やはり銀と言い張るのは無理があったか。最低限譲歩して銀に見えなくもないまで落としてみたが、それでも灰色を銀に錯覚させるのは難しかったようだ。
「ヴィルヘルム!」
王様が要望を捻じ曲げたことを気づかれたたかな、と危惧する私をよそに、ルーファス陛下は大きな声でヴィルヘルムさんの名前を呼んだ。
そして少し遅れて、ヴィルヘルムさんがノックの後部屋に入ってくる。どうやら部屋の前で待機していたようだ。
「ご所望とはどういうことだ。俺は誰も望んでなどいなかったぞ」
「私は陛下が所望しているとは言っておりません。私の希望を、陛下が希望したのだと勘違いされたのでしょう」
「宰相の希望だなんて誰も思うわけがないだろう! そもそも、銀髪ってどういうことだ。彼女はどう見ても、灰色の髪だ!」
そこまではっきりと灰色だと言われると、銀色だと言い張っている私が情けなく思えるのでやめてほしい。
「輝くような髪をしていたとおっしゃったのは陛下ではありませんか。エイシュケルの姫君は一人と聞いておりましたが、姫君が増えている可能性も考慮して当てはまりそうな条件を指定したまでです」
「それでまったく知らん誰かが来たらどうするつもりだったんだ!」
心外だと言わんばかりのヴィルヘルムさんに怒鳴るルーファス陛下。
私は当事者であるはずなのに、口を挟む余地がない。
「結果として彼女がいらしたわけで……陛下の悪運が強くて何よりです」
「お前は……はあ、もういい。下がれ」
「それでは失礼いたします。また何かございましたら、いつでも申しつけくださいませ」
ルーファス陛下がため息と共に手を振ると、ヴィルヘルムさんは一礼して、涼しい顔を崩すことなく部屋を出た。
いったい今のやり取りはなんだったのだろう。
「……どうやらアドフィルとエイシュケルで認識のずれがあったようだ」
「え、今の話そんな簡単にまとめていいんですか」
「どうせ何を言ったところで平行線だ……ヴィルヘルムのことは一旦横に置いておけ。お前の先ほどの話だが……俺は妃の条件など出していない」
「でも、薬姫様と会いはしたんですよね。案内がどうのと言ってましたし」
「いや、その薬姫とやらも見てはいない。俺が案内されたのは……」
なぜかそこで口ごもるルーファス陛下。
待つのも飽きて指遊びでもしようかと悩むほどの沈黙が落ちる。
そして本格的に指遊びに興じようと思いはじめた頃ようやく、ルーファス陛下の口が開かれた。
「お前は、忘れているだろうが……俺が案内されたのも、ヴィルヘルムが指定した相手も、お前だ」
ぱちくりと目を瞬かせる。ルーファス陛下の言葉がいまいち飲みこめず首を傾げると、ルーファス陛下は少しだけ視線をそらし、苦笑を浮かべた。
「話すつもりはなかったが……勘違いしたままではお前も過ごしにくいだろう。だからまあ、お前は気兼ねなくここで過ごせばいい」
「私と会ったことが、あるんですか……?」
私は森から出たことがない。
それなのに会ったことがある人なんていただろうか。
考えて考えて、出てきた答えは一つだった。
「森で無様に転がってたハス草の少年!」
「いや、それはそうなんだが……お前、もっとほかに言い方はなかったのか」
誰にも何も、重ねているとしたら一人しかいない。
元々、彼が出した条件は銀髪で妖精眼の持ち主。まごうことなく、お姫様を求めていた。
お姫様はルーファス陛下が来たときにこっそり見たと言っていたけど、こっそり顔を合わせて、こっそり城内を案内していたのかもしれない。
そうと言わなかったのは、私からお父様に告げ口されたら困るから。
こっそり見ただけならともかく、顔を合わせ言葉を交わしたとなれば、ルーファス陛下を嫌っているお父様のことだ。危ないことをするなと、娘を想うがために怒っていただろう。
「聞くまでもありませんでしたね。失礼いたしました」
条件を出したにもかかわらず来たのは私で、ルーファス陛下がなんでこんなものを、と思うのもしかたない。
だけど、今は私を妃として扱うと口にした。どうして心変わりしたのかはわからないけど、妃として扱う以上、馬鹿正直に心のうちを語ってはくれないだろう。
「いや――」
「みなまで言わなくても大丈夫です。わかってますから」
下手な気遣いはいらない。
たとえ何を言われようと、私がすることは変わらないのだから。
「俺は、誰も重ねてなどいない」
だけどルーファス陛下が口を閉ざすことはなかった。
「……私に気を遣っていただかなくても結構です。ルーファス陛下が求めた相手と私が違うことは重々承知してますので」
「俺が誰を求めた、と……?」
「私の姉である薬姫様でしょう? 私は、まあ銀に見ようと思えば見える髪色をしていますが……当初ご指定いただいた銀の髪の姫君とは少々違っているわけですし」
「お前の髪は灰色にしか見えんが……ではなく、俺は最初から誰も求めてなどいない」
「ですが、銀の髪で妖精眼の姫君をご所望であるということで、銀に見えなくもない私が参りました」
沈黙が落ちる。
やはり銀と言い張るのは無理があったか。最低限譲歩して銀に見えなくもないまで落としてみたが、それでも灰色を銀に錯覚させるのは難しかったようだ。
「ヴィルヘルム!」
王様が要望を捻じ曲げたことを気づかれたたかな、と危惧する私をよそに、ルーファス陛下は大きな声でヴィルヘルムさんの名前を呼んだ。
そして少し遅れて、ヴィルヘルムさんがノックの後部屋に入ってくる。どうやら部屋の前で待機していたようだ。
「ご所望とはどういうことだ。俺は誰も望んでなどいなかったぞ」
「私は陛下が所望しているとは言っておりません。私の希望を、陛下が希望したのだと勘違いされたのでしょう」
「宰相の希望だなんて誰も思うわけがないだろう! そもそも、銀髪ってどういうことだ。彼女はどう見ても、灰色の髪だ!」
そこまではっきりと灰色だと言われると、銀色だと言い張っている私が情けなく思えるのでやめてほしい。
「輝くような髪をしていたとおっしゃったのは陛下ではありませんか。エイシュケルの姫君は一人と聞いておりましたが、姫君が増えている可能性も考慮して当てはまりそうな条件を指定したまでです」
「それでまったく知らん誰かが来たらどうするつもりだったんだ!」
心外だと言わんばかりのヴィルヘルムさんに怒鳴るルーファス陛下。
私は当事者であるはずなのに、口を挟む余地がない。
「結果として彼女がいらしたわけで……陛下の悪運が強くて何よりです」
「お前は……はあ、もういい。下がれ」
「それでは失礼いたします。また何かございましたら、いつでも申しつけくださいませ」
ルーファス陛下がため息と共に手を振ると、ヴィルヘルムさんは一礼して、涼しい顔を崩すことなく部屋を出た。
いったい今のやり取りはなんだったのだろう。
「……どうやらアドフィルとエイシュケルで認識のずれがあったようだ」
「え、今の話そんな簡単にまとめていいんですか」
「どうせ何を言ったところで平行線だ……ヴィルヘルムのことは一旦横に置いておけ。お前の先ほどの話だが……俺は妃の条件など出していない」
「でも、薬姫様と会いはしたんですよね。案内がどうのと言ってましたし」
「いや、その薬姫とやらも見てはいない。俺が案内されたのは……」
なぜかそこで口ごもるルーファス陛下。
待つのも飽きて指遊びでもしようかと悩むほどの沈黙が落ちる。
そして本格的に指遊びに興じようと思いはじめた頃ようやく、ルーファス陛下の口が開かれた。
「お前は、忘れているだろうが……俺が案内されたのも、ヴィルヘルムが指定した相手も、お前だ」
ぱちくりと目を瞬かせる。ルーファス陛下の言葉がいまいち飲みこめず首を傾げると、ルーファス陛下は少しだけ視線をそらし、苦笑を浮かべた。
「話すつもりはなかったが……勘違いしたままではお前も過ごしにくいだろう。だからまあ、お前は気兼ねなくここで過ごせばいい」
「私と会ったことが、あるんですか……?」
私は森から出たことがない。
それなのに会ったことがある人なんていただろうか。
考えて考えて、出てきた答えは一つだった。
「森で無様に転がってたハス草の少年!」
「いや、それはそうなんだが……お前、もっとほかに言い方はなかったのか」
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