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第5話 因縁~下編~
第5話 因縁~下~
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健二とマンカラをすることもなく、藍里はそのままアパートを飛び出し、警察署へと向かっていた。
「本当は禁止だが、特別に見せてもらえることになった。全く……何を考えて重本家強盗殺人事件の資料を見るんだろうな…?」
笠村が、渋々と茶封筒を持ってきてくれた。
「ありがとうございます!」
藍里は、それを大事そうに受け取ると、封を解いて中の物を取り出す。
重本が殺された様子と現場の写真を交互に見合わせる。
「…凶器は包丁…らしきもの…?」
「秘書の寿が話をでかくして、包丁と決めつけられてんだ。正確には、らしきものだ。凶器を持ち去られていたから、包丁と確定した訳じゃない。」
笠村の言葉に、頷く藍里。
(それなら………やっぱりもしかしたらこの事件……!)
「あ…関係ねぇかもしれねぇが、噂じゃアイツ、病気持ちだとか言われてたぞ?」
藍里の思考を遮るかのように笠村が思い出して答えた。
「病気?どこか悪かったんですか?」
「さぁ?ただ、現場にあったこの手帳……この中に………ここだ!」
パラパラと証拠品である手帳を捲る笠村は、とある月日を指さした。
殺される2週間前に、赤字で『検査』。下の余白部分には『手術』と書かれていた。
ただ、それだけしか書かれておらず、何の検査かまではわからない…。
「病院もわからない状態か…。…重本さんの家を調べたら何かわかるかも…?」
「…かもな。寿が合鍵を持ってるって言ってたな。だから、あいつが最初に容疑者として上がってたけど、見事に白だった。」
「そうなんですか!?」
「ああ。けど、これ以上は……。」
笠村の言葉は既に遅かった……。
藍里はいつの間にか走り去っていて、そこには散らばった資料だけが虚しく残っていた。
「……片付けておけよな……。」
ポツリとボヤいた笠村は、その資料を纏めると茶封筒の中に丁寧に入れた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
警察署を飛び出した藍里は、寿に連絡して、重本の家の中を調べさせてもらうことになった。
「すみません……どうしても確認したいことがありまして………。」
「いいですけどねぇ。あなた、あの院長の殺人事件の事調べてたのでは?」
「そのために、少し知りたいことができたんです。」
藍里の言葉に、寿はブツブツ言いながら鍵を開けてくれた。
殺害現場という、重本の書斎につくと、藍里は、引き出しの中の物や本棚を調べ始めた。
「これか!?」
ドレッサーの1番下のタンスを引き出して、その中にその紙を広げた藍里は思わず声を上げた。
「……検査結果…じゃないな。…何かの注意事項……?」
それを広げた藍里はため息をついながらその紙をよく見てみる。
医療関係であるのは間違いないらしいのが、直ぐにわかった。
「これって…!………まさか、そういう事……!?」
藍里の中で、欠けた1つのピースが当てはまった。この事件の真相に気づいたのだ。その真相に目を見開き、思わずその場にガクンと膝をついた………。
「そういう事だったんだ…。犯人は、間違いなくあの人だ…!そして、取り返しのつかないミスを犯してる……!」
彼はそれにまだ気づいてない……。
それも、かなり残酷なことを………。
伝えなければならない………。
相手の反応を考えるとやりきれない気持ちになった藍里はそのまま天井を仰いだ……。
~榊原の自宅~
藍里は目の前に立っている、気だるそうな榊原をジッと見据える。藍里の後ろには、依頼をした輝と、知らせを受けた稲垣たちも駆けつけていた。
「単刀直入に言います。今回の院長殺害事件……あなたが犯人ですね?」
「……証拠はあるのか?」
ぶっきらぼうにそう答える榊原。しかし、藍里は、的確に答える。
「……あなたは私たちに会うとき、文房具用のはさみを包丁の代わりにして、人参を切っていました。包丁は、どうされたのですか?」
「はぁ…。嬢ちゃんよぉ、俺のこのなり見てくれればわかるだろ。そんなの買う余裕ねぇよ。」
「いいえ。あなたは少なからず、1本は持っていました。それが、アナタが見せてくださった、娘さんとあなたの写真にあります。」
「……。」
「この写真の中のアナタ……林檎をちゃんと包丁で切っています。つまり、この時から包丁は、あるにはあったんです。ですが、今となっては、何らかの理由で無くなってしまった。」
「……あー…………見落としちまってたなぁ……。」
頭をボリボリと掻いた榊原。
どうやらあっさりと認めたらしい。
「……随分と………あっさりですね……。」
沸々と込み上げる怒りを必死に抑えながら、拳を震わせた輝は、榊原を睨みつけながら呟いた。
それに対し、変わらぬ態度で榊原は答える。
「有名な藍色の探偵と、知恵比べで勝てる訳ねぇ。いつかはばれるとは思ってたよ。」
「なぜだ!!なぜ、父さんの親友を殺した!!」
怒鳴り声に驚いたのか、榊原は目を見開く。
「…おまえさん。アイツの親友の息子さんだったのかい。…なら、教えてやるよ。あいつはな?娘を見殺しにしたんだよ。」
「見殺しだと…!そんな事は!!」
「輝!!落ち着いて!!」
食ってかかるような勢いの輝を止めた藍里は、榊原の方に向き直るとさらに続けた。
「…娘さんの病名は………白血病ですね?」
「知ってたのか?」
「…写真に写ってる娘さん……ニット帽をかぶってるけど、髪の毛がない…抗がん剤を打たれてる証拠です。…まぁ。それだけではないんですがね……。」
白血病とわかった理由のもうひとつ………。
だが、まだそれを言ってはいけない。
「そうだ。娘は白血病だった。ドナーは見つかってた。だが、あいつは金をそろえたら急にできなくなったと言い出した…!理由も教えず、そのまま手術せずに、娘を見殺しにしたんだ!!!殺したくもなるだろ!!!」
徐々に口調を強くした榊原は、釣り上げて怒りを露わにした。
輝が、それに我慢できなくなったのか、負けじと前に出てきたが、それをすぐに藍里が止める。
「…!藍里!」
「頭に血が上ると冷静を失うのは輝の悪いところ……落ち着いて。」
「落ち着けるか!!アイツは!」
「……落ち着いて。それに、まだ私の推理は終わってない。」
厳しい目で言われた輝はその言葉に、やっと口を閉ざす。
藍里は榊原の方に向き直ると、ゆっくりと訪ねる。
「………重本 宗四朗の強盗殺人の犯人もあなたですね?」
「………この際だから認めてやる。そうだよ。俺だよ……娘の手術費用のために仕方なしにやったんだ!!
……重本を殺すつもりはなかった。金品を奪うだけでよかった…。
けど、重本に見つかって、通報されると思った…!」
「…アナタは、重本さん殺害の時は包丁を使った。そのときは持ち出しに成功したけど、今回の事件はそうにはいかなかった。
思った以上に深く突き刺さってしまい、抜けなくなったところかな?」
藍里の言葉に、榊原は頷いた。
(ここら辺かな?伝えないと……。)
藍里が握っている真実。
それを、ここで言わなければ、彼は誤解したままになる。
今だからこそ伝えないといけないのだ。
「…酷な事は重々承知の上でお伝えします……。確かに、貴方にとってはそう感じられるかもしれません。……ですが、今回の事件…………実は、娘を殺したのも、あなたのような物なのです。」
藍里の言葉に、榊原は首を傾げた。
【藍里の推理】
重本さんの手帳には、なんのとは書いてないけど、余白の部分に『手術』と書かれていた。
前の日には検査と書かれています。
彼は何を思ったのか、骨髄バンクという、骨髄移植が必要な人のための登録を行っていた。それが、この『検査』。
そして、それ以降に書かれた下の余白の手術…適合者になったのでしょう。そのため、日にちは未定だけど、手術は決まっていたみたいです。
ところが、ある日………あなたによって殺されてしまった………。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「これが、重本の部屋にあった検査の書類です。骨髄バンク登録にあたりの書類です。……もう、分かったんじゃないでしょうか?どういう事なのか………。」
重本の書斎で見つけた書類を見せながら確認する藍里。
「ま………さか……!」
榊原は、絶望に染まった瞳をして、声を震わせた。
ようやく、わかったんだ………。
わかってしまったのだ………。
つまり、院長が、手術ができないと言った理由は………。
適合者が死んでしまったから………。
その犯人は、娘の骨髄移植のためにお金を用意しようと強盗を働いた…………。
「う…………あ……………
ウァアアアァアアアァァァアアアアーーーーーッ!!!!」
榊原は、手をつき、声の限り泣き叫んだ……
院長が、そのことを言えなかった理由…
プライバシーの侵害にも関わるからだ。
亡くなられたとはいえ、病院側としては、そのことを軽々しく口にはできなかった。
榊原は、父親として、娘を助けようとして、犯罪に手を染めた。しかし、その結果、娘を死なせてしまうという…………
悲しい結末になってしまったのだ……。
「まりな……!!ごめん……!ごめんなぁあ………!父ちゃんのせいで………!!父ちゃん………馬鹿なことを…………!!うわぁああぁああ…!!!」
ボロボロと涙を流し、声の限りに娘に謝罪する榊原。
その様子を、静かに見守っていたのは落ち着きを取り戻した輝と、ずっとそれを見守っていた稲垣達であった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
翌日。
2月の冷たく強い風が吹き抜けるなか、新聞配達のバイトから家に戻ると、健二が携帯で英語を使って何やら話していた。
「………all right. I'll arrive soon.」
携帯を切り、ため息をつく健二。
「どうしたの?」
「ん?取引先との交渉で僕が立ち会わないと厳しい状態なんだって。だから、もうアメリカに戻らないと………。」
「これまた急だね……。」
「もう行かないといけないし、そのまま兄貴達の墓参りに行くよ。藍里ちゃん。お墓参りに付き合って?」
「ああ…。」
そういえば、お墓参りに行こうと約束していたという事を、事件のせいで藍里は今の今まですっかり忘れてた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
墓の場所はうっすら覚えてるけど、念のためついてきて!と言っていたにも関わらず、健二はしっかりと覚えていた…。
藍里の両親の墓石の前で、健二は手を合わせる…。
「…兄貴………遅れてごめん………。」
切なそうに笑った健二は、そう呟く。
いつもは明るく、お調子者の健二だが、この時だけは、とても静かでまさしく『大人』であった。
「そうそう。藍里ちゃん。これ。」
そう言った健二は、ポケットから小さな小箱を取り出して藍里に手渡した。
「…なに?それ。」
「来月の23日、誕生日でしょ?早いけど、プレゼント。」
だいたい、会いに行けないからね。
と、付け加えた健二。
藍里は、それを受け取る。
「…ありがと。見てもいい?」
「むしろ、見てほしい。喜ぶかわからないけど、たぶん喜ぶ!」
自信ありげに答えた健二。藍里は、水色のリボンを解くと、パカッと箱のふたを開ける。
「……うわぁ……。」
思わず声を漏らした。
中に入っていたのは、シルバーでヒオウガイをかたどったペンダントが入っていた。表面には、真珠のようなものを半分に切った石がはめられていた。とてもオシャレである。
「あ。これ、ロケットペンダントなんだ。」
手に取ってよく見てみると、横の方に2枚重なっているのがわかり、そこに爪を食い込ませて開けてみる。
パチッと音がしたかと思うと、それはゆっくりと開かれる。
中には既に写真が入っていて、藍里をさらに驚かせるには充分な物だった。
自分と同じ藍色の髪の男性と、栗色の髪をした女性。真ん中には、父親と同じように藍色の髪の毛を二つに縛った、幼い女の子が写っていた。
「……これ、父さんと母さん…?」
「うん。ごめんね。その写真……渡そうと思ってたけど、まだ幼かった藍里ちゃんに渡そうにもなかなか日本に来れなかったし、写真だけじゃ、味気ないと思ったからね。いろいろ考えてたら遅くなっちゃった。」
「……ありがとう。大事にする。」
唯一の家族の繋がりができた……そう感じた藍里は、今にも泣きそうな感情を必死にこらえて、目の前に立っている、叔父を見て答えた。
「…それじゃあ、僕はそろそろアメリカに行くよ。…また、帰ってくるから、ね?」
ヘラリと笑った健二に、藍里は、大きく頷く。
そして、健二はバッグを肩から背負うと、手をひらりと振って出口の方へまっすぐと歩き出した。
健二から貰った、ロケットペンダントを大事に握りしめたまま、藍里はその背中を見えなくなるまで見送った……。
続く
「本当は禁止だが、特別に見せてもらえることになった。全く……何を考えて重本家強盗殺人事件の資料を見るんだろうな…?」
笠村が、渋々と茶封筒を持ってきてくれた。
「ありがとうございます!」
藍里は、それを大事そうに受け取ると、封を解いて中の物を取り出す。
重本が殺された様子と現場の写真を交互に見合わせる。
「…凶器は包丁…らしきもの…?」
「秘書の寿が話をでかくして、包丁と決めつけられてんだ。正確には、らしきものだ。凶器を持ち去られていたから、包丁と確定した訳じゃない。」
笠村の言葉に、頷く藍里。
(それなら………やっぱりもしかしたらこの事件……!)
「あ…関係ねぇかもしれねぇが、噂じゃアイツ、病気持ちだとか言われてたぞ?」
藍里の思考を遮るかのように笠村が思い出して答えた。
「病気?どこか悪かったんですか?」
「さぁ?ただ、現場にあったこの手帳……この中に………ここだ!」
パラパラと証拠品である手帳を捲る笠村は、とある月日を指さした。
殺される2週間前に、赤字で『検査』。下の余白部分には『手術』と書かれていた。
ただ、それだけしか書かれておらず、何の検査かまではわからない…。
「病院もわからない状態か…。…重本さんの家を調べたら何かわかるかも…?」
「…かもな。寿が合鍵を持ってるって言ってたな。だから、あいつが最初に容疑者として上がってたけど、見事に白だった。」
「そうなんですか!?」
「ああ。けど、これ以上は……。」
笠村の言葉は既に遅かった……。
藍里はいつの間にか走り去っていて、そこには散らばった資料だけが虚しく残っていた。
「……片付けておけよな……。」
ポツリとボヤいた笠村は、その資料を纏めると茶封筒の中に丁寧に入れた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
警察署を飛び出した藍里は、寿に連絡して、重本の家の中を調べさせてもらうことになった。
「すみません……どうしても確認したいことがありまして………。」
「いいですけどねぇ。あなた、あの院長の殺人事件の事調べてたのでは?」
「そのために、少し知りたいことができたんです。」
藍里の言葉に、寿はブツブツ言いながら鍵を開けてくれた。
殺害現場という、重本の書斎につくと、藍里は、引き出しの中の物や本棚を調べ始めた。
「これか!?」
ドレッサーの1番下のタンスを引き出して、その中にその紙を広げた藍里は思わず声を上げた。
「……検査結果…じゃないな。…何かの注意事項……?」
それを広げた藍里はため息をついながらその紙をよく見てみる。
医療関係であるのは間違いないらしいのが、直ぐにわかった。
「これって…!………まさか、そういう事……!?」
藍里の中で、欠けた1つのピースが当てはまった。この事件の真相に気づいたのだ。その真相に目を見開き、思わずその場にガクンと膝をついた………。
「そういう事だったんだ…。犯人は、間違いなくあの人だ…!そして、取り返しのつかないミスを犯してる……!」
彼はそれにまだ気づいてない……。
それも、かなり残酷なことを………。
伝えなければならない………。
相手の反応を考えるとやりきれない気持ちになった藍里はそのまま天井を仰いだ……。
~榊原の自宅~
藍里は目の前に立っている、気だるそうな榊原をジッと見据える。藍里の後ろには、依頼をした輝と、知らせを受けた稲垣たちも駆けつけていた。
「単刀直入に言います。今回の院長殺害事件……あなたが犯人ですね?」
「……証拠はあるのか?」
ぶっきらぼうにそう答える榊原。しかし、藍里は、的確に答える。
「……あなたは私たちに会うとき、文房具用のはさみを包丁の代わりにして、人参を切っていました。包丁は、どうされたのですか?」
「はぁ…。嬢ちゃんよぉ、俺のこのなり見てくれればわかるだろ。そんなの買う余裕ねぇよ。」
「いいえ。あなたは少なからず、1本は持っていました。それが、アナタが見せてくださった、娘さんとあなたの写真にあります。」
「……。」
「この写真の中のアナタ……林檎をちゃんと包丁で切っています。つまり、この時から包丁は、あるにはあったんです。ですが、今となっては、何らかの理由で無くなってしまった。」
「……あー…………見落としちまってたなぁ……。」
頭をボリボリと掻いた榊原。
どうやらあっさりと認めたらしい。
「……随分と………あっさりですね……。」
沸々と込み上げる怒りを必死に抑えながら、拳を震わせた輝は、榊原を睨みつけながら呟いた。
それに対し、変わらぬ態度で榊原は答える。
「有名な藍色の探偵と、知恵比べで勝てる訳ねぇ。いつかはばれるとは思ってたよ。」
「なぜだ!!なぜ、父さんの親友を殺した!!」
怒鳴り声に驚いたのか、榊原は目を見開く。
「…おまえさん。アイツの親友の息子さんだったのかい。…なら、教えてやるよ。あいつはな?娘を見殺しにしたんだよ。」
「見殺しだと…!そんな事は!!」
「輝!!落ち着いて!!」
食ってかかるような勢いの輝を止めた藍里は、榊原の方に向き直るとさらに続けた。
「…娘さんの病名は………白血病ですね?」
「知ってたのか?」
「…写真に写ってる娘さん……ニット帽をかぶってるけど、髪の毛がない…抗がん剤を打たれてる証拠です。…まぁ。それだけではないんですがね……。」
白血病とわかった理由のもうひとつ………。
だが、まだそれを言ってはいけない。
「そうだ。娘は白血病だった。ドナーは見つかってた。だが、あいつは金をそろえたら急にできなくなったと言い出した…!理由も教えず、そのまま手術せずに、娘を見殺しにしたんだ!!!殺したくもなるだろ!!!」
徐々に口調を強くした榊原は、釣り上げて怒りを露わにした。
輝が、それに我慢できなくなったのか、負けじと前に出てきたが、それをすぐに藍里が止める。
「…!藍里!」
「頭に血が上ると冷静を失うのは輝の悪いところ……落ち着いて。」
「落ち着けるか!!アイツは!」
「……落ち着いて。それに、まだ私の推理は終わってない。」
厳しい目で言われた輝はその言葉に、やっと口を閉ざす。
藍里は榊原の方に向き直ると、ゆっくりと訪ねる。
「………重本 宗四朗の強盗殺人の犯人もあなたですね?」
「………この際だから認めてやる。そうだよ。俺だよ……娘の手術費用のために仕方なしにやったんだ!!
……重本を殺すつもりはなかった。金品を奪うだけでよかった…。
けど、重本に見つかって、通報されると思った…!」
「…アナタは、重本さん殺害の時は包丁を使った。そのときは持ち出しに成功したけど、今回の事件はそうにはいかなかった。
思った以上に深く突き刺さってしまい、抜けなくなったところかな?」
藍里の言葉に、榊原は頷いた。
(ここら辺かな?伝えないと……。)
藍里が握っている真実。
それを、ここで言わなければ、彼は誤解したままになる。
今だからこそ伝えないといけないのだ。
「…酷な事は重々承知の上でお伝えします……。確かに、貴方にとってはそう感じられるかもしれません。……ですが、今回の事件…………実は、娘を殺したのも、あなたのような物なのです。」
藍里の言葉に、榊原は首を傾げた。
【藍里の推理】
重本さんの手帳には、なんのとは書いてないけど、余白の部分に『手術』と書かれていた。
前の日には検査と書かれています。
彼は何を思ったのか、骨髄バンクという、骨髄移植が必要な人のための登録を行っていた。それが、この『検査』。
そして、それ以降に書かれた下の余白の手術…適合者になったのでしょう。そのため、日にちは未定だけど、手術は決まっていたみたいです。
ところが、ある日………あなたによって殺されてしまった………。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「これが、重本の部屋にあった検査の書類です。骨髄バンク登録にあたりの書類です。……もう、分かったんじゃないでしょうか?どういう事なのか………。」
重本の書斎で見つけた書類を見せながら確認する藍里。
「ま………さか……!」
榊原は、絶望に染まった瞳をして、声を震わせた。
ようやく、わかったんだ………。
わかってしまったのだ………。
つまり、院長が、手術ができないと言った理由は………。
適合者が死んでしまったから………。
その犯人は、娘の骨髄移植のためにお金を用意しようと強盗を働いた…………。
「う…………あ……………
ウァアアアァアアアァァァアアアアーーーーーッ!!!!」
榊原は、手をつき、声の限り泣き叫んだ……
院長が、そのことを言えなかった理由…
プライバシーの侵害にも関わるからだ。
亡くなられたとはいえ、病院側としては、そのことを軽々しく口にはできなかった。
榊原は、父親として、娘を助けようとして、犯罪に手を染めた。しかし、その結果、娘を死なせてしまうという…………
悲しい結末になってしまったのだ……。
「まりな……!!ごめん……!ごめんなぁあ………!父ちゃんのせいで………!!父ちゃん………馬鹿なことを…………!!うわぁああぁああ…!!!」
ボロボロと涙を流し、声の限りに娘に謝罪する榊原。
その様子を、静かに見守っていたのは落ち着きを取り戻した輝と、ずっとそれを見守っていた稲垣達であった。
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翌日。
2月の冷たく強い風が吹き抜けるなか、新聞配達のバイトから家に戻ると、健二が携帯で英語を使って何やら話していた。
「………all right. I'll arrive soon.」
携帯を切り、ため息をつく健二。
「どうしたの?」
「ん?取引先との交渉で僕が立ち会わないと厳しい状態なんだって。だから、もうアメリカに戻らないと………。」
「これまた急だね……。」
「もう行かないといけないし、そのまま兄貴達の墓参りに行くよ。藍里ちゃん。お墓参りに付き合って?」
「ああ…。」
そういえば、お墓参りに行こうと約束していたという事を、事件のせいで藍里は今の今まですっかり忘れてた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
墓の場所はうっすら覚えてるけど、念のためついてきて!と言っていたにも関わらず、健二はしっかりと覚えていた…。
藍里の両親の墓石の前で、健二は手を合わせる…。
「…兄貴………遅れてごめん………。」
切なそうに笑った健二は、そう呟く。
いつもは明るく、お調子者の健二だが、この時だけは、とても静かでまさしく『大人』であった。
「そうそう。藍里ちゃん。これ。」
そう言った健二は、ポケットから小さな小箱を取り出して藍里に手渡した。
「…なに?それ。」
「来月の23日、誕生日でしょ?早いけど、プレゼント。」
だいたい、会いに行けないからね。
と、付け加えた健二。
藍里は、それを受け取る。
「…ありがと。見てもいい?」
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自信ありげに答えた健二。藍里は、水色のリボンを解くと、パカッと箱のふたを開ける。
「……うわぁ……。」
思わず声を漏らした。
中に入っていたのは、シルバーでヒオウガイをかたどったペンダントが入っていた。表面には、真珠のようなものを半分に切った石がはめられていた。とてもオシャレである。
「あ。これ、ロケットペンダントなんだ。」
手に取ってよく見てみると、横の方に2枚重なっているのがわかり、そこに爪を食い込ませて開けてみる。
パチッと音がしたかと思うと、それはゆっくりと開かれる。
中には既に写真が入っていて、藍里をさらに驚かせるには充分な物だった。
自分と同じ藍色の髪の男性と、栗色の髪をした女性。真ん中には、父親と同じように藍色の髪の毛を二つに縛った、幼い女の子が写っていた。
「……これ、父さんと母さん…?」
「うん。ごめんね。その写真……渡そうと思ってたけど、まだ幼かった藍里ちゃんに渡そうにもなかなか日本に来れなかったし、写真だけじゃ、味気ないと思ったからね。いろいろ考えてたら遅くなっちゃった。」
「……ありがとう。大事にする。」
唯一の家族の繋がりができた……そう感じた藍里は、今にも泣きそうな感情を必死にこらえて、目の前に立っている、叔父を見て答えた。
「…それじゃあ、僕はそろそろアメリカに行くよ。…また、帰ってくるから、ね?」
ヘラリと笑った健二に、藍里は、大きく頷く。
そして、健二はバッグを肩から背負うと、手をひらりと振って出口の方へまっすぐと歩き出した。
健二から貰った、ロケットペンダントを大事に握りしめたまま、藍里はその背中を見えなくなるまで見送った……。
続く
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