森野探偵事務所物語~1~

巳狐斗

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第22話 秘密~展開編~

第22話 秘密~展開編~

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「っ………!」






意識を取り戻した陽菜は、後頭部から走る激痛に呻きながら身じろぐと、そこで両手が後ろ手で縛られている事に初めて気づいた。


状況が飲み込めず、キョロキョロと辺りを見渡してみると、見覚えのない部屋。
殺風景で、木箱がひとつあるくらいであとは何も無い。



いや、強いて言うなら、床には所々黒い跡が残されていた。
それがなんなのかは分からないが、陽菜を恐怖に陥れるにはそれだけでも充分であった。

さらに、その部屋に篭る異臭……。
つい昨日嗅いだことがある、あの臭いだ。
あの光景を思い出し、陽菜はゾワリと体を震わせた。




「お目覚めかな?」




不意に飛んできた声に、『ひっ!』と喉の奥から悲鳴をあげ、ビクリと体を震わせる。
ゆっくりと顔を上げると、目の前に沼井が立っていた。しかし、いつもの雰囲気とは違う…。
冷酷で、生気の灯っていない目をしていた。




その恐ろしい目に、さらに悪寒が走り、言葉が出なくなる陽菜。

そこでようやく思い出した……。





ホテルのことに関して聞き込みをしている最中、急に後ろから誰かに殴られた…。そこからは気を失っていたから、覚えていない。そして気がついたらここにいて怖い顔をした、ホテルのオーナーが目の前にいるという事だ。


ジリッ。と、沼井が陽菜にゆっくりと近づき、持っていたツルハシを構える。
何をする気なのか……。
嫌な予感がした陽菜は、足だけで後ずさる…。




「…あ…………あぁ……来ないで…!」


「なぁに、心配することは無い。1人じゃないからねぇ……。」





含みのある言葉と共に、沼井はツルハシの先端を右側を指し示す。陽菜は体をカタカタと震わせながら目を見開きながら、恐る恐るそちらに視線を移す。
木の床の隙間から、キノコが顔を覗かせていた…。







昨日見た、あのキノコが………。







「あのキノコの下にはね、君と同じような境遇の人が埋められている……。なぁに。痛く感じないように一気にやってあげるから、すぐに終わるさ……!」





沼井が高々とツルハシを掲げる。





「いやぁあ!!!」





陽菜は悲鳴をあげながら何とか避ける………が、急所である頭は何とか無事だったものの、左のふくらはぎにツルハシの片方の先がくい込んだ……。






「うぁあああっ!!!!」



陽菜の悲痛が悲鳴のようにその部屋に響き渡る。




「くそっ!避けたか……やはり、気を失っている間に仕留めておくべきだった!」




ツルハシを陽菜のふくらはぎからズルリと引き抜き、沼井はさらにゆっくりと陽菜に近づく……。

陽菜は、必死に足だけで逃げようとしたが、左のふくらはぎに走る激痛のせいで、上手く逃げられず、あっという間に背中を沼井に足で踏まれて、逃げられなくなってしまった……。


「私には、やらねばならないことがあるのだよ…!ホテル存続の為にもなぁ!!!」





そんな怒鳴り声にも似た声を上げて、沼井は再びツルハシを高く掲げる。
逃げたくても、背中をしっかりと沼井に踏まれて、身動きがとれない。





(もうダメだ…!)




と、観念して顔を背けて、固く目を閉じる陽菜………。












ドカッ!!








………という鈍い音がしたかと思うと、目の前に先程まで沼井に掲げられていたツルハシが、ドス!と陽菜の目の前で床に突き刺さった。



あと数センチずれていたら、間違いなく陽菜の顔…もしくは喉をツルハシが貫通していたであろう…。




沼井は、勢いのあまり床にずしゃ!と突き飛ばされ、尻もちをついているかのような体勢で、目の前の人物を凝視していた。





「な…!お前は…!?」




「隠蔽していただけでも許せないのに、私の友人にまで手をかけようとするなんて……。どんな根性してるんですか。あなたは。」


聞きなれた声に、陽菜はバッと顔を上げる。その人物に、ホッとして安心感からか涙が浮かび上がっていた。



目の前に立っていたのは、藍色の髪の毛をしたヒーロー……………。



友人であり、探偵でもある……







森野藍里…………その人が立っていた。










藍里は、沼井を睨みつけながらツルハシを引っこ抜き、カランと投げ捨てて陽菜の盾になるかのように、立ち塞がった。
 

「ば、ばかな………!何故ここが……!?」


「いや、偶然貴方を見かけましてね。……そんな事よりも、もうここまで来たんだ。もうズバリ言います。…………5人の観光客が失踪した不可解な事件……その犯人は…








あなた方ですね。」







藍里のドスにも似た声に、沼井は目を見開いたが、直ぐにニヤリと笑い、嘲笑いながら口を開く。


「さすがは『藍色の探偵』さんだ。例の事件を解決しただけある。どこで分かったんです?」


「1つは、アレです。」





そう言って、藍里はあるものを指さした。
視線を追うとそこにあったのは、先程沼井が陽菜に見せた、床下から生えているキノコ。
藍里は、険しい表情を変えず、淡々と話し出す。



「偶然、動植物に詳しい人がいましてね。その人から色々と聞きましたよ。あの、アシナガヌメリというキノコについてね。」









~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


朝食後、藍里と哲也が食堂で話している時だ。





「……けど、あの沼井の言葉からすると、矛盾が生じるんだ。」


「矛盾??なに?」



アシナガヌメリと、沼井の言った矛盾………それは………。










―アシナガヌメリは、主に死骸から生えてくる。―












「え……?」




とんでもない言葉に、藍里は目を丸くして声を漏らした。
しかし、哲也は構わずに続ける。


「信じられねぇかもだが、マジだ。アシナガヌメリは、アンモニア分解菌っつーやつで………まぁ、糞や尿もしくは、クロスズメバチの古い巣がそこにありゃ、生えてくるだろうが、あんな所にそれがあるとは思えねぇ。………それと、お前らが見たアレ……………納得できるだろ?」



「そう……だね。………あれ?……あ!!もしかして、沼井さんの言ってることの矛盾って…!!」




藍里が、その先を何を言おうとしたかわかった哲也は「そういうこった。」と腕を組んで答えた。










~~~~~~~~~~~~~~~~~~






「私の言ったこと?」



沼井は、首を傾げた。


「沼井さん。貴方は、哲也の質問である、『看板動物がいるのか?』という質問に、『自分が動物が得意じゃない』と言いました。」



「!!」



藍里の言葉に、沼井の顔色は青くなり、目を見開いていた。



「動物を飼っていたのなら、糞や尿が少なからずあるはず。飼っていないのなら、この倉庫を始めお風呂場や地下室に…………


なぜ、アシナガヌメリが生えているのですか?」




「それは…!」


「言っておきますが、糞や尿を捨てていた。なんて答えは通じませんよ。風呂場に捨てるなんて不自然すぎるし、地下室にあったアシナガヌメリの苗床は、輝が見てくれている!!医者の知識のある輝なら、人の遺体だとすぐに分かる!」

「っ!!」

「さらに、もう1つ………。

おそらく、あなた1人ではこの事件は解決しない。いるはずなんですよ。あなたの犯行やアリバイを成立させるための協力者が……。」




そこで言われて、陽菜はハッと思い出した。



「そういえば、藍ちゃんはさっき、犯人は『あなた方』だって…………もう1人は誰なの……?」



「1人しかいないよ。この事件を担当していて、顧客履歴を個人的に確認することが出来る人物。その人なら、部下になんとでも言える筈………。」






「事件を担当……!?も、もしかして…!」





陽菜が、驚きのあまり声を失う。
そして、藍里の口がゆっくりと開かれる。













「そう。あの人だよ………。」




藍里が、唇を引き結ぶと、言いにくそうに口を開いた。















【事件の真相】


沼井が経営するホテルは、そこそこ繁盛していた。

数年前までは。


数年前から雲隠れに来る観光客が減り、それと同時にホテル継続も怪しくなり、借金も背負う羽目になり、沼井は金銭的にも厳しくなっていた。




そして、ホテルを経営し続ける為に………
彼は、あることを思いついた。



それが、『客の金品を盗む』ということだった。






沼井は、客が留守の間にものを物色して金品を盗んでいた。


しかし、客の足取りや戻ってくる時間まで把握しているわけがなく、運悪く、物色している最中にその部屋の客が帰ってきてしまう時もあった。



だが、沼井もこんなことを想定できなかったほど愚かではない。


物音が聞こえたら、直ぐに壁に隠れて客を待つ。
入ってきた客に予め用意した、クロロフォルムを染み込ませておいたハンカチを手に、客が居間に来るのを待った。



そして、何も知らない客は、沼井にクロロフォルムをかがされる………。







最初の客は、風呂場で犯行に及んだ。








風呂場なら、多少血がついてしまっても、シャワーなどで直ぐに洗い流せると思っていたからだ。


そして、その風呂場の地面に……遺体を隠した………。



しかし、こういう事が起き続けると、いよいよ自分の立場も怪しくなる。


そこで、沼井は1人の人物に手を回した。



『金は払う。だが、そのかわり。私に疑いが向かないようにして欲しい。』

と………。



雇われた彼は、それを了承して彼に疑いが向かないようにした。


顧客名簿に、行方不明者の名前を確認したが、部下達には『ない。』と答え、部下には一切見せなかった。


その間に沼井はその顧客の名前だけを消していたのだ。




そんなことが出来るのはただ1人…………。










外屋敷の上司、磯部だ。





「磯部さんって………外屋敷さんの…!」


絶望的な声を上げる陽菜に、藍里はひとつだけ頷く。




上司である磯部なら、沼井にとって不利になるようなことは伏せることは可能だ。
そして………あの時、外屋敷の腹を掠った銃弾……。

藍里が懸命に探した甲斐もあり、床の隅に転がっていた弾を見つけることが出来、外屋敷に確認してもらうと、確かにその銃弾は磯部の使っているもので間違いないという事だった。



今外屋敷は、磯部には内緒であの部屋にあった遺体を調べ直しているそうだ。








「むむ………それは………。」








「流石………と言うべきですかな?」




沼井が言いかけた所で、階段の方から別の声が聞こえてきた。全員がそちらの方を見ると、コツン………コツン…………と、ゆっくり階段を降りる靴音が聞こえてくる。



そこに現れたのは、外屋敷の上司でもある磯部だった。


誰もが目を丸くする中、磯部は持っていた銃を沼井に向ける……。



「!!?」





沼井がさらに驚いて硬直するのと…







バァン!!!









という発砲音がしたのは、ほぼ同時であった。






「な…………ぜ…………!」






掠れた声を絞り出した沼井は、胸から血を流し、そのままばったりと倒れる…。




目をカッと見開き、体の下からはジワーっと鮮血が流れ出る……。










「なぜ…だと?あの方からの命令だからだ。貴様は、金を支払いもまだだったそうだからな。当然の報いだ。」





磯部は、今度はこちらに銃口を向け始め、藍里は咄嗟に陽菜を庇うように両手を広げ、立ちはだかった。



「さて………探偵さんとやら。どこで私を疑い始めた?事実を知ってしまったんだ。死ぬ前にそれだけは聞かせてもらいたい。」



磯部はクツリと、笑いながら訊ねた。
藍里は、磯部を睨みつけつつゆっくりと口を開いた。



「……貴方は、あの部屋に『荒らされた部屋の様子から、犯人と被害者が争った形跡があった。』と答えました。だけど、その時私と外屋敷さんは、隣の部屋にいたんですよ。」

「……だから?」

「……けど、ここのホテルはそんなに壁が厚くはないんです。私の友人が、壁から遠く離れたところでも、隣の部屋の人の声がしっかりと聞こえていた。それぐらい、ここの壁は薄いんです。」


それくらい聞こえるなら、藍里と外屋敷が2人でいた時に、もしも本当に犯人と被害者が争ったのなら、その声や争う音がしっかりと聞こえるはずなのである。



しかし、聞こえたのは悲鳴だけで、銃声も、言い争いも聞こえなかった。




明らかに矛盾しているのだ。







「…ほぉ。そんな所に気づくとはな。流石と言うべきか。……外見だけではなく……その推理力も父親に似たらしい。」























父親…………に、似た……………?





















磯部の言葉に目を丸くする藍里。






「父親似って……!父さんのことを知ってるんですか!?」






「詳しくは知らん。だが、聞いた話ではあの方のお誘いを断った不届き者だ。」






(あの方のお誘い……あの方って誰のことだ…?不届き者……………どういうこと?)








クラりとする目眩を覚えながら、藍里は呆然と立ちつくしていた……。











父親と母親は、自分が知らないところでなにをやって、何をしていたのか………。




そう、考えていた藍里は油断をしていた。









ダァン!!!











不意に響き渡る破裂音。
そして、自分の腹から伝わる激痛……。








(な……にが……?)







起きたのか。





自分が床に倒れ込んだところで、磯部によって撃たれたのだと、藍里はようやく理解することが出来た。





「藍ちゃん!!」




陽菜が自らの名前を呼ぶが、激痛のせいで声を上げることも、体を動かすことができなかった。こうしてる間にも、磯部はこちらにやって来て、藍里を足で仰向けにさせる。




「あの方に歯向かうものは、女性であろうと容赦はしない。…………天国で、両親と再会でもしてこい……。」










こちらに銃口を向ける磯部。







動くことが出来ない藍里は全てを諦めたかのように、ゆっくりと目を閉じる……。












グッと、磯部が引き金にかけてある人差し指に力を込める。















(父さん………母さん。…………私、そっちに行くかも………………。)




















「だめぇぇえええええええ!!!!!」













陽菜の断末魔と、『ダァン!!!』という銃声が同時に響きわたり、藍里の頬に血の雫が降りかかった……。







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