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番という契約 (2)
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「で、どうする? 俺はここでやって欲しい。でも、学術に戻りたいというのならば、無理強いはしない」
これは超個人的な信念だからな、と長田は言う。
「和泉先生と番うんだろ? それなら、これからのキャリアとプライベートと鑑みて決めろよ。俺としては本気で残ってほしいけど」
こうやってちょいちょい自分の意見を織り込んでくるが、憎めない。
「それなんです。僕は、和泉先生と番うことになると思います。それでも、ここでMRをしても大丈夫なんですか……?」
長田はにやりと笑う。
「馬鹿か? そんな美味しいシチュエーションないだろ。お前が誠心医科大を担当していて、その番が誠心医大ナンバーツーの和泉先生だ。当分うちの会社は安泰だ」
マイナスにはならないらしい。
「ならば、僕もこの仕事を極めていきたいと思います」
「よし決まりだ。でも、本社の医務室の雪屋先生から連絡があったけど、いつも使っていた抑制剤が急に効かなくなったんだって?」
「はい。それで、あんな失態を……」
いまでの先週の金曜の失態と考えると恥ずかしい。
「あまり聞いたことないよな」
「……雪屋先生もそのように仰っていました」
「和泉先生は?」
「和泉先生からはそのあたりは伺っていません。でも先生自身ずっと使っていたヒート抑制剤が突然コントロールが効かなくなっていて……僕をオメガだと認識したと仰っていました」
ふうん、と長田は少し考える。そして、何かを思い立ったようで、ちょっと待っててくれ、とオフィススペースに戻っていった。
そしてしばらくすると、数枚のコピーが入ったファイルを手にしていた。
「あのさ、この資料を、和泉先生に持っていってくれ」
渡されたのは、昨年の日本薬学会総会で配布されていたサマリーのようだった。
朔耶も見る。症例報告のようだ。
「これ……なんですか」
「これは、おそらく運命の番ってやつを科学的に証明した報告書だ」
「は?」
運命の番?
科学的な話にいきなり迷信をぶち込まれたような、違和感しかない。
「お前も読めると思うし、読んでいいぞ。和泉先生なんて、もしかしたら知っているかもしれない。そこにいくつかの症例が出ていてな。これまでコントロールできていたのに、急激に抑制薬が効かなくなり、発情期に突入した例がいつくかある。その患者と番のDNAを検査した結果、HLA型との関係性が示唆された」
HLA型はヒト白血球型抗原といい、簡単にいうと白血球の血液型いわれるものだ。免疫機構として働いており、両親から遺伝的に受け継ぐが、そのパターンは数百万あるとされている。
骨髄移植ではHLAが一致していることが必要だし、臓器移植でもHLA型が適合しているほうが治療成績は良いという。
「男女間であるだろ。この人の匂いが好きとか、ダメとか。それは、このHLA型が関連しているといわれている。有能な子孫を残すために、免疫機構の型がなるべく自分と異なる相手を本能的に探すらしい。アルファとオメガの運命の番もそれと同じような原理らしい」
長田によると、ベータは自分と異なるタイプのHLA型を持つ相手の匂いほどセクシーに感じることなどがあるという。
「おそらくアルファとオメガの繋がりはそれよりも強く共鳴しあうってことなんだろうな。そもそも出会える確率がベータよりも低いから」
なるほど。もしかしたら、和泉と自分はそのHLA型が全く異なるがゆえの運命の番なのかもしれない。だから、互いの香りに惹かれるのか……。
……とまで思ったが、まあどちらでもいいかと朔耶は思った。
「この報告書は数例の話だからな。科学的に証明するには、もっと数を増やして調査する必要があるだろう。でも、HLA型なんて超個人情報に属するようなものだ。難しいだろうな。もともと運命の番なんてものは都市伝説だ迷信だと思われるくらい、ごく稀な話だし、ここまで科学で証明する必要もないだろ。ただ、運命の番云々という話は別として、お前のケースと似てるから、和泉先生には知らせておいたほうがいいと思ってな」
こんな少ない症例報告をよく長田も覚えていたものだと朔耶は思った。
これは超個人的な信念だからな、と長田は言う。
「和泉先生と番うんだろ? それなら、これからのキャリアとプライベートと鑑みて決めろよ。俺としては本気で残ってほしいけど」
こうやってちょいちょい自分の意見を織り込んでくるが、憎めない。
「それなんです。僕は、和泉先生と番うことになると思います。それでも、ここでMRをしても大丈夫なんですか……?」
長田はにやりと笑う。
「馬鹿か? そんな美味しいシチュエーションないだろ。お前が誠心医科大を担当していて、その番が誠心医大ナンバーツーの和泉先生だ。当分うちの会社は安泰だ」
マイナスにはならないらしい。
「ならば、僕もこの仕事を極めていきたいと思います」
「よし決まりだ。でも、本社の医務室の雪屋先生から連絡があったけど、いつも使っていた抑制剤が急に効かなくなったんだって?」
「はい。それで、あんな失態を……」
いまでの先週の金曜の失態と考えると恥ずかしい。
「あまり聞いたことないよな」
「……雪屋先生もそのように仰っていました」
「和泉先生は?」
「和泉先生からはそのあたりは伺っていません。でも先生自身ずっと使っていたヒート抑制剤が突然コントロールが効かなくなっていて……僕をオメガだと認識したと仰っていました」
ふうん、と長田は少し考える。そして、何かを思い立ったようで、ちょっと待っててくれ、とオフィススペースに戻っていった。
そしてしばらくすると、数枚のコピーが入ったファイルを手にしていた。
「あのさ、この資料を、和泉先生に持っていってくれ」
渡されたのは、昨年の日本薬学会総会で配布されていたサマリーのようだった。
朔耶も見る。症例報告のようだ。
「これ……なんですか」
「これは、おそらく運命の番ってやつを科学的に証明した報告書だ」
「は?」
運命の番?
科学的な話にいきなり迷信をぶち込まれたような、違和感しかない。
「お前も読めると思うし、読んでいいぞ。和泉先生なんて、もしかしたら知っているかもしれない。そこにいくつかの症例が出ていてな。これまでコントロールできていたのに、急激に抑制薬が効かなくなり、発情期に突入した例がいつくかある。その患者と番のDNAを検査した結果、HLA型との関係性が示唆された」
HLA型はヒト白血球型抗原といい、簡単にいうと白血球の血液型いわれるものだ。免疫機構として働いており、両親から遺伝的に受け継ぐが、そのパターンは数百万あるとされている。
骨髄移植ではHLAが一致していることが必要だし、臓器移植でもHLA型が適合しているほうが治療成績は良いという。
「男女間であるだろ。この人の匂いが好きとか、ダメとか。それは、このHLA型が関連しているといわれている。有能な子孫を残すために、免疫機構の型がなるべく自分と異なる相手を本能的に探すらしい。アルファとオメガの運命の番もそれと同じような原理らしい」
長田によると、ベータは自分と異なるタイプのHLA型を持つ相手の匂いほどセクシーに感じることなどがあるという。
「おそらくアルファとオメガの繋がりはそれよりも強く共鳴しあうってことなんだろうな。そもそも出会える確率がベータよりも低いから」
なるほど。もしかしたら、和泉と自分はそのHLA型が全く異なるがゆえの運命の番なのかもしれない。だから、互いの香りに惹かれるのか……。
……とまで思ったが、まあどちらでもいいかと朔耶は思った。
「この報告書は数例の話だからな。科学的に証明するには、もっと数を増やして調査する必要があるだろう。でも、HLA型なんて超個人情報に属するようなものだ。難しいだろうな。もともと運命の番なんてものは都市伝説だ迷信だと思われるくらい、ごく稀な話だし、ここまで科学で証明する必要もないだろ。ただ、運命の番云々という話は別として、お前のケースと似てるから、和泉先生には知らせておいたほうがいいと思ってな」
こんな少ない症例報告をよく長田も覚えていたものだと朔耶は思った。
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