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後日譚
番の本質(和泉視点) (2)
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「本日は、昨晩に厚生労働省から発出された安全性情報をお持ちしました」
白衣を纏った和泉に、朔耶はファイルを手渡した。
「弊社の発情抑制剤エムと一部の降圧剤を併用した際に原因不明の肝機能障害が出現されるという報告がここ半年で三件ありましたので、そのような対応となりました」
MRの仕事とは、医師に処方を勧め、そのための資料を集めるだけではない。このような副作用情報の提供も大きな仕事の一つだ。彼はこのようなネガティブ情報の提供にも手を抜かない。
「うちの患者さんでも降圧剤と併用されている方はいるから、精査して経過観察が必要な場合は手配しよう」
「……ありがとうございます」
それにしても、と和泉は思う。
「これ、厚労省から出たの昨晩だよね。よくまあ間に合ったね」
朔耶から手渡されたファイルをめくる。
安全性情報は製薬会社と医療機関から報告された副作用症例を詳細にまとめた冊子だ。必要不可欠な内容は記載されているものの、多忙な医療関係者に読み込む時間などないため、医師や薬剤師が分かりやすいよう、製薬会社では周知のためにサマリーを作ったりしている。必要があれば、患者周知用のリーフレットだって作る。今回は医療関係者が掴みやすいように簡略版を作ってきた。
「あ、それは学術の人間と……」
「また、夜遅くまで手伝ったんだ?」
そう突っ込むと、朔耶は「すみません…」と俯いた。身体の状況を顧みず、仕事をする傾向があり、パートナーとしては気が気では無いのだが。
「降圧剤を使っている患者さんはそもそも数が多いし、うちにはかかっていなくて他科だけにかかっているようなオメガの患者さんにも降圧剤を使っている方はいるだろうから、他の先生にも周知が必要だな。こういう資料は助かるよ」
オメガのフェロモン抑制剤は番が出来る前のオメガが服用すると思われがちだが、番が出来たあと、出産を望まない場合の発情期の軽減や、番を失ったり、そしてさほど多くはないのだろうが、番を作らないオメガは生殖年齢が終わるまで服用する。年齢と共に様々な薬剤と併用されることが多い。
ありがとうございます、と朔耶は頷いた。
「そうだ、今日は何時の予約を入れていたっけ?」
今日の午前の外来担当は和泉である。今日は朔耶が診療予約を入れていることを知っていた。三ヶ月前、朔耶と発情期を共に過ごした後、彼の抑制剤の処方元を和泉に変更したのだ。朔耶はかなり抵抗したが、ほぼ毎日会っているからフェロモン抑制剤の処方に融通が効く、と説得し、無理矢理変更させた。
朔耶とはすでに話し合い、次の発情期は一緒に過ごすと決めている。そのため次の発情期に影響が出ないよう、日常生活には影響が出ないように細心の注意を払った処方をしてきたし、実際に、きめ細かいフェロモン抑制剤の処方が奏功し、彼の体調はその後順調だった。
興味深かったのは、初めて朔耶がこの診察室にやってきたときに携えてきた紹介状だ。
メルト製薬本社の医務室の雪屋医師からのものだったが、打ち出された経過報告といった事務的な内容の他に、手書きの手紙が添えられていた。それが、今後とも末永くよろしくお願いしたいといった、娘を嫁に出す親のような内容だったので思わず笑ってしまった。
朔耶自身が、雪屋に対して今度の主治医と番う予定だと話した結果なのだろう。愛するパートナーは、これまでの主治医にかなり可愛がられていたようだった。
「予約は十一時半です。なので、一度営業所に戻って事務作業を終えてから、伺います」
朔耶はどこか恥ずかしそうにそう答えた。
白衣を纏った和泉に、朔耶はファイルを手渡した。
「弊社の発情抑制剤エムと一部の降圧剤を併用した際に原因不明の肝機能障害が出現されるという報告がここ半年で三件ありましたので、そのような対応となりました」
MRの仕事とは、医師に処方を勧め、そのための資料を集めるだけではない。このような副作用情報の提供も大きな仕事の一つだ。彼はこのようなネガティブ情報の提供にも手を抜かない。
「うちの患者さんでも降圧剤と併用されている方はいるから、精査して経過観察が必要な場合は手配しよう」
「……ありがとうございます」
それにしても、と和泉は思う。
「これ、厚労省から出たの昨晩だよね。よくまあ間に合ったね」
朔耶から手渡されたファイルをめくる。
安全性情報は製薬会社と医療機関から報告された副作用症例を詳細にまとめた冊子だ。必要不可欠な内容は記載されているものの、多忙な医療関係者に読み込む時間などないため、医師や薬剤師が分かりやすいよう、製薬会社では周知のためにサマリーを作ったりしている。必要があれば、患者周知用のリーフレットだって作る。今回は医療関係者が掴みやすいように簡略版を作ってきた。
「あ、それは学術の人間と……」
「また、夜遅くまで手伝ったんだ?」
そう突っ込むと、朔耶は「すみません…」と俯いた。身体の状況を顧みず、仕事をする傾向があり、パートナーとしては気が気では無いのだが。
「降圧剤を使っている患者さんはそもそも数が多いし、うちにはかかっていなくて他科だけにかかっているようなオメガの患者さんにも降圧剤を使っている方はいるだろうから、他の先生にも周知が必要だな。こういう資料は助かるよ」
オメガのフェロモン抑制剤は番が出来る前のオメガが服用すると思われがちだが、番が出来たあと、出産を望まない場合の発情期の軽減や、番を失ったり、そしてさほど多くはないのだろうが、番を作らないオメガは生殖年齢が終わるまで服用する。年齢と共に様々な薬剤と併用されることが多い。
ありがとうございます、と朔耶は頷いた。
「そうだ、今日は何時の予約を入れていたっけ?」
今日の午前の外来担当は和泉である。今日は朔耶が診療予約を入れていることを知っていた。三ヶ月前、朔耶と発情期を共に過ごした後、彼の抑制剤の処方元を和泉に変更したのだ。朔耶はかなり抵抗したが、ほぼ毎日会っているからフェロモン抑制剤の処方に融通が効く、と説得し、無理矢理変更させた。
朔耶とはすでに話し合い、次の発情期は一緒に過ごすと決めている。そのため次の発情期に影響が出ないよう、日常生活には影響が出ないように細心の注意を払った処方をしてきたし、実際に、きめ細かいフェロモン抑制剤の処方が奏功し、彼の体調はその後順調だった。
興味深かったのは、初めて朔耶がこの診察室にやってきたときに携えてきた紹介状だ。
メルト製薬本社の医務室の雪屋医師からのものだったが、打ち出された経過報告といった事務的な内容の他に、手書きの手紙が添えられていた。それが、今後とも末永くよろしくお願いしたいといった、娘を嫁に出す親のような内容だったので思わず笑ってしまった。
朔耶自身が、雪屋に対して今度の主治医と番う予定だと話した結果なのだろう。愛するパートナーは、これまでの主治医にかなり可愛がられていたようだった。
「予約は十一時半です。なので、一度営業所に戻って事務作業を終えてから、伺います」
朔耶はどこか恥ずかしそうにそう答えた。
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