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【レティシア】砂の城
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【 レティシアの視点 】
まだかまだかとお姉様達の帰りを窓辺で待ち侘びた。馬車が見えたので一階に降りると泣いているお母様の肩を抱くお父様がいた。
「お帰りなさい」
お父様の顔色もすぐれない。
きっと上手くいかなかったのだと思った。
「あれ?お姉様は?」
「自分の部屋に戻りなさい」
「どうして教えてくれないのですか」
「戻りなさい!」
「っ!」
「レティシアお嬢様、お部屋に参りましょう」
「……」
夕食の席は無言。尋ねても“いいから黙って食べなさい”と言われ教えてくれない。
ただお姉様が帰ってきていないことだけは確かだ。
「ねえ、お姉様はどうしたの?」
執事にこっそり尋ねてみた。“心配で辛い”というとちょっと教えてくれた。
「エレノアお嬢様はアルザフ公爵邸でお暮らしになることになりました」
「え? 暮らす?おかしいよね」
「花嫁修行でございます。次期アルザフ公爵となるご令息と婚約なさいましたので、急すぎますが おかしくはございません」
「…分かったわ」
私室に戻りクッションを投げた。
アルザフ公爵っていったらめちゃくちゃ権力があってお金もある家門じゃないの!
何で五回も婚約を解消した子爵令嬢でしかないお姉様が公子と婚約できるのよ!!
私は将来子爵夫人なのにお姉様は公爵夫人になるっていうの!?あり得ないでしょ!
はぁ…失敗したわ。妊娠はやり過ぎだった。
もしかしたら今頃私が公子と婚約していたかもしれないのに。
…でも私に会ったら心変わりするかも。
そうよ、絶対私を選ぶはずだわ!
子供は産んだら養子に出すなり伯爵家に押し付けるなり…そうだわ。私の代わりにもう一度実家を継ぐことになるお姉様に育てさせればいいのよ!
翌日、アルザフ公爵邸に行ったけど門前払いだった。
「私はケンドル子爵家の娘なの!エレノア・ケンドルの妹なの!」
「ですから、お約束の無い方はお通し出来ません」
「家族が会いにきたと伝えてちょうだい!」
「エレノア様に家族はおりません。そううかがいました」
「いるのよ!妹のレティシアよ!」
門番は仕方ないといった顔をして聞きに行った。
そしてもどってくると…
「早く立ち去れ」
「え?」
「貴様は若奥様のものを何度も盗んだ手癖の悪い盗人らしいな。早く去らないとその手を切り落とすぞ」
「し、信じられない!!」
門番が剣を抜きかけたので慌てて帰ってきた。
お父様の執務室に駆け込んで酷い仕打ちを訴えようとしたけど、中は異様な雰囲気だった。
「レティシア…そうだ。エレノアがやれたのだからレティシアもできるだろう?」
「ど、どうして私が、」
「やりなさい」
お父様に凄まれて座って目の前の書類を見ても何をしていいのか分からない。
「こういうのは補佐を何人か雇っているものじゃないのですか」
「一人は父親の後を継ぐからと辞めて、一人は休みの日に観光に出掛けて事故死した」
「何でまた別の人を雇わなかったのですか」
「エレノアが手伝い始めたからだ。補佐二人分の仕事をこなしていた。
エレノアが主導の事業もあった。先方に“当主命令で退がることになりました”と挨拶をしに行っていた。契約はエレノア個人になっていたのでエレノアの放棄により契約解除になった…穴埋めを考えないと」
「そんなことより さっき、」
「そんなことではない!!」
「お父様?」
「ケンドル家の収益の半分近くがエレノア個人の事業だったんだ」
「どういうことですか」
「本来なら個人の事業収入は個人のものだが、エレノアはケンドル家の収入として家に入れてくれていた。つまりケンドル家の暮らしが変わるということだ。今までのような暮らしはできなくなる」
「では他の事業を、」
「この書類の山でそれどころではない!」
「だから人を雇えばいいではありませんか」
「雇ったが辞めてしまったよ」
「ではまた雇えば」
「私が把握できなければ丸投げだ。それが嫌で辞めてしまう。何かあれば責任を問われるからな」
「今までは…」
「ほとんどエレノアがやっていたのだよ」
「信じられない…」
「同じ姉妹だろう?レティシアにも出来るはずだ。エレノアに出来てレティシアにできないなんてことはないはずだ」
「っ!!」
「さあ、頑張ってくれ」
全く分からないのにやっていますという振りをしているけど、まずいのは分かっている。
だけどお父様の顔付きが日に日に少しずつ変わっていくのが分かるから無理だと言い出せない。
「レティシアお嬢様、アルフレッド様が至急お会いしたいと。あとこちらが届きました」
私宛の手紙で、差出人は貴族裁判事務局だった。
一先ず応接間に向かうと、彼は足をゆすっていた。
「アル様」
「エレノアは何処だ」
「え?」
「エレノアを呼べ」
「どうなさったのですか」
「子爵は」
「執務室に、」
「子爵を呼んでくれ」
アルフレッド様はいつもの微笑みを浮かべていなかった。
まだかまだかとお姉様達の帰りを窓辺で待ち侘びた。馬車が見えたので一階に降りると泣いているお母様の肩を抱くお父様がいた。
「お帰りなさい」
お父様の顔色もすぐれない。
きっと上手くいかなかったのだと思った。
「あれ?お姉様は?」
「自分の部屋に戻りなさい」
「どうして教えてくれないのですか」
「戻りなさい!」
「っ!」
「レティシアお嬢様、お部屋に参りましょう」
「……」
夕食の席は無言。尋ねても“いいから黙って食べなさい”と言われ教えてくれない。
ただお姉様が帰ってきていないことだけは確かだ。
「ねえ、お姉様はどうしたの?」
執事にこっそり尋ねてみた。“心配で辛い”というとちょっと教えてくれた。
「エレノアお嬢様はアルザフ公爵邸でお暮らしになることになりました」
「え? 暮らす?おかしいよね」
「花嫁修行でございます。次期アルザフ公爵となるご令息と婚約なさいましたので、急すぎますが おかしくはございません」
「…分かったわ」
私室に戻りクッションを投げた。
アルザフ公爵っていったらめちゃくちゃ権力があってお金もある家門じゃないの!
何で五回も婚約を解消した子爵令嬢でしかないお姉様が公子と婚約できるのよ!!
私は将来子爵夫人なのにお姉様は公爵夫人になるっていうの!?あり得ないでしょ!
はぁ…失敗したわ。妊娠はやり過ぎだった。
もしかしたら今頃私が公子と婚約していたかもしれないのに。
…でも私に会ったら心変わりするかも。
そうよ、絶対私を選ぶはずだわ!
子供は産んだら養子に出すなり伯爵家に押し付けるなり…そうだわ。私の代わりにもう一度実家を継ぐことになるお姉様に育てさせればいいのよ!
翌日、アルザフ公爵邸に行ったけど門前払いだった。
「私はケンドル子爵家の娘なの!エレノア・ケンドルの妹なの!」
「ですから、お約束の無い方はお通し出来ません」
「家族が会いにきたと伝えてちょうだい!」
「エレノア様に家族はおりません。そううかがいました」
「いるのよ!妹のレティシアよ!」
門番は仕方ないといった顔をして聞きに行った。
そしてもどってくると…
「早く立ち去れ」
「え?」
「貴様は若奥様のものを何度も盗んだ手癖の悪い盗人らしいな。早く去らないとその手を切り落とすぞ」
「し、信じられない!!」
門番が剣を抜きかけたので慌てて帰ってきた。
お父様の執務室に駆け込んで酷い仕打ちを訴えようとしたけど、中は異様な雰囲気だった。
「レティシア…そうだ。エレノアがやれたのだからレティシアもできるだろう?」
「ど、どうして私が、」
「やりなさい」
お父様に凄まれて座って目の前の書類を見ても何をしていいのか分からない。
「こういうのは補佐を何人か雇っているものじゃないのですか」
「一人は父親の後を継ぐからと辞めて、一人は休みの日に観光に出掛けて事故死した」
「何でまた別の人を雇わなかったのですか」
「エレノアが手伝い始めたからだ。補佐二人分の仕事をこなしていた。
エレノアが主導の事業もあった。先方に“当主命令で退がることになりました”と挨拶をしに行っていた。契約はエレノア個人になっていたのでエレノアの放棄により契約解除になった…穴埋めを考えないと」
「そんなことより さっき、」
「そんなことではない!!」
「お父様?」
「ケンドル家の収益の半分近くがエレノア個人の事業だったんだ」
「どういうことですか」
「本来なら個人の事業収入は個人のものだが、エレノアはケンドル家の収入として家に入れてくれていた。つまりケンドル家の暮らしが変わるということだ。今までのような暮らしはできなくなる」
「では他の事業を、」
「この書類の山でそれどころではない!」
「だから人を雇えばいいではありませんか」
「雇ったが辞めてしまったよ」
「ではまた雇えば」
「私が把握できなければ丸投げだ。それが嫌で辞めてしまう。何かあれば責任を問われるからな」
「今までは…」
「ほとんどエレノアがやっていたのだよ」
「信じられない…」
「同じ姉妹だろう?レティシアにも出来るはずだ。エレノアに出来てレティシアにできないなんてことはないはずだ」
「っ!!」
「さあ、頑張ってくれ」
全く分からないのにやっていますという振りをしているけど、まずいのは分かっている。
だけどお父様の顔付きが日に日に少しずつ変わっていくのが分かるから無理だと言い出せない。
「レティシアお嬢様、アルフレッド様が至急お会いしたいと。あとこちらが届きました」
私宛の手紙で、差出人は貴族裁判事務局だった。
一先ず応接間に向かうと、彼は足をゆすっていた。
「アル様」
「エレノアは何処だ」
「え?」
「エレノアを呼べ」
「どうなさったのですか」
「子爵は」
「執務室に、」
「子爵を呼んでくれ」
アルフレッド様はいつもの微笑みを浮かべていなかった。
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