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偽りではなかった
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怪我がすっかり治った途端に商人が呼ばれた。
お義母様とシリル様があれこれと私に選ぶ。
「い、いいです、大丈夫です、もったいないです」
「何を言っているの。エレノアさんはうちの嫁なのよ」
お義母様と呼ぶように説得されたのは初日。そう あの顔合わせの日。もちろん公爵様もお義父様と呼んでいる。
「あの、まだ結婚していません」
「同じことよ。もう公爵家の嫁なのだからそれなりのものを沢山買っておかないと、アルザフ家がみくびられるのよ」
「エレノア、これなんかいいんじゃないか」
何で一番高そうなイヤリングを選ぶのですか!
「シリル様、そのイヤリングでは耳が千切れちゃいます」
「そうか?」
「っ!」
シリル様が顔を近付けて耳たぶに触れた。
「シリル、エレノアさんにこれを付けてあげなさい」
お義母様が指し示したネックレスをシリル様が付けてくださった。
「あら、よく似合っているわ」
「ではセットで、」
「だ、ダメですっ」
大きな宝石がドーンと主張しているネックレスだった。
「何故ダメなんだ」
「そうよ。全部買ってもいいのよ?」
ダメだ。こうなったら先手を打とう。
「わ~っ、このセット、すごく可愛いです~」
小さな石の付いたネックレスとイヤリングのセットだった。これなら他のより高価ではないと思った。
「さすが若奥様 お目が高い」
「え?」
「こちらは希少石を使っております。その中でも最高級の輝きを持った一品で、滅多にお目にかかれません。デザインは宝飾品界の巨匠ヴォルツが手掛けました。さあ、どうぞ」
「……」
「ククっ、エレノア つけてあげよう」
「素敵ね。よく似合っているわ」
結局 巨匠の作品の他にいくつかお義母様とシリル様が選んで購入することになった。
昼食後、シリル様と二人きりになったので、キャンセルするようお願いした。
「何故 私などに声を掛けてくださったのか分かりませんが少しの間 お屋敷に置いてくださるだけで十分です。あの夜のことは忘れてください」
「悲しいな。私には運命を感じた一夜だったのに、君にとっては簡単に忘れてしまうほどの夜だったのだな」
「ち、違っ、」
「酷いな。あの夜の責任をとって求婚したんじゃない。再会して再確認した。私はエレノアが好きだ」
「あのわずかな時間で?」
「まさか、早漏だと指摘されるとは」
「なっ!」
「確かに一回目は早かったが、二回目は良かったと思ったのに…まあ初めてだと どれくらい頑張ったらいいのか分からないから仕方ないだろう?」
「はい?…確かに私は初めてでしたが…それにそういう意味ではありません。好きと言うには わずかな時間だったと言っているのです」
「会った瞬間に好きになることもあると聞いた。私はもう少し時間を使ったが好きになった」
「……」
「よし、攻め方を変えよう。
私はあの夜が初めてだった。つまり私の童貞を奪ったのはエレノアだ。責任をとってくれ」
「まさかっ」
「まさかとはなんだ。私はふしだらな男ではないぞ」
「し、失礼しました」
「よし、解決したな。午後は採寸するからな」
責任?
確かに最初に誘いの声を掛けたのは私だわ。しかも経験のない公子様に…。
男の人の初めてにも責任をとるもの?
午後には全身採寸の後、デザイン画を見せられた。帽子も靴も。
その後は下着の店の店員が来て、それはシリル様が大量に選んだ。
そして就寝支度を終えた頃、シリル様が訪ねてきた。
「それではおやすみなさいませ」
メイドが下がり、二人きりになってしまった。
「もう遅いですから話は明日でよろしいでしょうか」
「今したい話だから 今する」
抱き寄せられ唇を奪われ、そのままたっぷり明け方近くまで抱かれ続けた。
“これで早いとか言われないよな?”
根に持っているらしい。
大事にされる日々の中、慰謝料が支払われバトワーズ先生は大喜びだった。
同時にケンブル家のタウンハウスが売却されたことを知った。
その知らせの後に今度は別の知らせが届いた。
お義父様が私に話を始めた。
「レティシア・ケンブルが亡くなった」
「レティシアが!?」
「川で溺れたそうだ」
「何故 川に…」
「近くの小屋で生活を始めた矢先だったようだ。足を滑らせた跡があったらしいから事故死になる」
「私が追い詰め過ぎてしまったのでしょうか…あの子に死んで欲しいなんて一度も思ったことはありません」
「悲しい事故ではあるがエレノアのせいではない」
「私が慰謝料なんて請求しなければ屋敷に住んでいられたはずです」
「そうじゃない。姉の婚約者を五人も奪い妊娠したから天罰がくだったのだよ」
「……」
何日か塞ぎ込んでいたけど シリル様達のおかげで落ち着くことができた。
家族の支えがあるってこんなに幸せなのだと ありがたかった。
その内 部屋の改装も終わり、婚前なのに夫婦の部屋を使うことになった。
シリル様はとても嬉しそうだった。
友人のミシェルの結婚式にシリル様と出席した。
私達はレティシアの事故死で婚約パーティを見送ったので、ミシェルとヨハン様が式後のパーティで私とシリル様の婚約に触れてくださった。
令嬢達の視線がきつかったが、シリル様が片時も私から離れなかったし、花摘みにもついてきて、メイドに声を掛けて一緒に入らせた。
“彼女に絡んだり文句を言う女性が現れたら呼んでくれ”
実際に絡まれてシリル様はトイレの中に入ってきて追い払った。
“エレノアはアルザフ公爵夫妻のお気に入りで、私の愛する妻だということを忘れないように”
嬉しくてシリル様に抱き付いたらそのまま空き部屋に連れて行かれた。
会場に戻るときは恥ずかしかった。何をしていたか見透かされているような気がしてずっと下を向いていた。
半年の婚約期間が終わり、私達は夫婦になった。
すぐに妊娠して男児を産んだ。その後はまた男児、最後に女児を産んで子作りは終わりにした。
偽りの婚約だと思っていた。
私は死のうと思っていたし、シリル様も気の迷いか事情があって私なんかと婚約したと思っていた。
だけどようやく、愛されて幸せを手に入れたと実感している。
末っ子がお茶会に出席する頃には私は公爵夫人となった。いくつになっても私達夫婦はいつも一緒だった。子供達が呆れるくらい。
3人の子は家族を持ち、私達夫婦は孫にも恵まれた。
「シリル様に拾われて幸せでした」
すっかり白髪になってしまった髪をシリル様が優しく触れた。
「これからも幸せにするつもりだよ」
シリル様の手を握り寄りかかると力を抜いた。
「エレノア?」
「お母様!」
「母上!」
「母上…」
「…そう長くはかからないから少しだけ待っていてくれ、愛してるよ」
終
お義母様とシリル様があれこれと私に選ぶ。
「い、いいです、大丈夫です、もったいないです」
「何を言っているの。エレノアさんはうちの嫁なのよ」
お義母様と呼ぶように説得されたのは初日。そう あの顔合わせの日。もちろん公爵様もお義父様と呼んでいる。
「あの、まだ結婚していません」
「同じことよ。もう公爵家の嫁なのだからそれなりのものを沢山買っておかないと、アルザフ家がみくびられるのよ」
「エレノア、これなんかいいんじゃないか」
何で一番高そうなイヤリングを選ぶのですか!
「シリル様、そのイヤリングでは耳が千切れちゃいます」
「そうか?」
「っ!」
シリル様が顔を近付けて耳たぶに触れた。
「シリル、エレノアさんにこれを付けてあげなさい」
お義母様が指し示したネックレスをシリル様が付けてくださった。
「あら、よく似合っているわ」
「ではセットで、」
「だ、ダメですっ」
大きな宝石がドーンと主張しているネックレスだった。
「何故ダメなんだ」
「そうよ。全部買ってもいいのよ?」
ダメだ。こうなったら先手を打とう。
「わ~っ、このセット、すごく可愛いです~」
小さな石の付いたネックレスとイヤリングのセットだった。これなら他のより高価ではないと思った。
「さすが若奥様 お目が高い」
「え?」
「こちらは希少石を使っております。その中でも最高級の輝きを持った一品で、滅多にお目にかかれません。デザインは宝飾品界の巨匠ヴォルツが手掛けました。さあ、どうぞ」
「……」
「ククっ、エレノア つけてあげよう」
「素敵ね。よく似合っているわ」
結局 巨匠の作品の他にいくつかお義母様とシリル様が選んで購入することになった。
昼食後、シリル様と二人きりになったので、キャンセルするようお願いした。
「何故 私などに声を掛けてくださったのか分かりませんが少しの間 お屋敷に置いてくださるだけで十分です。あの夜のことは忘れてください」
「悲しいな。私には運命を感じた一夜だったのに、君にとっては簡単に忘れてしまうほどの夜だったのだな」
「ち、違っ、」
「酷いな。あの夜の責任をとって求婚したんじゃない。再会して再確認した。私はエレノアが好きだ」
「あのわずかな時間で?」
「まさか、早漏だと指摘されるとは」
「なっ!」
「確かに一回目は早かったが、二回目は良かったと思ったのに…まあ初めてだと どれくらい頑張ったらいいのか分からないから仕方ないだろう?」
「はい?…確かに私は初めてでしたが…それにそういう意味ではありません。好きと言うには わずかな時間だったと言っているのです」
「会った瞬間に好きになることもあると聞いた。私はもう少し時間を使ったが好きになった」
「……」
「よし、攻め方を変えよう。
私はあの夜が初めてだった。つまり私の童貞を奪ったのはエレノアだ。責任をとってくれ」
「まさかっ」
「まさかとはなんだ。私はふしだらな男ではないぞ」
「し、失礼しました」
「よし、解決したな。午後は採寸するからな」
責任?
確かに最初に誘いの声を掛けたのは私だわ。しかも経験のない公子様に…。
男の人の初めてにも責任をとるもの?
午後には全身採寸の後、デザイン画を見せられた。帽子も靴も。
その後は下着の店の店員が来て、それはシリル様が大量に選んだ。
そして就寝支度を終えた頃、シリル様が訪ねてきた。
「それではおやすみなさいませ」
メイドが下がり、二人きりになってしまった。
「もう遅いですから話は明日でよろしいでしょうか」
「今したい話だから 今する」
抱き寄せられ唇を奪われ、そのままたっぷり明け方近くまで抱かれ続けた。
“これで早いとか言われないよな?”
根に持っているらしい。
大事にされる日々の中、慰謝料が支払われバトワーズ先生は大喜びだった。
同時にケンブル家のタウンハウスが売却されたことを知った。
その知らせの後に今度は別の知らせが届いた。
お義父様が私に話を始めた。
「レティシア・ケンブルが亡くなった」
「レティシアが!?」
「川で溺れたそうだ」
「何故 川に…」
「近くの小屋で生活を始めた矢先だったようだ。足を滑らせた跡があったらしいから事故死になる」
「私が追い詰め過ぎてしまったのでしょうか…あの子に死んで欲しいなんて一度も思ったことはありません」
「悲しい事故ではあるがエレノアのせいではない」
「私が慰謝料なんて請求しなければ屋敷に住んでいられたはずです」
「そうじゃない。姉の婚約者を五人も奪い妊娠したから天罰がくだったのだよ」
「……」
何日か塞ぎ込んでいたけど シリル様達のおかげで落ち着くことができた。
家族の支えがあるってこんなに幸せなのだと ありがたかった。
その内 部屋の改装も終わり、婚前なのに夫婦の部屋を使うことになった。
シリル様はとても嬉しそうだった。
友人のミシェルの結婚式にシリル様と出席した。
私達はレティシアの事故死で婚約パーティを見送ったので、ミシェルとヨハン様が式後のパーティで私とシリル様の婚約に触れてくださった。
令嬢達の視線がきつかったが、シリル様が片時も私から離れなかったし、花摘みにもついてきて、メイドに声を掛けて一緒に入らせた。
“彼女に絡んだり文句を言う女性が現れたら呼んでくれ”
実際に絡まれてシリル様はトイレの中に入ってきて追い払った。
“エレノアはアルザフ公爵夫妻のお気に入りで、私の愛する妻だということを忘れないように”
嬉しくてシリル様に抱き付いたらそのまま空き部屋に連れて行かれた。
会場に戻るときは恥ずかしかった。何をしていたか見透かされているような気がしてずっと下を向いていた。
半年の婚約期間が終わり、私達は夫婦になった。
すぐに妊娠して男児を産んだ。その後はまた男児、最後に女児を産んで子作りは終わりにした。
偽りの婚約だと思っていた。
私は死のうと思っていたし、シリル様も気の迷いか事情があって私なんかと婚約したと思っていた。
だけどようやく、愛されて幸せを手に入れたと実感している。
末っ子がお茶会に出席する頃には私は公爵夫人となった。いくつになっても私達夫婦はいつも一緒だった。子供達が呆れるくらい。
3人の子は家族を持ち、私達夫婦は孫にも恵まれた。
「シリル様に拾われて幸せでした」
すっかり白髪になってしまった髪をシリル様が優しく触れた。
「これからも幸せにするつもりだよ」
シリル様の手を握り寄りかかると力を抜いた。
「エレノア?」
「お母様!」
「母上!」
「母上…」
「…そう長くはかからないから少しだけ待っていてくれ、愛してるよ」
終
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