笑顔で冷遇する婚約者に疲れてしまいました

ユユ

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自覚

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週末、一見デートに見えそうなことをすることになった。ヘインズ伯爵夫人がオペラのチケットを用意してくださって断れなかった。

「久しぶりだね、クリスティーナ」

「お久しぶりです、シャルル様」

「夫人、クリスティーナをお借りします」

「よろしくお願いしますね」

「はい」

迎えに来たヘインズ家の馬車に乗り劇場を目指す。

「大丈夫か?」

「はい?」

「少し痩せたか?」

「大丈夫です。少し休み中に友人達とはしゃぎ過ぎたせいかもしれません」

「ウィロウ嬢とゼオロエン嬢か。彼女達とは後数ヶ月でたまにしか会えなくなるね」

「はい。寂しくなります」

「その分、僕と過ごしてくれないか」

「シャルル様と?」

「結婚に向けてクリスティーナと絆を深めたいんだ」

絆?私達に?

「どうなさったのですか?シャルル様らしくない気がしますが」

「確かに君に対して距離をとったけど今は違う。屋敷に来て部屋を下見して改装の希望を出して欲しいと思っている。君の部屋と夫婦の部屋と。移り住む時には完成していた方がいいだろう?他の部分は婚姻後にゆっくり進めればいい」

「伯爵夫人がいらっしゃるのにそんな」

「せめて君の部屋と夫婦の部屋は整えたいんだ」

「ビクセン嬢が、」

「あれは間違いだ!」

私の言葉を遮るようにシャルル様は大きな声で言葉を被せた。

「現実かと」

「あの夜は誰でも良くて、誘ってきたのもあの女なんだ。僕は罠にかかってしまったんだ、それも悪質な罠に。あの女を娶る気なんかない。好きでもないし好みでもない。僕は酔っていたし本当にとんでもない失態となった。そのせいで君にも不快な思いをさせてしまった。償うチャンスが欲しい」

「…妊娠しているのは間違いないのではありませんか?」

「何かの間違いだと思ってるし、産まれてくることはないと思っている。あの胎にいるのはあの女の欲の塊だ」

「私にとっては誰だろうと同じことです」

「クリスティーナ?」

「ビクセン嬢がシャルル様をお慕いしているのは間違いありませんわ」

「僕は、」

「私、シャルル様は好意を持った方とお付き合いをしたりなさってると思っていました。先ほどのお話ですとそうではないのですね」

「それは…」 

婚約時、私は一夜限りの女性にさえ及ばない存在だったみたい。私はシャルル様に手を出されない女、つまり嫌われていたということなのね。あのビクセン嬢よりも強く。そこまで嫌いなら婚約なんて断ってくれたら良かったのに。

「構いませんわ。条件から外れなければ」

「クリスティーナ、僕は、」

シャルル様にとって嫌いな相手でも我慢しなければならないほどの政略的な価値があったということなのね。

「夫人は領地から王都に?」

「来ているよ」

「初孫かもしれませんものね」

「僕は心の底からあの女が嫌いなんだ!」

そのビクセン嬢より下の私はどの底から嫌いなの?

「酔っていても心の底から嫌いな方と一夜を過ごせるなんて私には想像もつきませんわ」

女性と違って男性はにならないとコトには及べない。だから酔っていたとしてものなら、その時は明らかにビクセン嬢に欲情したことになる。

「っ!」

嫌味なんて言うつもりはなかった。
シャルル様の言葉に傷付くというより…哀れだ。自分が哀れで仕方ない。こんな思いをするために生きているの?

「クリスティーナ」

なんかもうどうでもいい。

「クリスティーナ」

「はい」

「許して欲しい」

「許を乞う必要はありませんわ。きっとまたすぐに慣れます」

シャルル様が私に笑顔以外を向けるのは珍しい。いつも嫌いな私に微笑みの仮面をつけていた一方で瞳は冷ややかだった。最近はその仮面を時々脱ぎ捨てる。

私、どうしてしまったの?いろいろなことが重なって心が疲れてしまったのかしら、シャルル様と狭い密室にいて見つめられているのにまるでときめかないなんて。


【 シャルルの視点 】

やっとクリスティーナに会うチャンスを掴んだ。あの女の妊娠騒ぎで母上がタウンハウスへ来た。そして建国祭を迎えてクリスティーナの話を仕入れてくれた。クリスティーナがジオ家と建国パーティに出席した。衣装も揃っていて挨拶もジオ家と一緒にしていたのに途中から公子と行動を別にしただけでなく公子はダンスにも誘わなかった。離れたまま過ごして別々に帰って行ったと。
2人が別れたという噂は一気に広まり、ジオ家に釣書を出す貴族が複数いると。

そしてオペラのチケットを手渡された。

『シャルル、これはチャンスよ。クリスティーナの心をしっかり掴みなおしなさい。ちゃんと謝罪をして許してもらうの。会う回数を増やしてクリスティーナをその気にしなさい』

『その気?』

『他の女なんかを相手にするから無価値どころか疫病神みたいなアマリア・ビクセンに引っかかるのよ。最初からクリスティーナと夜を過ごしていたら良かったのよ』

『母上』

『クリスティーナを妊娠させたのなら喜ばしいことだったのに。セルヴィー伯爵も孫可愛さにヘインズうちに良くしてくれるようになるわ』

『クリスティーナはまだ学生です』

『あなたは学生の令嬢達を食い散らかしてクリスティーナと同じクラスにいるビクセン嬢を妊娠させたんじゃないの!』

『っ!』

『チケットは私から贈っておくわ。しっかりなさいシャルル』

オペラ当日、迎えにいくと少しクリスティーナがやつれているように見えた。あの男と別れたことがそんなに辛いのか?君は目の前の僕が好きだったはずじゃないか。
そうか。やっぱり他の令嬢達を相手にしたから拗ねて公子と交際なんかしたのだな?あの女の妊娠騒ぎに腹を立てているのだな?

許して欲しいと謝ったがクリスティーナは頑なだ。

馬車を降りるときから手を繋ぎ、鑑賞中も繋ぎ続けた。終わった後に食事をしながら次の約束をなんとか取り付けた。
今はあの女との噂があって好奇の視線もあったが、こうやって人前に出て僕達に問題はないと知らしめることができれば大丈夫、元に戻るだろう。

ただやはり、クリスティーナをベッドに誘うなんてことはできない。クリスティーナは僕が相手をしてきた令嬢達とは違ってそういう雰囲気を出さない。迂闊に誘えば非難されそうだ。だから結婚をきっかけにするしかない。
だけど…君の肌に唇を付けたい。

結局この日クリスティーナは自然な笑顔は向けてくれなかった。


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