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続編:シャルルと王女
希望と現実
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ジェルヴェとガゼボでティータイム中、王女が通りかかった。偶然みたいなことを侍女と言っているがそうではないだろう。
「こちらでお茶をなさっていたのですね」
「姉上もこちらに?」
「え、ええ。見頃のお花があると聞いて」
「まあ!偶然でございますね王女殿下。お待ちしたお菓子を皆様で召し上がってはいかがでしょう」
「いいかしら」
「どうぞ」
「かまいませんよ」
パリサ王女はぎこちないし、侍女は逆に台詞の言い方が大袈裟だ。
侍女がバスケットから出した菓子は3種類で3つずつ。王女が9個も食べるわけないし、侍女と食べるなら2つずつでいいはずだ。僕達がそうであるように。
「ジェルヴェはだいぶ血色が良くなったわね。イリーナ様が喜んでいらしたわ」
「これもシャルのおかげです、ケホッ」
「ルヴェ、大丈夫か?」
ジェルヴェ王子に水を持たせた。
「ゴクッゴクッ……お菓子のかけらが喉にくっ付いただけだよ、ありがとう」
「シャルル様とジェルヴェは随分と打ち解けたのですね。こんなに気さくに会話をしているとは知りませんでした」
「互いの希望です」
「そう、私とシャルの希望です」
ジェルヴェは好き嫌いが多かったけど、僕と食事をするときは嫌いだと言って皿の端に寄せて残したりしない。彼の周囲の者達がとても喜んでいた。イリーナ妃からはお礼を言われ、陛下は褒美を渡そうとしたのでそこは断った。僕は彼に強要も助言もしていない。ただ一緒に楽しく食べているだけだから。褒めるならジェルヴェを褒めて欲しいと伝えると陛下は断るなと箱を押し付けた。中はブローチで綺麗な宝石が付いていた。ダオスが言うには陛下のお気に入りの1つらしい。つまり家宝モノだ。僕には感謝を伝えることしかできなかった。
「もっと元気になったらシャルの里帰りについて行きたいな」
「さすがに遠すぎるよ」
「シャルが話してくれた絵画展に行きたいんだ」
「…そうだな」
「シャル?」
「あれは最高の想い出だったよ」
「シャルの友人にも会いたいな」
「あいつらは悪友みたいなものだから天使のようなルヴェには会わせられないな」
「天使はシャルの方だよ。ねえ、明日は兄上のサファイア宮の庭に行かない?」
「ゼブラン王太子殿下の?僕はちょっと」
「何で?お願いしておくから許可が出たら行こうよ。池があって魚が泳いでいるんだ。カモもいるよ?」
「分かったよ、許可が出たら餌を用意してもらおう」
「動物を飼っている方は多いのか?」
「父上のところには犬がいるよ。猫ならテサ妃が飼ってるよ」
「猫…」
「テサ妃に遊びに行きたいって言っておく?」
「ルヴェは猫に近付いて大丈夫なのか?」
「野良猫は駄目だけど、テサ妃の猫は外に出さないし清潔を保っているから大丈夫だよ」
「じゃあ、猫に気に入られるような何かを用意してもらわないとだな」
「貢物だね」
クリスティーナの猫は魚を干したものが好きだったって言っていたな。
「イオアナ、悪いんだけど猫に与えられる干し魚を用意できるか聞いておいてもらえる?」
「テサ妃様の猫の好みも伺ってご用意いたします」
「ありがとう」
「シャルは猫が好きなの?」
「知り合いが飼っていたんだ。うちは飼えなかったから羨ましくてね。大きい猫らしいんだ。持ち上げるのが大変だったって言っていたよ」
「え?猫で?…ああ、女の子か」
「2歳児に近い重さだったとか。大きかったらしいけど大人しかったみたいだ。長毛種でブラッシングが大変だと言っていたよ。
猫って伸びるだろう?前足の付け根に手を差し込んで持ち上げると伸びて、彼女の顎の下のあたりまで長さがあるらしいんだ」
「それ、猫じゃなくて猫科の別の生き物じゃない?」
「猫なんだってさ。ティアラが死んでから存在を知ったから会えなかったけど」
「雌なんだね」
「雄だよ。雄でティアラって名付けたのは美しい毛色と毛並みに平伏したくなるような高貴そうな顔立ちだったからと言っていたよ」
「面白い友人だね。悪友じゃなさそうだけど?」
「彼女は…ちょっと違うんだ」
「一緒に里帰りしたら会える?」
「彼女は一番難しいかな」
カチャン!
パリサ王女がティースプーンを落とした。
「ごめんなさい、失礼します」
王女は立ち上がってガゼボから離れてルビー宮へ向かった。
「今の話はシャルの元婚約者の話だよね」
「クリスティーナ・セルヴィーというんだ。婚約中に僕がずっと傷付けたから、今生の敵並みに嫌われているよ」
「シャルが?想像も付かないけど」
「あの頃は愚か過ぎたんだ」
「もしかして世界一と言われる絹織物のセルヴィー?」
「そうらしい」
「夏や冬はセルヴィー産の絹織物で作った寝巻きを着て寝ているんだ。父上がせめて快適に眠れるよう買ってくださったんだ」
「良かったな」
「だけど洗濯メイドがあれを洗った日は他に何もできなくなるくらい疲労困憊するらしいよ。だから具合が悪いときや、すごく暑くて寝苦しいときだけ着ることにしてるんだ」
「確かに、担当になりたくないかもしれないね」
「セルヴィー嬢に会ってみたいな」
「僕がいなければチャンスはあると思うけれど、とにかく遠いから難しいよ」
「招待しても来てくれないかな」
「セルヴィー家は積極的に商売に力を入れているんだ。クリスティーナ自身も王都に3店舗出していたよ。人気の店らしい。数日の距離なら可能かもしれないけど、ちょっと遠すぎるかな」
「もう少し良くなったらどうだろう」
「僕は医師じゃないから分からないな」
本当はなんとなく分かっている。もしジェルヴェ王子を連れて母国に帰れば、彼は多分ベスパスへは冷たくなって帰国することになるだろう。馬車に乗っているだけと思うだろうけど揺れるし、想像より遥かに体力を使う。彼は王都から出たことがないと言っていた。長距離移動の経験がないから簡単に言うのだろう。もしくは最初で最期の旅に出たいのか。
「こちらでお茶をなさっていたのですね」
「姉上もこちらに?」
「え、ええ。見頃のお花があると聞いて」
「まあ!偶然でございますね王女殿下。お待ちしたお菓子を皆様で召し上がってはいかがでしょう」
「いいかしら」
「どうぞ」
「かまいませんよ」
パリサ王女はぎこちないし、侍女は逆に台詞の言い方が大袈裟だ。
侍女がバスケットから出した菓子は3種類で3つずつ。王女が9個も食べるわけないし、侍女と食べるなら2つずつでいいはずだ。僕達がそうであるように。
「ジェルヴェはだいぶ血色が良くなったわね。イリーナ様が喜んでいらしたわ」
「これもシャルのおかげです、ケホッ」
「ルヴェ、大丈夫か?」
ジェルヴェ王子に水を持たせた。
「ゴクッゴクッ……お菓子のかけらが喉にくっ付いただけだよ、ありがとう」
「シャルル様とジェルヴェは随分と打ち解けたのですね。こんなに気さくに会話をしているとは知りませんでした」
「互いの希望です」
「そう、私とシャルの希望です」
ジェルヴェは好き嫌いが多かったけど、僕と食事をするときは嫌いだと言って皿の端に寄せて残したりしない。彼の周囲の者達がとても喜んでいた。イリーナ妃からはお礼を言われ、陛下は褒美を渡そうとしたのでそこは断った。僕は彼に強要も助言もしていない。ただ一緒に楽しく食べているだけだから。褒めるならジェルヴェを褒めて欲しいと伝えると陛下は断るなと箱を押し付けた。中はブローチで綺麗な宝石が付いていた。ダオスが言うには陛下のお気に入りの1つらしい。つまり家宝モノだ。僕には感謝を伝えることしかできなかった。
「もっと元気になったらシャルの里帰りについて行きたいな」
「さすがに遠すぎるよ」
「シャルが話してくれた絵画展に行きたいんだ」
「…そうだな」
「シャル?」
「あれは最高の想い出だったよ」
「シャルの友人にも会いたいな」
「あいつらは悪友みたいなものだから天使のようなルヴェには会わせられないな」
「天使はシャルの方だよ。ねえ、明日は兄上のサファイア宮の庭に行かない?」
「ゼブラン王太子殿下の?僕はちょっと」
「何で?お願いしておくから許可が出たら行こうよ。池があって魚が泳いでいるんだ。カモもいるよ?」
「分かったよ、許可が出たら餌を用意してもらおう」
「動物を飼っている方は多いのか?」
「父上のところには犬がいるよ。猫ならテサ妃が飼ってるよ」
「猫…」
「テサ妃に遊びに行きたいって言っておく?」
「ルヴェは猫に近付いて大丈夫なのか?」
「野良猫は駄目だけど、テサ妃の猫は外に出さないし清潔を保っているから大丈夫だよ」
「じゃあ、猫に気に入られるような何かを用意してもらわないとだな」
「貢物だね」
クリスティーナの猫は魚を干したものが好きだったって言っていたな。
「イオアナ、悪いんだけど猫に与えられる干し魚を用意できるか聞いておいてもらえる?」
「テサ妃様の猫の好みも伺ってご用意いたします」
「ありがとう」
「シャルは猫が好きなの?」
「知り合いが飼っていたんだ。うちは飼えなかったから羨ましくてね。大きい猫らしいんだ。持ち上げるのが大変だったって言っていたよ」
「え?猫で?…ああ、女の子か」
「2歳児に近い重さだったとか。大きかったらしいけど大人しかったみたいだ。長毛種でブラッシングが大変だと言っていたよ。
猫って伸びるだろう?前足の付け根に手を差し込んで持ち上げると伸びて、彼女の顎の下のあたりまで長さがあるらしいんだ」
「それ、猫じゃなくて猫科の別の生き物じゃない?」
「猫なんだってさ。ティアラが死んでから存在を知ったから会えなかったけど」
「雌なんだね」
「雄だよ。雄でティアラって名付けたのは美しい毛色と毛並みに平伏したくなるような高貴そうな顔立ちだったからと言っていたよ」
「面白い友人だね。悪友じゃなさそうだけど?」
「彼女は…ちょっと違うんだ」
「一緒に里帰りしたら会える?」
「彼女は一番難しいかな」
カチャン!
パリサ王女がティースプーンを落とした。
「ごめんなさい、失礼します」
王女は立ち上がってガゼボから離れてルビー宮へ向かった。
「今の話はシャルの元婚約者の話だよね」
「クリスティーナ・セルヴィーというんだ。婚約中に僕がずっと傷付けたから、今生の敵並みに嫌われているよ」
「シャルが?想像も付かないけど」
「あの頃は愚か過ぎたんだ」
「もしかして世界一と言われる絹織物のセルヴィー?」
「そうらしい」
「夏や冬はセルヴィー産の絹織物で作った寝巻きを着て寝ているんだ。父上がせめて快適に眠れるよう買ってくださったんだ」
「良かったな」
「だけど洗濯メイドがあれを洗った日は他に何もできなくなるくらい疲労困憊するらしいよ。だから具合が悪いときや、すごく暑くて寝苦しいときだけ着ることにしてるんだ」
「確かに、担当になりたくないかもしれないね」
「セルヴィー嬢に会ってみたいな」
「僕がいなければチャンスはあると思うけれど、とにかく遠いから難しいよ」
「招待しても来てくれないかな」
「セルヴィー家は積極的に商売に力を入れているんだ。クリスティーナ自身も王都に3店舗出していたよ。人気の店らしい。数日の距離なら可能かもしれないけど、ちょっと遠すぎるかな」
「もう少し良くなったらどうだろう」
「僕は医師じゃないから分からないな」
本当はなんとなく分かっている。もしジェルヴェ王子を連れて母国に帰れば、彼は多分ベスパスへは冷たくなって帰国することになるだろう。馬車に乗っているだけと思うだろうけど揺れるし、想像より遥かに体力を使う。彼は王都から出たことがないと言っていた。長距離移動の経験がないから簡単に言うのだろう。もしくは最初で最期の旅に出たいのか。
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