母を訪ねて十万里

サクラ近衛将監

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第五章 サザンポール亜大陸にて

5-23 湖畔を後にして

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 マルコです。
 ブラノスから、タスィ・ディラ・ナグ湖畔を反時計回りに回って、水神様のほこら、そうしてオシャロの温泉宿に一泊して、再度ブラノスに戻ってきました。

 その際に水神様の祠の裏手で、マルコ以外には不可視の精霊のような生き物(カナヘビさん)をマルコが認めて、お話しをし、カナヘビさんが下流域に棲む生き物全てを救うために、己の身体に瘴気を取り込んで防いでいたことを知りました。
 マルコの浄化能力でカナヘビさんの身体に取り込まれた黒い瘴気を取り除いたほか、もともと汚染の元凶であった崩落現場にあった瘴気の元を浄化魔法で昇華させたほかは、特段の事件等はありませんでした。

 因みに、この後数百年にわたりタスィ・ディラ・ナグ及びその湖に端を発する水系では瘴気による被害はありませんでした。
 もう一つ、水神様の祠にある魔晶石がマルコの浄化魔法の影響により神聖さを増したことにより、そのことに感覚的に気付いた人々の口伝くでんにより参拝者が徐々に増えだし、地域の守り神として水神様が永くこの地に伝えられることになりました。

 一方で、カラガンダ夫妻も水神様の眷属の難儀についてもマルコから聞いていたものの、さほど時間を置かずしてその問題は片付きましたとの報告を受けので、カラガンダ夫妻は安心するとともに、オシャロで久方ぶりの温泉に浸かることができて大満足のようでしたよ。
 マルコ達一行がブラノスに戻った後は、再度シナジル往還に戻り、比較的大きな宿場町ホルトで隊商が通るのを待ちました。

 ホルトで一泊すると、荷馬車14台を引き連れた比較的大きな隊商が翌日ホルトを発つことが分かりましたので、ホルトでもう一泊して、翌朝その隊商の後尾につけました。
 他にも小さな隊商が後をついてきますが、一応それなりの護衛を雇っているようです。

 三台引きの馬車の隊商は傭兵8名を雇っていましたし、荷馬車一台の商人は冒険者を雇っているようでしたが、その冒険者三人はマルコが鑑定をかけた結果によれば護衛としてはちょっと力不足かも知れませんね。
 マルコの馬車にはいつものように、四人の護衛ゴーレムがついていて万全です。

 ホルトから七つ目の宿場町までは、大きな隊商の後にずっとついて行きました。
 但し、この隊商は護衛を含めた人員が多いため、小さな宿場町には泊まれないこともあって、野営が多いのです。

 このため、マルコ達も途中の宿場町には余り用事も無いことから、この隊商に右に倣えで野営を続けました。
 流石に馬車一台でずっと野営を続けるのは珍しいらしく、三日目ぐらいには隊商の護衛隊長がわざわざ事情を聴きに来ましたね。

 あるいは怪しまれたのかもしれません。
 隠居の金持ち老夫婦が如何に旅慣れていようとも、通常の旅では宿に泊まるモノなのです。

 一方で隊商の方は顧客の都合で、急いで品を目的地まで運ぶために、そもそも宿場町を無視しての急ぎ旅なのです。
 その足についてくるマルコ達一行がある意味で異常なのです。

 ホルトを発った時について来ていた小規模の隊商は、既に一日目から置き去りにされかけ、最寄りの宿場町で泊ったようですね。
 しかしながら、マルコ達の場合はと言えば、一応の予定はありますけれど、冬の山越えができないバドル山脈までは、如何様にも変更できるので、むしろ大きな隊商について行った方が面倒事に巻き込まれないことから好都合なのです。

 カラガンダ翁が隊長さんにその辺のところを柔和な笑顔で説明すると、流石に子連れの盗賊もいないかと、納得してくれたようです。
 但し、七つ目の宿場町マントンは、当初からマルコ達が逗留を予定していた観光地なので、そこで隊商とはお別れなのです。

 ホルトからマントンまで通常は七日の旅程なのですけれど、高速移動の隊商の後についたために5日間で踏破してしまったマルコ達です。
 この間に盗賊や魔物襲撃はありませんでしたので、至って平穏な旅でしたね。

 マントンの宿場町は、その郊外にサザンポール亜大陸でも最も古い史跡があるのです。
 コルデニアル帝国という二千年前に栄えた国の都が有った場所なので、かなりの数の石造りの史跡が残されているのです。

 但し、最寄り山岳部で起きた火山の噴火と頻発した火山性の地震の所為で、建築物の大半が倒壊、若しくは埋没したために、居住地としては避けられるようになったのです。
 少なくとも千五百年ほどは見棄てられ、忘れ去られた土地だったのですが、今からおよそ五百年ほど前に遺跡が偶然に発掘されたことから、その後、徐々に観光資源としての価値が認められ、コルトン王国のマントン地方領主であるクレニグル侯爵家が、史跡の発掘と保護を押し進めているようです。

 コロデニアル帝国の史跡は、今のところ十五か所が観光に供されていますけれど、いずれも巨石文明というべき遺跡で、マルコの見たところでは土属性魔法に秀でた者が居て、建設に携わったのだろうと推測しています。
 巨大な大きさの石材と石材の接着面が計ったようにびったりと合っているために、長年の風雨にも耐えられたのだと思いますが、降灰と大地の揺れにはかなわなかったようですね。

 所によっては、大きな柱状の遺物が倒れあるいは折損したまま放置されています。
 また、コロシアムのような多数の観客を収容できる円形施設もあり、かなり崩壊はしているものの、ありし日の雄姿を思い起こさせてくれます。

 この施設は火山灰で埋まった上に、大規模水害にも遭って、膨大な土砂に埋まっていたものを発掘したようです。
 掲示板には、発掘作業の苦労が記載されていました。

 もし、人力で発掘作業を行ったのであれば大変な作業だったのでしょうね。
 魔法を使えば割合と楽なはずですけれど、あるいは魔法師の能力が低ければそれも難しいのかもしれません。

 掲示板の説明では、泥に埋まった施設を掘り起こすだけで20年の歳月がかかったとされています。
 いずれにせよマントン郊外の遺跡は、あちらこちら崩れてはいるのですが、壁面の彫刻等は結構残っているほか、当時の彩色が分かるような史跡もあり、いろいろな意味で向学の参考になる史跡でした。

 マントンの宿であるスヴォリオットを根城にして、足掛け三日をかけて史跡巡りを行い、シナジル往還に戻ったマルコ達でした。
 ところで、このスヴォリオット投宿中に、マルコは夢を見ました。

 夢の中では、例のカナヘビさんのボスである竜神様が出てきました。
 西洋の竜ではなくって、東洋の龍でした。

 物凄く巨大なんですが、夢の中なので今一その大きさが把握できないマルコでした。
 前世の記憶の中にもこんなドラゴンは存在していなかったはずです。

 唯一日本人金谷の記憶にある想像上の生物である「青龍」がその色と形に良く似ています。
 少なくともジークフリートが退治したという西洋風のドラゴンではありません。

 この世界に居るというドラゴンも、噂によれば翼をもった西洋風のドラゴンのようですよ。
 生憎とマルコもカラガンダ翁も出会ったことが有りません。

 亜竜のワイバーンについては、四年ほど前にマイジロン大陸のワダーツ峠で討伐しましたけれどね。
 ワイバーン(亜竜)とドラゴンでは比べ物にならないほど強さが違うそうです。

 いずれにしろ、その龍がマルコに呼び掛けてきました。

「ワシは、水神のナーガ・ジャデフという。
 名も無きワシの眷属を助けてくれたは其方と聞いた。
 ワシは水神ではあるが、時代を経るに従い、下界で力を行使するには制約が大きくなり過ぎた。
 それゆえ、名も無きワシの眷属の一体に下界の一部を任せたのじゃが、のモノの力量が足りなかったようじゃのぉ。
 彼のモノが、瘴気に侵されて次第に衰弱して行くのを知りながら、どうにもできなんだ。
 彼のモノが滅すれば、交代のモノを送ることになるが、どうしてもその間に空白が生じる。
 おそらく下界の時間では、五十年から百年ほども空白の期間が続いたやも知れぬな。
 其方が彼のモノのけがれを取り除いてくれたおかげで、下界の広範な地域に住む生命体が救われたことになる。
 本来はワシが何とかせねばならぬところを、助けてもらった。
 それゆえ、其方には大いに感謝をしておる。
 其方に何か望みが有れば、ワシのできることなれば叶えるが、どうかな?」

「僕はマルコと言います。
 あなたの眷属さんが消滅するようになれば、湖の下流域に棲む大勢の者や動植物に被害が及びます。
 それを防ぐためにあなたの眷属さんが身を挺して守ってくれたのです。
 そのことについては、むしろ私がヒト族を代表してお礼を申し上げねばなりません。
 これまで、多くの命を救ってくれた水神様とその眷属の方に深くお礼を申し上げます。
 それゆえに、私が水神様にご褒美をもらうわけにも参りません。
 丁重にご辞退申し上げます。」

「ふむ、左様か。
 欲の無い御仁じゃな。
 はて、それにしても、・・・。
 其方、落ち人なのかな?
 かすかに異界の、しかもいくつもの異界の匂いがそなたの身辺から漂っておるな。」

「あの、その落ち人とは、どのような意味なのでしょうか?」

「あぁ、この世界は多くの世界が多重で存在しておるのじゃ。
 普通の場合、そうした世界が交わることは無いのじゃが、稀に、世界が交錯して狭い亀裂が発生し、そこから異界のモノがこちらの世界に紛れ込むことが有るのじゃ。
 それを狭義の落ち人というのじゃが、それとは別に、別の世界で生きていた者の魂がその知見を持ったままこの世界の生き物に生まれ変わることもある。
 それもある意味ではこの世界の神が必ずしも制御できるものではない故に落ち人という場合がある。
 どちらかというとこの場合は広義の落ち人じゃな。
 其方の場合、明らかに年齢と能力が釣り合わぬでな。
 其方は広義の落ち人ではないのか?」

 神様に類するものに嘘もなるまいので、マルコは正直に話した。

「はい、私はこの世に生を得た者ですが、6歳の折に覚醒し、異界の記憶をいくつか受け継いでおります。
 そのために、この世界の普通の人以上の能力を色々と持ち合わせています。」

「なるほど。
 しかしながら、其方のその能力、悪事には使ってくれるなよ。
 さもなければ神の軍勢が動くことにもなりかねん。
 いずれにせよ、此度の感謝のしるしとして、ワシの恩寵を与えておこう。
 其方にとって左程の益にもならぬかもしれぬが、持っていて邪魔になるものでもない。
 では、ワシの用も済んだ。
 健吾で過ごせ。
 さらばじゃ。」

 そう言って呆気なく水神様は夢から消えました。
 マルコは目覚めてステータスを確認しましたが、称号の項目に、水神の恩寵という文字が増えていました。

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