コンバット

サクラ近衛将監

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第二章 幼少期編

2ー10 瘴気とスタンピード

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 ヴィオラ(私)が王都に発つまで、残り一月余りです。
 でも領内の外れで不穏な動きがありました。

 お隣であるベイチェル子爵領と境界を接している東部地区近辺で、異常現象が起きたのです。
 発生地点はエルグンド伯爵領内ではありませんが、その境界の村サモラからわずかに4リーグ半(約16km)です。

 ルテナの緊急警報を受けたヴィオラ(私)は、早速にスパイ・インセクトを飛ばしました。
 このスパイ・インセクトを通じてヴィオラ(私)の脳内に音声と画像を得ることができるんです。

 三時間後に到着した現場では紫色の気体が1リーグ四方(3.5キロ四方)を覆っており、拡散しながら広がっています。
 その気体が触れた動物や植物は見る見るうちに奇怪な変貌を遂げ、恐ろし気な魔物に変化してゆきます。

 理屈には合いませんが、体長2m程度のクマさんが頭に角を生やし、6mを超えて巨大化するんです。
 背中にはゴジラのような背びれが生え、牙が生えて、顔つきも獰猛になっちゃいました。

 見ているわずかの間(ウーン、精々10分程度かなぁ)にそんな変化が訪れるんですからびっくりしちゃいますよね。
 他にもオオカミやキツネ、リスやネズミまでが凶暴な魔物に変化していました。

 周辺の山野に棲んでいた動物が全て魔物に変化するのにそれから二時間ほどしかかかっていません。
 中には植物でありながら動物のように動き回るモノさえあります。

 そうして巨大化した魔物は相互に喧嘩でもするかと思っていたのですけれど、違いました。
 彼らは集団で西に向かって動き始めたのです。

 ルテナの話では、紫の気体は瘴気しょうきで、それを浴びた生物が魔物化しているのだそうです。
 滅多に起こることではなく、この世界では別大陸ハルタットで60年ほど前に一度起きたそうです。

 因みに瘴気はほぼ一日程度で消失しますが、魔物の方はそのまま生き残り、そこに住む動物や人を襲います。
 60年前の瘴気発生の際は、二つの国が魔物の襲撃により滅亡しました。

 ルテナ曰く、今回の規模もそれに匹敵するとのことです。
 放置すればエルグンド領から人が居なくなり、この王国さえ存続が危ぶまれます。

 ヴィオラ(私)は、お父様に面会して急報を告げました。

「お父様、サモラ村周辺でが発生しました。
 魔物が大量に生まれ、西へと進み始めました。
 放置すれば、エルグンド領は無論のこと、この王国の存在も危うくなります。
 サモラ村の壊滅は避けられませんが、更なる西進を防ぐためにヴィオラ(私)が参りたいと存じます。」

「馬鹿な。
 ヴィオラが行く必要はない。
 その為の領軍があり、兵士が居る。」

「お父様、身の丈三尋にも及ぶ巨大な熊の魔物が十体以上、同じく体長二尋半を超えるオオカミの魔物が百匹以上の集団を形成しています。
 どちらも並みの兵士では討伐できません。
 その上に無数ともいえる体長一尋近いネズミの魔物が襲ってきては防衛もままならないはずです。
 魔物の数は推計で五千。
 その魔物一体ごとが、間違いなく兵士一人以上の戦闘力を持っています。
 正規領軍一千、予備兵力一千を加えても圧倒的に数が足りません。
 ぶつかれば領軍の方が壊滅します。
 ここは、私の魔法で殲滅せんめつするしかありません。
 ヴィオラ(私)が出撃したとは、知られぬように後処理だけをお願いします。
 また、ヴェイツ・エルグラードと同様に奇跡の嘘を広めていただくしかないかもしれません。」

「ウムム、・・・・。
 スタンピードの矢面やおもてにまさか我が娘を当てることになろうとは・・・。
 しかしながら、他に方法が無ければ止むを得まい。
 其方に頼もう。
 ヴィオラは、やはり、その昔、エルグラードの悲劇で自らの命を張って先祖を守り通した女たちの血を引いているのだな。
 だが、決して死んでくれるなよ。
 仮にスタンピードを止められたにしても、お前に何かがあればわしがイリアナに縊りくびり殺される。
 其方の無事な帰りを待っている。」

「はい、間違いなく無事に帰って参ります。」

 ヴィオラ(私)は、精一杯お父様に微笑んで、その場から転移しました。
 転移場所はスパイ・インセクトが飛んでいる空域です。

 魔物たちは、既にサモラ村を蹂躙じゅうりんし、隣町であるハタボスに3リーグまで迫っています。
 ヴィオラ(私)は、自らの姿に隠蔽いんぺいを掛けたまま、空中から広範囲殲滅魔法を発動しました。

 ここは聖マルガリータ教会で起きた奇跡のように、氷魔法で殲滅します。
 相手が魔物ならば一切の遠慮はいりません。

 慎重に範囲を指定し、エクストレマ・グラーシェ・インフェルニ(極限氷間地獄?)を発動しました。
 魔物の集団をすっぽり覆う範囲の直径7リーグの円内が一瞬にして凍り付きました。

 範囲内のものを絶対零度にまで下げる超特大魔法です。
 スタンピードで突進してきた魔物はこれで殲滅できました。

 残りは瘴気発生地点付近でうごめいている植物の魔物や移動速度の遅い魔物ですが、空中を飛行しながら探索しつつ、殲滅して行きました。
 こちらは氷魔法ではなくって、空間魔法です。

 ブラックホールよろしく亜空間に吸い込んで、焼却してゆきます。
 全部の対処が終わったのは開始から三時間後でした。

 ヴィオラ(私)は、屋敷に戻り、お父様の元へと報告に行きました。
 但し、お父様の執務室にはお母様がいらっしゃいました。

「あら、ヴィオラ、どこへ行っていたの?
 お部屋に居ないから、お父様に尋ねようと思ってここへ来たのだけれど・・・。」

「あ、・・・。
 ちょっとお散歩です。
 お父様、心配事は無くなりましたので、無事に学院に行けそうです。」

 お父様の少し青白かった顔に血色が戻りました。
 ため息をつかれながらお父様も言いました。

「そうか。
 無事に済んだか。
 余りに速いからもしやと駄目だったかと思ったんだが、本当に心配はないんだな。
 イリアナにもまだ話していなかったのだが、内緒にするわけにも行かないだろうな。
 まぁ、ヴィオラもそこに座りなさい。」

 それから事情を説明し、ヴィオラ(私)が東部地区で為してきたことをお話しすると、お母様が猛烈に怒りだしました。
 それから二時間、お父様とヴィオラ(私)は、お母様にこってりとしぼられました。

 事の良し悪しよりも、お母様に話を通さずにいたことでお怒りになったようです。
 お父様もヴィオラ(私)もお母様に心配かけまいとして、しらせなかったことが裏目に出ました。

 今後、お父様に話をする場合は、お母様にも一緒に聞いていただかねばならないようです。
 ヴィオラ(私)はまた一つ賢くなったかしら?

 そうしてその後、ハタボス住民からの知らせで、領軍の調査が入り、氷のオブジェと化した魔物の数が数えられ、ハタボス周辺に達した魔物の数は、5718体と確認されました。
 中には体長8尋ほどもある大トカゲの魔物も居て、さながらドラゴンの様だったと聞いています。

 調査はエルグンド領の境まで及び、隣の領地であるベイチェル子爵領に端を発した可能性があるとして、ベイチェル子爵へも通報がなされました。
 ベイチェル子爵領でも魔物が移動した痕跡を調査し、ベイチェル子爵領内が発生源であることが確認されました。

 この一件は、エルグンド伯爵家とベイチェル子爵家の双方で、判っている範囲の顛末を急ぎ王宮へ報告を為したのでした。

 魔物が何故凍結したかその理由は不明とされましたけれど、この一件はサモラ・ハタボスの奇跡として語り継がれることになりました。
 サモラ村の全滅は残念なことでしたが、ハタボスの町を救えたのはとても大きいです。

 因みに、ハタボス周辺では、聖マルガリータ教会での奇跡を関連付けて、同教会への巡礼者が増えたそうです。
 ヴィオラ(私)は、人が造った宗教は信じていませんけれど、神様にはお会いしたから、その存在は信じていますよ。

 神様への信仰が強まるのはこの世界にとっても良いことじゃないだろうかって思います。

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