コンバット

サクラ近衛将監

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第三章 学院生活編

3ー36 ロクでもない襲撃

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 ヴィオラで~す。
 秋休み中は王都別邸で過ごしているわけですけれど、五日のうち三日乃至四日は、私の工房に出かけています。

 私の工房に居る見習い職人の訓練教育のためですけれど、それが嵩じて犯罪を誘発してしまったかもしれません。
 王都別邸からエルグンド伯爵家の家紋のついた馬車が、貴族街区と商業街区の端境域にある工房へ頻繁に出かけるのです。

 貴族街区には入れない者でも、商業街区にある工房の入り口を見張ることができますよね。
 そうして馬車には年端の行かない幼女(?)が一人、侍女もついていますし、警護の騎士も居るんですけれど、距離的に近いという事もあって騎士は二人だけなんです。

 そんな警戒感の無さを突いたのかもしれません。
 とある日、夕刻になって馬車が工房を出た後、2ブロックも移動しないうちに、覆面姿の集団に襲われました。

 前後の道が手製の簡易な馬防柵で閉ざされ、逃げ道を塞いでから襲撃してきたのです。
 賊は全部で12名でした。

 勿論、事前に私(ヴィオラ)の索敵で賊が潜んでいるのは承知はしていましたから、その対策もしておきましたよ。
 今回、この場に私の擬態の一つであるマスコジェンカが出てくると、私との関連性が疑われます。

 従って、式神四枚で冒険者風の男性四人を出現させました。
 彼らが馬防柵を道路に引き出して、私(ヴィオラ)の乗る馬車を止めた時点でもう有罪確定ですからね。

 馬車の前後の道に6人ずつ配置されていましたので、その背後に各二人の冒険者式神を出現させ、一気に成敗します。
 本来ならば捕らえて背後関係を調べ、裁きにかけるべきなのかもしれませんが、時間と手続きが面倒なので、そうした部分は省略し、全員その場で殲滅せんめつです。

 実は、怪しい気配を感じた時点で、襲撃者の意図を闇魔法で強制的に探っているのです。
 この闇魔法で相手の意思を探る手法はあまり使いません。

 一つには強制的に相手の意思を覗き見るので場合により相手を心理的に傷つける恐れがあるからです。
 例えて言えば、鍵のかかっている扉を無理やりこじ開けるようなものですから、その人物に対して永久的な精神障害を与えることにもなりかねません。

 そうしてもう一つ、優れた魔法師に対してこれを使うと相手が気づく恐れもありますので、無暗やたらには使えないのです。
 でも明らかな悪意をもって、警護の騎士を殺害してでも排除しようとする人物ならば、遠慮会釈なしに使っても構いませんよね。

 特に、遠足に際して白昼堂々と襲われた経験があって、私(ヴィオラ)も用心をするようになりました。
 闇魔法の行使の結果、彼らが伯爵家の娘と知っていながらかどわかし、金をおどし取ろうと図ったことが判明しました。

 この世界では、貴族の馬車を襲撃しただけで、間違いなく死罪は免れないものなのです。
 従って、冒険者式神達は、私(ヴィオラ)の意図を受けて、容赦なく賊どもを切り捨てていました。

 私(ヴィオラ)の警護の騎士達がほとんど動かないうちに、賊どもは成敗されたのです。
 警護の騎士が呆気にとられ、礼を言う前に、冒険者式神四人はさっさとその場から姿を消しました。

 警護の騎士達は、私の傍を離れるわけには行きませんので追いかけることもできません。
 一応声はかけたようですけれど、式神たちは無視をして駆け足で去って行きました。

 のこされたのは物言わぬ12体のむくろと、馬防柵だけでした。
 遺体と馬防柵を道路脇に寄せて、そのまま馬車は王都別邸へ向かいます。

 後始末については、王都の騎士団が対応することになりますけれど、こちらからはできるだけ速やかに騎士団の詰め所に連絡しなければいけません。
 幸い、貴族街区の入り口付近には常時衛士が居ますので、そこに連絡をして後を任せます。

 尤も、背後関係については、私(ヴィオラ)がある程度承知はしていてものの、一応調べなければなりません。
 その夜、あらかじめ犯人から得ていた情報に基づいて、王都の城壁内にある貧民街区のとある一画におもむきました。

 そうして、そこに潜む犯罪者集団を消滅させました。
 彼らは、所謂いわゆる、闇ギルドではありませんが、前科者やその予備軍が寄り集まって組織めいたものを形成しているようで、この貧民街区に縄張りを持つヤクザのような連中なんです。

 アジトに残されていた資料などから判断して、常日頃から色々とあくどい真似をしていたことが分かりました。
 幼児などの人身売買も平気で行っているようですし、をこの貧民街区の住人からも恐喝同然に集めていたようですね。

 清水の次郎長さんみたいに、漢気溢れる庶民の味方みたいな人達なら良かったのですけれど、どう見ても生かしておいて良いことはなさそうなので、あっさりと潰しました。
 その夜、組事務所(?)に居た連中全員の呼気から酸素を奪って、死に至らせました。

 酸素が無い中では一呼吸で意識を失い、五分もその状態が続くと人は間違いなく死ぬんです。
 ここを潰してもまた別の組織ができちゃうのかも知れませんので、今後は継続的な監視が必要のような気がしますね。

 念のため、この貧民街区にも式神を配置して監視を続けることにします。
 多分半年かそこらに一度は、大掃除をしなければならないかも知れません。

 因みに、その後の騎士団の捜査では伯爵家の馬車を襲撃した賊たちについては背後関係が不明のまま被疑者死亡で終結しました。
 一方で、彼らのアジトでの集団死については致死性の毒ガスが発生した恐れがあると推測されました。

 この世界でも一酸化炭素中毒や火山性ガスによる中毒死があるので、そうした目に見えない毒ガスのようなものがあるという事実は知られているのです。
 それが何であるのかは、この世界の錬金術師達がより一層の精進をしなければ解明できないでしょうね。

 私(ヴィオラ)も、この知識を簡単に教え広めることはしません。
 いずれロデアルで高等教育をする場所ができたなら、別途検討することにいたしましょう。

 でもねぇ、化学ばけがくは本当に危ないんですよね。
 下手に広めると、絶対にテロが起きるようになります。

 どんなに王様や上に立つ者が善政を敷いたとしても、庶民に不満は残るものですし、中には過激な者も存在するのです。
 化学は、魔力や魔法とは無関係に大量殺戮の道具を生み出す原動力になりますからね。

 私(ヴィオラ)としては、正直なところ、余り広めたくはない分野の知識なんです。
 でも、将来的に、この世界でもいわゆる科学技術が進むことは有り得ます。

 使う側の考え方により危険な道具になり得るのは、包丁と同じですよね。
 包丁は、料理に使う分には平和利用ですけれど、人を殺すことのできる凶器でもあるんです。

 科学技術の進歩の全てを止めることはできないでしょうね。
 特に私が錬金術を駆使してロデアルの産業育成に寄与しているのですから、ほかの人が伸びようとするのを止めることはできません。

 ジレンマではありますけれど、その都度、良し悪しを判断しなくてはいけないようですね。
 ささやかな戦いなのですけれど、私(ヴィオラ)はこれにも対応して行かねばなりません。

 この先の道のりがとても遠く見えてしまいますね。

 ◇◇◇◇

 秋休みの期間中に進展があった喜ばしいこともありますよ。
 稲穂から収穫したお米で、品種改良を続けた結果、以前は『味宜しからず』と鑑定で出ていたものが、『味・下の中』に変わったのです。

 またクロイゼンハルト公国の地下の秘密農場で作ったこうじ菌が何とか前世の米麹に近いものになったような気がするんです。
 まだ、研究途上ではありますが、小豆を使って味噌ができないかをクロイゼンハルトの環境に合わせた亜空間で試行錯誤しているところです。

 ゴーレム農夫さんが、単純作業ならばしっかりとやってくれますので、そう遠くない時期にきっとおいしい味噌ができるんじゃないかと期待しています。
 何しろ亜空間内では、三日あれば二年以上の歳月が経過しますので、経過観察をしつつ、品種改良をするには最適の環境なんです。

 麹菌を育成するには温度と湿度が決め手だとは聞いています。
 場合分けして、何百通りのものから適合品を選ぶのがとても大変なのです。

 今一つ、米についても、私(ヴィオラ)の亜空間倉庫の中で時間を加速して更なる品種改良のため栽培を推し進めています。
 塩水利用による稲そのものの品種改良も順次進めていますし、肥料として何が適切なのかも鋭意研究中なのです。

 農民スキルを持った二人にも、入手した種籾を与えて工房の敷地内の温室で栽培実験をさせています。
 多分、私(ヴィオラ)の亜空間倉庫での品種改良の方が早いとは思いますけれど、今の段階で稲の育成にはどのような作業が必要なのかを彼と彼女には知っておいてもらいたいからです。

 農民スキルを持った子は、男の子がアルノルド、女の子がフルヴィアと言いますがどちらも9歳で、この夏に孤児院から引き抜いてきた子達です。
 この二人は、農民スキルのレベルが3ですので、今後の伸びしろを考えると農業適性は大ですね。

 麹ができたなら、味噌づくりと醤油づくりもこの二人に任せるつもりでいます
 もう一つ、米にしろ、味噌・醤油にしろ、良いものを作るためには味覚が優れている者を付けてやらねばなりません。

 工房見習いの中に料理スキルのある子もいますので、その子を育成して美味しいものを順次作り出してもらおうと思っています。
 私(ヴィオラ)は、その際の監督はしますけれど、料理はしません。

 私が全部やってしまうと見習いも育ちませんからね。
 ある程度は手本として見せることも必要ですけれど、自ら新たな境地を掴み取ることが大事だと思うのです。

 『やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば人は動かじ』という言葉があります。
 名言ではあるのかもしれませんが、人を育てるにはこれだけでは足りません。

 命令によって動くだけの兵隊さんを育てるにはそれでも良いかもしれません。
 また、一子相伝の弟子を育てるだけであれば、それでもかまわないのです。

 でも、スキルを持った者が伸びるには、先人や師匠を越えねばならないのです。
 一子相伝は、言葉は格好良いのですが、要は他人には伝承しないという事であり、例外はありますけれど、同時に受け継ぐだけで発展をしないという忌まわしい慣習なのです。

 その意味で、一子相伝の技は、いずれ滅することが決まっているのだと思われます。
 切磋琢磨というものが無ければ、伝統以上のものは生み出せなません。

 私(ヴィオラ)は、いずれどこかの時点で、ロデアルからも工房からも手を引くことになるでしょうから、それぞれの職人達で切磋琢磨して技術を押し進めて行く、そんな気風を育てたいと思っているんです。
 私(ヴィオラ)自身が人を育てた経験なんかありませんから、正直なところ自信はありませんけれど、ロデアルに住む人々の為にできる限りのことはやってあげたいと思っています。

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