コンバット

サクラ近衛将監

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第四章 学院生活(中等部編)

4-17 編入生 その五

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 ヴィオラで~す。
 皆さま、ご機嫌いかがでございますか?

 ヴィオラは今日も元気ですよぉ。
 さて、リットニア王国の第三王子であるアントニオ殿下を狙ったのではないかと思われる不審者ですが、捕まった当日の未明、一旦は逃亡を図ったのです。

 でも、私(ヴィオラ)が仕掛けておいた罠にひっかかり、身動き取れない状態であったものを、翌朝になって、私が影空間から引きずり出して事なきを得たわけです。
 但し、生憎とこの二人、取り調べ中に何も言わないまま自殺を図ってしまいました。

 その危険性はあると承知しつつも、私(ヴィオラ)が放置していましたからやむを得ないでしょうね。
 彼らはどうやら歯の中に仕込みの毒を入れていたようです。

 そのために取調べに当たっていた近衛騎士は、相手の素性も侵入目的も知ることはできませんでした。
 念のため、明るくなってから宿の上空に式神を飛ばして宿を俯瞰させたら、アントニオ君とカイン君の部屋の窓の下に小さな白布が垂れているのが分かりました。

 部屋は二階ですから、地上から人に見られずに貼り付けるのはかなり難しいでしょうね。
 取り敢えず、怪しいのはアントニオ君とカイン君の部屋に出入りした人間でしょうか。

 そうしておそらくは、私達中等部一年のAとBクラスが、この日ここに泊まるという事前情報を得ていなければ、そうした事前工作もできないのでしょうね。
 従って、ライヒベルゼン王国の王都、なかんずく学院の中にもその手先が入り込んでいることを疑わなければなりません。

 ルテナがその疑問の一部に答えてくれました。
 宿の女中の一人がアントニオ王子の部屋の担当であり、夕食時に部屋に入って窓の下に小さな布片を張り付けたのです。

 どうやら事前に金で雇われた形跡があるようですが、その女も暗くなってから帰宅中に殺害されていました。
 生憎と殺害現場は、私(ヴィオラ)の探知範囲から外れていましたので、私(ヴィオラ)も気づきませんでした。

 一方で、私(ヴィオラ)の放った式神は、他の不審者の追跡をしっかりとやっていますよ。
 当座は、フレマーズ郊外の山の中に引き上げた不審者たちですが、すぐに一人が何やら紙片にメモを書き、そのメモを伝書鳥に託して放ちました。

 因みに、この世界では伝書のために鳩ではなくって、小型の猛禽類もうきんるいのロナウを使っているんです。
 ロナウは白と茶が混じった色合いで、大きさは全長で25センチほどでしょうか。

 鳩よりも小さい鳥ですが獰猛どうもうで、他の大型野鳥でも撃退するほどの力があるんです。
 鳥の種としては、鷹類に属するので、鷹班たかふと呼ばれる特徴的で綺麗な縞模様を持っている鳥なんですよ。

 その足に小さな紙片を入れた革袋かわぶくろくくり付けて伝書に使うらしいのですけれど、そもそもロナウを使うのは普通軍の組織以外にはありません。
 ロナウは、非常に高速で飛ぶ鳥ではありますけれど飼育が難しく、また人に慣れにくい鳥でもあるからです。

 軍では中級以上のテイマー・スキルを持つ者で何とかテイムすることができるぐらいでしょうか。
 ルテナ曰く、ライヒベルゼン王国でも、軍でロナウを使っていますが、テイマー・スキルを持つ者自体が少なく、通信専門の部隊が二小隊で、ロナウ16匹を使っているだけのようですよ。

 暗号で記載していたのでそのままでは読めないんですけれど、リーダーらしき男が暗号を記す際に、ぼそぼそと呟いていたので、大体の内容はわかります。

『朝まで待っても刺客二人が戻らない。
 任務は失敗。
 アジトに戻る。』

 ロナウを使うとわかった時点で、私(ヴィオラ)は、仕方がないので放たれるロナウに式神を付けました。
 流石に現場に余分な式神はありませんから、10人の不審者につけていた式神の一つを剥がしてロナウにつけ換えたのです。

 仮にこの集団がばらけると、最低一人は見失う可能性もありますけれど、彼らの場合、仕事で動くときは二人一組のような気もしますから、多分大丈夫でしょう。
 少なくともリーダー格の男だけはしっかりと抑えておく必要がありますね。

 もう一つ、式神が対象人物から離れていると、影空間に潜り込まれた際に見失うようですので、式神を不可視のままで彼らの装束に張り付けています。
 これで、彼ら不審者が影空間で移動しても式神は離れずにいます。

 但し、式神は影空間に入り込むと私との通信ができないのです。
 今後の為に、影空間に入り込んだ際にも式神とパスがつながるような対策を何か考えておく必要がありますね。

 王立学院AクラスとBクラスの生徒たちは、事件のあった日の昼過ぎに、フレマーズを発って王都に戻り始めました。
 帰路での襲撃はありませんでした。

 陰の組織のようですから、昼日中に動くのはやりにくいのでしょうかねぇ。
 ルテナ曰く、昼と夜とで実力が違うわけでは無いのですけれど、夜の方が彼らの実力を発揮しやすく、対応する相手方によほど夜目が効く者が居ないと、相手方に大きなデメリットが生ずることから、夜間での襲撃が多い様ですという説明でした。

 いずれにしろ、彼らは昼前には一斉に動き出しましたが、すぐに影空間に入り込んでしまったので、彼らが影空間から出るまでは動静が見えないことになります。
 私たちが王都に到着してから二日ほど経過後、彼らはライヒベルゼン王国とリットニア王国の国境近くにまで進出していました。

 そこで一旦地上に出て、場所を確認したようなので彼らの居場所が分かりましたけれど、移動速度は速いですね。
 道路に沿って移動する必要が無く、直線で移動できるので早いのでしょうけれど、馬よりも移動速度は早そうな気がします。

 次に出現したのは更に二日後で、リットニア王国の地方都市でした。
 夜陰に乗じて出現したのは彼らのアジトの様です。

 そこでようやく警戒を解いたのか、彼らがてんでバラバラにしゃべり始めました。
 さほど大きくは無い町ですし、中心部から外れた一軒家の地下室ですので防諜対策もしっかりとできているのでしょう。

 そうした雑談の中でも重要な情報が入手できました。
 一方で伝書鳥のロナウですけれど、翌日の昼には、レインバルク帝国の帝都レイホルツの一画に到達していました。

 ロナウの運んできたメモを見た男に式神を乗り換えます。
 最終的にメモの内容は、当該男から王宮の一画にある東宮の人物に伝えられました。

 影の組織の長と思われる男が、人ばらいをしてもらったうえで、結果報告を為した相手はレインバルク帝国の第三皇子のベルモンドでした。
 帝国の場合、皇太子が世継ぎですけれど、第二皇子、第三王子もいるので世継ぎに支障は無いようですね。

 二人の内緒話は次の通りですよ。

「まさか、ウンブラが失敗するとはのぉ。
 予想外じゃった。
 それにしても我らの所業であること、ライヒベルゼンにはバレてはいまいな?
 ナイバックスよ。」

「は、普段から一切の身辺情報を所持しないようにしておりますので、捕らえられてもどこの者かは分かりません。
 まして捕らえられて脱出が不可能で有れば、自ら命を絶つようにしておりますれば、彼らから我が帝国の名が出ることはありませぬ。」

「奴らが身に付けている装束や武具は?」

「我らが仕事をする場合、現地で事前に武器を徴用します。
 今回はライヒベルゼン王国で入手した武器を所持させているはずです。
 但し、毒については、我がウンブラ直伝の秘密であれば、よそ者がその出自を判別はできぬと思います。」

「まぁ、後を手繰たぐられなければ良い。
 しかし、あわよくば、リットニアとライヒベルゼンを仲違いさせようと思ったに・・・。
 徒労に終わったか。
 また別の手を考えねばなるまいな。」

「は、次の手としては、リットニア北部の蛮族を刺激する方策も検討中にございますが、すぐに動きますか?」

「いや、此度の一件でリットニア本国でも警戒を強めることになるであろう。
 少なくとも三月は時間を置け。
 今ひとつ、リットニア南部の某伯爵が王家に不満を抱いているとの情報もある。
 こちらを使う手も合わせて検討して置け。
 場合によっては、リットニアの南と北で同時に扇動する。
 南北に兵力を割かれては、兵数の少ないリットニアも疲弊するであろう。
 状況により帝国軍を侵入させることになるやも知れぬ。」

 どうやら今回の悪の親玉は、取り敢えず、レインバルク帝国の第三皇子と陰の組織ウンブラの長であるナイバックスのようですね。
 今後の平穏の為にも、きっちりと落とし前を付ける必要がありそうです。

 ◇◇◇◇

 その日の夜、私(ヴィオラ)は身代わりの式神を置いて夜のお散歩です。
 リットニアの王都リトゴルドまでは直線距離で250キロほどでしょうか。

 私(ヴィオラ)が時速500キロで飛行すると四半時しはんときで到達できます。
 そうしてさらにその西にあるレインバルク帝国の帝都レイホルツまでは、更に300キロほど遠くになります。

 これをライヒベルゼン王国から道なりに行くとなれば、馬車でも一月ほどかかる距離なんですよ。
 帝国は遠い国なんです。

 でも面倒なことは、チャチャっと済ませてしまいましょう。
 そんなわけでリットニアの地方都市クワッドロウの郊外にあったアジトを潰し、たむろしていたウンブラの構成員全員を殺害しました。

 ライヒベルゼン王国に出張っていた10名、それにアジトに常駐してアジトを管理していた夫婦者の2名の呼気から酸素を断って殺害です。
 次いで、帝国の帝都レイホルツへ飛んで、帝都の一画にあるウンブラの宿舎に居たナイバックスを始め構成員全員を殺害しました。

 ヤッパリ呼気の酸素を断って殺戮しましたので全員眠るようにお亡くなりになりましたよ。
 構成員の家族については、殺戮の対象から外しています。

 そうしてもう一人ベルモンド第三皇子の場合は、同衾どうきんしていた若い女性が居ましたけれど、天井裏からベルモンド皇子の心臓を圧迫して心不全を起こさせるようにしました。
 このため第三皇子は心の臓の病で苦しみ抜いて急死したことになりました。

 何せ同衾していた女性が苦しむ第三皇子をしっかりと見ていましたから、急病による死亡で終わったのです。
 帝国を裏から支えていたウンブラのほぼ壊滅と第三皇子の急死は、帝国側の重鎮に大いなる疑念を抱かせることにはなりましたが、そのまま闇に葬られました。

 私(ヴィオラ)は、またまたつまらぬ者どもを粛清したわけですが、多少の心の痛みはあるのですよ。
 でも放置すればより多くの無辜むこの人々が殺される可能性がある以上、黙ってはいられなかったのです。

 きっと、こんなことがもっともっと続くのでしょうねぇ。
 後世、『血まみれヴィオラ』とか呼ばれるのは嫌ですねぇ。
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