コンバット

サクラ近衛将監

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第四章 学院生活(中等部編)

4-21 婚約披露宴

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 冬休みの終わりとともに私(ヴィオラ)は学院に戻りましたが、その五日後にはお父様とお母様が連れ立って王都に参りました。
 かねてからの予定通り、王都のブルボン家別邸にて、ブルボン家とエルグンド家が合同でレイノルズ様と私(ヴィオラ)の婚約発表をする宴を催すためなのです。

 本当は、私(ヴィオラ)が中等部三年の後半になるまで待っても差し支えないはずなのですけれど、ブルボン家としては、レイノルズ様の元婚約者の家に関わる悪い噂を払拭したいがために早目の婚約披露になったのです。
 この辺は、マーガレット侯爵夫人の強い希望で早目の披露になったと聞いています。

 マーガレット侯爵夫人の意向としては、多分に他家からの触手が私(ヴィオラ)に伸びることを防ぐ意味合いも大きかったようです。
 まぁ、確かに私(ヴィオラ)の本当の能力を知ったなら、どこの貴族であってもあの手この手で私(ヴィオラ)を手に入れようと図ったかもしれませんね。

 私(ヴィオラ)としては、マーガレット侯爵夫人にさしたる能力を見せた覚えはないのですけれど、侯爵夫人は私(ヴィオラ)のことを随分と贔屓目に見ているようです。
 まぁ、マーガレット様とレイノルズ様の応対には極力失礼が無いように気を使いましたけれど、心証を良くするためというよりは、貴族令嬢としての極普通の対応を心掛けたつもりなのですが、外目には数えで11歳の令嬢の応対としては出来過ぎており、大人振り過ぎたようなのです。

 そのために余計にマーガレット様の焦燥感を煽り立て、早目の婚約披露になってしまったわけです。
 国王派重鎮であるブルボン侯爵家、また、それに準ずるエルグンド伯爵家の婚約披露とあって、披露宴の招待客には国王派閥の貴族が8割以上を占め、残り2割は中間派閥の貴族が占めました。

 生憎と王弟派閥の貴族は、余程のことが無い限り、こうした国王派の披露宴には招かれません。
 そうしてまた、王家の方々も臣下筋の披露宴に招待されることは無いのです。

 この辺は貴族の慣行というよりも作法に近い儀礼なのです。
 その代わりに、王家血筋に関わる婚約披露の場合には、臣下筋として可能な限り出席することになりますから、例えば、王女殿下の婚約披露には、いずれの派閥も参加しますし、同様に王弟の子息の婚約披露にも同じくいずれの派閥貴族も参加して義理を果たすのです。

 然しながら、王家の婚約披露に対する王弟派閥の貴族、王弟子女の婚約披露に対する国王派閥の貴族の参加は、どうしても義理的な出席に留まり、所謂お祝い的な意味合いはかなり薄れるようです。
 従って、当然のことながら、私(ヴィオラ)とレイノルズ様の婚約披露に、王弟派閥の貴族が出席することはあり得ないのです。

 このために、こうした派閥内の婚約披露宴等に出席するかしないかで王弟派閥との仕分けがある意味で可能になるわけです。
 一方で中間派閥の見分けは難しいですね。

 国王派に近しい中間派も居れば、王弟派に近い中間派も居るのです。
 但し、そうした中にも変動が多少あり、以前町中で急病になった老婦人のマティルダ様の嫁ぎ先であったエルツィナ侯爵家は、どちらかと云うと王弟派閥に近しい中間派とみられていましたけれど、現エルツィナ侯爵が今回の披露宴に出席され、私(ヴィオラ)にわざわざご挨拶をしていただけたことから、国王派に近しい中間派とみられることになりました。

 エルツィナ侯爵様は母親思いの殿方の様で、私(ヴィオラ)がお母様であるマティルダ様の危難を救ったことに大いなる感謝をしてくれたのです。
 マティルダ様とお会いしたのはもう三年ほど前の事なのですが、こんなところでも『情けは人のためならず』で、いつか還ってくるものだという事を改めて知りました。

 ところで貴族の子女の婚約披露というものは、他の貴族に対する貴族同士の結びつきをお知らせする宴であると同時に、社交の場でもあるのです。
 そのために出席する貴族の子女で未だ婚約が決まっていない者達の見合いの場にもなるのです。

 従って、既にお相手が決まっている方については、私の兄や姉のように親族でもない限りは出席しないのが礼儀とされています。
 また止むを得ず出席する場合でも、既婚若しくは婚約の目印を衣装に付けるのが儀礼とされています。

 既婚者や婚約者が決まっている場合は、男女とも正装にサッシュを肩から掛けますが、未婚若しくは婚約者が決まっていない場合は、女性はサッシュをベルトのようにウェストに締め、男性はサッシュを身に付けないのがこの世界のしきたりです。
 いずれにしろ、ブルボン家とエルグンド家の婚約披露宴にも多数の若い人たちが出席していますが、中等部二年生以上でなければこうした機会に参加することは控えられます。

 逆に中等部二年になれば解禁となるために、良き出逢いを求めて多くの貴族の子女が各種の宴に参加することになるのですが、この時に欠かせないのが、親若しくはエスコート役の参加なのです。

 子女が参加する場合、少なくともいずれかの親若しくは年長者が出席しないと参加できません。
 今回の場合は、全体の三割の参加者に随行して各貴族家の子女がついてきていましたので、会場であるブルボン家別邸のあちらこちらで所謂《いわゆる》お見合いが賑々《にぎにぎ》しく行われているのです。

 ところで、そんな宴の最中に、無粋な邪魔者が侵入しました。
 この邪魔者の黒幕は、レイノルズ様の元婚約者であった御令嬢の母親でしたが、そもそも自らの不貞が原因なのに、何故か逆恨みしてレイノルズ様を亡き者にしようと刺客を送り込んできたのです。

 刺客はまんまとブルボン家別邸の臨時の雇われ給仕に紛れ込み、レイノルズ様を暗殺して逃亡することを企てていました。
 計画達成のために、刺客の相棒である女メイドも入り込んでいて、会場内の別の場所で騒ぎをひき起こし、その騒ぎに乗じてレイノルズ様を狙おうとしたのですけれど、生憎とレイノルズ様の傍《かたわら》には私が居ましたから、殺気とその動きに気づいて、暗殺を未然に防ぐことができました。

 勿論《もちろん》、私の仕業《しわざ》と余人《よじん》に気づかれないよう偶然を装って、刺客の男が飛び込んでくる男の足を魔法で引っかけて床に転がしただけなのですけれどね。
 何せ猛毒を塗ったナイフを持ってレイノルズ様を刺そうとしていた男なのですから言い逃れはできません。

 すぐに異常に気付いた周囲にいた腕自慢の男達に、ぶちのめされ、取り押さえられていました。
 取調べの結果、レイノルズ様の元婚約者であり自殺したデルバニア伯爵の元御令嬢の実母で元伯爵夫人であったクレシアが隣国で雇った闇ギルドが動いたものと判明しました。

 但し、依頼を受けた別の国の闇ギルドは地の利が無いために、国境を越えて動くのは非常に珍しいことなのですが、今回はその例外だったようです。
 いずれにしろ大元の元凶はクレシアと知れましたが、最終的に侯爵家では大枚の懸賞金を掛けて冒険者ギルドに黒幕であるクレシアの捕獲を依頼したのです。

 隣国への通知と共に犯罪人引き渡しの手配も併せて行いましたが、冒険者ギルドへの依頼については生死を問わず捕らえよというものでした。
 それから3月後、隣国にてスラム街に潜り込んで売春婦になっていたクレシアがギルドの依頼を受けたハンターによって捕らえられ、王国に送還されている最中に逃亡を企て、最終的に狼に殺され、死体となって戻ってきました。

 このように余り良い話ではなかったのですが、レイノルズ様に付きまとう不吉な闇は拭われたのです。
 因みに私(ヴィオラ)とレイノルズ様の婚約披露宴では、新たに二組の出会いがあり、概ね半年後には私の一つ上で中等部三年の先輩が婚約者を得たことで、ブルボン家とエルグンド家にお知らせの通知が来ていました。

 この世界では切っ掛けとなった宴やパーティの主催者の元にはお知らせという形で必ず通知が来るのだそうです。
 私(ヴィオラ)の場合は、こうした宴が切っ掛けではなかったのですが、貴族の子女の場合、約4割がこうした宴などの折に知り合った者が結ばれ、4割は親同士の合意したお見合で結ばれ、1割は親同士の約束で幼少の頃から許嫁が決められ、残り1割の半分が本人同士の恋愛で結ばれるという統計を、50年ほど前の物知りの方が書き物に残していますが、余りあてになる正確な統計では無いようです。

 但し、大枠でパーティと親同士が裏で動くお見合いが、婚約の大きな割合を占めているのは確かですね。
 私もまんまと載せられた口ですし、もっと事前に知ることができていたなら回避策も取れたかもしれませんが、当日に知らされてはどうにもできませんでした。

 まぁ、いずれは嫁に行く身と諦めるしか無かったのは事実ですからね。
 それでも嫁ぎ先となるブルボン侯爵家は、どんなところなのでしょうね。

 派閥抗争の問題もあって、ブルボン家の所領及び王都別邸の状況などいろいろ調べることが増えてしまいましたね。
 問題は、エルグンド家で行っていたような殖産興業をどうするかです。

 目立たないためには、何もしないというのが一番なのですけれど、生憎と私の能力で色々なものを生み出してしまい、ある程度便利な生活に慣れてしまいましたからね。
 今更、不便な生活に戻るというのも何となく嫌ですよね。

 まぁ、ブルボン家の様子を見ながら適宜の手法を取りたいと思っています。
 婚約が済んでも私の学院生活は続きます。

 一つの方法として寿中退(結婚を前提として学院での学業よりも花嫁修業を優先する)というのも無くは無いのですけれど、同級生、特にエミリア第四王女とのしがらみもあり、友人として勝手に中退もできません。
 第四王女の身辺は、放置するとろくなことになりかねない要素も最近見え隠れしていますからね。

 私(ヴィオラ)のできる範囲で守ってあげるつもりでいるんです。

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