コンバット

サクラ近衛将監

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第四章 学院生活(中等部編)

4ー23 領都セルデンにて その一

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 ブルボン侯爵領の領都セルデンに着いたその夕刻には、ブルボン家の親族一同や縁者が集まって、私(ヴィオラ)の歓迎会を催してくれました。
 この宴会は王都で催された婚約披露宴には参加できなかった者達への顔見世披露の意味合いが大きいのです。

 そうしてまた翌々日には、上級家臣や地元の名士を集めての披露宴もございます。
 予め、レイノルズ様を通じてセルデン滞在中にはこのような催し物があるという事を事前に私(ヴィオラ)に知らされていましたので、そのための準備にも余念がありません。

 私(ヴィオラ)の馬車の天井に載せた荷物の大半は、私(ヴィオラ)の衣装になります。
 大きなトランクのような桑折こおりに詰め込まれた衣装の数々が、嫁候補としての私(ヴィオラ)の戦装束いくさしょうぞくなのです。

 エルグンド家は伯爵家であり、侯爵家よりも家格が落ちるのは致し方ありませんが、たかが伯爵の娘と侮られると、嫁としてブルボン家に入った時に困ります。
 従って、取り敢えず、外面だけでも侯爵家に見合う扮装をしなければならないのです。

 婚約が決まった時から、ある意味で嫁入りのための闘いは始まっているのです。
 セルデン滞在中の7日間、毎日衣装をとっかえひっかえ着るのが私(ヴィオラ)の日課になりますし、外出する時と邸内にいる時の服装は、それぞれ変えなければいけないんです。

 ある意味でファッション・ショーに近いですね。
 貴族の見栄なのでしょうけれど、私(ヴィオラ)はこんなに衣装を持っているんだぞって、周囲に見せつけなければならないんです。

 実際のところ、私(ヴィオラ)自身は、アホらしいとは思ってはいますけれど、そのいままわしき慣行を打ち破るだけの力は今のところありません。
 そんなわけで、侯爵邸に滞在中の部屋を与えられて直ぐに旅装から邸内での衣装に着変えることになります。

 私(ヴィオラ)の衣装は、エルグンド領内で紡績・染色・縫製まで一貫して行っている『スペクタクリャ・ロデアル』の製品です。
 ここではロデアル領内の西側山地に生息していた『ボンビ・モスラ』というさなぎが作るまゆから得た糸(前世の絹によく似た製品)を紡ぎ、織機で織った布地を使っています。

 実はボンビ・モスラは、さなぎの大きさが私の身長の半分以上もある魔物なんです。
 羽化するとバッサバッサと音を出しながら飛ぶ大きな蛾になりますし、鱗粉りんぷんに毒が混じっていますので結構危険なんですよ。

 これは私が領内で色々調査中に発見したもので、そのさなぎを見て前世のかいこを思い出したことがきっかけです。
 面白いのは蚕の時期に食べる物によって、繭の色が変わることですね。

 白、薄青、薄赤、薄緑、薄紫、黄色、濃い紫という七色の糸が取り出せます。
 また、確か前世の蚕は食用にもなったかと思うのですが、ボンビ・モスラの蚕は有毒ですので食べられません。

 この絹に似た糸は、非常に強靭で耐火性に優れた品なのです。
 仮に火であぶっても、炙る火炎が消えれば自然消火しますし、この布を重ねて作った厚布は、防刃性が非常に高い布になります。

 似たような繊維では前世に確かアラミド繊維という化繊があったはずですが、こちらの繊維は魔物が生み出すスーパー繊維ですね。
 今のところは、ロデアルだけの産業秘密になっており、数十世代の飼育と品種改良(私(ヴィオラ)の手で試行錯誤しながら遺伝子改良をしました。)により、既に野生化する危険性は非常に少なくなっています。

 いずれはこの秘密が流出する可能性がありますけれど、それまではロデアルの特産製品ですね。
 但し、開発してからまだ二年と経っていないために生産量が少ないので、今のところ入手が難しいのですが、私(ヴィオラ)は開発者でもありますからエルグンドの一族については、優先的に入手できるんですよ。

 この製品は非常に高品質であることから市場価値が高く、王都の富裕層で話題になりつつあるんです。

 ◇◇◇◇

 そうしてその日の夕刻、歓迎会で多くの人々にお会いしました。
 ブルボン家の親族や縁者で、侯爵家よりも上位の方はいらっしゃいません。

 但し、侯爵様の第二婦人の長女マライア様(レイノルズ様と同じ歳の腹違いの姉君)がブルボン家の隣の伯爵領に嫁いでおり、今回は近隣という事でこの歓迎会に参加しています。
 この場合、私(ヴィオラ)は侯爵家の許嫁ではありますが、現時点では伯爵家の娘であり、マライア様は伯爵家に嫁いでいる次期伯爵婦人。

 こういった場合にも格式めいた作法があるんです。
 同じ爵位に属する女性であれば、序列は同格でも年長者が上になります。

 但し、いずれは私(ヴィオラ)が侯爵家嫡男の嫁となり、次期侯爵婦人になるわけで、現段階では自分よりも下位とは言いながら、さほど時間を置かずに上位になるわけですので、マライア夫人も私には丁寧な物言いをすることになり、私(ヴィオラ)もまた年長者に対する尊敬を表しなければならないわけです。
 貴族社会というのはある意味で狐とタヌキの化かし合い的なところがありますが、これをおろそかにしますと陰口を叩かれることになります。

 貴族社会の噂は馬鹿になりません。
 特に女性同士の確執は陰湿な場合があり、色々なところでハブられたりすることもあるんです。

 私(ヴィオラ)だけの問題で有れば気にする必要もありませんが、それが周囲に波及すると問題ですから、可能な限り芽のうちに摘み取らねばなりません。
 そこが貴族社会で生き抜く秘訣のようなものですね。

 最悪の状況に陥りそうならば、闇魔法で相手の意識を任意に変えることも可能ですが、正直なところ余りやりたくはありませんね。
 そうした最終的手段を取り始めると歯止めが効かなくなり、最後は私(ヴィオラ)がこの世界の魔王として君臨する未来が見えちゃいます。

 いずれにせよ、マライア様を含めブルボン家親族の方からは概ね好意的な対応をしていただきました。
 特に、レイノルズ様の父方の祖母であるヒルベルタ様とはとても親しくお話をさせて頂きました。

 ヒルベルタ様は、御年60歳ですが、前世で言えば80歳近いのです。
 御夫君は二年前に亡くなられていますけれど、ちょうどその頃から足が不自由になり、今は車椅子で過ごされているとのことでした。

 歓迎会にも参加されていたんですが、私(ヴィオラ)とお話し中も痛みをこらえていたように見えました。
 なので、私(ヴィオラ)が内緒で生体スキャンをかけ、腰部及び下肢に関わる神経系の損傷を見つけましたので、無詠唱でリジェネ・ヒールをかけてあげました。

 その場で一挙に治すこともできますけれど、目立つので敢えて痛みを少し軽減するように控えました。
 その代わりに、私(ヴィオラ)がセルデン滞在中は、お会いする都度、リジェネ・ヒールをかけてあげようと思っております。

 私(ヴィオラ)が誰にも内緒で行ったリジェネ・ヒールでしたけれど、侯爵家にも魔力の行使を察知できる者が居たようで、その歓迎会の終了間際には、侯爵ご夫妻がそろって私に礼を申されました。

 ヒルベルタ様の病については、専属の治癒師を付けているのだそうですけれど、徐々に痛みが増して来て、対応できなくなっているのだとか。
 そうして私の魔法行使の直後に、側付きのメイドからご夫妻に魔法の行使があったこととが耳打ちされ、同時にヒルベルタ様が「あら、痛みが急に薄れたわ。」と漏らしたことがご夫妻に伝えられたので、騒ぎを引き起こさないように歓迎会終了まで待っていたようです。

 マーガレット様が確認の為に、最初に尋ねてきました。

「ヴィオラ殿、ヒルベルタお母様とお話しされた際に、貴女はお母様に治癒魔法を使いましたね?
 ヒルベルタお母様付のメイドであるユリアは、魔法行使の際に発する魔力を感知できるのです。
 そうして、ユリアが貴女から魔力の発動を感知し、そのすぐ後に、ヒルベルタお母様が痛みが随分と薄れたとつぶやかれたと聞いています。
 その原因は貴女が放った治癒魔法の所為だと思うのですけれど違いますか?」

 あら、あら、またまたやらかしてしまいましたか。
 でも仕方が無いですよね、私(ヴィオラ)はエンバシー能力もあって人の痛みも感知できるんです。

 放置するのはかわいそうと思い、治癒魔法を使ったのですけれど、バレたのなら仕方がりません。
 私(ヴィオラ)の方からは、無断で治癒魔法を使ったことを陳謝申し上げました。

 侯爵様がお話ししてくれましたが、そもそもこの国では治癒魔法を使える者が少なく、これまで高位の聖職者を始め多くの治癒魔法を行使できる者によってヒルベルタ様の治癒を試みたようですが、どうしても痛みを取り除くことができなかったのだそうです。
 逆に言えば、私(ヴィオラ)がとんでもない治癒魔法の行使ができる者として侯爵家に認知され、このことが他に漏れると色々と面倒ごとや災いを招く恐れがあるそうなので、侯爵家内の秘密として外部には漏らさないようにするとのことでした。

 そうして侯爵夫妻とレイノルズ様からは、セルデン滞在中は可能な範囲でヒルベルタ様の治癒を行ってほしいと懇願されました。
 元々、そのつもりでしたのですぐにお受けすることにしました。

 私の日課に、侯爵邸滞在中は、朝食後に一度、夕食後に一度の二回の治癒魔法の行使をすることになりました。
 全部で12回から13回ほどの治癒魔法が行使できますので、最後の方でほぼ全快できるように調整いたしましょう。

 ほぼ全快というのは、ヒルベルタ様付きの治癒師クラジーナさんの仕事を奪ってもいけませんので、彼女の働き処を残すためです。
 可能であれば彼女に治癒魔法の指導ができればよいなと思っています。

 彼女はヒールとキュアはそれなりにできますけれど、損傷した神経を修復するようなリジェネ・ヒールはできないんです。
 これは人体の構造や生理を知らないからできないので致し方のないところがありますけれど、それを指導することで治癒魔法の範囲や能力が広がるかもしれません。

 今回の滞在中の日程ではその時間を見つけるのは難しいかもしれないんですが、ヒルベルタ様に治癒魔法をかける際に立ち会ってもらい、その間に少しずつ教えることにいたしましょう。
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