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第二章 共に生きるために
2-7 松倉屋にて その二
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「まぁ、仇討成就に至るまでにもいろいろありましてなぁ。
箱根で会うたときから彩華が私に一目ぼれしておましたようや。
助太刀は、亡くなった彩華の父親の縁筋で目下の者しかできないのが定法、本来は彩華の父の弟子筋に当たる者が当たる予定でしたんが、これが食わせ者でしてな、助太刀を恩に着せて彩華の操を狙うような不届き者どした。
彩華がその男に襲われかけた時に、見かねて私がその男の利き腕を使えなくしまいましてな。
彩華を助けたまでは宜しゅうおしたが、助太刀と頼む男の腕が借りれんようになりましたのや。
彩華がそのときに私に助太刀を求めて来て、定法で助太刀ができんのなら許嫁になって欲しいと言い出しましたんや。
その時名目だけかと聞いたら、ほんまに許嫁になってほしいと言いましたんや。
彩華の気持ちはその時にほんまもんやとは思いましたんやけれど、仮に名目上でも許嫁になればますます彩華の気持ちを高ぶらせるかも知れまへん。
そうなってから許嫁を解消したんでは彩華の心に傷を負わせます。
暫し考えて、名目上の許嫁になることと、三月待って彩華の気持ちが変わらへんようやったら私も真剣に考えると返事しましたんや。
仇討成就までの一月は白木屋で彩華主従と一緒に生活し、剣を教えました。
仇討は、本来自分の手で成さねば意味がありませんよってな。
一月の間に三人は随分と腕を上げました。
私の目から見てこれなら大丈夫と見極めてから仇討をしましたんや。
見事に彩華と弟小一郎が仇を討ってから、彩華に私の素性を話しました。
それを知って、彩華は身を引こうとしました。
で、私が素性を知って身を引くのはおかしいし、その程度の思慕で有ったのかと訊ねましたら、最終的に翻意しましてな。
当初の約束通り、三月の間許嫁として互いに伴侶として相応しいかどうかを見極めることになりましたんや。
小一郎と弥吉は一足先に岡崎へ戻りましたが、彩華は白木屋に残って私と共に一月を過ごしました。
彩華は素直で賢い娘ですし、頑張り屋です。
これから磨けば磨くほどいい玉になれる女だと思いました。
ほやから名目上の許嫁になってから三月経って、ほんまもんの許嫁になることを二人で決めましたんや。
私と彩華は今も清い仲でおますけどな。」
「なるほど、ぼんの目に適った女子と言うわけや。
あの娘なら千代も文句も言わへんとは思うけれど、仙洞はんはどない言わはった?」
「父上も手放しで喜んでくれましたぇ。
私が手を出さんやったら、儂が手を出したやろうて。」
「ははは、そら、仙洞はんらしい誉め言葉や。
よかったなぁ。」
媼も口を挟んだ。
「それでぇ、式の日取りは決まったんかいね。
わてらのお迎えが来る前にしてぇや。
それに二人の子も見たいしなぁ。」
「へぇ、まぁ、ぼちぼちと。
なにせ、彩華は加賀の殿様の養女になってから嫁ぐことになりましたさかい、明日には京を経って、江戸へ戻らなあきまへん。
彩華の嫁入りは加賀のお殿様と段取りを決めな、あきまへんのや。」
「加賀の殿様言うて、百万石の前田様かいね。
それは、またぁ、ごつい話やなぁ。
加増された言うたからて、二百四十石取りの陪臣の娘が、何でそないな話に・・・。」
「さて、それは私にもようわからんところやけれど。
おそらく父上に誼を通じておく意味があるのだっしゃろ。
最初は岡崎藩主五万石の養女にする話やったらしいけれど、岡崎藩から養子縁組を幕府に申し出たら、幕閣が色々動いたらしいんや。
結局は御三家に準じる加賀前田家に白羽の矢が立って、在府中の前田公もすぐに了承したようや。
わてはそんな固苦しい話しはどうでもええんやけれど、間に入った岡崎藩主の顔を潰すのも拙いやろうから、いずれにせよ、水野の殿さんと前田の殿さんに二人で挨拶に行ってきますわ。
彩華は嫁入りまでそのまましばらく江戸暮らしになりそうやしな。」
「うん、うん、・・。
じゃが、二人の殿さんに挨拶に行くのに手ぶらちゅう訳にも行かんやろ。
それに男の方から結納の品も用意せねばならんとちゃうか。
うちからそれなりのもんを用意するけどなぁ。」
「お爺、その心配はいらん。
わてが用意するでぇ。」
「じゃが、百万石の姫さんじゃぁ。
なまなかなものじゃあきまへんで。」
「お爺、京の白木屋に頼んで絹の反物、百疋(ぴき)ほど用意してくれへんかなぁ。
品定めは白木屋に任せてええで。
大阪木津川沿い川口にある浪速屋までできるだけ早うに届けてほしいんや。
一疋五両としても五百両あれば揃えれるやろ。」
宗徳はそう言って懐から為替手形を出した。
「五十両分が十二枚ある。
割り引かれてもこれで大丈夫やろう。」
「そないなもん、出さいでもうちが用意するでぇ。」
「お爺、これは松倉屋のことではのうて、宗徳の私ごとや。
宗徳に任せてぇな。」
「まぁ、・・・・。
ぼんが言うなら、口出しはせぇへん。
じゃが、結納金もいるじゃろう。」
「それも心配いらへんって。
黄金二百五十貫ほど用意してある。」
「黄金二百五十貫やてぇ?
そらぁ、五万両を超えるでぇ。
一体どっからそんなもんを・・・。」
「それは、言えまへん。」
宗徳はそう言って笑っていた。
「昔からぼんは不思議なお子やったが、変わらんなぁ。
そらまぁ、賢さは千代譲りやろうけれど・・・。
剣術を学んではその極意を得たようやし、金もぎょうさん持っとる。
人付き合いはわてよりも広いわなぁ。
御所のお方は無論のこと、お武家、商人、坊さんに職人、果てはおこもさんにまでぎょうさん知り合いがおるっちゅうのはぼんぐらいだっせ。
都大路を歩けば、若い女子はんのほとんどはぼんの顔を知っとるじゃろう。
京の都でぼんを知らんのはきっと潜りやで。
まぁ、ぼんが嫁を迎えるちゅう話を聞けば随分と悲しむ娘が出るやろな。
罪作りな話やで。」
「そないなこと言われても仕方おへんがな。
我が身は一つ、嫁はんは一人やで。」
「いやぁ、そんなことはあれへん。
仙洞はんを見なはれや。
いまだに千代以外に十五人もの妻女側室をもっておる。
ぼんも仙洞はんの血をひいているんや。
同じようなことをするかも知れんじゃろうが。」
「またぁ、そないなことを迂闊に彩華に言ったらあかんでぇ。
彩華が心配するで。」
「ほう、悋気でも起こすかぇ。」
「悋気も愛情の一つでっしゃろな。
彩華は情の深い女子やさかい、悋気起こされたら適わんなぁ。」
「ははは、ぼんにも弱いところがでけたな。
あげに、お夕たちと仲良くでけるんは彩華はんの優しい心持があるからじゃろう。
並みの娘にはようでけへん。
ましてお武家の娘はんや。
町屋の子たちとは育ちが違うやろうけれど、・・・。」
そう言って、翁は目を細めながら庭先で上手に孫たちと遊んでいる彩華を見ていた。
媼が言った。
「ぼん、太秦の方へ作り始めた家はどうなったんかのう。」
「はて、此度は見に行く暇がありませんでなぁ。
四月ほど前、わてが京を旅立つ前には地鎮祭も終わり、母屋の建設が始まっていました。
伏見屋吉兵衛親方の話では、母屋の仕上がりは半年後、庭はまず一年掛かると言うてましたなぁ。」
「ほうか、伏見屋さんの仕事なら間違いはないやろう。
その家がでけた頃かなぁ。
彩華はんの嫁入りは。」
「はい、これから江戸へ参って、暫くは加賀中将さんのお屋敷にお世話になるんじゃないかと思います。
中将さんも養女とは言え、嫁入りとなればそれ相応の準備が必要でしょうし、江戸から京への旅も彩華一人と言うわけには参らぬと思います。
お供をぎょうさんつけてのお輿入れになりますやろなぁ。」
「それは、中々の見物じゃ。
沽券をかけての行列となるやろ。
黄金二百五十貫の結納をされては、中将はんも滅多な扱いはでけへん。」
「仕方おへんやろうなぁ。
余り仰々しいのは好かんのやけど。」
松倉屋の爺と婆の話は際限もなかったが、それにきちんと受け答えする孫の宗徳は、爺婆の話し相手としては一番望ましい相手であった。
宗徳と話していると時のたつのも忘れてしまう。
諸事の造詣に深く、はるかに年長者の爺婆の話に如何様にも合わせられる。
爺婆にとっては同じ年代の老人と話しているよりも有益であり、かつ、親しみやすかった。
その後も、旅の徒然などを訊ね、見知らぬ土地のあれこれ、人の機微を聞いたのであった。
半刻ほども庭先で遊ぶとさすがに疲れたのであろう。
お夕たちが座敷に戻って来た。
彩華が宗徳の傍らに座るとその間に挟まるようにお夕がちょこんと座り、栄太郎とお麻は彩華の傍に座った。
「まぁまぁ、子供たちの相手をしてもろうて、えらいおおきにでっせ。
えろう、疲れはったのやないですか?」
若妻のお静は間もなく三十路を迎えるが、肌艶はまだまだ若い。
「いいえ、私も童心に却って楽しく遊ばせてもらいました。」
「そう言っていただけるとわてらも救われます。
なんや、子守をさせてしもうたようで、申し訳なく思っておりますのや。」
「そんなことはございません。
お子達は三人とも良い子です。
私も楽しいひと時を過ごさせてもらいましたから。」
「彩華はんが子たちの面倒を見ている間に、宗さんから馴れ初めをいろいろ伺っておりました。
お父様がなくなられたそうでご愁傷さまどす。
そうして、江戸で見事に弟御様と仇討を果たされたそうな。
御本懐おめでとうござります。」
「はい、宗徳様のご支援をいただきまして、思いもかけず早くに本懐を遂げることができました。
宗徳様が居られなんだら決してできなかったことと感謝申し上げております。」
「宗さんに一目惚れされたと聞きましたんやけれど、ほんまどすか。」
「はい、箱根の山中で助けられたときは、深編み傘を被っておられて顔を良く拝見できませんでした。
小田原の宿に入って、ようやく命の恩人の顔を見せて頂きましたけれど、その時に一目惚れしてしまったようです。」
箱根で会うたときから彩華が私に一目ぼれしておましたようや。
助太刀は、亡くなった彩華の父親の縁筋で目下の者しかできないのが定法、本来は彩華の父の弟子筋に当たる者が当たる予定でしたんが、これが食わせ者でしてな、助太刀を恩に着せて彩華の操を狙うような不届き者どした。
彩華がその男に襲われかけた時に、見かねて私がその男の利き腕を使えなくしまいましてな。
彩華を助けたまでは宜しゅうおしたが、助太刀と頼む男の腕が借りれんようになりましたのや。
彩華がそのときに私に助太刀を求めて来て、定法で助太刀ができんのなら許嫁になって欲しいと言い出しましたんや。
その時名目だけかと聞いたら、ほんまに許嫁になってほしいと言いましたんや。
彩華の気持ちはその時にほんまもんやとは思いましたんやけれど、仮に名目上でも許嫁になればますます彩華の気持ちを高ぶらせるかも知れまへん。
そうなってから許嫁を解消したんでは彩華の心に傷を負わせます。
暫し考えて、名目上の許嫁になることと、三月待って彩華の気持ちが変わらへんようやったら私も真剣に考えると返事しましたんや。
仇討成就までの一月は白木屋で彩華主従と一緒に生活し、剣を教えました。
仇討は、本来自分の手で成さねば意味がありませんよってな。
一月の間に三人は随分と腕を上げました。
私の目から見てこれなら大丈夫と見極めてから仇討をしましたんや。
見事に彩華と弟小一郎が仇を討ってから、彩華に私の素性を話しました。
それを知って、彩華は身を引こうとしました。
で、私が素性を知って身を引くのはおかしいし、その程度の思慕で有ったのかと訊ねましたら、最終的に翻意しましてな。
当初の約束通り、三月の間許嫁として互いに伴侶として相応しいかどうかを見極めることになりましたんや。
小一郎と弥吉は一足先に岡崎へ戻りましたが、彩華は白木屋に残って私と共に一月を過ごしました。
彩華は素直で賢い娘ですし、頑張り屋です。
これから磨けば磨くほどいい玉になれる女だと思いました。
ほやから名目上の許嫁になってから三月経って、ほんまもんの許嫁になることを二人で決めましたんや。
私と彩華は今も清い仲でおますけどな。」
「なるほど、ぼんの目に適った女子と言うわけや。
あの娘なら千代も文句も言わへんとは思うけれど、仙洞はんはどない言わはった?」
「父上も手放しで喜んでくれましたぇ。
私が手を出さんやったら、儂が手を出したやろうて。」
「ははは、そら、仙洞はんらしい誉め言葉や。
よかったなぁ。」
媼も口を挟んだ。
「それでぇ、式の日取りは決まったんかいね。
わてらのお迎えが来る前にしてぇや。
それに二人の子も見たいしなぁ。」
「へぇ、まぁ、ぼちぼちと。
なにせ、彩華は加賀の殿様の養女になってから嫁ぐことになりましたさかい、明日には京を経って、江戸へ戻らなあきまへん。
彩華の嫁入りは加賀のお殿様と段取りを決めな、あきまへんのや。」
「加賀の殿様言うて、百万石の前田様かいね。
それは、またぁ、ごつい話やなぁ。
加増された言うたからて、二百四十石取りの陪臣の娘が、何でそないな話に・・・。」
「さて、それは私にもようわからんところやけれど。
おそらく父上に誼を通じておく意味があるのだっしゃろ。
最初は岡崎藩主五万石の養女にする話やったらしいけれど、岡崎藩から養子縁組を幕府に申し出たら、幕閣が色々動いたらしいんや。
結局は御三家に準じる加賀前田家に白羽の矢が立って、在府中の前田公もすぐに了承したようや。
わてはそんな固苦しい話しはどうでもええんやけれど、間に入った岡崎藩主の顔を潰すのも拙いやろうから、いずれにせよ、水野の殿さんと前田の殿さんに二人で挨拶に行ってきますわ。
彩華は嫁入りまでそのまましばらく江戸暮らしになりそうやしな。」
「うん、うん、・・。
じゃが、二人の殿さんに挨拶に行くのに手ぶらちゅう訳にも行かんやろ。
それに男の方から結納の品も用意せねばならんとちゃうか。
うちからそれなりのもんを用意するけどなぁ。」
「お爺、その心配はいらん。
わてが用意するでぇ。」
「じゃが、百万石の姫さんじゃぁ。
なまなかなものじゃあきまへんで。」
「お爺、京の白木屋に頼んで絹の反物、百疋(ぴき)ほど用意してくれへんかなぁ。
品定めは白木屋に任せてええで。
大阪木津川沿い川口にある浪速屋までできるだけ早うに届けてほしいんや。
一疋五両としても五百両あれば揃えれるやろ。」
宗徳はそう言って懐から為替手形を出した。
「五十両分が十二枚ある。
割り引かれてもこれで大丈夫やろう。」
「そないなもん、出さいでもうちが用意するでぇ。」
「お爺、これは松倉屋のことではのうて、宗徳の私ごとや。
宗徳に任せてぇな。」
「まぁ、・・・・。
ぼんが言うなら、口出しはせぇへん。
じゃが、結納金もいるじゃろう。」
「それも心配いらへんって。
黄金二百五十貫ほど用意してある。」
「黄金二百五十貫やてぇ?
そらぁ、五万両を超えるでぇ。
一体どっからそんなもんを・・・。」
「それは、言えまへん。」
宗徳はそう言って笑っていた。
「昔からぼんは不思議なお子やったが、変わらんなぁ。
そらまぁ、賢さは千代譲りやろうけれど・・・。
剣術を学んではその極意を得たようやし、金もぎょうさん持っとる。
人付き合いはわてよりも広いわなぁ。
御所のお方は無論のこと、お武家、商人、坊さんに職人、果てはおこもさんにまでぎょうさん知り合いがおるっちゅうのはぼんぐらいだっせ。
都大路を歩けば、若い女子はんのほとんどはぼんの顔を知っとるじゃろう。
京の都でぼんを知らんのはきっと潜りやで。
まぁ、ぼんが嫁を迎えるちゅう話を聞けば随分と悲しむ娘が出るやろな。
罪作りな話やで。」
「そないなこと言われても仕方おへんがな。
我が身は一つ、嫁はんは一人やで。」
「いやぁ、そんなことはあれへん。
仙洞はんを見なはれや。
いまだに千代以外に十五人もの妻女側室をもっておる。
ぼんも仙洞はんの血をひいているんや。
同じようなことをするかも知れんじゃろうが。」
「またぁ、そないなことを迂闊に彩華に言ったらあかんでぇ。
彩華が心配するで。」
「ほう、悋気でも起こすかぇ。」
「悋気も愛情の一つでっしゃろな。
彩華は情の深い女子やさかい、悋気起こされたら適わんなぁ。」
「ははは、ぼんにも弱いところがでけたな。
あげに、お夕たちと仲良くでけるんは彩華はんの優しい心持があるからじゃろう。
並みの娘にはようでけへん。
ましてお武家の娘はんや。
町屋の子たちとは育ちが違うやろうけれど、・・・。」
そう言って、翁は目を細めながら庭先で上手に孫たちと遊んでいる彩華を見ていた。
媼が言った。
「ぼん、太秦の方へ作り始めた家はどうなったんかのう。」
「はて、此度は見に行く暇がありませんでなぁ。
四月ほど前、わてが京を旅立つ前には地鎮祭も終わり、母屋の建設が始まっていました。
伏見屋吉兵衛親方の話では、母屋の仕上がりは半年後、庭はまず一年掛かると言うてましたなぁ。」
「ほうか、伏見屋さんの仕事なら間違いはないやろう。
その家がでけた頃かなぁ。
彩華はんの嫁入りは。」
「はい、これから江戸へ参って、暫くは加賀中将さんのお屋敷にお世話になるんじゃないかと思います。
中将さんも養女とは言え、嫁入りとなればそれ相応の準備が必要でしょうし、江戸から京への旅も彩華一人と言うわけには参らぬと思います。
お供をぎょうさんつけてのお輿入れになりますやろなぁ。」
「それは、中々の見物じゃ。
沽券をかけての行列となるやろ。
黄金二百五十貫の結納をされては、中将はんも滅多な扱いはでけへん。」
「仕方おへんやろうなぁ。
余り仰々しいのは好かんのやけど。」
松倉屋の爺と婆の話は際限もなかったが、それにきちんと受け答えする孫の宗徳は、爺婆の話し相手としては一番望ましい相手であった。
宗徳と話していると時のたつのも忘れてしまう。
諸事の造詣に深く、はるかに年長者の爺婆の話に如何様にも合わせられる。
爺婆にとっては同じ年代の老人と話しているよりも有益であり、かつ、親しみやすかった。
その後も、旅の徒然などを訊ね、見知らぬ土地のあれこれ、人の機微を聞いたのであった。
半刻ほども庭先で遊ぶとさすがに疲れたのであろう。
お夕たちが座敷に戻って来た。
彩華が宗徳の傍らに座るとその間に挟まるようにお夕がちょこんと座り、栄太郎とお麻は彩華の傍に座った。
「まぁまぁ、子供たちの相手をしてもろうて、えらいおおきにでっせ。
えろう、疲れはったのやないですか?」
若妻のお静は間もなく三十路を迎えるが、肌艶はまだまだ若い。
「いいえ、私も童心に却って楽しく遊ばせてもらいました。」
「そう言っていただけるとわてらも救われます。
なんや、子守をさせてしもうたようで、申し訳なく思っておりますのや。」
「そんなことはございません。
お子達は三人とも良い子です。
私も楽しいひと時を過ごさせてもらいましたから。」
「彩華はんが子たちの面倒を見ている間に、宗さんから馴れ初めをいろいろ伺っておりました。
お父様がなくなられたそうでご愁傷さまどす。
そうして、江戸で見事に弟御様と仇討を果たされたそうな。
御本懐おめでとうござります。」
「はい、宗徳様のご支援をいただきまして、思いもかけず早くに本懐を遂げることができました。
宗徳様が居られなんだら決してできなかったことと感謝申し上げております。」
「宗さんに一目惚れされたと聞きましたんやけれど、ほんまどすか。」
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