50 / 112
第四章 戦に負けないために
4-2 河合サキの場合
しおりを挟む
1938年(昭和13年)6月2日午後、釧路港に大きな客船型の船が姿を現しました。
紅兵団徴募船の「ひまわり」です。
翌日3日、根室半島から釧路一帯にかけて海霧が覆っているために、釧路は例年に無く寒い日でしたが、千人を超える応募者が指定された海岸に集結していました。
海岸辺りには臨時の桟橋が敷設され、その周辺に大きな幕舎がいくつも建っています。
徴募受付は、本来9時からの予定でしたが、早い者は7時半過ぎには受け付けの前に並びだし、8時を回る頃には更に大勢が集まり始めていました。
このため、午前8時20分には当初の予定を早めて受付が開始されたのです。
受付では、名前、本籍、住所、生年月日が聴取されました。
その後、受験者は受付の整理番号を貰い、該当する番号の幕舎で時間まで待機するだけなのです。
2隻の通船が9時には仮桟橋に接舷、1度に20人ほどが乗船して沖合に停泊する徴募専用船ひまわりへ運ばれます。
港内とは言え、釧路の防波堤は頼りないもので、若干時化模様の海は小型の通船をあざ笑うように弄びます。
忽ち、船内では気分を害し、青い顔をしてあらかじめ渡されていた紙袋へ胃の内容物を嘔吐する者が続出しました。
もともと、海などとは殆ど縁のない婦女子ですから無理からぬ事でしたが、そうした難儀もおよそ10分の短い航海で終わりました。
通船が「ひまわり」に接舷するとすぐに船ごと船上に巻き上げられたのです。
ガタンと大きな音とともにひときわ大きく揺れて船体が安定し、係の者から乗船者は降りるように言われました。
小型艇の出口からは桟橋状のしっかりした金属製の道板と手摺りがあり、大きな船体内部へと繋がっています。
このような大きな船に乗るのも始めての娘達は、おっかなびっくりながら係員の言われるままに行動するしかありません。
一旦、集会場のような広い部屋へ案内され、数人ずつが係に呼ばれて通路の奥へ消えて行きます。
千人をわずかに超える婦女子達も、14時頃までには全て一旦船内に運ばれたのです。
逆に、午前10時を過ぎた頃からは、帰りの便にも婦女子が乗船するようになって行きました。
帰りの便に乗せられた者は、いずれも適性試験で落ちた者なのです。
釧路では略2割の婦女子が試験に合格し、そのまま船に居残りました。
合格者は、全員が即時採用を決定され、親権者等へ手紙を書くように言われました。
受検整理番号『クシロ12番』、河合サキ15歳もその合格者の一人です。
河合サキは、釧路にほど近い厚岸の漁師の三女です。
サキは、父親の反対を押し切って応募し、見事に合格したのです。
事前に村役場で申請した際に旅費を支給して貰っていましたので、2日早朝に厚岸を発ち、2日夜は釧路の宿に泊まりました。
宿は同じように近在から釧路にやってきた応募の娘達で一杯であり、6畳一間に実に6人が押し込められました。
役所からは応募者に対してできるだけの便宜を図ってやるようにとのお達しが出ており、宿の主人も無理を承知で泊めたのです。
一方で、宿泊先の無い者のために、港近くに臨時宿舎代わりの幕舎が多数建てられていました。
板張りの床を持ち、北海道の花冷えのする冷たい地面とは一定の距離が空いています。
内部には折りたたみ式のベッドが置かれ、カーテンで仕切りがなされているため、想像以上にプライバシーも保たれていました。
また、幕舎内部に簡易便所と洗面所が設置され、利便性を高めていましたが、旅館と異なる点は、食事が出ない事と風呂が無い事でした。
海霧の所為もあって、日中の最高気温が摂氏20度を下回る気温ながら、幕舎の中は常時適切な暖房がなされ下手な旅館などよりも余程居心地のいいものだったようです。
サキは、以前から男が戦に出て行き、女が待っているという構図に不満を抱いていました。
非力な女の自分でもお国のために何か役立つ事があるはずとも思っていました。
従軍看護婦を考えていた時期もあったのですが、両親に反対され、希望を叶えることができなかったのです。
けれども、今回だけは別でした。
応募の妨害は、例え親でもできないとされていたからです。
第一便の通船で出発、ひまわりに移乗し、サキがしたことは、年配の女性に案内されて小さな部屋に入り、タオル地の寝巻きのようなものに着替えさせられ、部屋の中にあった大きな円筒形のベッドに入って寝ただけです。
そうして4時間後に目が覚めたときには不思議な事にこれから自分が何をすべきかを知っていたのです。
合否判定は最初の10分の間に行われていました。
健康に問題が無いかどうか、知能程度が水準に達しているかどうかなどですが、これらを機械が自動的に検知し、判定を下すようになっているのです。
サキに機械の詳しい仕組みや働きなどはわからないけれど、知能についても学力ではなく、潜在能力があるかどうかを測っているようです。
そうでなければ尋常高等小学校を出ただけの知識に乏しいサキが合格するはずも無いのです。
受験前、かな文字は当然に読めるけれど、新聞に出ている漢字のかなりの部分が未だ読めないサキでした。
でも、何故か、受験後のサキはそうした漢字全てがわかるようになっており、読めない筈のアルファベットさえも分かるようになっていたのです。
サキが円筒形のベッドに横たわっている間に、必要な身体検査と初期教育全てが終わっていたのでした。
サキは、船内にあてがわれた部屋で、無学な両親でもわかるように、かな文字主体の手紙を書いたのです。
「お父さん、お母さん。
サキは、くれないへいだんのしけんにごうかくしました。
これから、このまま、ぶたいのきちへむかいます。
ぶたいでは、同じようなむすめたちがたくさんいて、べんきょうやくんれんをすることになります。
いっしょうけんめいにはげんで、りっぱなたいいんになります。
少なくとも2年は、イエにかえれないとおもいますが、しんぱいしないでください。
お兄ちゃん、おねえちゃん、おとうとのタツジやいもうとのサエにもよろしく。
では、しばしのあいだ、さようなら。」
書きなれていないために字があまり上手では無い上に、とても短い手紙でしたが、試験の様子や船内の装備等を知らせることはそもそも禁止されていたのです。
合格者はサキを入れると釧路だけで181名でした。
午後2時に簡単な間食を船の食堂で貰った後、あてがわれた部屋で待機、いずれやってくる下船時には第三種訓練服で移動することになっていたので、サキはそれに着替えておきました。
支給された第三種訓練服は、赤紫色の運動服(ジャージ)上下に運動靴です。
肌着も同時に支給された下履きに乳当てを身につけました。
実のところサキが本格的な洋装の下着をつけるのは始めてだったのですが、与えられた初期教育の所為で何とか格好をつけられたようです。
制服類はお仕着せのモノだろうと思っていたのですが、自分の身体にぴったりと合うサイズにあつらえられていました。
支給された訓練用の戦闘帽を被らねばならないのですが、おかっぱ頭でも少し長い髪が邪魔なので、待機時間の間に船内の床屋でより短い髪にしてもらうことにしました。
因みに、船内の床屋には他にも同じ考えの大勢の娘たちが順番を待っていました。
午後9時に遅い夕食を終え、室内にあった目覚ましをセットして一度仮眠をしました。
今夜零時には、ひまわり2号で秘密基地へと移送される予定なのです。
持ち込んだ手荷物は全て持って行っても差し支えないのですが、部隊では殆どの物が支給される事から、事前に準備してきたものは殆どが必要ないようなのです。
それでも支給されたバッグに思い出になるような品物と当座必要なものだけを詰めて、残りは廃棄用のダストシュートに放り込んで処分しました。
零時10分前に『合格者は最下層の乗下船口に集合せよ』との船内放送がありました。
既に準備を整えていたサキは、軽いバッグを片手に他の者達と階段を降りて行きました。
「ひまわり」の最下層には、潜水輸送艦「ひまわり2号」のドッキングベイがあるのです。
「ひまわり」は、既に錨を上げて釧路港を出港、沖合の太平洋に進出しています。
「ひまわり」が12ノットで航走している間に、潜水輸送艦「ひまわり2号」が船底のドッキングベイにセイル部をドッキングさせるのです。
その時間が午前零時となっていたのです。
既に不合格者は全員下船しており、船内に部外者は存在しません。
サキ達が最下層で待機していると、やがてかすかな衝撃が伝わってきて「ひまわり2号」のドッキングの瞬間を知ることができました。
間もなく壁際の出入り口にあった赤色ランプが消え、緑色のランプが点きました。
係員が三重の水密隔壁を開け、床にある円筒形の扉を開けました。
「では順番に行きなさい。
みんな、基地ではしっかり頑張るんだよ。」
係員が激励の声をかけてくれました。
それを合図に、整然と受検番号順に並んでいた娘たちがバッグの取っ手を用いてリュックのように担ぎ、出入り口に入って縦の梯子を降りて行きます。
サキは2番目でした。
5mほどの間に垂直梯子と小さな踊り場が間欠的に続き、やがて広い踊り場に達することができました。
そこから少し広めの螺旋階段を伝ってひまわり2号の居住区に入るのです。
居住区は二層になっており、個々の層には、比較的広いけれど天井の低い二本の通路があります。
この通路で隔てられた区画に多数の部屋があり、一部屋に、受検整理番号順で4人ずつが入る事になっているのです。
部屋の中には入り口左手に鏡と手洗い場が設置され、右側には椅子四脚と小さなテーブル一つ、中央の通路を挟んで両側に比較的大きな2段ベッドが設置され、部屋の奥にはロッカーが4つあってボストンバッグなど手荷物を入れられるようになっています。
正直言ってここで長く生活するには狭いし、天井も低いですね。
それでも「ひまわり2号」は一度に240名の人員が輸送できるようになっており、釧路の合格者全員を運ぶには十分な余裕がありました。
但し、短期の大量輸送に徹して作られているために、居心地は必ずしもよくありません。
トイレは4室ごとに1箇所の割合で共同トイレ二個が設置されています。
釧路沖から北海道雄冬岬の秘密基地までおよそ300海里、「ひまわり2号」の通常航海速力でも約10時間、最大速力の56ノットでは、6時間ほどの航海になります。
根室海峡からオホーツク海経由でもほぼ同じ距離なのですが、釧路からなら、おそらくは水深の深い津軽海峡を通って行くはずなのです。
津軽海峡の近隣には大湊警備府があり、ソ連などの潜水艦対策のためのしょう戒活動が行われているはずなのですが、この「ひまわり2号」はプロペラが無い上に極めて静かな推進機関なので、多分帝国海軍では探知できないはずなのです。
同じ時間帯で発動していれば、網走で受検した合格者達が、一足先に雄冬で待っている事になるのでしょう。
相部屋の3人と自己紹介などをしていると、
「12時30分、合格者の移動乗船が終了、これよりドッキングベイを離脱、基地に向かう。」
との短い船内放送がありました。
それを合図に、4人はベッドメーキングを行い、寝る準備をしました。
いずれの娘達もベッドメーキングは始めてなのですが、既に催眠教育で十分な知識が与えられていました。
準備が終わると、サキ達は照明を暗くし、訓練服のままベッドに横になったのです。
到着までは、することも無いので、寝て待つしかないのです。
それまで緊張していた所為か、サキはすぐに寝付きました。
紅兵団徴募船の「ひまわり」です。
翌日3日、根室半島から釧路一帯にかけて海霧が覆っているために、釧路は例年に無く寒い日でしたが、千人を超える応募者が指定された海岸に集結していました。
海岸辺りには臨時の桟橋が敷設され、その周辺に大きな幕舎がいくつも建っています。
徴募受付は、本来9時からの予定でしたが、早い者は7時半過ぎには受け付けの前に並びだし、8時を回る頃には更に大勢が集まり始めていました。
このため、午前8時20分には当初の予定を早めて受付が開始されたのです。
受付では、名前、本籍、住所、生年月日が聴取されました。
その後、受験者は受付の整理番号を貰い、該当する番号の幕舎で時間まで待機するだけなのです。
2隻の通船が9時には仮桟橋に接舷、1度に20人ほどが乗船して沖合に停泊する徴募専用船ひまわりへ運ばれます。
港内とは言え、釧路の防波堤は頼りないもので、若干時化模様の海は小型の通船をあざ笑うように弄びます。
忽ち、船内では気分を害し、青い顔をしてあらかじめ渡されていた紙袋へ胃の内容物を嘔吐する者が続出しました。
もともと、海などとは殆ど縁のない婦女子ですから無理からぬ事でしたが、そうした難儀もおよそ10分の短い航海で終わりました。
通船が「ひまわり」に接舷するとすぐに船ごと船上に巻き上げられたのです。
ガタンと大きな音とともにひときわ大きく揺れて船体が安定し、係の者から乗船者は降りるように言われました。
小型艇の出口からは桟橋状のしっかりした金属製の道板と手摺りがあり、大きな船体内部へと繋がっています。
このような大きな船に乗るのも始めての娘達は、おっかなびっくりながら係員の言われるままに行動するしかありません。
一旦、集会場のような広い部屋へ案内され、数人ずつが係に呼ばれて通路の奥へ消えて行きます。
千人をわずかに超える婦女子達も、14時頃までには全て一旦船内に運ばれたのです。
逆に、午前10時を過ぎた頃からは、帰りの便にも婦女子が乗船するようになって行きました。
帰りの便に乗せられた者は、いずれも適性試験で落ちた者なのです。
釧路では略2割の婦女子が試験に合格し、そのまま船に居残りました。
合格者は、全員が即時採用を決定され、親権者等へ手紙を書くように言われました。
受検整理番号『クシロ12番』、河合サキ15歳もその合格者の一人です。
河合サキは、釧路にほど近い厚岸の漁師の三女です。
サキは、父親の反対を押し切って応募し、見事に合格したのです。
事前に村役場で申請した際に旅費を支給して貰っていましたので、2日早朝に厚岸を発ち、2日夜は釧路の宿に泊まりました。
宿は同じように近在から釧路にやってきた応募の娘達で一杯であり、6畳一間に実に6人が押し込められました。
役所からは応募者に対してできるだけの便宜を図ってやるようにとのお達しが出ており、宿の主人も無理を承知で泊めたのです。
一方で、宿泊先の無い者のために、港近くに臨時宿舎代わりの幕舎が多数建てられていました。
板張りの床を持ち、北海道の花冷えのする冷たい地面とは一定の距離が空いています。
内部には折りたたみ式のベッドが置かれ、カーテンで仕切りがなされているため、想像以上にプライバシーも保たれていました。
また、幕舎内部に簡易便所と洗面所が設置され、利便性を高めていましたが、旅館と異なる点は、食事が出ない事と風呂が無い事でした。
海霧の所為もあって、日中の最高気温が摂氏20度を下回る気温ながら、幕舎の中は常時適切な暖房がなされ下手な旅館などよりも余程居心地のいいものだったようです。
サキは、以前から男が戦に出て行き、女が待っているという構図に不満を抱いていました。
非力な女の自分でもお国のために何か役立つ事があるはずとも思っていました。
従軍看護婦を考えていた時期もあったのですが、両親に反対され、希望を叶えることができなかったのです。
けれども、今回だけは別でした。
応募の妨害は、例え親でもできないとされていたからです。
第一便の通船で出発、ひまわりに移乗し、サキがしたことは、年配の女性に案内されて小さな部屋に入り、タオル地の寝巻きのようなものに着替えさせられ、部屋の中にあった大きな円筒形のベッドに入って寝ただけです。
そうして4時間後に目が覚めたときには不思議な事にこれから自分が何をすべきかを知っていたのです。
合否判定は最初の10分の間に行われていました。
健康に問題が無いかどうか、知能程度が水準に達しているかどうかなどですが、これらを機械が自動的に検知し、判定を下すようになっているのです。
サキに機械の詳しい仕組みや働きなどはわからないけれど、知能についても学力ではなく、潜在能力があるかどうかを測っているようです。
そうでなければ尋常高等小学校を出ただけの知識に乏しいサキが合格するはずも無いのです。
受験前、かな文字は当然に読めるけれど、新聞に出ている漢字のかなりの部分が未だ読めないサキでした。
でも、何故か、受験後のサキはそうした漢字全てがわかるようになっており、読めない筈のアルファベットさえも分かるようになっていたのです。
サキが円筒形のベッドに横たわっている間に、必要な身体検査と初期教育全てが終わっていたのでした。
サキは、船内にあてがわれた部屋で、無学な両親でもわかるように、かな文字主体の手紙を書いたのです。
「お父さん、お母さん。
サキは、くれないへいだんのしけんにごうかくしました。
これから、このまま、ぶたいのきちへむかいます。
ぶたいでは、同じようなむすめたちがたくさんいて、べんきょうやくんれんをすることになります。
いっしょうけんめいにはげんで、りっぱなたいいんになります。
少なくとも2年は、イエにかえれないとおもいますが、しんぱいしないでください。
お兄ちゃん、おねえちゃん、おとうとのタツジやいもうとのサエにもよろしく。
では、しばしのあいだ、さようなら。」
書きなれていないために字があまり上手では無い上に、とても短い手紙でしたが、試験の様子や船内の装備等を知らせることはそもそも禁止されていたのです。
合格者はサキを入れると釧路だけで181名でした。
午後2時に簡単な間食を船の食堂で貰った後、あてがわれた部屋で待機、いずれやってくる下船時には第三種訓練服で移動することになっていたので、サキはそれに着替えておきました。
支給された第三種訓練服は、赤紫色の運動服(ジャージ)上下に運動靴です。
肌着も同時に支給された下履きに乳当てを身につけました。
実のところサキが本格的な洋装の下着をつけるのは始めてだったのですが、与えられた初期教育の所為で何とか格好をつけられたようです。
制服類はお仕着せのモノだろうと思っていたのですが、自分の身体にぴったりと合うサイズにあつらえられていました。
支給された訓練用の戦闘帽を被らねばならないのですが、おかっぱ頭でも少し長い髪が邪魔なので、待機時間の間に船内の床屋でより短い髪にしてもらうことにしました。
因みに、船内の床屋には他にも同じ考えの大勢の娘たちが順番を待っていました。
午後9時に遅い夕食を終え、室内にあった目覚ましをセットして一度仮眠をしました。
今夜零時には、ひまわり2号で秘密基地へと移送される予定なのです。
持ち込んだ手荷物は全て持って行っても差し支えないのですが、部隊では殆どの物が支給される事から、事前に準備してきたものは殆どが必要ないようなのです。
それでも支給されたバッグに思い出になるような品物と当座必要なものだけを詰めて、残りは廃棄用のダストシュートに放り込んで処分しました。
零時10分前に『合格者は最下層の乗下船口に集合せよ』との船内放送がありました。
既に準備を整えていたサキは、軽いバッグを片手に他の者達と階段を降りて行きました。
「ひまわり」の最下層には、潜水輸送艦「ひまわり2号」のドッキングベイがあるのです。
「ひまわり」は、既に錨を上げて釧路港を出港、沖合の太平洋に進出しています。
「ひまわり」が12ノットで航走している間に、潜水輸送艦「ひまわり2号」が船底のドッキングベイにセイル部をドッキングさせるのです。
その時間が午前零時となっていたのです。
既に不合格者は全員下船しており、船内に部外者は存在しません。
サキ達が最下層で待機していると、やがてかすかな衝撃が伝わってきて「ひまわり2号」のドッキングの瞬間を知ることができました。
間もなく壁際の出入り口にあった赤色ランプが消え、緑色のランプが点きました。
係員が三重の水密隔壁を開け、床にある円筒形の扉を開けました。
「では順番に行きなさい。
みんな、基地ではしっかり頑張るんだよ。」
係員が激励の声をかけてくれました。
それを合図に、整然と受検番号順に並んでいた娘たちがバッグの取っ手を用いてリュックのように担ぎ、出入り口に入って縦の梯子を降りて行きます。
サキは2番目でした。
5mほどの間に垂直梯子と小さな踊り場が間欠的に続き、やがて広い踊り場に達することができました。
そこから少し広めの螺旋階段を伝ってひまわり2号の居住区に入るのです。
居住区は二層になっており、個々の層には、比較的広いけれど天井の低い二本の通路があります。
この通路で隔てられた区画に多数の部屋があり、一部屋に、受検整理番号順で4人ずつが入る事になっているのです。
部屋の中には入り口左手に鏡と手洗い場が設置され、右側には椅子四脚と小さなテーブル一つ、中央の通路を挟んで両側に比較的大きな2段ベッドが設置され、部屋の奥にはロッカーが4つあってボストンバッグなど手荷物を入れられるようになっています。
正直言ってここで長く生活するには狭いし、天井も低いですね。
それでも「ひまわり2号」は一度に240名の人員が輸送できるようになっており、釧路の合格者全員を運ぶには十分な余裕がありました。
但し、短期の大量輸送に徹して作られているために、居心地は必ずしもよくありません。
トイレは4室ごとに1箇所の割合で共同トイレ二個が設置されています。
釧路沖から北海道雄冬岬の秘密基地までおよそ300海里、「ひまわり2号」の通常航海速力でも約10時間、最大速力の56ノットでは、6時間ほどの航海になります。
根室海峡からオホーツク海経由でもほぼ同じ距離なのですが、釧路からなら、おそらくは水深の深い津軽海峡を通って行くはずなのです。
津軽海峡の近隣には大湊警備府があり、ソ連などの潜水艦対策のためのしょう戒活動が行われているはずなのですが、この「ひまわり2号」はプロペラが無い上に極めて静かな推進機関なので、多分帝国海軍では探知できないはずなのです。
同じ時間帯で発動していれば、網走で受検した合格者達が、一足先に雄冬で待っている事になるのでしょう。
相部屋の3人と自己紹介などをしていると、
「12時30分、合格者の移動乗船が終了、これよりドッキングベイを離脱、基地に向かう。」
との短い船内放送がありました。
それを合図に、4人はベッドメーキングを行い、寝る準備をしました。
いずれの娘達もベッドメーキングは始めてなのですが、既に催眠教育で十分な知識が与えられていました。
準備が終わると、サキ達は照明を暗くし、訓練服のままベッドに横になったのです。
到着までは、することも無いので、寝て待つしかないのです。
それまで緊張していた所為か、サキはすぐに寝付きました。
15
あなたにおすすめの小説
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
仮想戦記:蒼穹のレブナント ~ 如何にして空襲を免れるか
サクラ近衛将監
ファンタジー
レブナントとは、フランス語で「帰る」、「戻る」、「再び来る」という意味のレヴニール(Revenir)に由来し、ここでは「死から戻って来たりし者」のこと。
昭和11年、広島市内で瀬戸物店を営む中年のオヤジが、唐突に転生者の記憶を呼び覚ます。
記憶のひとつは、百年も未来の科学者であり、無謀な者が引き起こした自動車事故により唐突に三十代の半ばで死んだ男の記憶だが、今ひとつは、その未来の男が異世界屈指の錬金術師に転生して百有余年を生きた記憶だった。
二つの記憶は、中年男の中で覚醒し、自分の住む日本が、この町が、空襲に遭って焦土に変わる未来を知っってしまった。
男はその未来を変えるべく立ち上がる。
この物語は、戦前に生きたオヤジが自ら持つ知識と能力を最大限に駆使して、焦土と化す未来を変えようとする物語である。
この物語は飽くまで仮想戦記であり、登場する人物や団体・組織によく似た人物や団体が過去にあったにしても、当該実在の人物もしくは団体とは関りが無いことをご承知おきください。
投稿は不定期ですが、一応毎週火曜日午後8時を予定しており、「アルファポリス」様、「カクヨム」様、「小説を読もう」様に同時投稿します。
リヴァイヴ・ヒーロー ~異世界転生に侵略された世界に、英雄は再び現れる~
灰色キャット
ファンタジー
「君に今の時代に生まれ変わって欲しいんだ」
魔物の王を討伐した古き英雄グレリア・ファルトは死後、突然白い世界に呼び出され、神にそう言われてしまった。
彼は生まれ変わるという言葉に孫の言葉を思い出し、新しい人生を生きることを決意した。
遥か昔に生きていた世界がどう変わっているか、発展しているか期待をしながら700年後の時代に転生した彼を待ち受けていたのは……『英雄召喚』と呼ばれる魔法でやってきた異世界人の手によって破壊され発展した――変貌した世界だった。
歴史すら捻じ曲げられた世界で、グレリアは何を求め、知り……世界を生きるのだろうか?
己の心のままに生き、今を知るために、彼は再び歴史を紡ぐ。
そして……主人公はもう一人――『勇者』、『英雄』の定義すら薄くなった世界でそれらに憧れ、近づきたいと願う少年、セイル・シルドニアは学園での入学試験で一人の男と出会う。
そのことをきっかけにしてセイルは本当の意味で『勇者』というものを考え、『英雄』と呼ばれる存在になるためにもがき、苦しむことになるだろう。
例えどんな困難な道であっても、光が照らす道へと……己の力で進むと誓った、その限りを尽くして。
過去の英雄と現代の英雄(の卵)が交差し、歴史を作る!
異世界転生型アンチ異世界転生ファンタジー、ここに開幕!
――なろう・カクヨムでも連載中――
【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!
HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。
跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。
「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」
最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
【完結】ここって天国?いいえBLの世界に転生しました
三園 七詩
恋愛
麻衣子はBL大好きの腐りかけのオタク、ある日道路を渡っていた綺麗な猫が車に引かれそうになっているのを助けるために命を落とした。
助けたその猫はなんと神様で麻衣子を望む異世界へと転生してくれると言う…チートでも溺愛でも悪役令嬢でも望むままに…しかし麻衣子にはどれもピンと来ない…どうせならBLの世界でじっくりと生でそれを拝みたい…
神様はそんな麻衣子の願いを叶えてBLの世界へと転生させてくれた!
しかもその世界は生前、麻衣子が買ったばかりのゲームの世界にそっくりだった!
攻略対象の兄と弟を持ち、王子の婚約者のマリーとして生まれ変わった。
ゲームの世界なら王子と兄、弟やヒロイン(男)がイチャイチャするはずなのになんかおかしい…
知らず知らずのうちに攻略対象達を虜にしていくマリーだがこの世界はBLと疑わないマリーはそんな思いは露知らず…
注)BLとありますが、BL展開はほぼありません。
現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~
はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。
病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。
これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。
別作品も掲載してます!よかったら応援してください。
おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる