親王様は元大魔法師~明治の宮様に転生した男の物語~戦は避けられるのか?

サクラ近衛将監

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第四章 戦に負けないために

4-7 候補生の寮と同室者

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 赤峯裕子が振り返りながら声を掛けると、中から、二人の娘が顔を見せる。
 一人はサキと同じぐらい、もう一人も同じぐらいだが多分年長者だろう。

「私、境シノブです。
 よろしく。」

「私は、吉見かおるです。
 どうぞよろしく。
 中へどうぞ。」
 
 部屋の中は非常に広かった。
 幅が10mほど、奥行きも同じぐらいある。

 通路と同じ配色の壁と天井、床には絨毯である。
 部屋の中央に楕円形の大きなテーブルがあり、応接用の椅子が6つ並んでいる。

 応接用のソファ4つは3人掛け、二つは二人掛け用で、住人8人が十分に座れるものである。
 ちょっとした会食でも出来そうな雰囲気である。

 正面奥に三つのドアがあり、化粧室、浴室・洗濯室、台所とそれぞれ表示がある。
 左右の奥には、ドアなしのアーチ状の出入り口が一つずつ、アーチ状の鴨居に自習室・寝室と表示されている。

 応接椅子と壁との間には距離があり、台車が通っても十分な余裕がある。

「荷物は、寝室のロッカーに入ります。
 河合さんの寝室は右手にありますよ。」

 赤峯裕子が教えてくれた。
 なるほど、アーチの柱にはネームプレートがあり、サキのプレートが差し込まれていた。

 アーチをくぐると、幅が2mほどの通路があり左側にドアが4つ並び、右側には間仕切りで仕切られた区画に机と椅子が置かれ、机には電子端末が置かれていた。
 自習室のようである。

 間仕切りにネームプレートがあり、寝室ドアにも表札代わりのネームプレートが掛かっている。
 ドアには取っ手らしきものがないが、ドア左手にセンサーがあり、左手首につけた腕時計をかざすとドアがスライドして開いた。

 センサーのプレートにはインターホンも装備されている。
 寝室内部に入ってみると5mほどの奥行きと3mほどの幅があった。

 日本間に置き換えれば、9畳程もあることになる。
 室内奥には大きな床から天井までの嵌め殺しのガラス窓があり、レースのカーテンが閉められている。

 ガラス窓の両脇には遮光用の淡いベージュ色のカーテンが絞られていた。
 右側壁沿いに、窓枠から少し離してベッドが置かれ、その上に寝具一式がきちんと畳まれていた。

 同じく右側壁沿いに二人掛け用のソファが一脚と小さなテーブルが一つある。
 反対側の壁は全面折りたたみ式のドアが二組あり、クローゼットになっている。

 入り口に近い方には小さな棚が幾つもついた下駄箱になっているほか、外套などを掛ける留め具がついていた。
 窓側に近いクローゼットには衣装ダンスが設置され、残りは二段のハンガー・バーが装備されている。

 多数のハンガーも吊り下がっていた。
 クローゼット自体奥行きが1m半ほどもあり、コンテナごとそのまま収容する事も可能である。

 時計を見るとまだ12時になっていなかったことから、サキはコンテナの中を整理してクローゼットに収納することにした。
 衣類が二つ、靴類が一つ、装備類が一つのコンテナである。

 第1種、第2種制服が二組、制服用のネクタイとネッカチーフが3組、第3種、第4種制服が3組、作業服が2種類二組、運動服が3種類2組、それに見合う制帽類多数、水着も2着あった。
 サキは漁師の娘ではあるが泳げない。

 水泳訓練もあるのだろうかと心配になった。
 制服用の靴、今履いているものと同じものが一足、色違いが二足、運動靴が二足、長靴で種類の異なる靴がそれぞれ二足である。

 下着類はパンティ、ブラジャーが5着、靴下が5足、長い靴下が5足、パンティストッキングが5足である。
 そのほかにも寝巻き用のパジャマが2着、浴衣と帯が2着分、ブルマーと半そでTシャツが2着、タオルが5枚、バスタオルが3枚、厚手のハンカチ5枚、薄手のハンカチ5枚などが支給されている。

 装備類のコンテナを開けて驚いたのは、自分の名前入りの自動小銃が一丁入っていた事である。
 弾丸はないが、弾倉は付属しており、手入れ用具も完備している。

 そのほか、皮手袋3双、冬季用の外套1着、雨着2着、迷彩戦闘服4着、小型無線機1個、送受信機付防弾ヘルメット1個、航空ヘルメット1個、飛行服2着、ウエットスーツ、潜水マスク、シュノーケル、フィンなど素潜り用具一式等が支給されていた。
 これらだけでもこれから行うべき訓練量が並外れたものであることが判る。

 サキは思わずため息をついてしまった。
 携帯してきた荷物を整理して、空きコンテナを入れ子にして片付けたところ12時半少し前であった。

 14時からは食事になるが、その前に共用のスペースを確認し、同室の同僚ともいろいろ話したいことがあったので居間に向かった。
 共有の居間には、赤峯裕子、境シノブ、吉見かおるの他にもう一名が応接セットに座っていた。

 その一人が立って自己紹介をする。

「私、大山ユキです。
 よろしくお願いします。」
 
 サキも慌てて自己紹介をする。
 楕円テーブルを囲むように、サキも腰を降ろした。

「赤嶺さんたちは、私達よりも先に到着していましたが、何か情報はございますか。」
 
 サキの質問に赤峯裕子が首を横に振って答える。

「今も、大山さんと情報交換をしていたのだけれど、あなた方と同じ程度の情報しか有りません。
 ただ、自習室にある端末でいろいろな情報は得られるので是非確認しておいた方がいいでしょうね。
 私達もあなた方より二時間ほど早く来ただけで、特別あなた方に先んじているわけではないの。」

「でも、なぜ、私が班長なんかになったのでしょう。
 失礼ですけれど、赤嶺さんのほうが年長のようですし、適任かと思いますのに・・・。」

「あら、それは偏見に過ぎないと思うわ。
 ここでは、年齢差などに関係なく、個人の能力で配置が決まるのよ。
 あなたにその能力があると判断されたから班長に指名されたはずよ。
 この候補生選抜に私見などが入り込む余地は全くないわ。」

「でも、私達は皆若い娘、・・・ひょっとして婚姻歴のある方もいらっしゃるかもしれないけれど。
 いずれにせよ、経験が乏しい集団です。
 その中でも1年でも2年でも年長の方の経験が凄く貴重だと思いますけれど・・・。」

「それはねぇ、基地長や濱口一尉の言葉を借りれば、ではそうかもしれないけれど。
 ここは今まで私達が生活していたところとは全く違う場所なの。
 言わば外国に近いところよ。
 そんな習慣も風俗も違うところで、今までの経験が何の役に立つと思う?
 実はね。
 私は戦争未亡人なの。
 だから、あなた方よりも殿方のことは多少知っているかもしれないけれど、だからといってここでの訓練や研修でさほど役に立つとは思えないわ。
 ご老体に近い教官連中をわざわざ口説くなんてことはあなたも考えないでしょう。
 むしろ、此処では適応能力と身体能力に秀でた者が優秀なんじゃないかしら。
 私も一応女学校を出ているのだけれど、船内でわずか数時間の間にあれほどの知識を教えられるのならば、女学校で教わった事は一体何だったのだろうと思うわけ。
 例えば、私、英語は多少読み書きできたけれど、少なくとも中国語やロシア語は全くわからなかったはずなのに、今は知っている。
 あなた方も同じでしょう。」

「はい、私は尋常高等小学校しか出ていませんから、外国語なんてとてもとても手が届くところではなかったはずです。
 でも、今は多分わかると思いますし、文章を書く事もできると思います。」

「その点では知識は同じわけね。
 後は、それらの知識をどう応用するかなの。
 あなたが班長に指名されたのは63名の隊員を指導して行く力があるからよ。
 少なくとも第一次の適性試験で機械がそう判断したはずなの。」

「そんなぁ、当てにならない機械の判断を当てにするなんて無茶です。」

「あら、それこそ、可笑しいわよ。
 当てにならない機械が、あなたや私達に知らないはずの外国語やその他の知識を教えられるはずがないでしょう。
 それにこの基地の中身だって、・・・。
 とてつもない大きさである上に物凄い装備よ。
 これだけの技術を持つ会社が日本にあったなんて本当に信じられないほどだわ。」

「ウーン、確かにそうですよね。
 私達に与えられた知識から類推するだけでも娑婆の世界とは大分違いますね。
 少なくとも今の日本にこれだけの設備を作れるだけの技術も材料もないはずです。
 頭の上には推定でも800m以上の岩塊が乗っているのに、其処に高さ200mもの地下空間を支えるための強度がどのぐらいになるか・・・・。
 それに、水深200mの海底に横穴を掘って、其処へ大きな潜水輸送船を通す事にどれほどの建設技術と科学技術が必要かなど。
 少なくとも雄冬岬の灯台守や付近の住民は夢にも思わないと思いますし、おそらくは世界中の誰もが気付いてはいないのだろうと思います。」

「そう、私達以外にはね。
 で、その秘密を知っている私達がその技術を疑ってどうするのよ。」

「でも、・・・。
 その技術とは違うのではないのでしょうか。」

「そうよ。
 違う技術だけれど、少なくとも人間の頭脳を良く知っている技術だわ。
 でなければ、見たこともない触れた事もない者にどうやってその知識を与える事ができるの。
 あなたもそうだと思うけれど学校で算数を習ったわよね。
 数の概念って本当は物凄く難しいものなのよ。
 例えば0のこと。
 0で何もないということなんだけれど、それを考え付き、数字で表すのに少なくとも人類は五千年もかけているのよ。
 インドで発見されペルシャを通じてヨーロッパに伝わった。
 0がなければ算数は発達しなかったはずよ。
 そしてね。
 河合さんも大山さんもまだ触れてはいないだろうけれど、自習室にある情報端末、あれは凄い技術の蓄積が有って初めて出来るものよ。
 多分、世界中を探しても他にはないものの一つだわ。
 百科事典など及びもつかないほどの英知があの中には詰まっている。
 だから、誰かは知らないけれど凄い天才が此処にはいるんだと思うの。
 どうやってあれだけの情報を取り込んだのか、私はそれを知りたいと思ったわ。」

「でも、・・でも、それでは見たこともないその天才が私の能力を見抜いて班長に選んだということ。
 そんなこと・・・。
 とても信じられない。
 それに、自分のことは私が一番良く知っています。
 私が皆さんを引っ張ってゆくなんて、とても・・・・。」

 サキの声も最後は消え入りそうであった。
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