親王様は元大魔法師~明治の宮様に転生した男の物語~戦は避けられるのか?

サクラ近衛将監

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第四章 戦に負けないために

4-12 海軍とのオハナシ

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 時間は遡るが、昭和14年1月20日、宏禎王は海軍省で佐渡海相と会っていた。
 佐渡海相は、宏禎王と色々な機会で会っており面識があった。

 宏禎王は宮家の一員というだけでなく、海軍にとっては日露戦争以降かれこれ30年以上も実質的な補給廠でもあって、海軍躍進の原動力にほかならず、決して足を向けては寝られない重要人物であった。
 携帯型無線電話、気球型中継装置、電探、海中電探などの装備品は無論のこと、海防艦と詐称してはいるものの実質的な主力戦闘艦で長月型駆逐艦、それに内外にその存在を秘匿している新型の海竜型潜水艦も提供されている。

 世界初の航空母艦である鳳翔型空母とその姉妹館は正しく海軍の主力と成り得るものであり、いずれも宏禎王の助力なくば実現できなかったものである。
 空母鳳翔は設計当初八千トンクラスで計画されたものであったが、宏禎王は一万八千トンの空母で建造してくれたのである。
 しかも建造期間は僅かに半年、建造費は横須賀工廠で生まれた長門型戦艦の二十分の一であった。

 当初注目を受けた世界初の航空母艦「鳳翔」と姉妹館「瑞鳳」であるが、複葉機である八八式戦闘攻撃機15機ほどの搭載数で公開されたことと、建艦費用が余りに低額の予算であったことから、列強諸国からは軍事的脅威とみなされなかったのである。
 その後も鳳翔の同型艦22隻の建造を終えているが、実質的に稼働しているのは常時6隻だけで残り18隻は小笠原諸島水域に隠している。

 但し、同型艦なので外見的にはどの艦が実際に稼働しているのか不明な状態にしているのである。
 長月型駆逐艦も樺太から台湾まで全国64か所の港に2隻ずつの配備を終えており、それ以外に航空母艦二隻につき8隻を配備するようにしている。
 同じく空母二隻の作戦行動単位あたり4隻の海竜型潜水艦を配備している現状にある。

 従って、お飾りのような表向きの旧式戦艦群は別として、12作戦行動単位の航空母艦24隻、長月型駆逐艦96隻、海竜型潜水艦48隻が実質的な戦闘集団主力となる。
 因みに各空母には八八式戦闘攻撃機2機以外に、多用途ヘリ2機、攻撃方ヘリ4機、垂直離着陸型噴進航空機16機、電探搭載早期警戒機2機が搭載されているのだが、他人目のある所では八八式戦闘攻撃機以外を見せることは禁止されている。

 訓練を行う場合は秘密裏に行っているのでこれまで諸外国に帝国の鳳翔型空母の真の性能を知られていないのだ。
 公称的に海軍は、三六センチ主砲8門を備える旧式の扶桑型戦艦6隻(長門を含む)を中核とし、排水量八千トンの阿賀野型巡洋艦16隻と三千トン以下の駆逐艦多数からなっているように見える。

 足が遅く、貧弱な武装しか持たない海防艦を空母の護衛群として使っているのは、単に苦肉の策として列強からは見られているようだ。

 海軍航空基地には、双発戦闘攻撃機の「閃電」が配備されている。
 これも性能は極秘とされており、訓練は人目を避けた場所で実施されている。

 一応、海軍としては戦闘艦と航空機で十分な戦闘能力を有していると判断しているのだが、宏禎王の指示に従ってその戦闘力の全てを秘匿している状況にある。
 ために、満州と樺太の海軍航空基地及び台南航空基地には閃電が未だに配属されていない。

 外国人の出入りする可能性の高い場所、スパイの暗躍しそうな場所には配備されていないのだ。
 但し、外地の主たる海軍航空基地の滑走路は伸長されて、舗装された2000m滑走路が出来上がっており、いつでも新型機の配属ができるようになっている。

 佐渡海相の知る限りでは、閃電の離着陸に要する滑走路は長くても300mと聞いており、垂直離着陸型噴進航空機の場合は20m四方の平地があれば離発着できると聞いているので、左程に長い滑走路が必要なのかと不思議に思ってはいるのだが、海軍の噂話として有る遠距離重爆撃機辺りならば或いは二千メートルの滑走路を必要とするのかもしれない。

 高空屋に言わせると少なくとも大出力の航空エンジン四発以上の大型機になるだろうとのことだった。
 四発航空機と云えば帝国では今のところ見当たらない筈で、米国旅客機のダグラス DC-4Eを輸入し、それを元に大型爆撃機若しくは飛行艇を建造しようという計画があるやに聞いている。

 尤も遠距離重爆とは言っても、ダグラス DC-4Eクラスの性能ならば精々四千キロ足らずの航続距離しかない航空機なので余り実戦向きではないと聞いている。
 その程度の航続距離ならば双発の96中攻の方が取り回しもいいのではないかというのが航空屋の言い分だ。

 因みに閃電は、増槽タンクをつけたなら五千キロを超える航続距離を有しているし、500キロ爆弾二個を搭載できる能力がある。
 従って、海軍としてはダグラスDC-4Eの模造若しくは改造機なら要らないと考えているのだ。

 無論、より長距離を飛んで大量の爆弾を搭載できる大型機ならば、佐渡海相でなくとも喜んで採用するのだが・・・。
 宏禎王殿下とは紅兵団創設の建議書の案件で最近お会いしたのだが、此の度、面会の話があったときには、何かまたお願い事だろうかと思っていた。

 だが宏禎王殿下が持たらした話は佐渡が想像だにしない話であった。
 宏禎王殿下は、中国大陸への不干渉と、大陸に進出している軍の縮小撤退について陸軍に根回しを始めていると言うのである。

 海軍にその手助けを直接に頼むわけではないが、仮に陸軍若しくは内閣から中華民国との不可侵条約締結、若しくは軍の在外駐留部隊の縮小・撤退の話が出た際には、海軍としても賛成して欲しいという内容であった。
 無論、同じ外地とはいえ、樺太、朝鮮、台湾は別扱いらしい。

 佐渡はすぐにも反応した。

「殿下のお望みはわからぬでもありませんが、対支問題は政府としてどう対応するかの問題であり、既に当面の要綱は出来上がっております。
 それを方向転換させることは至難の業でありましょう。
 それに陸軍や海軍だけで決まる問題ではないと思うのですが・・・。」

 宏禎王も素直に頷いた。

「それは承知しております。
 一方で戦争継続能力を有する陸海軍の二つが了解すれば、これ以上の紛争継続もないでしょう。
 海軍から部隊の縮小または撤退の話を持ち出すのは難しいでしょうが、陸軍サイドから話が出ればそれに乗る事はやぶさかではないでしょう?」

「それは、そうですが、・・・。
 宮様とはいえ、軍人でもない殿下が支那問題に口を挟まれるのは、これまであまりなかったことではないかと存じます。
 何故に、この時期なのでしょうか?」

「理由は簡単です。
 このまま支那問題にかまけていては、我が帝国が疲弊します。
 経済的にも限界はありますし、相次ぐ徴兵強化で農業生産は五年前の七割程度にまで減少しております。
 労働力の問題だけではなく、東北を中心とした気候変動による不作も大きな原因なのですが、・・・。
 いずれにしろ、これ以上の支那介入の継続は国力を弱め、国民に飢えをもたらす可能性があります。
 一応打てる対策は打っているのですが、それに胡坐をかかれると保てるものも保てなくなります。
 特に食糧の減産は成長期にある子供達には大変な悪影響となるでしょう。
 次世代を担うべき子供達の未来を考えるならば、出来るだけ早く是正する事が急務であります。
 『欲しがりません、勝つまでは』という標語の作成者は小学生のようですが、一人だけならいざ知らず、国民全てがそうでは我が帝国の未来はありません。
 仮に、疲弊の極にあるときに、米国やソ連が戦争を仕掛けてきた場合、海軍は勝つ自信がございますか。
 最善を尽くすだけではだめです。
 国を、国民を外敵から守る事が軍の務めだからです。
 そのためには、不毛で無駄な紛争をできるだけ早く切り上げる必要があります。
 ですから、中国大陸への干渉を止め、関東以北の満洲に駐留軍を置きつつも、大兵を撤退する事を陸軍に提案しており、手始めに保科陸相に先日お会いしてきました。」

「それは、・・・・何という事を、・・・。
 下手をすれば過激な国粋主義者によって殿下のお命が狙われかねません。」

「そうかもしれませんね。
 その危険性はゼロではありませんが、やって見る価値は十分にあるのです。」

「殿下も無鉄砲な方ですなぁ。
 恐れ多くも天皇陛下の信任厚いとは聞いておりますが、軍部の力は侮れません。
 特に血気盛んな若い将校たちが内閣に対して謀反をたくらむような場合もございます。
 陛下の御ためにもご自重願いたいと存じます。」

「ご心配にはお礼を申し上げておきましょう。
 ところで、先ほどのことですが、海軍さんとしては陸軍が撤退の意向を示した場合、同調する可能性はございますか。」

「それは、支那問題については、主力が向こうですから・・・。
 陸軍が手を引くと言うのを、海軍だけ突っ張るわけには行きませんが、最終的には軍令部とも相談して海軍の意見をまとめなければならないでしょう。
 尤も、海軍にも大陸への領土拡張を企む急進派の輩は沢山おります。
 今の段階では、一概には申し上げられません。」

「そこを何とか、海相の力で海軍の中はまとめていただきたい。
 他の主要閣僚にもお願いには参りますが、陸軍の中がある程度固まった時点で無ければ難しいのでもっと後になります。
 金で釣るわけではありませんが、陸軍さんにもお土産話を持っていきましたので、海軍さんにも同様のみやげ物を提供したいと考えていますけれど、・・・。
 無論、中華民国との不可侵条約が締結され、大陸からの兵力削減が成ったならばという前提条件がありますよ。」

「これまで海軍に多大な貢献をいただいている殿下ですから、これ以上のお土産が欲しいというわけではないのですが、一応お聞きいたします。
 仮に殿下のお望み通りの状況に至った場合、一体何をいただけるのでしょうか?」

「そうですね。
 取り敢えずは、軍艦2隻と大型航空機を予定しています。」

「殿下が沼津方面に造船所と航空機工廠をお持ちなことは承知しております。
 それに四国宿毛湾に秘密の潜水艦工廠をお持ちなのも・・・。
 軍艦と大型航空機とはどのような性能のものなのでしょうか?」

「海軍でも検討していただきたいが、・・・。
 提供するならば、戦艦が宜しいか、それとも航空母艦が宜しいかということです。
 いかがでしょう。」

「これは、これは、・・・。
 なんとも大きな話ですな。
 それも無料と言う事ですか。
 飛鳥さん、戦艦がいったい幾ら位のものかご存じですかな。」

「ええ、まぁ、・・・。
 海軍が現状で保有している最新の長門型の戦艦でよければ知っていますよ。」

「機密事項を何処までご存じかは知りませんが、其処までいかぬとも扶桑型の戦艦でも非常に高いのです。
 仮に世界でも最新鋭のものを建造しようとするならば。国家予算でも2年、3年がかりでなければ建造できません。
 いくら殿下がお金持ちでも無理なのではないでしょうか?」

「まぁ、それでは単なる夢物語として聞いておいて下さい。
 戦艦なれば、5年程前に次期計画として俎上にあったはずの戦艦クラスを超えるものを考えております。
 海軍さんとは設計上の違いも有りますから、排水量は約12万トン、55センチ砲6門を備え、最大速力45ノットの高速戦艦です。
 特にこの戦艦は防空能力に優れているのが特徴となっており、対空火器を多数搭載しております。
 航空母艦の場合は、排水量は約16万トン、長さ540mの飛行甲板、ひし形の変形甲板を有します。
 計画最大速力は同じく45ノット、搭載できる艦載機数は閃電クラスであれば間違いなく200機を超えることになるでしょう。」

「これは驚きました。
 では夢物語として、それほど大きいのであれ、建造開始から竣工までは6年から7年ぐらい・・・。
 いや、これまでの航空母艦の完成度と建造期間から言えば・・・。
 飛鳥造船ならば二年から三年程度でしょうか?
 それでさえ、場合によっては時代遅れになるかもしれませんが・・・。」

「戦艦にしろ、航空母艦にしろ、2隻の同時建造で、建造期間はおよそ半年から1年を見込んでいますよ。」
 
 佐渡は正直なところ呆れていた。
 呉工廠で建造中の長門後継の1号艦ですら排水量は4万トン足らず、それも3年ほどかけねば造れない代物だ。

 幾ら何でも半年や1年では既存の工廠では到底無理である。
 1万トンクラスの貨物船でさえ、建造には2年近く掛かるのである。

 とは言いながら、飛鳥造船の絶大な建造能力を知っている佐渡はもしかすると本当かもしれないと思っている。

「殿下、いくら、夢とは申しても少々現実離れしすぎではないのでしょうか?」

「いいえ、今呉工廠で建艦中の戦艦であれば、おそらくは半年も掛からないでしょう。
 それだけの能力が我々にはあります。」

「うーむ、だが、それだけの資材を何処から集めますか。
 帝国中を探しても余分な鉄など無いはず。」

「そうですね。
 最近までは米国からのくず鉄輸入に頼るほど資源がひっ迫しておりましたから、無い物は仕方が無いので鉱石から精錬して造り出します。
 鉱石は帝国のどこにでもある褐鉄鉱です。」

「それは、無理でしょう。
 私も冶金には左程詳しくは無いものの渇鉄鋼は硫黄分が多すぎて、抽出した鉄は建材にも使えない代物だということは知っております。」

「これまではそうでした。
 でも、精錬方法が違うのです。
 海軍が入手できる最高の鉄以上の製品ができます。
 このことは保証しておきましょう。」
 
 暫く無言の佐渡はやがて口を開いた。

「なるほど、殿下は、これまでも、海軍工廠では作れないものを次々と生み出していたお人でしたな。
 ならば、夢が現実になってもおかしくは無いのでしょうな。
 ついでにとらぬ狸の皮算用ですが、大型航空機の方もお教えいただけましょうか?」

「大型航空機は色々な用途に使えるものになるでしょうね。
 改装はそれぞれ必要ですが、重爆撃機、偵察機、輸送機、給油機に転用が可能な四発機です。
 航続距離は凡そ1万5千キロ程度、噴進推進機関を使って毎時千キロ近い速度を出せる代物です。
 搭載重量は最大で200トン程度になるでしょう。
 但し、この航空機は離着陸に結構な滑走路が必要です。
 最低2000メートル、安全を見込むなら2500メートル以上が必要で、舗装された滑走路でなければ離着陸は難しいと思います。
 軽荷重量でも180トンはありますので、非舗装の滑走路では無理です。」

 宏禎王の言うことが本当ならば、超長距離の爆撃も可能になるかもしれない。
 この航空機が登場すれば戦略そのものをひっくり返すことになるかもしれないと佐渡は感じた。

「いや、良く判らない部分もございますが、少なくとも中国問題の件についての殿下の意向は判りました。
 それと話の持って行きようが難しいのですが、戦艦か航空母艦かについては海軍としての意見をまとめておきましょう。
 ただ、それも中華民国との不可侵条約が成り、兵力の削減がなればこその話でございますね。」

「その通りです。」

 佐渡海相は、飄々と立ち去って行く宏禎王を執務室の入り口で見送った。

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